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幼女兄貴(SSSランク)と僕とダンジョン ~十年磨いた水魔法で、誰も思いつかなかった勝ち方をします~  作者: 葦原エイ
第二章 両親捜索編

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24部屋目 尊敬できる人たち

「看板、ねえ」


 翌日の昼休み。

 慎二くんに例の映像を見せると、少し考えたのちにうなずいた。


「そうだね、薫くん。カジノでも光ってたよ。ルミノさんが、看板を変更してたときに」

「変更?」

「うん。書き換えるには儀式がいるんだって。ただ、すぐに済むものもあるらしいよ」


 慎二くんは、人差し指を立てた。


「『お客様のご要望にお応えした変更なら簡単です。例えば、勝つごとにクリアの光が出るのは煩わしいので、消してほしい。――このような内容なら』って」

「あ。490で、千桜さんがトート様に『盤石』をお願いしてたのも……」

「それもだね。効力のないフレイバーなら、すぐなんだろう」

「へっ。クリアはそのままで、光だけ消すってか。そりゃ反対する理由もねえな」


 Q次郎の言葉にうなずきつつ、スマホへと目を戻した。


 ――けど、758は違う。


 黒い沼のそばで、黄色い看板が光っている。

 そこの文言は、「マラコーダがいる限り、マレブランケの力は3倍」。攻略の難しさが激変する条件だ。


「当然、僕らが認めるわけない」

「うん。だから儀式をしてるんだろうね」


 画面の看板が、また光った。


「ほんじゃあ元カレさんよ。奴らは今も、何か変えようとしてるってことか?」


 慎二くんはQを一瞥したのち、僕に目を向けた。


「その可能性はあると思うよ、薫くん」

「えーっと……ありがとう、慎二くん。兄貴にも伝えておく」

「うん。何か分かったら、ボクにも教えてね」


 うなずくと、慎二くんは少し笑った。


「そうそう。今回は、カジノへのお誘いじゃなかったね」

「――そのチェック、いる?」



 ◆  ◆  ◆



 放課後。


「菊知先輩! 今日も、お願いしていいッスか!」

「ぼ、僕もお願いします!」


 声をかけてきたのは、ノッポの高橋くんと、チビッコの那須野くんという、新学期の登校中に握手を求めてきた、中等部の新入生たちだ。

 2人とも、魔法の狙い方を教わりたいらしい。


「ん、いいよ。Q次郎も行ける?」

「へっ、カメラ係だろ? 2体目バッチリだぜ」


 218での練習では、2人とも、的を追いかけて杖を動かしすぎていた。(ちなみにアガベはあれ以来見てない)

 当てる場所を決めて、そこで待つ。まずはそれを、何度も試してもらう。


「うん、今のは良かったよ、高橋くん」

「マジッスか!」

「じゃあ、次も同じ場所を狙ってみようか、那須野くん」

「はい!」


 高橋くんが白で、那須野くんは緑。

 Q次郎は、それを聞いて「おっ」と顔を上げた。


「お前ら、【魔力譲渡】は?」

「使えるッス!」

「僕もです!」

「へっへへ、そいつぁ好都合だ。――いや、本当にな」


 僕もうなずいた。マナイーターで魔力を減らすのは効率が良かったが、Q次郎の負担も大きそうだったので、なるべく回数を分けたいと思っていた。【魔力譲渡】の使い手が増えれば、分散して行える。


「じゃあ、現実に戻ってから、僕らの修行にも付き合ってもらっていいかな」

「もちろんッス!」

「教えていただいたお礼です!」

「へっへへ。だがその前に、寄る部屋があるぜ〜?」


 Q次郎はエレベーターで102を押した。


「部屋名、『素質を計る』! おう、相棒。魔力の伸びを計ってもらおうぜ!」

「Qは毎日チェックしてるよね」

「薫はしなさすぎなンだよ〜」


 部屋につくと、台座の上にオーブが乗っている。


「はーあ、マジでストイックだもんな。なぁ後輩、信じられるか? 薫は測定するときよお、『ちょっとだけ魔力を流すから』っつーんで、大事を取って最初の一回きりで行ってねえの」

「マジっスか!」

「おう。そんで、ン年ぶりだかに計ったっつー相棒の魔力な? マ・ジ・で、Dだったんだぜ」

「し、絞ってたッスね……」

「恐ろしい鍛錬です……」


 いや、そんな仰々しく考えなくても。――あれ、これも僕が変なのかな?


「さーて、俺の魔力《ちから》。そろそろ伸びててくれよ〜……?」


 まずはQ次郎がオーブを触った。空から光が差し、魔力Eと出る。


「うおおっ! やった!」

「Q次郎、おめでとう」

「やったぜ薫! お、俺……、また、地獄に耐えられる!」

「あはは……うん、良かった」


 続いて、僕も触ってみた。


「あ!」


 魔力C。


「うおー!」


 三人はやんやの大喝采をしてくれた。さすがに「いや、まだCだよ?」と気恥ずかしかったけど、「でも……ありがとう」とお礼を言った。


 そして、意気揚々と帰った僕らは、マナイーターによる魔力修行・放課後編を始めたのだった。


「アチキ、薫の魔力をいっぱい吸うのよぉ」

「うん。ぐ、ぐぅっ……」

「お、俺もだろ……。吸え……。でも、優しくして……」


 緑と白の後輩たちも、自分たちの魔力が使い切れると大喜びだった。


「なあ、相棒……。弟子が増えるたびに、俺の仕事も増えてねえか……?」

「助かるよ、Q次郎」

「そうか? うーん、そうかあ……」



 ◆  ◆  ◆



「はぁ、生き返るッス……」

「です……」


 ファミレスの席で、高橋くんと那須野くんが仲良く息を吐いた。


 僕とQ次郎は、窓を背にして並んで座っていた。


「二人とも、ありがとう。無理してない?」

「大丈夫ッス!」

「少し休んだら、戻ってきました!」

「そっか。今日はもう、しっかり休んでね」


 料理を待ちながら話していると、高橋くんが身を乗り出してきた。


「あのぉ、菊知先輩?」

「何かな」

「今度は、俺らからインタビューしてもいいッスか?」

「インタビュー?」

「はい。先輩に聞いてみたいことが、いろいろあったッス」

「です」


 那須野くんもうなずくと、Q次郎がスマホを持ち直した。


「へっ、いいじゃねえか。そんじゃ、お前らがインタビュアーな」


 二人の襟に小さなマイクを留め、音を確かめている。


「おっし、声も入ってる。相棒、いいか?」

「うん。お手柔らかにね」



 ◆  ◆  ◆



『えー、それではインタビュー動画を始めるッス!』

『菊知先輩に、お話を伺いたいと思います!』

『よろしくお願いします』


 向かい合った三人が、互いに頭を下げる。


『さっそくなんスけど、先輩の尊敬してる人は誰ッスか?』


 少し間を置いて、薫が口を開いた。


『やっぱり、兄貴かな』

『丈一さんッスね!』

『うん。いろんなことを教わったし。今日、二人に教えた狙い方も、もとは兄貴に教わったものだからね』


 高橋と那須野が、感嘆の声を上げる。


『あとは、ミツオさんもだね』

『あー、組合の銀SSの人ッスね!』

『そう。単に強いだけじゃなくて、一緒にいる人が戦いやすいよう、サポートしてくれるんだ。僕も何度も……いや、もうずっとだね。助けてもらってる』


 今度は那須野が、少し身を乗り出した。


『では、ですね。同級生だとどなたですか?』

『同級生? んっと、千桜さんで分かる?』

『千桜汐音先輩ですか?』

『うん。490で、自分から天秤に乗ってくれたんだよ』


 薫は、テーブルに置いた自分の手へ目を落とした。


『強制リタイアの危険があるのにね。それでも、誰かのために先に動けるのは、本当にすごいよ』

『へえ……』

『813にも、最後まで付き合ってくれたしね。僕が無茶を言っても、一緒に来てくれる。すごく頼りにしてるよ』


 那須野が、感心したように何度もうなずく。


『尊敬できる方たちなんですね……』

『うん、本当にそうだよ』


 そのとき、高橋の視線が窓の外へそれた。


『――あれ? 千桜先輩じゃないッスか?』


 カメラが窓へ向く。


 歩道を歩いているのは、赤黒コーデの千桜汐音だった。

 彼女は、誰かの腕を抱き、楽しそうに顔を寄せている。


『――あっ』


 その相手は、銀のSSランク、目黒充雄。


 画面がテーブルへ戻る。

 那須野の手が、グラスを持ったまま止まっていた。


『どうしたの?』


 薫が尋ねると、二人は同時に顔を戻した。


『な、なんでもないッス!』

『はい! 何も! ないです!』


 入口のドアが開く音がした。


『ねえ、パパ〜。ここで待ってればいいんでしょ〜?』


 二人の背筋が、びんっと伸びた。


『ぱ……パパ?』


 那須野が、高橋の耳元へ顔を寄せる。


『ほ、本物のパパかもですよ?』

『でも、ミツオさんは目黒充雄さんッスよ? 千桜先輩とは姓が違うッス……!』

『あっ……!』


 二人の声は小さくなっていたが、襟元のマイクには入っていた。


『ど、どうするッスか? 菊知先輩は今、二人とも尊敬してるって……』

『ですよね、あんなに嬉しそうに、話してたんですよ……』

『――見せちゃ駄目ッスね』

『はい。ここは、僕たちが……!』


 薫が首を傾げた。


『ん? 後ろに誰かいるの?』


 振り向こうとした途端、高橋が立ち上がる。


『駄目ッスー!』


 那須野もブンブンと両手を広げた。


『先輩! こっちを見てください!』

『えっ、なに?』

『あ、あの、ええと、魔法! 魔法の話を!』

『さっきまでしてたけど……』


 画面の外で、Q次郎が小さく吹き出した。


『おう、薫。〈尊敬できる人たち〉が来たぜ』

『駄目ッスってばー!』

『おや? 薫くん。ここにいたんだね』


 テーブルのそばに、ミツオと汐音が立っていた。


『あ、どうも、ミツオさん。それと……千桜さん』


 汐音が、ぱっと顔を上げる。


『えっと……き、菊知くん。名前で呼んでくれても……』

『あ、うん……。で、でも、慣れてるから……』


 汐音は自分の髪へ触れた。

 ミツオは苦笑する。


『薫くん。今日は、みんなで練習かい?』

『はい。二人にも付き合ってもらってました』


 ミツオは新入生たちを見て、穏やかに会釈した。今日はねずみ色の、毛糸の指ぬき手袋をしている。


『そうか。娘もいつも、薫くんにお世話になっているからね』

『む、娘……?』


 高橋のかすれた声に、ミツオがうなずく。

 汐音も、きょとんとした顔で彼を見た。


『うん。あたしのパパだけど?』

『で、でも、お名前が……』

『ああ、僕の〈目黒〉は冒険者名なんだ。本名は千桜充雄だよ』


 二人の新入生が、ゆっくりと顔を見合わせた。


『お待たせ。――あら、どうしたの、みんな立って?』

『ママ、こっち〜』


 汐音が手を振る。


 近づいてきた女性は、薫たちに軽く会釈したのち、ミツオの隣へ並んだ。


『あなた、席は?』

『これからだよ。ちょうど薫くんたちに会ってね』

『あら~。魔力修行頑張ってるって聞いたわよ? でも、ちゃんと休息も取ってね』

『あ、ハイ。ありがとうございます』


 高橋が椅子へ沈み込む。

 那須野も、その隣でふにゃりと肩を落とした。


『よかったッス……』

『です……』



 ◆  ◆  ◆



「ハッハッハ! この二人、必死じゃないか!」

「巻き込まれ事故だよ……」


 家へ帰ると、幼女兄貴がテーブルで「インタビュー動画こと事故動画」を見ていた。

 小さな手でスマホを支え、肩を揺らして笑っている。


「いや~。しかしそうか! 知らぬ新入生が入ってくる時代かー」

「こういう動画ばっかりバズる……」

「ハッハッハ、いいじゃないか。薫が慕われてる様子も分かるし、千桜さんご一家の3ショットも映せた。また当分は、誤解する人も消えるだろう」

「それは嬉しいけどさ。――ええっと、今日の攻略の首尾は?」


 幼女兄貴は不敵に親指を立てた。


「フッ、一発クリアよ」

「おーっ、さすが」

「ワシのクリア数が、いよいよ69になったな」

「それじゃあ、あと一つだね」

「ああ。回れる部屋は回りきった。ということで、明日はあの部屋へ行ってくる」

「それって、一人で?」

「む……むう」


 兄貴が珍しく口ごもる。


 僕は立ち上がると、小さな幼女兄貴の肩を叩いた。


「僕も行くよ」

「薫よ……いいんだな?」

「うん。兄貴と一緒に行く」

「そうか」


 兄貴はしばらく僕を見上げていたが、やがて小さく笑った。


「分かった。なら、2人で行くぞ」

「うん」

「明日、朝飯を食ったら出発だ」

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