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幼女兄貴(SSSランク)と僕とダンジョン ~思いついても真似できない、十年磨いた水魔法の攻略配信~  作者: 葦原エイ
第二章 両親捜索編

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25部屋目 思い出の小道

「薫ー。朝ごはん冷めるぞー」

「今行くー!」


 二階から駆け下りると、味噌汁の匂いがした。


 木目調の広いテーブルで、お父さんは配膳をしていて、お母さんは台所にいる。兄貴はもう座っていて、焼き魚から小骨を取っていた。


「ほら、座れ」

「うん、お父さん」


 いつもの席に腰を下ろす。

 お母さんが、僕の前へご飯を置いてくれた。


「いただきます」

「はい、どうぞ。薫ちゃんは今日、丈一ちゃんとマンション?」

「うん」

「なら、帰りに牛乳お願いしていい?」

「いいよ」

「む? お袋、俺も行くのだが」


 兄貴が、箸を持ったまま言った。


「牛乳ひとつなら、俺が」

「あら、丈一ちゃんは他の日用品を買えないでしょ?」

「む? いやーハッハッハ、たしかに。なら俺は荷物持ちで行こう」

「おー、そういえば、薫」


 お父さんが、四つ折りにした新聞から顔を上げた。


「魔力がCになったんだってな」

「うん。昨日、測ってみたらね」

「よかったな」

「頑張ってたものねえ」


 お母さんも労ってくれる。


 お父さんは黒のSS、お母さんは白のSSだ。茶のSSSランクの兄貴もいるから、青のCなんて、ウチではまだまだだけど。


 それでも、長かったDから一つ上がったのは嬉しい。


「僕ね、ナックラヴィーを倒さずに石板を取れるようにもなったし、これからは魔力を増やしていくんだ」

「ふうむ」


 兄貴は味噌汁を飲んでから、首を傾げた。


「しかし薫、なんで今まで魔力を鍛えなかったんだ?」

「えー? それは兄貴が言ったんじゃん。少ない方が精度を鍛えやすいって」

「むぅ……。そんなこと言ったかー?」

「うわー、都合のいい」

「まあまあ、お前たち。ちゃんと上手くなったんだろう? なら、いいじゃないか」

「あら、でも教えた本人が忘れちゃ駄目でしょ?」


 お母さんがクスクスと笑った。


「丈一ちゃんは、いろんなこと言うものねえ」

「お袋まで。ま、今日見せてもらえば分かるな」


 兄貴は焼き魚をひと口食べ、ご飯と一緒に飲み込んだ。


「さて、誰をパーティーに呼ぼうか。桐山は呼ぶとして、薫も誰か呼ぶといい」

「うん。じゃあ慎二くんを……あれ?」


 箸が止まった。


「どうした、薫?」

「――4人だ」

「なんだ。定員は5人だが、男だと4人だろ。当たり前じゃないか」

「ううん」


 兄貴は85kg。

 僕と慎二くんが、それぞれ55kg。

 桐山さんが58kg。


 合計、253kg。


 エレベーターの積載量は、250kgだ。


 ――乗れない。


「兄貴、その4人じゃ乗れないよ」

「む?」

「250kgを超えてる」


 お父さんが、新聞を置いた。


「んー? まあ、成長期だからなあ。重くなっててもおかしくないだろう」

「そうねえ。背も伸びてるものね」


 お母さんが、僕の頭のあたりへ手をかざした。


 そうかもしれない。

 体重が増えれば、乗れる組み合わせだって変わる。


 でも……、何かが違う。


 これを聞いたら終わりな気がする。なのに、スグ思いついてしまった。


「ねえ兄貴……。今日はどこへ行く? 711?」

「うむ、そうだな。しかし、軽いメンバーに変えても、4人だと厳しいか……」



「――5人、だよ」



 口にした途端、鼻の奥がツンとした。


 映像で見た711では、兵藤くんと慎二くん、ミツオさんと桐山さんが、一つずつ箱を運んでいた。

 途中で置けば最初からやり直しだから、4人とも箱を手放せない。


 その間を、一人だけ手ぶらの兄貴が駆け回っていた。


 15kgの、小さな体で。


「薫?」


 兄貴が、箸を置いた。


 僕よりずっと大きな兄貴。

 広い肩に、太い腕。食卓を挟んで座る、その姿。


 お父さんがいて、お母さんがいる朝なら、兄貴はこの姿のままだったのかもしれない。


 僕は顔を伏せた。


 ああ……。

 なんで、なんで気付いちゃったんだ……。


 いつものように、人数と体重を確かめただけ。

 ただ、それだけだったのに……。


 ――もう少し、浸っていたかったのに……!


「大丈夫か?」

「うん……。うん」


 手の甲で頬を拭うと、お母さんがティッシュの箱を寄せてくれた。


「ありがとう、お母さん……」


 一枚抜いて、目元に押し当てる。


「薫ちゃん。ご飯、もういい?」

「う……ううん。食べるよ」


 僕は茶碗を持ち直した。

 焼き魚の小骨をよけて、ご飯と一緒に口へ運ぶ。残っていた味噌汁も飲んだ。

 お母さんは僕の空いた器を見て、手を差し出してくる。


「おかわりは?」


 空になった茶碗を見た。


「――少しだけ」

「はい」


 お母さんが、ご飯をよそってくれる。


「これくらい?」

「うん」


 受け取った茶碗は、底の方まで温かかった。


「お袋、俺も頼む」

「丈一ちゃんは大盛りね?」

「うむ!」


 兄貴が、空になった茶碗を差し出した。

 お母さんは、もう一度しゃもじを持ち、その茶碗にもご飯をよそっていく。


 僕は、さっきより小さなひと口で、ご飯を食べた。

 兄貴の箸が皿に当たる音がする。

 お父さんが新聞をめくる。


 やがて、僕の茶碗も空になった。


「ごちそうさま」

「はい」


 お父さんがいて、お母さんがいて、兄貴がいる。

 まだ、見ていたかったけれど、僕は食器を流しへ運び、茶碗に水を張った。


「じゃあ……、先にいってるね」


 玄関で靴を履く。

 かかとを入れるのに少し手間取って、いつもより長くしゃがんでいた。


 立ち上がり、扉に手をかけたところで。


「いってらっしゃい」

「気をつけろよー」


 お母さんとお父さんの声がした。


 喉の奥を一度、飲み込む。


「――ん。いってくるよ」


 僕は扉を開けた。



 ◆  ◆  ◆



 小道を戻った先に、看板があった。



――――――――――――――――――――


 797 思い出の小道


・行って、戻る。


――――――――――――――――――――



 そのそばで、幼女兄貴が優しく笑っていた。


「ワシの方は、薫が女装してなかったぞ」


 言われて思い出したけど、今日はミニスカートにハイソックスだった。


「薫に聞いたら、『絶対しない』と言っていたから、こりゃ違うなと分かった」

「ひどい。何その判別方法」

「じゃあ薫は、どう判別した?」

「――兄貴が幼女じゃなかった」

「ハッハッハ」


 幼女兄貴は、小さな手で僕の背中を叩いた。


「行こう。本物に会うためにな」

「――うん」

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