10 職に就けると思いきや
「そうだが、何か用か」
ティーリャは箱に再び座り、話しかけてきた魔法使いの女を見ずに言った。
「魔力回路を正常にするなんて、しかも魔獣の。並みの光魔法使いではできないわ」
そんな事はできないと疑っているのだろうか。ティーリャは何となく神殿で嫌がらせしてきた者達を思い出し、不快な表情になる。
「疑っている訳ではないの、現に魔獣の体調は良くなっているみたいだし。貴方に提案なんだけど、私達のパーティに入らない?」
「は?」
それを聞いたエマが何故か自分の事のように喜ぶ。
「やった!就職だね!おめでとうティーリャさん!」
「まだ、決めてねえよ」
「そうね、まだ詳細を話していないし」
魔法使の女はフロラと名乗り、ギギのパーティメンバーだと話した。
「私達はキャラバン隊の護衛をしているのだけれど、少し前に治癒術師が辞めちゃってね。しばらくは治癒術師無しでやってきたけど、やっぱり居た方がいいなあと思ったの。この街の冒険者ギルドに行ったけど、良い人材がみつからなくて。そしたらギギから貴方の話を聞いてね。獣医でも腕が良いなら入ってもらえないかなって」
「獣医じゃない」
「あら、そうなの?じゃあ尚更お願いしたいわ」
キャラバン隊の護衛という事は遠くに行ける。職に就ける上、当初の目的も果たせる。彼女はいいかもしれないと思った。
しかし、ティーリャは人付き合いが嫌なので、パーティに入るのに抵抗がある。
うーんと悩んでいる彼女を見て、黙っていたギギが口を開いた。
「是非、加入して欲しい」
「あら、貴方がそんな事言うなんて」
フロラが驚いた。
「魔獣達が懐いている。珍しい。お前に興味がある」
「まあ、そこまで言う貴方初めて見たわ。でも、そうね、私たちのパーティに入ったら魔獣をモフり放題よ!」
「わたしはどっちか言うと猫派だ」
ティーリャが即答すると、魔獣達が一斉にキュゥンと悲しげに鳴いた。
「犬も猫も古代では同じ共通の祖先、と言っている」
「今は違うじゃん」
その一連の流れをフロラはおかしそうに笑う。
「魔獣達と仲良しね。貴方となら上手くやっていけそうだわ。今すぐには決めなくていいから、考えておいて」
ティーリャは真剣に考える事にした。そして、頭に浮かんだ疑問を口にする。
「キャラバン隊はこの街を出たら、何処に行くんだ?」
「カムプス国内は殆ど周ったから、次はクラルス国内をあっちこっちね」
「あ、パーティに入るの無理だわ」
「「え」」
フロラとギギの声が重なる。
「どうして?クラルスに行きたくないの?」
「うーん、まあ、そうかな。理由は聞かんでくれ」
「そう……」
有難い事に深く追求はされなかった。ティーリャは「そろそろ帰るぞ」とエマに話しかけた。エマは魔獣から離れ、ティーリャの近くに来た。
「せっかく職がみつかりそうだったのにねー」
「まあ、仕方ない」
会話しながら立ち去ろうとする2人の背中にギギが話しかけた。
「また明日も来てくれるか」
ギギはティーリャをじっと見つめた。
「魔獣の魔力の流れ治すのな。うん、わかった。金払えよ」
そう言って、その場を後にした。
ティーリャとエマが立ち去るのを確認してからフロラは溜息を吐いた。
「あーあ残念。相当、腕の良い術師だったでしょうに」
彼女は先ほどまでティーリャが座っていた箱に座った。
「そんなに、優秀だったのか」
ギギが魔獣を撫でながら言う。
「知らないの?他者の魔力回路に干渉するなんて、普通なら危険すぎるからやらないのよ。それをするのは余程腕に自信がある人か大馬鹿のどっちかね」
「馬鹿には見えないが」
「当り前よ。魔獣は確実に回復してる。前者ね。で、どんな風に魔法を使ってた?」
「普通に。魔獣に手を触れて一瞬だ」
フロラは驚愕した表情になる。
「昔、魔力回路を治す術師見たことあるけど、額に脂汗浮いてたわ……一瞬って、信じられない」
「脂汗もない」
「ああ、本当に残念。……彼女クラルスに行きたくないって言ってたわね」
少し考え込むフロラ。
「もしかして、クラルスの神殿に居たのかも」
「聖魔法使いか」
「ええ、クラルスでは適性が発覚した子供は神殿に集められて幼い頃から修行する。光魔法じゃなくて聖魔法って自称するだけあって、他国よりも優れた術師が多いの。それなら、彼女が優秀なのも納得だわ」
「だが、聖女は一生神殿暮らしと聞いた事がある」
「そうよね。考えられるのは追放ね。素行が悪い者なんかが追放されるらしいわ」
「……確かに聖女とは程遠い見た目だったが」
「うーん。魔獣が懐くくらいだし、悪い子には見えないけど。何か訳アリかもね。面倒事に巻き込まれたくないし、パーティに入ってもらえなかったのもある意味良かったのかも」
「……」
沈黙したギギ。彼は基本的に無表情だが、付き合いの長いフロラには彼が残念がっているのか分かった。
「まあ、そんなに落ち込まないの」
「落ち込んではいない」
そうは言うが、周りの魔獣も少し彼を心配していた。
本当に珍しい事もあるものだとフロラは思った。




