18部屋目 十年探した両親の行き先が分かった
僕らは、兄貴のサルベージ祝いを兼ねて、感謝の動画を撮ることにした。
「皆様、こんにちはー。〈薫子〉こと、弟の薫でーす!」
「やあハロー。ワシは〈幼女兄貴〉こと、菊知丈一だ」
メイド服を着た僕と、同じく小さなメイド服を着た4歳児ほどの幼女兄貴が、両手をふりふり振った。
「はっはっは。さて本日だが、ワシの使役精霊を発表するぞ」
「イエ~イ!」
パチパチパチ、と小刻みに拍手する。
「でも、本人不在なんだよね」
「うぅむ、あいつはなあ。『ずっと妾を喚んどくのじゃ!』と頼みつつ、ふらりと消える奴だ」
「うわあ……。流石は風」
「一応、どんな姿かは813のクリア動画で分かるぞ」
「あっ、僕が撮った動画だね」
サッと挙手する。
「で、兄貴のメイン精霊は【牡丹一華】だったと」
「ああ、西風の精霊と称していたな。名前はジェニファーで、愛称のジニーはワシが名付けたぞ」
「ん? じゃあ、小さい兄貴がジニーって名乗ってたのは……」
「精霊の名を借りた。ついでに口調もな」
「やけにトートツなキャラ付けだと思ったよ」
「ふふふ、やりたいシチュにはワシ貪欲」
アゴに手を当てる幼女兄貴。
「だがまあ、革命だろうな、体重15kgのワシは。【外形変化】様々だ」
「その魔法、使用上の注意点とかある?」
「うむ、この姿をイメージして【外形変化】を使ったのはジニーだからな。精霊がアストラルに還ると、維持が途切れる」
「あぁー。つまり、ずっと召喚できるほどの魔力がいるんだね」
「【外形変化】の維持も合わせると、SSSランクは欲しいな。頑張ってくれ」
「そこが相当ネックだと思う」
幼女兄貴の肩を、ツッコミ気味にポンと叩く。
「で、ジニーと出会った場所は?」
「“101:出会いをもとめて”」
「思いっきりウソついてるー」
「ははは。本当は“536:終末世界”だったが、ジニーに聞くと部屋の移動ができたそうでな。出会うときは向こうがフラッと現れるから、ワシの話は再現性がないようだ」
「――あっ。5階の廊下に敵が出ないのって、そういうこと?」
「なー、絶対アイツら持ち場離れてるよなあ」
幼女兄貴は楽しそうに笑った。
「よし。というわけで、本日はワシの精霊と、ワシの姿に関する話をお送りしたぞ」
「【外形変化】を使える精霊は少ないと思いますが、もし短時間でも維持できるなら、体重を減らせるのはかなり大きいです」
「証拠は、ワシだ! では、またな」
手を振って収録を終えた僕たちは、ネットにアップしたあとで、今後に関する重要な話をした。
「あのさ、兄貴」
「どうした薫」
「実は、お母さんとお父さんの向かった部屋が分かったんだ」
「おおっ!」
玄武戦のあと、【強大防御】をゲットして配信を終わらせた僕は、その足で“490:オシリスの謎”へと向かっていた。
『フッフッフッフ。今日は1人か、薫よ? 予の部屋を単独で訪れるとは……』
『あっ、用事があるのはトート様でして』
『――お前なあ。ここ、“オシリスの謎”だぞ?』
『え? そちらではトート様がスタンバってますけど』
『私は構いませんよ』
『予が構うんだよ!』
『えぇっと、[神に認められし者]を返上します。それによって得られる、加護の効果を使います』
『はい、分かりました』
『構えよ、予に!!』
一悶着あったのち、トート様に『マンション内で両親を見なかったか』と尋ねたのだ。
「そしたら、759へ向かう、お母さんとお父さんらしき魔力を感じた精霊がいるってさ」
「おお~、やったな薫!」
「うん」
兄貴が差し出した小さな手を、僕も強く握った。
「ようやく手掛かりが見つかったよ」
「というか、トート神が認めてくれるとは、ワシも初耳だったぞ!」
「ねえ」
兄貴はペンを握り、紙にキュッキュッと“759←758”と書いた。
「ならば、次のクリア目標は758だな」
「ん。地獄巡りだね」
7階の50番台は、758まで開いている。
ただし、その758だけはまだ未クリア。その先の759は、未踏の地だった。
「ねえ、兄貴。758はその姿を使って、5人体制ならいける?」
「――いや、それでもキツいな。ワシが以前に手合わせしたときは、悪魔どもの1体1体が非常に手強かった」
「あー。大ボスが倒せるまでは、3倍の強さだっけ」
「うむ、そんな奴らが12体もいるぞ」
「大ボスさえ倒せば楽なんだろうけど、当然他の悪魔は守るよね」
「そして、残りも中ボス扱いで、【絶滅】も無効ときている。――そこでだ」
幼女兄貴は、758の下に711と書いた。
「薫の別解のおかげで、711から未踏破のルートを伸ばせるからな。まずはそっちを進めるぞ」
「そっか。7階のクリア数を増やして、廊下を開けるんだね」
「ああ。廊下側から入れるようになれば、凄腕を4人追加できる。つまり……」
幼女兄貴は不敵に笑った。
「9人だ。これなら戦える」
◆ ◆ ◆
方針が決まれば、あとはそれへの最適化だ。兄貴は部屋のクリア数を伸ばし、僕は魔力を伸ばす。
「よお、相棒」
玄関を開けると、Q次郎が待っていた。
「しばらくは俺が護衛だ」
「何から守る気?」
「薫へのまとわりつきさ」
今日から春休み明けというのもあって、代々木公園にも生徒の姿が目立つ。
「公園内に学校を建てちゃうって、僕には今でも信じられないよ」
「へっへへ。常識ってのは容易く変わるもんだぜ、相棒?」
ほれ、とQが指差した先には、ノッポとチビッコの中学生男子が。
「菊知さん、すごかったッス!」
「今日は薫子様の衣装じゃないんですね!」
「あ……うん。学校だからね」
握手してくださいというのを受けたら、大喜びしてくれた。サインも頼まれたが、そこはQが「はいはい、そこまでな」とカットしてくれ、彼らは「応援してます!」と言って走り去っていった。
「へへっ、俺がいてもああいう手合いは来るもんな。お前、思ってる以上に影響力スゴイぞ?」
「全然思わなかった……」
だって、最後も兄貴が倒してたじゃん。――え、余波でこんなに来るの?
◆ ◆ ◆
「疲れた……」
あれからも祝福の声とともに、パーティー参加を呼び掛けられた。
「僕をパーティーに加えたいとか、配信に来てくれとか……」
「オホホ。お疲れ様よ~、薫子ちゃ~ん」
「んー。兄貴への呼び掛けは、もっと大人しかった気がするんだけどなあ」
「はぁ……自分のことには気付かないものね、菊知くん」
ぐったりする僕に、猪尾さんが呆れたような視線を向けた。
「丈一さんはね、早くからランクを駆け上がってたことで、誘う側にも格が必要だったのよ」
「あー……。僕はDランクか」
「そっ。もちろん、シャットアウトするって表明すればいいんでしょうけど」
「ん、しない。今後お世話になるかもしれないから」
始業式後、パーティーメンバーの4人で集まった。千桜さんは赤と黒を基調としたミニスカ悪役令嬢の姿で、猪尾さんは白いシスター服だ。
「僕らが挑むマンションダンジョンは、普通の戦いだけじゃない。特殊な技能を求められたとき、少しでも力になってもらえるようにしたいんだよ」
「へっへへ。これが俺の相棒だぜ」
「んむ、妾の薫じゃな」
Q次郎の脇に、しれっとスモック姿の幼稚園児がいた。
「みなで協力して攻略を目指す。それが一番じゃて」
「あれー……僕の見間違いかな?」
軽く目頭を押さえた。
「なんでジニーはここにいるの?」
「学校が面白そうじゃったからのお」
「今、兄貴と711を攻略中でしょ?」
「くふ、過剰な戦力じゃろ」
「――そりゃま、そうだろうけどさ」
711は、4つの箱を所定の位置に置くという部屋だった。箱を動かすと悪魔が出てくるので、それを退治しながら運んでいく。途中で箱を置くと、最初からやり直しだ。
「僕も、聞いただけで思ったよ。兵藤くんのチームに、幼女な兄貴がそのまま入っただけで、多分クリアできるだろうなって」
「妾の主じゃぞ? 当然じゃ」
むふーと両手を腰に当てたジニーは、猪尾さんにナデナデされるがままになっていた。
「して、薫や。魔力を伸ばすアテはあるのかえ?」
「魔力は、体から放出したら上限が伸びるからね。マナイーターの部屋へ行くよ」
「おいおい、待て相棒」
Qがつっこんだ。
「結構な高層階だぞ、651のマナイーターは? 猛毒の沼は入るのも一苦労だったはずだし、パイロットの目星はついてるのか?」
「うん。柳先輩にお願いしてるよ」
「ああー、なら安心だな。――ん? イヤ待て。『してるよ』?」
手で制したQは、そのまま手首を返した。
「定員5名だよな。で、薫は当然行くよな。そんで、柳パイセンがパイロット……」
「オホホ、あたしは当然メイン火力よ~?」
「毒の沼地なら、私の【蕺】も必要ね」
「んむ、妾も行くぞい」
Qは順に指を折っていき、じっと拳を見た。
「なあ、薫。――俺は?」
「あはは……」
「俺は?」
「えぇっと……お留守番」
「やっぱ居残りかーい!」




