3部屋目 セーラー服の薫子様、七年ぶりの新ルートへ
衣装室で着替えた僕は、長い黒髪ウィッグをつけたのち、マンション前のQ次郎らと合流した。
「よお、薫子様。主役は遅れて登場か?」
「間を保たせるのは得意でしょ、Qは」
紫のスーツを着たQ次郎が、へへっと笑う。
配信用のホログラムを出すと、コメントが怒濤のごとく流れてきた。
※:セーラー服、着たー!
※:後方支援面おじさん「こういうのでいいんだよ」
※:なんの、セーラーならばジニキもカワョ
「ああ、ジニーは白い水兵さんスタイルですね」
「んむ。ワシもお気に入りじゃ」
幼女が片足で一回転するや、大きな襟がふわりと揺れた。
※:\カワョ/ \カワョ/
※:そこにそっとナメクジをひとつまみ…
※:↑おいやめろ
「よっしゃ。そんじゃ行こうぜ」
「うん。709にね」
僕らはエレベーターに乗り込んだ。今回の撮影は、ジニーのスマホに任せている。
「さて相棒、ここまで長かったな」
「Q次郎もお疲れ」
「へへっ。ジョニーさんの『課題』には散々振り回されてきたぜ」
「そうだね。とくに最後はムチャぶりだったかも」
「んむ、ワシも聞いたのお」
したり顔の幼女がアゴを擦った。
「知り合いの丈一が言うとったわ。『まさか薫が、本当にフレイムワイバーンの炎を溶かせるとはなあ』と」
「フザけんなオイ!」
※:なんという他人事でしょうw
※:いいか、別人だぞ?
※:ジニーちゃんの言い草に草
ひとしきり笑い合ったのち、エレベーターが到着した。
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709 海岸
・ナックラヴィーを倒して石板を取れ
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――いよいよ決戦だ。
砂州でつながった対岸には、石碑の上に乗った石板が見える。
僕は看板の余白へと目を戻した。
『ナックラヴィーを倒して石板を取れ』。7年前の初クリアで浮かび上がったその文字の下には、あと1行分だけ空白が残っている。
――兄貴が「それだ!」と言ってくれた攻略法。今日は、ここに刻んでみせる。
「んじゃ相棒、俺が時間を稼いでくるぜ」
「うん。その間に準備するね」
Q次郎の背中を見送りつつ、僕は水の精霊【睡蓮】を喚んだ。
「睡蓮、今日は思いっきり食べていいよ」
「ぴぴ~!」
思いきり羽を震わせた妖精は、僕の出す魔力をどんどん吸収して濃紺に染まっていった。
一方ジニーは、Q次郎をズームで撮影している。
※:人柱っつーか、むしろナメクジ柱
※:ミ塩 ミ塩
※:ナメクジ「やめろ海水、その術は俺に効く」
※:おっと、ナクラ出た
Q次郎が浜辺に到着するや、沖で豪快な水しぶきが上がった。
「ぐあーっはっはっはああぁーっ!」
けたたましい笑い声とともに現れたのは、皮膚の全くないケンタウロスだった。骨張っているわけではなく、むしろ、赤と白の分厚い筋肉をグロテスクに脈動させている。
「ぐはははー! 愚かな奴めえっ! 吾が輩相手に、貴様1人だとおっ!?」
「俺と、後ろの2人だぜ!」
「それでも3人かあ! ナメられた……ものだなあ!」
怒気をもさらけ出した海の怪異が、Q次郎の元へと波を蹴立てて迫り来る。体長およそ3m。濡れた長髪を振り乱し、睨みつける両目は燃えるように真っ赤。数多の冒険者を屠ってきた強敵だ。
※:ケンタの巨人、進撃待ち
※:塩水シミそー
※:いや、やっぱグロ怖ぇって
そんなナックラヴィーを前に、Q次郎はしきりに手拍子を始めた。
「ヘイヘイヘーイ!」
上陸してきた重種馬に対し、囃し立てたまま回り込んでいく。
「へっ、下馬評を覆してやるぜ!」
海を背にしたQは、拳を真っ直ぐに突き出した。
「この俺が、一撃でな!」
「なんだとぉ〜っ……!? 面白い、返り討ちだあっ!」
※:おもしれー男・・・
※:大丈夫、いけるいける
※:ほんとぉ?
猛ダッシュしながら拳を溜めるQ次郎に、ナックラヴィーは前足で豪快な蹴りを入れた。
ゴボォ!
「ぷげえっ!?」
モロに顔面へと食らったQ次郎は、逆くの字で砂地に倒れ込む。
「グワーハッハッハ! なんとも呆気ない奴だ!!」
※:知ってたw
※:まさに一蹴
※:大丈夫、逝ける逝ける
※:ヤムチャしやがって……
微動だにしなくなったQ次郎は、顔から膨大な紫の光が漏れ出すと、見る間に全身が消失した。幾度も目にした、相棒の“霊界”行きである。
――Q、ありがとう。おかげで準備ができたよ。
僕は、振り向き始めたナックラヴィーに人差し指を向けた。
「【聖水】」
パパパパパパシュッ!
極限まで高品質にした【聖水】を6連射。2つの手と4つの足に放つ。
ジュジュ~ッ!!!
「シャギャアアアァーッ!!」
※:はあッ? 手足溶けたッ!?
※:えっ(絶句
※:【聖水】の威力じゃねえよコレ!!
※:ナクラ動けねえ!!!
絶叫するナックラヴィーの全身が、ブワッと膨れ上がる。
凶暴化し、瘴気をまき散らす《モータシーン》の前兆だ。
「よし」
すかさず僕は、【ウォータースクリーン】を球状に展開した。――ナックラヴィーを、包み込むように。
「ジャギャー!!」
直後に、激烈な瘴気が吹き出した。しかし、僕が張った水の膜からは一切染み出してこない。
※:全部シャットアウト!?
※:ひえっ・・
※:デカいシャボン玉で《モータシーン》まで封じた……ってこと!?
※:あの薄さでも瘴気を浄化できてる!!
「ジニー、エレベーター頼むね」
「まかせよ」
僕は、魔法を維持したまま砂州を歩いていき、石碑のある対岸に着いた。
「よいしょっと。――これで、どうかな?」
石板を慎重に持ち上げた瞬間、体中に温かい光が降り注ぐ。
「やった……!」
快晴の空を仰ぐと、“次の部屋は711”の文字が大きく浮かんでいた。
※:うおおおーっ、新ルーム来たああああ!!!!!!
※:88888888
※:アイエエエ! 別ルート、別ルートナンデ!?
※:分かった! ナックラヴィーを「倒さず」取るのか!!!
※:はあああああ!? 無理だろ!!
※:やっとるやろがい!
(ほんに頑張ったのお、薫)
ジニーが【精神感応】でねぎらってくれた。
(砂地で水の膜を維持するとは、聞きしに勝る制御力じゃな)
(ありがとう、ジニー)
1階と2階で、ひたすら基礎練習を続けていた。最後に倒したフレイムワイバーンですら、“305:岩場”である。
――全て、今日のためだった。
やったよ……兄貴。
僕はゆっくりと石板を置いた。砂州を戻り、今度は【ウォータースクリーン】の前に立つ。
「さてと。こっちも忘れずに回収するよ」
新しいクリア方法は刻めた。あとは、ボスを倒せばオーブが手に入る。
「ジャギャー……! き、貴様はもう用がないだろう! 帰れ!」
「ごめんね。オーブも必要なんだ」
僕は、水の膜へ【聖水】を連射した。
「ジャギャアアアァーッ!!」
※:この薫子様、容赦せん!
※:帰れとか言うナクラ初めてで草
※:敵の方から帰宅を勧めてくるw
※:(なお出すもの出せば帰る模様)
パパパシュッ、パパパシュッ!
瘴気を閉じ込めたまま、膜の厚みを内側へ増していく。
※:――セーラー服と帰還自由
※:ぶはw
※:薫子様「か・い・が・ん」
※:ナクラ「大喜利してないで帰れよ!」(泣)
やがて、球体の中からナックラヴィーの姿がすっかり消失した。
「うん、瘴気も浄化できてるね」
【ウォータースクリーン】を解除すると、水が砂浜にバシャーッと散った。青い宝珠が1つ残ったので、そっと手でつかむ。
「ナックラヴィーのオーブ、ゲットしたよー!」
「ぴぴ~!」
※:コングラッチュレーション……
※:オーブ、GETだぜ!
エレベーター前まで戻ると、ジニーが不敵に看板を指していた。
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709 海岸
・ナックラヴィーを倒して石板を取れ
・ナックラヴィーを倒さず石板を取れ
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「くふっ。薫の見つけた攻略法じゃな」
「――うん!」
僕は、ジニーとファイブタッチした。




