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幼女兄貴(SSSランク)と僕とダンジョン ~十年磨いた水魔法で、誰も思いつかなかった勝ち方をします~  作者: 葦原エイ
第一章 幼女兄貴救出編

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2部屋目 水を当てると凶暴化する怪物を倒しにいく

 帰るとき、事務のミツオさんに機材を返した。


「いやあ、薫くん。業界大手の課長さんにカミ技を使うなんて、心臓に毛が生えてるねえ」

「あはは……」

「ワイバーンも倒したそうだし、ジョニーくんも安心かな?」


 フードを被った幼女兄貴は、僕の背中でスヤスヤ眠っている。


「かなり疲れてたんですね。手続きを色々してたって聞きました」

「うん。もし彼の休息中に何かあったら、力になるよ」

「お忙しい中、ありがとうございます」



 ◆  ◆  ◆



 住宅街を歩くなか、背中でモゾモゾ動きがあった。


「んぅ……薫」

「あ、起きちゃった? もうじき家だからね」

「――大きくなったな」

「兄貴が小さくなったんだよ」

「ハハハ」


 頭をよしよしと撫でられた。


「これはもう、精霊を教えるに足る人物となったな」

「え、本当?」

「ああ。すっかり立派になった」

「――ありがとう、兄貴」


 お世辞でも嬉しかった。

 ミツオさんたち数人だけが知る、ヒミツの精霊である。探索が順調なら、おくびにも出さなかったハズだ。


「それにしても僕、ビックリしちゃったよ。兄貴が再起不能って聞いたからさ」

「フム。リタイアは覚悟していたぞ」

「え?」


 ドキリとした。


 〈リタイア〉。

 マンション探索を永久に諦める代わりに、受けた異常を解除して、入り口へと帰還する最後の手段だ。


 今使えば、兄貴の幼女化も解けて、すぐに21歳の姿へと戻れる。普通に暮らす分には万々歳だ。


「だが、それでは親父とお袋を探せなくなる」

「兄貴……」


 胸元を、小さな手がぽんぽんと叩いた。


「これからは、薫がメインだ。813まで頼んだぞ」

「うん」


 僕はその手を優しく覆った。


「大丈夫だよ、兄貴。今はゆっくり休んでて」

「そうだな、しばし眠りに就くとしよう。――ああ、次に起きたときは仰天させるからな?」

「えー、精霊関係?」

「フフフ。では、目覚めるまで、頼むぞ……」

「まかせて」


 今まで苦労をかけ通しだったもんね。出来うるかぎり肩代わりしなくっちゃ。


 幼女兄貴は、すぐにカワイイ寝息を立て始めた。サプライズを自白しちゃうほどだし、よっぽど疲れてたらしい。


「――ん。女装で尻込みしてちゃダメだよね」


 青い屋根の一軒家が近付いてきた。兄貴と2人暮らしの自宅である。


「何でもやるよ、僕」

(ほお)


 突如、脳内に声が響いた。


(今、何でもやると言ったかのお?)


 ん?


 小さな女の子の声に、あたりを見回す。


(くふっ。ワシの美声も、話し手が変わると別人かのお)

「え」

(お主に、おんぶされとるんじゃが)

「――ま」


 まさか!?


 咄嗟に首を向けると。


(初めましてじゃな、丈一の弟や)


 さっきまで兄貴だったハズの幼女は、瞳を紫にしてほほ笑んでいた。


(ワシの名はジニー。風の精霊をやっておる)

「あ……兄貴の、使役精霊……!」

(いかにも。お布施で稼ぐとは、実にクールじゃのお。さすがは「薫子様」じゃ)


 チュッと、ほほに湿り気を覚える。


「え、えぇっ!?」

(くふっ。お礼じゃよ)


 幼女ジニーは舌なめずりをした。


(丈一は冬眠状態に入ったでの。代わりにワシが、お主をみっちり鍛えてやるぞえ)

「あ……!」


 兄貴のサプライズ、効きすぎー!



 ◆  ◆  ◆



『そうだよ、薫くん。ジニーは丈一くんの使役精霊なんだ』

「――伏せてたんですね、ミツオさん」

『ゴメンゴメン、彼から口止めされててさ』


 兄貴ってば、とことん僕を驚かせるのが好きだよね。


 電話を終えると、両手で頬杖をつく幼女がニンマリしていた。


「納得したかの、弟や?」

「うん。だけど、どうやって兄貴を助けたの?」

「赤目玉の呪文は、体を分解させるシロモノでのお。消えきる前にワシが実体化して、丈一の意識をこの体へ逃がしたんじゃ」

「じゃあ、今も兄貴が?」

「んむ。中で眠っておるぞい」

「そっか……。ありがとう、ジニー」

「なんの、朝飯前よ。――お主のようにのお」


 ジニーは、天井の的を指差した。


「精密射撃の練習か? ちと見せてくれぬか」

「いいよ」


 スッと指を向けて、【聖水】を放つ。的に当たって跳ね返った水玉を、今度は逆呪文で消す。


「んむ。お主が使う魔力は最小限か。キチンと丈一の言いつけを守っとるようじゃの」

「まだまだ、兄貴の努力には及ばないけどさ」

「くふ、安心せい。頑張り屋の弟については、よ~く丈一から聞いておったぞえ」


 ジニーは眩しそうに目を細めた。


「して、助けるプランじゃが、如何《いか》にする?」

「明日は709へ行くよ。ナックラヴィーのオーブがあれば、赤目玉に対抗できるハズだからね」

「真水で体が溶けるが、当てると凶暴化する奴じゃのお」

「うん。それでも、あのオーブが必要なんだ」

「んむんむ……。そこまで考えとったか」


 ジニーは僕の頭をなでてきた。


「ほんに薫は、大きくなったのお」

「コラ」


 ジニーのおでこをつつく。


「そんな僕のイジリ方って、兄貴に聞いたの?」

「くふ、丈一との旅は長かったからの。いくばくかは影響を受けたやもしれぬ」

「今までの傾向を見てると、染まりきってる気もするけどね」


 呆れたように息を吐いてみせるも、すぐにお互い笑い合う。


「ジニー。明日は頼むね」

「まかせよ、薫。ワシらは一心同体じゃ」



 ◆  ◆  ◆



 翌朝。


 組合の窓口で探索届を書いていると、Q次郎がスマホを差し出してきた。


「よぉ、薫子様。見たぜ、今朝の配信」

「おはよう、Q」


 画面には、制服姿の僕と、水色のスモックを着たジニーが映っていた。


『ヤッホー! ワシは“リアルのじゃロリ精霊ADVENTUBE兄貴”こと、幼女精霊のジニーちゃんじゃよ~!』

『兄貴……。また、ずいぶんと設定盛ったね』

『ジ・ニ・イ』

『え?』

『ワシを呼ぶときはジニーじゃ、薫』



※:やべぇ、ジョニキが自分の破壊力に気付いたw

※:あれ? 今後はNOジョニー?



『くふ。小さな「よ」は、「幼児」の後ろにくっついて「ようじょ」になったわ』

『そんなムチャな』



「へっへへ」


 Q次郎が再生を止めた。


「丈一さんが、精霊キャラを演じてるコトにしたのか」

「うん。この口調で、兄貴のフリを続けるのは難しいからね」


 兄貴がずっと秘密にしてきた精霊だ。その正体を、僕が勝手に公表するわけにはいかない。


「へっ。バレる前に自らバラすとか、裏技っぽくて好きだぜ?」

「くふっ。ウソはついとらんしのお」


 探索届を書き終えて窓口を離れる。


「あ、ジョニーさん!」


 マンションへ向かう生徒たちが、ジニーに気付いて声を上げた。


「昨日の配信、見ましたよ!」

「おお! 今朝もアップしたので、あとで見るのじゃ~!」


 大きく手を振る園児の姿に、Q次郎も苦笑する。


「負けてられンねえなあ、薫子様も」

「うん」


 Q次郎もジニーも、一生懸命だ。


「僕も、2人の足を引っ張らないよう頑張るよ」



「フン。寝言を抜かすな、ジョニーさんのオマケが」



 え?


 見ると、黒マントを羽織った、小柄なオールバックの少年が腕組みをしていた。


『うわ、ヒョードルだ……』

『学年1位が、弟とナメクジに絡んでったぞ……』


 生徒が遠巻きに見守るなか、黒づくめの兵藤琉架(ひょうどうるか)くんが悠然と歩いてきた。


「喜べ、弟。マンダンの新プロジェクトが始動だ。俺が709に挑むぞ」

「えっ? そこは今、僕らが……」

「ハッ! ジョニーさん以外は誰も安定しなかった強敵だぞ? 貴様の水で凶暴化させて、どうするつもりだ」

「へっ、おいおい」


 Q次郎が割って入った。


「ならよお、ヒョードル。そういうテメーはどうなんだ?」

「俺は黒魔法だ。死ぬ前に相手を殺す」


『お~っ……』


 大勢のギャラリーが沸いた。誰かが指笛も吹いている。


「フン、真の強者《きょうしゃ》はうろたえん。ジョニーさんのようにな」

「――のお」


 ジニーが、くいくいと黒マントの裾を引っ張った。


「その『ジョニー』とは、もしやワシのことかのお?」

「は?」


 兵藤くんは、怪訝な顔をしたのちに大笑いした。


「面白い冗談だ。幼児にしてはな」


 黄色の園児帽をペシペシ叩くと、たちまちギャラリーがざわつく。


『お、おい。ヤベェよ……』

『ああ……ヒョードル死んだな……』


 兵藤くんも、不穏な空気を感じたらしい。


「む……。なんだ、一体?」

「おいおい、配信見てねえのかよ。その幼女、菊知丈一さんだぜ?」


 Q次郎がスマホを向けた。画面とジニーの顔を見比べるや、園児帽を叩く手がピタリと止まる。


「――へ?」

「ヤッホー」

「あ、あぁぁ……! すみません! ジョニーさん!」


 兵藤くんが、ズザザッとその場で土下座した。


「変化をつゆ知らず、とんでもないご無礼を!」

「ドンマイ。あ、この姿の時はジニーちゃんな」

「は、はい! ジニーちゃん!」


 ジニーはしゃがんで手を伸ばすと、オールバックのおでこをペシペシ叩いた。


「精進せいよ」

「ははあーっ!」


 顔を真っ赤にした兵藤くんは、恐るべき速さで去っていった。


「よしよし。さて、薫や。次はいよいよナックラヴィーじゃが」

「うん。でも、倒すだけじゃダメなんだ。新しいクリア方法を見つけないと、オーブは手に入らない」

「くふっ。何か考えておるようじゃな?」

「兄貴と考えた攻略法があるんだ。今日は、それを試すよ」


 ジニーが、ニヤリと笑った。


「くふっ。――今から楽しみじゃのお」

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