5部屋目 最適ルートのインストール
ドアの前でヒドく狼狽える兵藤くんをよそに、医務室のお嬢様とジニーはニヤついていた。
「ふふ~ん、あたし聞いたー。ヒョードルくんってば、冷静にパイロットが出来るって言ったー」
「んむ、ワシも聞いたー。すごいのー、憧れちゃうのー」
カゼの設定など、ドコ吹く風の幼女精霊。
対する兵藤くんは、生温かい風当たりにタジタジだった。
「ぐっ……。き、貴様……。人類未踏の新ルームには、丸3日間もの単独探索権があるんだぞ? どれほどの価値になるか……!」
「なら、ますます兵藤くんに渡したほうがいいね。僕は兄貴のサルベージで掛かり切りになるから」
「――本気か?」
「いつもね」
お嬢様と幼女様に見送られた僕らは、組合を出た。
マンション前に行くと、ミツオさんを始めとした大勢の冒険者から拍手される。
「いや~、薫くん! 709の別解、鮮やかだったよ! 体調はどうだい?」
「ええ。ご心配をお掛けしました」
「今回のパイロットは君だから、一緒に入る人を選んでね」
「さっきは誰で挑みました?」
「リーダーが小さな丈一くんで、あとは僕と、兵藤くんと桐山くんだよ」
ドラフトメンバーを手で示してくれた。桐山さんは、少し気弱な大学生さんだ。
「では、兄貴と僕の入れ替わりだけで大丈夫です。そして、1度行ったあとは、兵藤くんに711の探索権を譲渡しますので」
みんながザワつくも、ミツオさんはほほ笑んだ。
「お兄さんに似てきたね、薫くん」
「え? 魔力も判断力もまだまだですよ?」
「でも、嬉しいでしょ」
「そりゃあ、少しは」
ミツオさんに含み笑いされてしまった。――参ったなぁ、絶対バレてる。
本当は、めちゃくちゃ嬉しいってことが。
僕らはエレベーターに乗り込むと、すかさず四隅に散った。ボタン前に陣取った僕が「異世界」を押し、続けて7、1、1、「決定」と入力すると、無事に転移が始まる。
直後、ミツオさんたちは慌ただしく補助呪文を掛けていった。
「フン。俺から行くぞ、パイロット」
「わかった」
「よし、【シャドウ】召喚」
兵藤くんが手をかざしたエレベーターの床から、体長30cmほどの黒い小山が出てきた。到着するなり、サッと外に出す。
「クリア。無反応だ」
何か攻撃を受けると自動反撃するシャドウは、探索の初手でよく使われる。
続いて、ミツオさんの【水晶球】で、石造りの迷宮部屋だと確認した。
――――――――――――――――――――
711 4つの箱
――――――――――――――――――――
――違う、か。
お父さんとお母さんの消えた部屋じゃない。
看板からすると、箱があるのだろうけれど、まだ探さない。
今日は全員が無事に出入りできるか、それだけを確かめる。
桐山さんも、【水源感知】で周囲を探った。
「か、薫くん。半径100m内に、僕たち以外の反応はないよ」
「ありがとうございます。じゃあ最後のステップですね」
僕が兵藤くんを見てうなずくと、彼は外に一歩出て、すぐに戻った。
「異状なしだ」
以降、ミツオさん、桐山さんの順で1歩ずつ外に出て、初回の探索は終了。僕が速やかに「異世界」「1」「決定」と押すと、エレベーターは現実へ戻り始めた。
「ふうっ……。肩の荷が下りたよ」
「フン。では711は俺が引き受けた。貴様はジョニーの件に集中しろ」
「うん。頼りにしてるね」
現実の1階へ戻るなり、兵藤くんは待機していたギルドのメンバーを呼び集めた。711へ連れていく者を選び、ほかの者には国内の別のマンションを割り振る。各所への連絡も済ませると、編成したパーティーを率いて、再びエレベーターへ乗り込んでいた。
うん、兵藤くんに任せて正解だったね。
◆ ◆ ◆
「――以上が、僕の初パイロットでした」
Q次郎との配信で報告すると、再びお祝いコメントでログが押し流された。
※:祝 ☆ 偉 業 達 成 !
※:「ワシが育てた」
※:ジニーさんって意味ならあってて草
※:こーんな男の娘なら、なんぼいてもいいですからね!
「あはは……ありがとうございます。――それでは、兄貴を助けるロードマップの相談ですが」
「おーし、リスナーども。叩き台の案を出してくれ」
※:ヨッシャ!
※:攻略動画を見まくっとるワイにスキはなかった
※:ところで、マンダンは手伝ってくれへんのー? 兄貴813なんやろ?
「Q次郎。マンダンから、何か連絡はあった?」
「おう。お前の気絶中にフサフサから電話が来てな、クリアを褒め千切ってたぜ」
「え。――それだけ?」
「へっ。当然、サルベージは手伝えねえとの嫌味付きだ。ダンジョン攻略の最前線が聞いて呆れるな」
部屋には階数とは別に、危険度の目安が設定されている。
大手のマンダンでも、今サルベージできるのはおおむね709級までだ。その判断自体は理解できる。
――でも、それじゃあ813の兄貴を助けられない。
「他には何か言ってた?」
「おう。『ハハハ、異世界への転移は一日一往復がルールだよ? 新ルームへのパイロットはあくまで例外さ』とか抜かしてたな」
一日一往復。
エレベーターの制限ではなく、僕ら人間が決めたルールだ。
大勢が探索や救助を待っている。強い人たちだけで何往復もして、その機会を独占しないために。
そして、その強い人たちが「もう一度、助けに行けたはずだ!」と、際限なく責められないためでもある。
「新ルームへのパイロットは、例外か……」
僕はウィッグ越しに頭をかいた。
「それじゃあ、新ルームへのパイロットは僕のまんまで、探索権だけ兵藤くんに譲りました……とか、言ってもいい?」
※:んー、これは優等生!w
※:引き下がる気は毛頭なし!(ペカーッ
※:案内役としてなら例外には入るな
※:ジニキばりに薫子様もいい性格してて草
「へへっ。ならいっそ、ヒョードルに渡した探索権も返してもらおうぜ。フサフサがわざわざ教えてくれたおかげです〜、ってよ」
「――うん。めっちゃ怒るね、課長」
※:そらもう怒髪天を衝くやろ(髪があるとは言ってないw
※:ロングの薫子様ってば、チョウハツ的で好き
冗談めかして笑ったけど、僕はもう一度、残りの日数をカウントしていた。
一往復でも増やせれば、出来ることは増える。
でも、案内のための例外だ。
兄貴を助けたいからといって、僕の探索を増やす口実にしていいのか。
「――まあ、ここは一日一往復で考えよっか。兄貴も守ってきた取り決めだし」
「おう。そンなら、残り3日で3部屋を軸に組もうぜ。ラストは813だから、選ぶ部屋は2つだな」
※:1ミスが命取りか
※:なーに、ジニキの課題をクリアした薫子様だぞ? 見ろよ、このスペックを!
つ魔力量D、質SSS、射撃SSS、制御SSS
※:ヒュー! まったく、とんだピーキーだぜ!(だいしゅき
※:――これ、いっそ盾きたえる方がいい?
「ん? えっと、盾とは?」
※:ああ、108の亀退治ルートでんな
※:発動条件が[神に認められし者]必須じゃないですかヤダー
※:それ、ほぼ神退治しろってコトじゃね?
※:またカミの話してる……
※:でも薫子様の【盾】強くできたら大化けするぞ
「ふむふむ」
※:最終日の813で防御の人数減らせるのは良き
※:代わりにアタッカーか索敵投入で
※:そこにジニーちゃんもプラス
※:いけるやん!
「分かりました。では、明後日の108を攻略の軸にしましょう。あとは、[神に認められし者]の称号が取れそうな部屋をピックアップします」
「よっしゃ。気合い入れろ、野郎ども!」
※:オメーのためじゃねーよ
※:しゃしゃるなナメクジ
※:ミ青めの塩
※:薫子様のためダルルォ?
「当たりキツいな、野郎ども!?」
そして30分後。[神に認められし者]を狙う候補として、490のクイズ部屋に決まった。
「では、明日の確認ですが。千桜さんが先月490に挑戦していたので、部屋には行けます。ただし、そこはパイロットに強制リタイアの危険があるため、別ルートをとるかもしれません」
「ま、そんならその時だ。ドコを選ぶにせよ、神は倒す。カンタンな話だな?」
「うん」
急遽始めた僕らの配信は、こうしてお開きとなった。
あとは、千桜さんの許可だけである。
◆ ◆ ◆
「ムリィィー!!」
「えーっ!?」
僕は、組合近くの談話ブースで愕然とした。
「ち、千桜さん!? たった今、『どこでも任せて』って言ったじゃん!」
「でも、490だけはダメなのー!」
「それって、強制リタイアのリスクがあるから!?」
「違う!」
「じゃあ、なんで!?」
「……なるから」
「え?」
「重く、なるから!」
グッと手をつかまれる。
「いい!? 490でパイロットが天秤に乗るとね、システム的には体重が1トンになるの!」
「い、1トン?」
「しかも、クイズを進めるたびに倍々よ!? クリアに失敗したら、エレベーターで帰れなくなっちゃうのー!」
「く、詳しいね」
「めっっっっちゃ、調べたから……。この部屋に限っては、菊知くんよりも!」
ヤバイ、目がマジだ。
けれど千桜さんは、不意に力を抜いた。
「ふふっ……。まっあ~、こう言って断るのは、菊知くん以外の場合ね? 菊知くんには、それなりの……う、ゴホンゴホン。お、お兄さんっぽい……せ、『説得』をしてくれたら、悪役令嬢が昇ってあげてもよろしくってよ? オッホホホホ~……」
「――あー」
兄貴っぽく勧誘してみせろってことね、はいはい。
「いっつも言うけどさあ、僕と兄貴は違うからね?」
「そ、そこはホラ! あたし、妄想力あるし!」
「……悪役令嬢ってなんだっけ」
「オ、オ~ホホホ! さ~薫子ちゃん? あたくしを満足させなさ~い?」
それで、スーグ調子乗るしね。
深いため息をついたのち、僕は兄貴っぽい振る舞いをインストールした。具体的には、自信ありげに剛胆な笑みを浮かべ、グイとお嬢様に迫って壁に手をつく。
「『なあ、汐音』」
「ひゃ、ひゃい!」
「『俺と一緒に来てくれ』」
「ピャッ!? い、いく! いきます! う、ウォッケーィ!」
――大丈夫かな、千桜さん。悪化してない?
ともあれ、490が本決定した。




