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魔王の花嫁  作者: 真麻一花
おまけ。
65/65

乳母様の憂鬱

■ばあやな話 本編の裏側と本編にはあんまり出せなかった裏設定ぱーと6■


 フリーシャが城を出て十日目だった。

 城内の片隅で歓喜の声が巻き起こった。マーシアがマージナルの王子に助けられたという知らせが入ってきたのだ。

 しかも、マージナルの王子が、この小国グライデルの姫を娶りたいというので、願ってもない申し入れに、グライデル城内は色めき立っていた。

 その中で、一人、顔色を変えた者がいた。

 妾腹の姫として最も立場の低かったフリーシャの乳母である。

 フリーシャは、マーシアがさらわれてから、ショックで寝込んでいることになっている。

 けれど、その実、魔王からマーシアを助けるために城を出ているのだ。

 そのマーシアが無事なのに、フリーシャは帰ってきていない。フリーシャのことを誰からも伝え聞くことが出来ない。

 乳母は、必死でフリーシャの無事を祈った。

 なぜ帰ってこないのかと、もしやどこかで魔物に出会って大けがでもしているのではないかと、気が気ではない日々を過ごしていた。


 娘のように慈しんできた姫だった。


 フリーシャの母親が身ごもったときから、他に頼れる者のないその気立ての良い娘を自分が助けようと決意していた。

 フリーシャの母親は侍女ですらない下働きの娘だった。元々目にかけていた娘であったから、その娘が召し上げられてからは、望んでその侍女として付いた。

 なにもこんな下女の元にと笑う者もいたが、他に誰がこの味方のない城の中で娘を守ってくれよう。仮にも王女を身ごもった方。この気立ての良い娘の力になろうと決めていた。

 けれど、そんな想いに反し、姫が生まれて三年と経たぬうちに、娘は原因不明の死を迎えた。王から気に入られていた故の不幸であった。決して多く渡りがあったわけではなかったが、忘れられることも、捨て置かれることもなかった故に、他の愛妾達からのやっかみをうけたのであった。


 残された姫を立派にお育てすると、乳母は亡くなったその娘に誓った。

 母親の代わりに精一杯の愛情を込めてお育てした姫だった。例え生まれの低さ故にさげすまれようと、どこへ出しても恥ずかしくない姫に育ててきた。

 そして、マーシアの力添えもあって、マーシアに次ぐ美しい姫としてグライデル国王から常に二人は並ばされて愛される姫となった。それをやっかむ者達から、フリーシャは常にマーシアと比べられてさげすまれたが、所詮そのような物は、ただのやっかみである。目下に見ているフリーシャが国王から愛され、そして美しく、すばらしい姫となっているが故のこと。

 これだけ美しく、すばらしい姫ならば、ようやく、これから報われる人生もあろうと思っていたのに。


 フリーシャ様。


 乳母は、戻らぬ姫を思い、誰にも言えぬ苦しみを抱いていた。



 その日、乳母の元に客があった。

「アトール殿」

 乳母は、フリーシャが師匠として仰ぐ青年医師を見て、ほっと息を吐いた。

「姫様が……」

 嘆く乳母に、彼が優しく尋ねた。

「乳母どの、私は、あなたがどれほどフリーシャ姫を大切にお育てしたかを存じ上げているつもりです。そして、どのような未来をフリーシャ姫のために描いていたかも。その上で、お尋ねします」

「アトール殿……?」

「乳母どの、あなたは、あなたは、姫が幸せになれるのなら、相手がどのような方でも、祝福できますか……?」

 乳母はさっと顔色を変えた。

 言葉の意味するところはすぐにつかめた。フリーシャは、身分のそぐわぬ者と一緒になるつもりなのだろう。

「おそらく、とてもではありませんが、乳母殿が手放しで祝福できる相手ではございません」

「アトール殿は、それがどなたかご存じなのですか!」

「ええ……」

 アトールが言葉を濁した。

「……姫様は……? 姫様は、その、それを望んでおられるのですか?」

「ええ、おそらく、フリーシャ姫は、自ら望んでそこにとどまり、……幸せそうでした」

「アトール殿………姫様は……魔王からマーシア様をお助けに行ったのでございますよね……?」

 なぜこんな事に……というよりも、なぜこんな話に……というのが、偽らざる乳母としての気持ちである。

 けれど、願いは一つだった。全ては、フリーシャの幸せのために。

 苦しい想いをどれだけしてきたか分からない、この窮屈な生活。

 姫様が幸せなら、もう、それで良い。それ以上、何を望むことがあろうか。


 その後、乳母は驚愕することとなる。

 アトールに言われるまま、アトールが幻影を消した後に王に報告し、後に、王から内密に、フリーシャがマーシアの身代わりとなって魔王の花嫁になったことを知らされたのだから。

 絶望しかけた乳母に、今度は帰ってきたマーシアから内密の話として、フリーシャが望んで魔王の花嫁となったことを知り、もう一度心臓が止まりそうになるほど驚いた。


 なんてことを。

 昔から、隅っこでおとなしく怯えているように見せかけて、やる事は大胆で、かなり肝の据わった姫だった。

 それにしても……!! よりにもよって、魔王の花嫁……!! 姫様……!!

 今にも卒倒してしまいそうな衝撃を乳母は受けた。  

 マーシア姫がものすごく不本意そうに語った内容からすると、幸せそうだという話を聞き及び、何とか意識を手放さずにすんだのだが。

 全てを知り、乳母は心の中でそっと溜息をつく。


 ならば、私のすることは、一つですね。


 乳母は諦めたような笑みを浮かべ、大切な、大切な姫に、そっと心の中で思いを語りかけた。



 その後、こっそりと訪ねてきたフリーシャと再会した乳母は、これ以上ないほどの雷様をフリーシャに落としたのだった。


「もう、無茶しません!! 心配かけません……!!」

「その言葉は、聞き飽きました!!」

「ご、ごめんなさぁーい!!」




 * * *


ばあやのすることは、ただ一つ。

無茶無謀をやってのけるフリーシャにお灸を据えることでした。



アトールは、面倒な説明は、人に丸投げしました。なに、このダメな大人。

(本当は、いろいろ考えていたんですが、もう、そういうことでw)



最後まで、お付き合い下さり、本当にありがとうございました。


これにて、魔王の花嫁、全て終了です。


フリーシャと魔王の恋物語を(恋物語ですよ!!w)

少しでも楽しんでいただけたのなら、幸いです(^^)





* * *


ところで。

魔王の花嫁連載中に、とても励まして下さったカブトさんが、フリーシャと魔王を主人公に物語を書いて下さいました♪

フリーシャがかわいらしくて、魔王がたらしです、でれでれですww でもというか、だからというか、コメディーですww(ですよね、ね??ww)

カブトさんの作品の美しい狐さん夫婦ともコラボできてうれしい一品でした♪

フリーシャをかわいく書いて下さって、ありがとうございます♪

よろしければ、是非、ご一読を♪


魔王さんちのお嫁さんの日常

http://ncode.syosetu.com/n9071s/



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