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幼女兄貴(SSSランク)と僕とダンジョン ~十年磨いた水魔法で、誰も思いつかなかった勝ち方をします~  作者: 葦原エイ
第一章 幼女兄貴救出編

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6部屋目 私を忘れないで

「あ、菊知くん。490の新ルートって5人目が必要だけど、誰かアテはある? ないなら、いつも組んでる聖女ちゃんの、クーニャンを紹介するわ」

「えぇっと、千桜さん? それって、マンダンから何か言われない?」

「へーきへーき。最近あの会社、利益重視に変わっちゃったし。ちょっと睨まれるぐらいよ」

「――聖女ちゃんも、説得できる?」

「ええ、クーニャンはあたしに任せて」


 千桜さんは大きく胸を叩いた。


「菊知くんのお兄さんを助ける方が、よっぽど大切だわ」

「――千桜さん!」


 不意に感極まり、両手で彼女の手を握った。


「ありがとう!」

「ぴゃぁっ!? ――オ、オーホホホ! 貴族として、当然の振る舞いをしたまでよ~!」


 復活した悪役令嬢サマは、とても頼もしかった。



 ◆  ◆  ◆



 千桜さんは490対策を前回のパイロットさんに聞きに行った。

 それ以外のメンバーで組合に行くと、小柄な聖女ちゃんは医務室で治療を終えたところのようだった。


「いらっしゃい、ジニーちゃん」

「ヤッホーじゃ~」


 聖女ちゃんは、幼女を優しくハグしつつ僕にほほえんだ。


「弟くんも、激闘お疲れ様。聞いたわよ、あのナックラヴィーに勝ったんですって?」

「準備時間は相当必要だったけどね」

「それでもスゴいわよ~」


 指揮棒(タクト)のような小型杖を制服に当て、【清掃】を唱えてくれる。白い光が服を包み、汚れが取れる。


「はい、完了ね」

「ありがとう、聖女ちゃん」

「ウフフ、綺麗にするのは当然よ」


 白いローブの両裾をつまみ、しおらしく礼をする。そのさい、サラサラの銀髪が顔に掛かったようで、そっと耳にかき上げていた。


「魔力は8色で、誰もが1人1種類ですものね。白を持っていた者の務めだわ」

「それでも、ほとんど組合に詰めてるのは大変じゃない?」

「みんなの笑顔が、私の幸せなのよ」


 パールのブローチに手を当てる姿は、まさしく慈愛の女神だった。


「ケッ。おい薫、早く本題に入ろうぜ」

「Q、言い方」


 相棒をたしなめた僕は、聖女ちゃんに向き直った。


「あのさ、クーニャンちゃん。シィポンお嬢様から、兄貴の話は聞いた?」

「ええ。そのお返事は、撮影を終えてからするわね」


 聖女ちゃんは、棚に並んだ巧緻な妖精フィギュア群に手を振った。


「おつかれさま~、【向日葵(ひまわり)】ちゃん。今日の撮影は終了よ~」


 すると、そこに交じっていた白い精霊が、コクンとうなずきアストラルに還っていった。Q次郎が肩に乗せている精霊【勿忘草】と同じく、【向日葵】にも《撮影》の特技がある。


「ふぅっ……。さてと」


 彼女は銀髪のウィッグを机に脱ぎ捨てた。

 現れた黒髪ショートは、同学年の猪尾くるみさん。「聖女クーニャン」の笑顔はカケラもない。


「パーティー加入の話だっけ、あなたたち? てんでダメ、NOよ」

「お前、【向日葵《カメラ》】消えると愛想ねえよな」

「仕事のオンオフはキッチリしたいの」

「ヘッ、流石は『くるみ』。名前どおりのおカタい頭だぜ」

「そういうアナタは、『ナメクジ』っぽいグズグズの脳味噌よね」


 猪尾さんは、棚のそばに立つQ次郎を見据えた。


「シィポンから、『幼女ジニー』の正体は聞いたわ。丈一さんのお供って、風の精霊だったのね」


 小型杖《タクト》を一度置き、木製デスクの縁に品良く腰掛ける。


「返事は直接弟くんに言うって答えたら、すごく嬉しそうだったわ。賛成するって思い込んでたみたい」

「あいつポンコツじゃねえか」

「念願の『菊知パーティー』入りで、舞い上がってるのよ」


 猪尾さんは、僕へ向き直った。


「でも、私は仕事もあるの。マンダンが止めたがってる攻略に参加すれば、この医務室だって、今までどおり使わせてもらえるか分からないわ」

「うん」

「それでも参加するだけの見込みを聞かせて。次は、どこへ行くつもり?」


 僕は、しっかりと見つめ返した。


「490(ヨンキュウマル)に挑戦するよ。そこで、[神に認められし者]の称号を狙う」

「正気!? 神退治って……屈指の難易度よ!?」


 身を乗り出した猪尾さんは、少し考えて口を開いた。


「――でも、5人でシィポンのパイロットなら、私自身の危険は少ないわね。その称号まで取れれば、参加した実績にもなる……」

「どうかな、猪尾さん。パーティーに入ってくれる?」


 彼女は、人差し指でテンポ良くほほを叩いたのち、その指を前に出した。


「追加条件が1つ。――ジニーちゃんと、1対1でお話しさせて」


 視線でドアに誘導される。


「分かった」


 僕は、Q次郎を見てうなずくと、連れ立って退出した。




「ねえ、ジニーちゃん」


 猪尾さんはすぐに腰を上げた。


「今、丈一さん本人の意識はあるの?」

「眠っておるから、ないハズじゃのお」

「なら、完全にあなたダケなのね?」

「そうじゃな」


 猪尾さんは、半眼のまましゃがみ込んだ。


「これから行うことを、黙っていて」

「んむ?」

「そしたら、スグ仲間になるわ」

「何じゃ? イマイチよう分からんが、パーティーに入るなら承知したぞい」

「OK、契約成立ね」


 彼女は、ジニーにゆっくりと手を伸ばした。その後、壊れ物を扱うかのように、そっと抱きしめたのち――。


「はっにゃ~ん!」


 猫なで声で頬ずりした。


「ジニーた~ん! クーニャンでちゅよ~?」

「ん、んむ!?」


 ジニーが目を丸くする。


「お主……変わりようがスゴいの」

「にゅう~ん、ジニーたんがカワイすぎるせいだにゃ~! くぬくぬ、魔性の幼女めぇ~!」


 すりすり、抱き抱き。


「のお、くるみ……。お主も大概カワイイと思うんじゃが」

「え~っ、ヤダヤダ~、ヤ~ダ~! く〜にゃんは~、カワイイ子に甘えたいダケで~! カワイイってのを、言われたくはないんだにゃ~!」

「んーむ、難儀な性癖じゃが……薫のためじゃ。黙っておくとしよう」

「やたっ! ゼッタイよ? ゼッタイだからね!?」

「ウソは言わん」

「にゅぅ~ん、良かった~……」


 丹念にジニーをなで回した猪尾さんは、「あ、そうだ。廊下で待たせてたんだっけ」と、白ローブの乱れを整えた。卓上の鏡で、スンと冷めた表情を作ったのち、ゆっくりと部屋のドアを開ける。


「弟くん、話はついたわ。私がパーティーに参加するってね」

「それは……ありがとう」


 僕らは再び中に入った。


「でも猪尾さん。さっきのお話しって、一体……」

「都合のいい条件なら、黙って受け入れるべきよ」

「う、うん」

「ヘッ、とんだ性(・)職者だぜ」


 Q次郎が前に出た。


「お部屋で1VS1(タイマン)の理由が、幼女にセクハラとはよお」

「あら、ヒドい言いがかりね」


 猪尾さんは澄ました顔だ。


「私が入ったら、あなたの回復も引き受けるのよ。そんな口の利き方でいいの?」

「おいおい。白魔道士が毒吐きまくっていいのか?」

「いいクスリでしょ、あなたには」


 猪尾さんは鼻で笑った。


「そうそう、弟くん? もしナメクジさんが無礼な態度を改めないなら、パーティーからの追放を提案するわ」

「猪尾さん……」

「だって彼、おカワイイ精霊が1体だけでしょ? オーブで進化もしてないし、戦いにはそぐわないわ」

「へっ、そいつぁ誤解だな。21世紀は情報戦だ。どギツい暴露に、泣きじゃくる奴が出ちまうぜ? 今(・)か(・)ら(・)よ(・)」

「――え?」


 Q次郎は、これ見よがしに肩の勿忘草をなでてみせた。


「コイツはお利口さんでなぁ。ジーッと、定点カメラみてえに《撮影》してんのさ。お(・)前(・)を(・)な(・)」

「ど……どういうコト?」


 Q次郎は、勿忘草をヒョイとつまんだ。ヒザと腰の関節を伸ばして、立ち姿に変える。フ(・)ィ(・)ギ(・)ュ(・)ア(・)の(・)勿(・)忘(・)草(・)を(・)。


「ま、まさか……!?」


 血の気の引いた猪尾さんが、おそるおそる棚に目をやると。


「ぴゅい!」


 【勿忘草】が、ヒョイとVサインした。










「イヤーーー!!」








 ◆  ◆  ◆



「――で、菊知くん。さっきの映像は?」

「Q、消してくれる?」

「へいへい……っと、追放の話もナシだぜ?」

「分かったわ」


 Q次郎は僕らの前で映像を消した。


「猪尾さん。参加するかどうかは、映像と関係なく決めていいよ」


 しばらく僕を見つめた猪尾さんは、小さく息を吐いた。


「――参加するわ。ジニーちゃんとも約束したもの」

「ありがとう、猪尾さん」


 差し出された手を、僕はしっかり握った。

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