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幼女兄貴(SSSランク)と僕とダンジョン ~十年磨いた水魔法で、誰も思いつかなかった勝ち方をします~  作者: 葦原エイ
第一章 幼女兄貴救出編

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4部屋目 「思いっきり食べていい」の代償

 僕は、ジニーと共にエレベーターまで戻ると、現実の1階へのボタンを押した。


「んむんむ。これで戻ると、助かった者たちが待っとるハズじゃ」

「709で死んだ人たちだよね?」

「左様。お主がクリアしたことで、霊界から蘇生魔法で戻れるようになったでの」

「それが『サルベージ』だよね。でも、全滅すると現実との繋がりが切れて、復活できなくなるとか」

「んむ。――お主、もしや緊張しとるか?」

「わかる? 僕、実際に助けた人と会うの初めてだから」


 チーンとエレベーターが開くと、そこには赤と黒のミニスカドレスを着た令嬢がいた。


「オ~ッホホホ!」

「――閉めよう」

「あぁーん! 待って菊知くん!」


 途端にヘッポコと化した幼なじみ、〈悪役令嬢〉の千桜汐音《ちざくらしおん》さんが出迎えてくれた。


「ありがとう菊知くん! 霊界テレビで見てたわ! ナックラヴィーを単独討伐とか、スゴかった!」

「Q次郎とジニー、それに睡蓮がいたおかげだよ」

「厳密にはそうだけど、別ルートとオーブは菊知くんがいたからこそよ! イェイイェイ、イェーイ!」


 千桜さんは大ハシャギしていた。


「あ、そうそう! あたしってば、SSランクの桐山さんのガバで“霊界”に行っててね? 今日は、ヒョードルくんのクリア待ちだったのよ〜!」

「あー、じゃあ僕が失敗してもセーフだったんだね」

「ううん、それは違うわ!」


 千桜さんは、オーブに抱きつく睡蓮をびしっと指差した。


「オーブの進化を、桐山さんの精霊に使うんでしょ? ナックラヴィーの《モータシーン》は、生き物に効くんだから、赤目玉たちにも効いて813は楽勝クリア! お兄さん復活で万々歳よ〜!」

「あはは……そうだね」


 僕は、睡蓮を優しくなでた。


「あとは、桐山さんたちに託すだけで、僕らの役目は終了。だよね、睡蓮?」

「ぴぴ~!」


 少年精霊は元気よくうなずくと、大きく口を開け、オーブにカ(・)プ(・)ッ(・)と(・)噛(・)み(・)付(・)い(・)た(・)。


「え?」


 シュワァァアアア……。


 青いオーブが霧状に溶け、睡蓮を包み込んでいく。












「はあああああああっ!?」


 え、なんで!? いま噛んだ!? ずっと素直からのイキナリ反抗期!?


 みんな絶句。千桜さんにいたっては顔面蒼白だ。


「そ、そんな……。いくらあたしがヘッポコだからって、こんなガバまで発生するとか……」



※:おいー!!?

※:ウッソだろお前!

※:進化キャンセルは!?

※:BBBBBBBB

※:吐け、吐くんだ!



「はは、ははは……」


 ――お、落ち着け。睡蓮が進化したら、僕が《モータシーン》させればいいんだ。けど、魔力がメチャクチャ少ないぞ。キチンと進化できるのか……?



※:ああ゛ッ! あと一歩が逃げて行くッッ!!

※:令嬢がウキウキでチャート話すから……

※:まままだあわわわわわわてるじかんじゃ

※:ひとまず進化後の確認を!



 ヒドい虚脱感に襲われるなか、光が1mほどの大きさになって仕上げに入る。――よかった、ギリギリ魔力が足りた。


 しゅわしゅわしゅわしゅわ……しゅぽんっ。


「わっはははははー!」


 現れたのは、青い肌に細っこい手足の幼児だった。


「わがはい、しんかしたぞー!」


 えぇ……?

 待って。僕でも勝てそう。



※:ヒフあるし

※:足2本

※:あかーん!

※:【悲報】ただのショタ



「さー、げぼくよ! まりょくをよこせー……って、なんだ、このカラダはー!?」


 あっ……。も、限界。


 すでに崖っぷちだった僕の意識は、舌っ足らずな絶叫によって、完膚(かんぷ)なきまでに落ちていった。



 ◆  ◆  ◆



 本日2度目の目覚めは、組合のベッドだった。


「気が付いた?」


 傍らには、赤黒ドレスのご令嬢が座っている。


「千桜さん……。あれから、どのくらい経った……?」

「30分ってトコね。Qくんと桐山さんがここまで運んでくれたわ」

「ああ……あとでお礼言っとく」


 ――そうだ、オーブ。

 桐山さんに渡せば、兄貴を助けに行けたはずなのに。


「菊知くん」

「ん……?」

「ナックラヴィーへの進化は、ちゃんと成功してるわ」

「えっと……じゃあ、あの子供が?」

「ええ、桐山さんに調べてもらったから確実よ。まずは、そこを伝えたくて」

「そっか……」


 肩から、少しだけ力が抜けた。


 と、そのとき。


「うぅっ……」


 ドアを開けて、蒼ざめた肌の幼児が入ってきた。


「わがはい、とんでもないことをした……」

「睡蓮?」

「いまはナックラヴィーだ、あるじよ……」


 全身が寒々しい色だと、落胆ぶりも際立って見える。


「あのオーブ、きりやまにわたすものだったのだな……。じにー様が、シッカリとおしえてくれたのだ……あうぅ」


 ジニー様(・)って……。ジニーの躾《しつけ》はスゴイなあ。


「あのさ。ナックラヴィーは、なんでオーブを食べちゃったの?」

「あるじが、『きょうはおもいっきりたべていい』といったからだ」

「え」


 その途端、709での光景がフラッシュバックした。


『睡蓮、今日は思いっきり食べていいよ』

『ぴぴ~!』


「――言った!」


 僕は、「この戦いでは」のつもりだったけど、睡蓮は「丸一日、食べ放題」と受け取ったらしい。


「今日ってまだ、17時間もあるよね……」

「だよな!? あるじの【聖水】を、きょうはガブのみだぞー!」


 小躍りした幼児は、すぐにガックリと肩を落とした。


「いまなら、わかる……。たたかいのときダケ、だったんだな……。わがはい、うかれていた……」


 横たわる僕の腕に、悲痛な顔ですがる。


「でもな……? さいごにあるじが、【聖水】をダダダーッとうってただろう? そのあとにできたオーブだぞ? ただでさえオイシイ【聖水】が、ギューッと、スッゴくつまってそうでさあ……。それでもな、わがはい? おやくめ、おわるまでは、たえてたんだけどさあ……!」

「――うん。よーく分かったよ」


 食べていいと言われて、おいしそうな物が目の前にあった。

 そこへ僕が、終わったよと声をかけちゃったら。


「ごめんね、ナックラヴィー。これは僕の伝え方が悪かった」

「えっ」

「それで、次からだけど」


 右手でそっと小さな手を包み込む。


「珍しい物や高価な物を食べるときは、僕に許可を取ってほしいんだ。いい?」

「は、はい……」

「うん、ならいいよ。進化を喜ぼう」

「あ、あるじ……。おとがめ、これダケか?」

「怒られたかった?」

「ううん! だ、だが、わがはいのミスは、ホントにいいのか?」

「伝達をしくじったのは僕の責任だから、怒るのは筋違いだよ。あとは、君をちゃんと召喚できるよう、僕が魔力を増やせばいいダケさ。ね?」

「あ、ああっ……! ありがたき、しあわせ……!」


 ぶわっと泣いた幼児は、ごしごしと手の甲でぬぐったあとに頭を下げ、そのまま精霊界《アストラル》へと帰っていった。


 手にじんわりと感じた温もりを、ゆっくり握りしめる。


 ――魔力を増やす。そう言ったからには、何とかしないと……。


「菊知くん」


 千桜さんが、僕の手に自分の手を重ねた。


「今日、あなたができたこと、ちゃんと覚えてるからね」

「――え?」

「ナックラヴィーを拘束して、別ルートを開いたでしょう? あの力は、今も菊知くんのものよ」


 顔を上げると、千桜さんはまっすぐに僕を見ていた。


「お兄さんに教わって、ずっと練習してきたんでしょう? あんな強い相手を、思いどおりに抑え込めるようになったのよ」


 僕は、重ねられた手を見た。

 6発の【聖水】を当てたのも、水の膜を維持したのも、この手だ。


「――うん。ありがとう、千桜さん」

「だいたいねぇ、オーブだけが目的なら、『おお、我が弟よ! よろしい、ならば709だ!』って、とっくに放り込んでるわよ」

「兄貴はそんな感じだけど! 早い早い!」


 二人して笑ったあと、僕はゆっくりと上半身を起こした。


「今後の作戦は……、考え直さないとね」

「ええ。ご両親の捜索も、お兄さんの救助も、両方続けるんでしょ?」

「うん。それは絶対諦めない」


 キュッと、もう片方の手で千桜さんの手を覆った。


「――ありがとう、千桜さん。いつも僕に、力をくれるね」

「オ、オーホホホ! そりゃあ、貴族ですもの! 薫子ちゃんを導くのは当然よ~!」


 格好良いことを言って、すぐに照れてしまうヘッポコお嬢様。けれども、実際とても頼りになるし……そして、とても可愛かった。


 と、そこに。


「フン。起きたようだな、弟」

「兵藤くん? それに……ジニー?」


 黒づくめのオールバック少年が、眠れる幼女兄貴をお姫様だっこして入ってきた。


「案ずるな。ジニーさんは、慣れない体で少し熱が出ただけだ」

「オ~ホホホ、なら不幸中の幸いだわ〜」


 千桜さんはサッと立ち上がった。


「あ、菊知くんはまだ横になってて。は~い、ジニーさんをそこに寝かせて〜?」


 千桜さんは、兵藤くんに指示したあと、僕の邪魔にならないようにテキパキとジニーへ毛布を被せた。

 その様子を見ていた兵藤くんが、呆れたように口を開く。


「令嬢……、お前は弟に甘過ぎるぞ。まったく、こんな奴のどこがいいのか……」

「わー、わー! あ、あぁぁああなた、ソレ言っちゃう!? なら、こっちもヒョードルくんの恋愛に口出すけど!?」

「ハァ!? な、なんでそうなる!」


 ――うわぁい、元気だね。


 二人がぎゃいぎゃい言い合う間に、セーラー服の袖をくいくいと引っ張られた。


(復活じゃな、薫よ)

(ジニー。熱は大丈夫?)

(カゼは仮病じゃ。711へ案内しようとしたが、ボタンが反応せんでの。戻る口実に使ったまでよ。う、ケホケホ)


 さすがは風(・)の精霊。

 けれども、ジニーの顔はすぐに曇った。


(して、おそらくじゃが……、エレベーターは、今のワシを丈一とは見なしておらんな)

(精霊だから? じゃあ、兄貴としては、まだ死んだまま?)

(んむ。ゆえに、救出の猶予も霊界と同じじゃ。あと3日あまり、5日目の正午までにやられた部屋をクリアせねば、強制リタイアとなる。――済まぬな)

(ううん。僕こそ、オーブの件はゴメン)

(次の作戦は如何にする?)

(まずは、有識者さんたちと話し合いだね)


 ちょうど言い合いを終えた兵藤くんが、僕に向き直った。


「そうだ、弟。令嬢と桐山さんをサルベージしてもらったな。マンダンの代理として礼を言おう」

「どういたしまして」


 靴を履いた僕が立ち上がると、兵藤くんは眉をひそめた。


「貴様、ずっとセーラー服のつもりか? 新ルームの初探索は、公式に映像が残るぞ」

「あはは……。まあ、撃破の時点でいまさらだし。兄貴が幼女の姿をやめるまでは続けるよ」


 枕元のウィッグネットを装着し、長髪を被る。


「ところで兵藤くんも、朝早かったんだね」

「サルベージは朝がいいからな。しかし、貴様が先んじて救出したことで、課長はとんだ赤っ恥だ」


 兵藤くんはそっぽを向いた。


「それだけではない。711へ最初に案内できるのは、709を生きてクリアした者だけだ。ジニーさんがボタンを押せない現状だと、今は貴様一人だろう」

「あ、そっか……。僕が次の探索者をつれていくまで、動かないんだ」

「そうだ。早くそいつらも案内できるようにしてくれ」

「兄貴のことばっかり考えてたよ」

「やれやれ……貴様はアクシデントに弱すぎる。俺なら冷静にこなせるというのに」

「え、ホント?」

「フン。当然だ」


 ドアを開けたまま催促する彼に、僕はほほ笑んだ。


「じゃあ、兵藤くんに探索権を譲るよ」










「はあっ!?」


 彼はハデに面食らった。

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