23部屋目 マレブランケの配信
僕とQ次郎がマナイーターを使った魔力強化に励み、兄貴たちは千桜さんや猪尾さんを連れて7階を攻略中だったある日。
「薫! ちょっと来い!」
「なに、Q次郎?」
「758の連中が配信始めた」
「えっ!?」
慌ててスマホを覗き込むと、ピエロ姿の悪魔が真っ黒な沼の前に立っていた。
『どーもー! 地獄の人気者、アリキーノでーす! そして、あちらにいるグラサンが!』
『スカルミリオーネや!』
金ピカのスーツにサングラスをかけた、ざんばら髪の悪魔が映った。
その手には、なぜか大きな桃がある。
『見てみい、この尻……ちゃう、この桃。ええ形しとるやろ~?』
スカルミリオーネが、うっとりと桃の表面を撫で回す。
『この産毛! この丸み! オホ〜、たまらんのお~』
『スカルさん、触りすぎると傷みますよー』
『アホゥ! 桃はなあ、愛でてなんぼや!』
『みんなー! 桃は撫でると傷みやすいから、お店の桃は触っちゃダメだよー!』
『青果さんに優しい悪魔やなァお前は!』
「……なに、これ?」
「ああ、758のつかみの挨拶だ。全然つかめてないから失笑でドッカンドッカンだぞ」
「それは笑われてるんじゃ……」
『なんや最近、ワイらを倒しに来るとか抜かしとる、ケッタイな奴らがおるらしいのお!』
『いるらしいですねえ!』
『誰やねん!』
『SSSランクの丈一くんでーす!』
――え?
「なんでそこまで知ってるの?」
「そりゃ配信チェックしてんだろ」
「……僕らのを?」
「敵なんだから、見るだろ」
まあ、たしかに。
オシリス神だって、僕らを見ていたらしいし。
悪魔が配信を見ること自体は、別におかしくない。
問題は……。
『幼女になったSSSランク! いやあ、実に面白い!』
『アホか。あれ中身オッサンやろ』
「兄貴はまだ21だよ!」
「そこか?」
『しかも最近は、弟くんまで活躍してるそうじゃないですか』
『ほーん。ランクは……? なんや、まだDかいな』
『ところがどっこい。精度が妙に高いんですよねえ』
――この悪魔たち、ただ見ているだけじゃない。
僕らの戦い方までチェックしている。
『銀のSS、ミツオ!』
『ああ、あの球投げる奴やな』
『黒のS、ヒョードル!』
『おう、デコスケか。ハゲるぞお前』
『紫のSS、ウニッコ!』
『ワイ爬虫類ニガテやねん』
「……攻略候補、ほとんど把握されてるじゃん」
「敵もネット使う時代ってこったな」
『そして本日は!』
アリキーノが柏手を叩いた。
『我々マレブランケが、そんな人間たちにボッコボコにされた映像を、振り返ってみたいと思いまーす!』
『おい! そないな企画通した、ルビカンテばりのアホは誰や!』
『私でーす!』
『ルビカンテかお前!』
画面が切り替わった。
兄貴たちの攻略動画から、悪魔たちのやられる場面が次々と映し出される。
「……これ、勝手に流していいの?」
『おっ、いま無断切り抜きやーんとか思たヤツ! ワイらかて勝手に撮られて、ネットに上げられとんねんでー!?』
『そこはお互い様ってことでー』
『ギャラは欲しいけどな!』
「……ま、悪魔だしね」
「こいつらをどう捕まえるのかっつー問題もあるしな」
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743 陣取り合戦
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幼女姿の兄貴と、ウニッコさん、千桜さん、猪尾さん、そして桐山さんの5人。
そして、画面隅の小窓に、アリキーノとスカルミリオーネの顔が映った。
『なんやこのパーティー、男一人しかおらんやんけ』
『これが世に聞く、ハーレムですかねえ?』
『ちゃうやろ。どう見ても黄色いトカゲ姉ちゃんのパシリや』
※:桐山さん……
※:惜しい、幼女兄貴のパシリよ
※:大部分は当たっている、耳が痛い
※:イタ蔵の不憫は種族も超えるんやなって
『では見てください! この瞬間!』
竜顔の悪魔が陣地の中央へ飛び出した。
同時に、ウニッコさんの前に【幻覚】のカーテンが広がる。
向こうからはウニッコさんが見えなくなった所で、黄色の指先が紫に光り出す。
『【魔弾】』
ズドンッ!
大きな衝撃が【幻覚】ごと突き破るや、竜悪魔の上半身が吹き飛んで消滅した。
『くぁ~っ! なんや、この威力。大砲か!』
『はいストーップ!』
アリキーノが映像を止めた。
『今の被害者さーん!』
『被害者言うなや』
『ドラギニャッツォさーん!』
画面端に3つめの小窓が増え、そこにムスッとした竜悪魔が現れる。
『ガルル……なんだ?』
スカルミリオーネが、静止画のウニッコさんと、ドラギニャッツォを見比べた。
『ワイ、このウニッコいう奴、なんや見覚えあるなー思うとったんや』
『あ?』
『ドラやんけ』
『どこがだ!』
『イヤイヤ、色ちゃうだけで親戚やろ』
『爬虫類ぜんぶを親戚扱いするな!』
※:ドラ2号(2号がドラギニャッツォ
※:親戚で草
※:お、火ィ吹いた
※:本人ガチギレやんw
『しっかしダサいのお、ドラよ』
『実力不足ですねえ』
『ガルル……! お前ら仲間に厳しすぎるだろ!』
『ハッ! 負けた奴が悪いんや』
『ではドラギニャッツォさん、退場はこちらでーす!』
『あぁ?』
カチッ。
『ガアアアアアアアッ!?』
ドラギニャッツォがワイプから消えた。
※:何が起きた
※:ドラが青い顔(比喩)して消えてったんやなって
※:画面外で草
『はい! 映ってませんけど、コールタールの沼に落としましたー!』
『画面の外でボケるな言うてるやろ!』
映像が再開する。
次に中央へと飛び出してきたのは、鳥型の悪魔だ。
『ピヨヨ~ン! お前みたいなチビ助に、当たるわけないピヨーン』
翼を広げ、兄貴の頭上へと急上昇するが、兄貴も大きくジャンプする。
『大地球……!』
直後、鳥悪魔の背後に幼女姿のジニーも出現。
『『サンドイッチ!』』
『ピヨォォォォ!?』
【力場】で押し潰し、バーンッ! と消滅した。
華麗に着地し、イェーイとハイタッチする幼女たちの画面で。
『はいストーップ!』
『おぉ、はよ来いや、ラレリロル』
『ファルファレルロだピヨ』
3番目のワイプに、鳥悪魔の顔が出た。
『ピヨヨーン、ポクはくつろいでたでピヨン』
『お前なァ……、反省せえや。ほんま悪い鳥やで』
『ピヨーン、悪い鳥とか言うなピヨン』
※:語尾のせいで緊張感ゼロ
※:ピヨヨ~ンw
※:大地球の新シリーズ待ってた
『いやはや、しかしファルファレルロさん、完全に読まれてましたねえ』
『たまたまだピヨ』
『おうおう、負けた奴はみんなそう言うんや』
『ピヨン。訳知り顔で語れるほど、お前らも頭良くないピヨ……』
『ではファルファレルロさんも、こちらへどうぞー!』
『ピョ?』
カチッ。
『ピヨォォォォ――!』
また、画面の外から悲鳴だけが聞こえた。
※:また見えねえw
※:顔が下にいったんは分かった
※:鳥が落ちるなし
『はい、映ってませんけどコールタールの沼に落としましたー!』
『画面外の天丼なんかウケへんわボケ!』
また再生されると、今度は上半身裸で、筋肉と脂肪により膨れ上がった蛮族風の悪魔が出てきた。
うねる癖っ毛に、ヒゲもじゃの顔がニタリと笑う。
『出ました! 我らが副長、バルバリッチャ!』
『説明せんでええぞ!』
『なぜです? 半裸でムッチムチ! 癖っ毛のわがままボディですよ!?』
『いらん言うたやろ、気色悪い!』
※:要素だけ言われると水着美女な気がしてきた……
※:奇遇だな、俺もそんな気が
※:わがままボディ(意味深
『お前らワイらの副長に欲情するんか!? ど変態やんけ!』
『うぬら、誰がわがままボディだ!』
ワイプに入ってきたヒゲもじゃのバルバリッチャ。
743の攻略動画では、その蛮族副長が、兄貴へ『ふんっ!』と突進していた。
兄貴は真正面から激突するも、体格差が厳しいのか大きく後退する。
『おおっ!』
『さすがやな、副長!』
続けて、重そうな拳を繰り出すバルバリッチャだが、兄貴は【力場】で全て受け止めた。
その横から、千桜さんの炎が走る。
シュボボボボーッ!!
『ぬぅ〜!?』
バルバリッチャが横薙ぎに食らった直後、「連鎖でハジけとぶぜー!」と、【鳳仙花】の《自爆》が炸裂。ドッパーンと消滅した。
『はい終了ー! お疲れ様でしたー!』
『待て、お前たち! 敵は2対1だぞ!?』
『は〜あ、副長? 戦争に卑怯もクソもあるかいな!』
『スカル! お前、どっちの味方だ!』
『笑いの神の味方や!』
『悪魔が信じるな、馬鹿者!』
※:今の間は良かったで副長b
※:パーフェクトだ、わがままボディ
『では副長も、こちらへどうぞー!』
『ぬぁにぃ!? 待、待て!』
カチッ。
『ぬおおおおおお!?』
バルバリッチャの顔が、ワイプの下へ消えていく。
※:またかよw
※:もう見なくても分かる
※:伝統芸能
※:今は悪魔が微笑む時代なんだ!!
『はい! 副長もコールタールへ落としましたー!』
『天丼も何杯出す気や!』
そして、映像が再開する。
桐山さんが、兄貴と一緒に画面から消えた。
『はい、ここや』
それまで笑っていたスカルミリオーネの声が、少しだけ低くなる。
『この青い兄ちゃん、地味やけど嫌やな』
『逃げてるだけじゃないんです?』
『アホやな、アリキーノ。こいつが本気やってみい。不意打ち、撹乱、何でもござれやで』
『あー』
『しかも魔力SSやろ? 陣形わやくちゃにされるわ』
『ですねえ。真っ先に倒さないと』
※:不憫さん高評価
※:敵から見ると怖いのか
※:なお本人
※:不憫「ええ〜っ!?」(ガチ涙目
――そのとき。
画面の端が、一瞬だけ黄色く光った。
「ん?」
「どうした、薫?」
「今、なんか光らなかった?」
「どこだ?」
「ちょっと待って」
僕は配信実況を少し巻き戻した。
画面の大半は、兄貴たちの743攻略映像。その隅に、アリキーノとスカルミリオーネの小窓が並んでいる。
さらに、副長が落とされたあとの小窓。こちらは758からの生中継だ。
「これ、かな?」
黒い沼のそばに、黄色い看板が映り込んでいた。
ピカッ。
「これだ」
「看板か?」
「うん」
コメント欄は、まだ桐山さんの話で盛り上がっている。
「Q次郎。758の看板って、前から光ってた?」
「いや、分かんねえな。調べるか」
Q次郎が手早く検索を始めると、「お、あったぜ」と、少し前に投稿された検証動画を見せてくれた。
「もう、調べてる人がいたんだ」
「そりゃ、あんだけアチコチ出まくってる悪魔どもの部屋だからな」
再生すると、一年前の758では黄色い看板が光っていなかったらしい。
半年前も、やっぱり光っていない。
三か月前は……、光った。
「一か月前は?」
映像を進めると、ピカッと光る。
しばらくして、もう一度、ピカッ。
「間隔が……」
「短くなってんな」
動画の投稿者も、同じことに気づいていたらしい。
「ん、概要欄に書いてあるね。『758の発光周期が短縮している可能性あり。原因不明』って」
「ほほーぉ」
配信をリアルタイムと同期させると、アリキーノとスカルミリオーネは相変わらずふざけていた。
『いやー、それにしても15kgはズルいですねえ!』
『SSSが軽量化してどないすんねん!』
3番目のワイプの奥が、また光る。
悪魔2人は気づいていない。
『まあ、来るんやったら来いや!』
『返り討ちですよ、返り討ちー!』
『――おい』
低い声がした。
画面の外らしく、アリキーノが振り返る。
『マラコーダ様?』
『遊びはそこまでにしろ』
『えー。今、むっちゃええトコなのに』
『スカルミリオーネ。切れ』
『へーいへい』
『では皆様、本日はこのへんでー』
配信が終了し、ぐっと部屋が静かになる。
「――Q次郎」
「ああ」
真っ黒になった画面を見る。
「マラコーダ、気づいたのかな」
「さてな。だが、偶然にしちゃ出来過ぎだ」
そう。
一年前には光っていなかった。
三か月前から光り始めて、最近はその間隔まで短くなっている。
何をしているのかは分からない。
でも、確実に何かが進んでいる。
「Q次郎。慎二くんにも聞いてみるよ」
「元カレか……。確かに、こういうの何か知ってそうだよな」
マナイーターを使えば、僕らは今までより早く強くなれる。
――だからといって、敵が待ってくれるわけじゃない。
「兄貴にも連絡するね」
僕はスマホを握り直した。
「758への準備、急いだ方が良さそうだって」




