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幼女兄貴(SSSランク)と僕とダンジョン ~十年磨いた水魔法で、誰も思いつかなかった勝ち方をします~  作者: 葦原エイ
第二章 両親捜索編

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20部屋目 元カレはギャンブラー

 翌日の昼休み。


「薫くん。これが昨日のボクらだよ」

「う、うん」


 僕は、なぜか伊藤慎二《いとうしんじ》くんと並んで、スマホの配信画面を視聴していた。

 制服の胸ポケットからは、ナックラヴィーも青い顔だけ出して画面を覗いている。


「薫くん、その子ずっと出してるんだ?」

「ん。召喚を維持してるだけでも魔力を使うからね。少しでも鍛えておこうと思って」

「わっははー! わがはい、しゅぎょうちゅうだぞー!」

「胸ポケットに入ってるダケだけどね」

「しゅぎょうだぞー!」

「あはは……、普段は静かにね」

「りょ、りょーかいだぞぉ」


 映っているのは“711:4つの箱”の攻略風景だった。

 サファリルックの幼女兄貴だけ手ぶらで、兵藤くんと慎二くん、そしてミツオさんと桐山さんが、それぞれ1個ずつ大きな箱を運んでいる。途中で箱を置いてしまうと始めからのようで、他のパーティーは悪魔の妨害に手こずっていた。


 ――と、兵藤くんの【シャドウ】が倒される。


『ジョニーさん! 右から来ます!』

『うむ、ワシの出番だな』


 虚空から現れた犬顔の悪魔――カニャッツォが襲い掛かってきた瞬間、幼女兄貴は巧みに懐をかいくぐり、両手で犬耳を掴む。


『大地球・頭突きィ!』


 ズガアアァァン!


 体重を乗せ、カニャッツォに脳天逆落としを決める。犬悪魔は舌を出して消滅していくが、兄貴は首をコキコキさせていた。


『ふぅむ。今のワシの姿だと、接近戦が弱いな』


 ――うわぁ。


「薫くんのお兄さん、これで弱いの? 幼女でも強すぎるんだけど」

「中身はSSSだからねえ」


 僕は苦笑した。


「7階の悪魔も、地獄部屋の外ならフツーに倒せるみたい」

「マレブランケか。758が本拠地の連中だねえ」

「うん」

「まあ、ジョニーさん相手じゃ、こうもなるか」


 画面では、長い牙を持つ猪顔の悪魔――チリアットが兵藤くんへと襲い掛かる。


『フゴッフゴッ! 死ねぇい!』


 すかさず、横から銀の球体がカットインしてきた。


 ガツッ!


『フゴォッ!?』


 チリアットの頭へ直撃させ、地面に手をつかせる。

 さらに、跳ね返った球が近くに現れた真っ赤な悪魔――ルビカンテの足元をさらった。


『う、うおっ?』


 赤悪魔も転倒する。


 ミツオさんは、その横を通り過ぎざま、二体を軽く蹴った。


『【磁石《マグネット》】』


 ガキイイィンッ!


『フ、フゴォ……!』

『うお、おっ』


 チリアットとルビカンテの体が、勢いよく引っ付く。

 接触が必要とはいえ、【磁石《マグネット》】は強力だ。


『今だよ』

『ありがとうございます!』


 兵藤くんは再び【シャドウ】を出すや、攻撃力を高めたのち、悪魔2体を瞬く間に倒していた。


「ふうん……。やっぱり上手いね、ミツオさん」

「うん」

「薫くんは、前衛のミッチーを見たがってたけどさ。後衛と比べて、どっちが強いの?」

「イヤなこと聞くなあ」

「どっち?」

「――後衛」

「だよねえ。前衛の動きなら、ボクも似たようなことはできるもの。まあ、流石にあの【リターンウェポン】の精度は無理だけど」

「銀でSSだもんね」

「……」


 慎二くんは画面を見たまま黙った。


「慎二くん?」

「ああ……、今日のジョニーさんは?」

「743。次々湧いてくるマレブランケと、陣地を取り合う部屋」

「ふうん」

「千桜さんと猪尾さんも行ったし、ジニーも事故防止でついてるよ」

「そっか」


 また動画を見る。

 無事に運び終えて、“次の部屋は713”というクリア時の案内に、5人が喜んでいた頃。


「薫くん」

「ん?」

「最近さあ……。なんでボクと、一緒に昇ってくれなくなったのかなあって」

「あはは……」


 来た。

 めちゃくちゃ来そうな気はしていた。


「ええっと、別に慎二くんを避けてるわけじゃないよ?」

「ふーん……。親友のボクを捨てて、ミツオさんを取るんだねえ」

「人聞き悪いなあ」

「いいよ。ボクはキミ以外の人と昇るから」

「それは普通に昇ってよ」

「銀SSの人と、仲良くすればいいんじゃない?」

「やっぱミツオさんを意識してるじゃん」

「誰が?」

「慎二くんが」


 ようやく彼はこっちを見た。


「薫くんはさぁ、だって仕方ないよ。ボクは銀Aだもの。同じ銀なら、SSを選ぶでしょ」

「いや、状況によるって」

「そうかなあ。ボクに用事がある人って、みんなカジノのことばっかり。なら、それ以外でお呼ばれしたら、ボクも認められたって思えるかもしれない」


 うぐっ……。

 絶対分かってるよね、僕がここへ来た理由。


「それで」


 慎二くんは、わざとらしく小首を傾げた。


「今日は何の用かな? 薫くん」


 僕は観念した。


「カジノへの案内を頼みに」

「ほーらね」

「ごめんって」

「親友を都合のいい男として使うんだ」

「言い方」

「昨日は柳先輩。最近はミツオさん。そして今日はボク」

「人聞きがどんどん悪くなってる!」

「あぁ、天然の人誑し……。薫くんは、魔性の男の娘だねえ」

「やめてよ!」


 クスクス笑った慎二くんは、僕の肩をぽんぽんと叩いた。


「――それで」

「ん?」

「行きたいんでしょ、カジノ」

「あ……うん」

「目的は?」

「マナイーターのオーブが欲しい」

「なるほどね」


 慎二くんは顎へ手を当てた。

 その顔から、さっきまでの拗ねた雰囲気が消える。


「種銭は考えてる?」

「百々目鬼(どどめき)のオーブが、813だけあの強さって解析されたから、それを換金しようと思う。でも、カジノの仕組みには詳しくなくて」

「だからボクか」


 慎二くんは、わざと大きくため息をついた。


「しょうがないなあ…….。行くよ」

「ありがとう」

「いえいえ」


 部屋を出ると、Qが壁にもたれて待っていた。


「へっ、話し合いは終わったか、元カレさんよ?」

「そうだね、快く引き受けることにしたよ。今カレさん」


 え、待って待って。


「あのさあ。なんでその呼び方? 妙にケンがあるし」

「へっへへ……。さあ、なんでだろうなあ?」

「そうだねえ。ま、別に間違ってないんじゃない?」

「慎二くんまで!」


 この二人ってば、なんで相性が悪いんだ。


「おう、そうだ薫。あとでヒョードルも合流するぜ」

「兵藤くんも?」

「うん、そうだよ薫くん」


 慎二くんもうなずいた。


「人数のいた方が都合もいいからね。――それより、薫くんさあ」

「なに?」

「カジノに、その格好で行くの?」


 制服姿の僕を上から下まで見る。


「え、ダメ?」

「ダメじゃあないけど……、折角だしねえ」

「へっ。正装ってやつか?」

「そうそう。燕尾服なんかいいんじゃない?」

「ほーお、いいじゃねえか。俺もそれでいくぜ」

「ヒョードルくんにも着てもらおうか」


 え、え?


「ちょっと待って。今度はなんで、仲良くなってるの?」


 2人は顔を見合わせたのち、僕を見て悪い顔で笑った。


「薫くん」

「なに?」


 慎二くんは、僕にスマホの裏面を見せたまま振ってみせる。


「君には、こんな格好がいいかなあって」

「だな。薫に似合いそうだぜ」

「――いま、何を見せたの?」

「ふふっ……。着るまでのお楽しみ」


 絶対イヤなやつだよね、それ。



 ◆  ◆  ◆



 そして、放課後。

 僕は配信画面に映った姿を見て、言葉を失っていた。

 青いロングヘアに黒いバニー耳。

 蝶ネクタイのある胸元は、ご丁寧に詰め物までされている。


「あのさあ……なんで僕だけバニースーツなの?」

「へっ、似合ってるぜ、薫子様」

「うんうん。――あ、薫くん? ボクはバニーコートって呼び方が好きだから」

「知らないよ!?」



※:薫子様ァ!!

※:オレたちの男の娘が帰ってきたwww

※:元カレと今カレ、ろくなことしねえで草(だがアリガトウ



 そのとき。


「フン。俺にもドレスコードを要求するとはな」


 燕尾服姿の兵藤くんがやってきた。


「おい、伊藤。711のクリアは良かったが、また手配で大忙しなんだぞ? お前も手伝えよ」

「いえいえ、リーダー。ボクは伊藤慎二。リーダーを差し置いて出しゃばりません。慎み深い二番手と書いて慎二ですから」

「二番手なら補佐しろよ」


 苛立たしげにオールバックの頭をかいた兵藤くんは、辺りを見回した。


「おい、ナメクジ。弟はどこだ」

「はあ? 俺に弟はいねえな」

「ジョニーさんの弟だよ! 分かれよ!」

「あの……兵藤くん」

「ハァ?」


 振り返った兵藤くんが、僕を見る。

 ウサギ耳と、そして詰め込まれた胸元を。


「お、お……」


 みるみるうちに顔が真っ赤になった。


「お前、なんだそのハレンチな格好は!?」

「僕も好きで着たわけじゃないよ」


 けれども、激しく狼狽《うろた》える兵藤くんを見ていると、ちょっとだけ面白くなってきた。


「兵藤くん」

「な、なんだ!」


 少し首を傾げる。


「似合う?」

「――っ!?」



※:やめたれ薫子様w

※:せんせー、ピュアなヒヨドリちゃんが茹で上がってまーす!

※:敵を56すのは得意なデコペチも、感情を56すのは苦手やから……(震え声



「クスッ……。兵藤くん、かわいい」

「はあっ!? だ、誰がだ!」


 思わず笑ってしまった。

 横では、慎二くんとQ次郎がヒソヒソ話をしている。


「薫くんってば、あれで結構ノリノリなんだよねえ」

「ああ。覚悟を決めると強ぇんだ」

「聞こえてるよ、2人ともー」


 元カレと今カレ。

 この2人、絶対に組ませちゃダメなやつだ。

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