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幼女兄貴(SSSランク)と僕とダンジョン ~十年磨いた水魔法で、誰も思いつかなかった勝ち方をします~  作者: 葦原エイ
第二章 両親捜索編

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19部屋目 魔力を食らうもの

 昼過ぎ。


「柳先輩、先日はどうも」

「やあ、薫くん。世界最高ルームを開けた英雄様から、直々のご指名とは嬉しいね」

「いやあ……あれは、僕よりも兄貴が」

「ふふふ。その謙遜も、動画を見たあとでは通じないよ」

「あはは……」


 アンダーリムのメガネを押し上げる柳先輩に、照れ笑いで返した。


 僕らがエレベーターに乗ってやってきたのは、猛毒の沼地を擁する部屋である。



――――――――――――――――――――


 651 魔力を食らうもの


・マナイーター30体をアストラルに送る


――――――――――――――――――――



「うへぇ〜……ヤバそうな沼ね~」


 千桜さんが顔をしかめた。

 エレベーターの外に広がっているのは、紫色に濁った沼地である。


「ん〜む、ゴポゴポ言うとるのお」


 今日はジニーがスマホ係だ。映し出された水面からは、いかにも体に悪そうな煙が漂っている。



※:おお、むごいむごい

※:パープルなヘイズやでー(対策ナシやと4ぬ



 柳先輩が、葉っぱをまとった妖精型の精霊をなでた。


「薫くん。ここを最初に訪れたパーティーは、【蕺《どくだみ》】がいなかったんだ」

「危うく、毒で全滅の危機だったんでしたよね」

「うん。ただの毒沼ならセーフと侮っていたら、猛毒でね。1人以外はみな霊界へ行ったのさ」


 基本チェックの大事さを教えてくれた事故だった。


「今日は、【蕺《どくだみ》】が2体で万全だ。――聖女さん、お願いするよ」

「わかりました。【蕺】ちゃん、出てきて」


 指揮棒の先に白い光を集めた猪尾さんも、同種の精霊を喚び出す。


「んーむ、同じ精霊が2人か」

「ええ、ジニーちゃん。色は違っても、やることは同じね。2体がかりで毒を抑えるわ」

「くふ。頼もしいの」



※:《毒軽減》、さらに倍!

※:これで毒はバイバイやなって

※:↑言いたいことは言えたか? じゃあのノシ



 僕は、大きく息を吸った。


「猪尾さんと柳先輩のおかげで、大丈夫そうですね」

「ああ。ただし、毒を完全に消したわけじゃない。長居は禁物だよ」

「了解です」


 僕らは沼地へと踏み出した。しばらく行った先の沼から、薄紫の人影がゆらりと立ち上がる。


「オホホ、出たわね~?」


 人間に似ているけど、顔には目も鼻もない。

 そんな女性型マネキンのようなマナイーターが、1体、また1体。


「えぇっと、10体以上いるね」

「オーホホホ! ならば、大チャンス! 一気に吹き飛ばすわよ~!」

「千桜さん、待っ……」

「【火球《ファイアボール》】!」


 ドウンッ!


 巨大な炎が直撃し、群れていたマナイーターが次々と光の粒子に変わった。


「オーッホッホッホ! まずは団体さんを撃破よ〜!」


 ――ざばぁっ!


「ふぇっ?」



※:おいおいおい

※:4んだわ悪役令嬢



 ざばっ、ざばぁっ!

 ざばざばざばざばっ!


「――あ、あら?」


 沼のあちこちから、一斉にマナイーターが顔を出す。

 その全員が、ぐるんと千桜さんを向いた。


「ヒェッ……。ちょ、ちょっとー!?」


 千桜さんは、あてどもなく走り始めた。

 マナイーターも追い縋る。


 ずざざざざざっ!!


「ぎゃー、速い!? やめてやめてやめて!」



※:飛んで火に入るヘッポコ令嬢

※:マナイーター「エサやー」

※:どうして悪役令嬢はポンコツになってしまうのか、コレガワカラナイ



「シィポン、あなたねぇ……」


 マナイーターに捕まった千桜さんに、猪尾さんが冷めた視線を向けた。


「大きな魔力を使ったら、襲われるに決まってるじゃない」

「反省するからー! たす、助け、助けて……ふにゃぁぁぁぁ……」


 みるみる千桜さんの顔から生気が消えていった。


 マナイーターに魔力を吸われるだけなら、しんどいだけで済む。

 怖いのは、動けなくなったまま毒に削られることだ。



※:マナイタの下の汐音で草

※:これは魔力欠乏キマってますわ

※:しおしお〜ん



「はぁ……シィポンったら。ほれぼれするほどのハマりっぷりね」

「んーむ、見事に吸われとるのお」

「感心してる場合じゃないよ、2人とも」


 なんとか助けないと。だけど、その助け方が難しい。


「ええ、そうね……。私が【天罰】を使えば、シィポンの周りは蹴散らせるけど」


 猪尾さんが指揮棒を構えたまま止まる。


「今度は、私に全部集まるのよね。――正直、イヤ」

「あはは……」



※:クーニャン、カメラ回ってるでw

※:今日は聖女モードじゃないからセーフ



 強い魔力に惹かれるのがマナイーターだ。

 倒すために大技を使えば、当然、その大技を使った本人へと集まってしまう。


「ふふふ。では、私に任せてもらおうか」


 柳先輩が指先を緑に光らせるや、全身に深緑のツタをまとった女性型の精霊が現れた。


「頼んだよ、【蔦《アイビー》】」


 一礼したアイビーは、しずしずとマナイーターの群れに近付いていった。



※:パイセンの、ちょっといいトコ見てみたい!

※:搦め手の緑キタ!

※:やっぱツタ伸ばしてるんやなって



 見ると、元いた場所には、アイビーの体から伸びたツタがあった。柳先輩がそのツタをそっと握ると、緩やかに膨れ上がる。


「踊ってみせてくれ、アイビー」


 すると、千桜さんに群がっていたマナイーターの一体に向かって、アイビーが腕を一振り。


 バシーン!


 軽やかにマナイーターが吹っ飛んだ。



※:葬らん!

※:おーっ、次々ぶっ飛ばしてる

※:令嬢まで飛ばさんようにねw



 千桜さんは、地面を這いながらよろよろと手を振り、親指を立ててみせた。あの分なら、少し休めば回復するだろう。


「でも、柳先輩。失礼ですけど、アイビーってあんなに強くなかったハズじゃ……」

「ふふふ。今も、少しずつ魔力を供給しているからね」


 柳先輩が、握っているツタを僕らに見せた。


「魔力譲渡は接触が条件だ。すなわち、私の精霊がツタを伸ばせばいいのさ」


 柳先輩は、一気に魔力を流さない。

 ゆっくりとツタは収縮している。


「――あれ?」


 柳先輩が流している魔力は、ずっと同じ量じゃない。

 マナイーターが反応しかければ落とし、落ち着けば少し増やしている。


「柳先輩。もしかして……魔力を絞ってます?」

「さすが薫くん、よく分かったね。もっとも、君ほど上手くはいかないけれど」

「いえ、そんな……。それに、ランクを上げてから制御するのって、めちゃくちゃ大変って聞きましたよ」

「ふふっ、いいところを見せたかったのさ、後輩くんの前で」


 柳先輩は、静かにツタを離した。


「さ、これで完成。あとは、マナイーターと彼女の舞踏会だね」


 アイビーが魔力によってツタを広げると、人型の怪物たちが一斉に殺到した。

 するとアイビーは、その場でクルリと回転。


 ぶおんっ!


 全身から伸びた何本ものツタが、鞭のようにしなる。


 バシバシバシバシィッ!


 円周上にいたマナイーターが、次々となぎ倒された。


「一ヶ所に集まってくれれば、まとめて叩ける」



※:パイセン、それ舞踏会ちゃう。武道会やw

※:仕上がった緑やっぱツエー

※:これは厄満メガネですわ



 ――すごい。敵の習性を、そのまま利用してる。


「菊知くん!」


 猪尾さんの声に振り向く。

 群れから外れた一体が、沼をかき分けて僕らへ迫っていた。


「マナイーターが!」

「ん、大丈夫。【アイシクルアロー】」


 鋭い氷の矢が、狙い過たずマナイーターの核を撃ち抜いた。



※:当然のようにクリティカルw

※:こないだ真似したら、核に当たらんで4んだわ

※:↑成仏して、どうぞ



「やっぱり後輩くんの精度は違うね」

「魔力は少ないですから。無駄撃ちできないんですよ」

「ふふふ、流石」


 その間にも、アイビーのツタが次々とマナイーターを薙ぎ倒していく。


 そして30体目が粒子になって消失すると、空から眩しい光が降り注いだ。



※:クリアおめ!

※:次の部屋は652か

※:88888888



「アイビー、ありがとう」


 蔦の精霊は、柳先輩へスカートの裾を摘まむような仕草で一礼すると、そのまま緑の光になってアストラルへと還っていった。



 ◆  ◆  ◆



 無事に現実へと戻り、柳先輩にお礼を言って別れたのち。


「ねえ、菊知くん」


 猪尾さんが少し真面目な顔になった。


「まさかとは思うけど。651で魔力欠乏を繰り返して、魔力を伸ばすつもり? それは反対するわ」

「クーニャンの言うとおりよ~!」


 千桜さんがお手上げのポーズを取った。


「身をもって体験したから! あれメチャクチャきついわよ!?」

「うん。流石にマナイーター部屋で修行は厳しいと思うよ」


 僕は手で否定した。


「狙いは別にあるんだ」

「ほえ。別?」

「ん。この部屋をクリアしたから、マナイーターのオーブがカジノの景品に並ぶんだよ」


 猪尾さんが目を瞬いた。


「あ。もしかして……」

「そう」


 僕は微笑んだ。


「カジノに行くつもり」

「じゃあ、元カレにでも頼むの?」

「ぶっ!?」


 思いきりむせた。


「な、なんで元カレ!?」

「慎二くん。昔は一緒に潜ってたんでしょう?」

「親友だよ! 昔からの!」

「ふうん……。元親友ね」

「なんで関係まで終わらせるかなあ!?」

「くふっ。なるほどのお」

「ジニーまで納得しないで!」


 もう、好き勝手言って……。

 ――まあ、カジノのことなら慎二くんが一番詳しいけどさ。


 僕は小さく息を吐いた。


「連絡してみるよ、慎二くんに」

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