11部屋目 自重なんて気にしない
すぐさまオシリスは、冥界の書記に詰め寄った。
「茶番だぞトート! そもそもお前、これが最長じゃなかっただろう!」
「心を折るなと言ったのはオシリスですが」
「最長じゃあ、なかっただろ!?」
「はい」
え? そうなんだ。
「今回ならば、C12H22O11なども候補でしたね」
「あっ……。ショ糖」
「はい、それを含む二糖類です」
あっさりとタイル9個。――うわあ、これが知恵の神か。
「けれども、私は本質に立ち返りました。この部屋は“オシリスの謎”です。審判は番人にあらず。挑戦者が一定の文字数を超えたら認めるべきだと」
「おぉ、おぉ。それで最初、トートは6文字だったのだな」
「はい。今回ですと、ドイツ語で『小さな精霊』を意味する、KOBOLDが思いつきました」
「そこで予を凝視するな」
「何も言ってませんよ? 緑のイタズラ好きな精霊が、ひょんなことから神のオーブを戴いたなどとは」
「否定しながら全部言うんじゃない!」
※:【朗報】このオシリスはエジプト神話とは別物
※:知ってた定期w
※:リドルグリーンモンスターやん
※:同化した緑の神……やっぱ神コロ様?(迷推理
「予は本当に神だぞ!?」
「はい、自称はどなたでも出来ますね」
「そういうこと言うなよお前!」
※:神ともいえるし、神でもないともいえる
※:まーた490で漫才やってて草
※:暇を持て余した神々の遊び
※:↑それ別のモンスターw
「閑話休題。私はその6文字が浮かんだため、まずは織機でLOOM、次いで花でBLOOMと綴ったのち、KOBOLDに訂正しました」
「なぜ7文字に引き上げた?」
「千桜汐音のチョコを聞き、その製造工程から酢酸に結びついたためです。無論、貴重品箱のような単語で答えても、ボーナスは出しました」
解説しつつ、トート神はボーナスのタイル5枚を上皿に追加した。
「ではこれより、番人との戦いに移行しましょう。レベルは15です」
ゴゴゴ……とエレベーター前に巨石がせり上がり、完全に退路は絶たれる。
※:レベル15!
※:ファーストアタックはこっちからオンリーか
※:せふせふ
※:LV14に下がらんのは、水時計の全滅が効いてるせいやな
ふぅ、時間いっぱいでギリギリ上がっちゃったか。
だけど、いいんだ。
15以下なら、僕たちの勝ちだから。
僕は、再び釣り合った天秤を見上げた。
「千桜さん。【鳳仙花】へのパワーは充填できそう?」
「えへへ、もうちょい」
「うん。じゃあ、あとは託すね」
お嬢様とは昨日、念入りに話し合った。
もし天秤に乗ると決めたら、最大火力まで仕上げてほしいと。
「英語タイルに変わって、それでも躊躇なく乗り込んだ千桜さんには本当に感謝してるよ。ありがとう」
――リタイアを恐れない心。見習わないとね。
軽くうなずいた僕は、胸に手を当てた。
「ターゲットは僕自身で、《自爆》」
その瞬間。
ボシューッ。
派手に吹き飛んだ僕は、気付けば“霊界”で半透明になっていた。
※:えっ、《自爆》!?
※:攻撃入れたの?
※:いや、爆破ダメージのターゲットは薫子様自身やで
※:メジェドは依然ノーダメ
よし、作戦通りだ。
猪尾さんも、少しして“霊界”へとやってきた。
(《自爆》で死ぬのは久々ね)
(ごめん、これしか思いつかなくて)
(いえ、火力アップにはいい作戦よ。シィポンの【鳳仙花】も活きるしね)
霊界テレビを見ると、Q次郎が拳を高らかに突き上げていた。
「俺様も〜、《自爆》! フハハハハ、我が生涯に一片の悔」
ボシューッ。
※:ブハッww
※:最後まで言えてねーしw
※:冥界の神「な? ロクな4に方とちゃうやろ?」w
※:汚ぇ花火で草
(ぐあー! タイマー設定ミスったーーー!!)
(Q、ネタに全力すぎ)
(大丈夫よ菊知くん。彼ならいっそオイシイと思ってるから)
(ンなわけあるかっ! うがー、折角の死にザマがー!!)
映像は、ジニーのスマホに切り替わっていた。巨石で遮られて音声だけかと思いきや、ちゃっかり部屋に立て掛けておいたらしい。
※:映像バッチリやで >ジニキ
※:ジニーさん抜け目ねえw
※:知は終わり、こっからは暴のターンよ
※:【鳳仙花】の領域でメンバーが4ぬと、次の攻撃ダメージが2倍だっけか
「オーホホホ! 仲間の熱き思いを胸に、火力が倍増! 3人だから、効果は8倍!! さぁオシリス神、メジェドもろとも火葬してあげるわ~!」
※:まぁデメリットも満載なんだがなw
※:倍を活かすには攻撃呪文を溜めとかなアカンし
※:一歩も動けんくなるしな
※:ヘッポコ領域で草
「お、おいらぁ~……焼くぜぇ~? 【ヘビーボム】で、全部焼くぜぇ~?」
「オホホ、まだよ鳳仙花ちゃん。最大までもうちょいね~」
「うぉっけーい、令嬢~……。焼くぜぇ~?」
「オーホホホ! さあオシリス、いっつも裁いてる天秤の前で、裁かれる立場をとくと味わいなさ~い!」
「――ふむ」
オシリスは小首を傾げた。
「ならば予は、計算でもするかな」
「おや、オシリス。負けた回数をですか?」
「なんでだよトート、予は勝率高いだろ。いや、そうじゃない。【ヘビーボム】は術者の重さがダメージに乗る呪文だが、そこの汐音なるクイーンがチト疑問でな。――現在、何kgなのか」
「ふぇっ!?」
激しく動揺したお嬢様だったが、すぐに扇子を広げた。
「オ、オーホホホ! まな板の上の鯉が、何を仰いますのやら~!?」
「おや、予は真逆に捉えたぞ? メジェドに半端な攻撃はマズイから、赤の女王はマックスまで決して撃てない。仲間はすでに死亡し、妨害もできない。――さて、追加の問題だ。予の知的好奇心を、いったい誰が防げるのだね? なあ、天秤の上の汐音よ」
「オ、オホホ、ホ……」
あっちゃあ……。もうちょっとで勝てるけど、手前に大惨事が挟まりそう。
「そもそも予は、重さを量るのが仕事だぞ? 自ら秤に乗ったのだ、光栄に思うがよい」
※:ものはいいようで草
※:体重をバラしよる明快の神
※:【天罰】(ボソッ
「さて、まずはこの部屋の仕組みをおさらいだな。人が天秤に乗ると、1000kgだったか? いきなり1トンに変化とは、怖い怖い。さらに、問題を出すごとに体重が倍だと? ほっほ~ぉ、4問出したから、16トン! 乗り手の脱出を厳重に阻止するギミックだな。こんな仕様に誰がした?」
※:お前じゃいっ!
※:おまえおまえ
※:あー、セトにバラバラにされたとき大事なピース入れ忘れたから……
「ふむ、知らんな。えーさて、予の部屋で『重くなる』仕組みだが、じつは精霊の領域にも適用されてな。たとえば【鳳仙花】なら、『メンバーが死んだら次の攻撃までは2倍』だったか? ――そう。2倍になるのだよ、体重も」
※:あっ(愕然
※:こいつ……
※:ホントに全部言う気だ!!
「つまり、《自爆》の8倍を、16トンにも適用して……128トン!? ほー、これは重大発見だ! 全人類で最重量という重責! 誠に重畳だなあ、いと重き女王よ! 今後は、十重二十重の重圧をはね除け、重鎮として重宝されるがいい! ハーハッハッハッハ!」
「――ホ。ホホ……ホ」
※:オ゛シ゛リ゛ス゛!!!(血涙)
※:ムカつくほど軽やかな笑みー!
※:令嬢のヘビーさとは対照的だあッッ!
※:こらえろ、令嬢! 我慢を、重ねろー!!(《自爆》
「や、焼くわ……絶対に焼く……!」
※:嗚呼っ、スゴク燃えている!
※:でも泣いてるぞ!!
※:泣いてるそばから乾いてくぅー!?
※:重(ジュ~)ってな!!
(うわぁ……。僕らの勝ちが見えたせいで、ネタコメントが一気に増えてる)
(薫。あとで汐音をねぎらってやれ)
(そうだね……)
ネタまみれの数十秒が、じっとりと緩慢に過ぎたのち。
ようやく【鳳仙花】が、最大火力を全身に迸らせた。
「き、きたぜぇ~……! 令嬢ぉ~……!!」
「オホホ、よく頑張ったわ鳳仙花ちゃん……。さ~あ今こそ……、フルパワーの【ヘビーボム】よ!!!」
女王様が、上に向かって両手をめいっぱい広げると。
ボッ。
天井をすべて埋め尽くすほどの燃え滾る塊が、ゆっくりと全容を現し始めた。
※:デッッッッッッ
※:でけえええええええええ!!!
※:重そ(《自爆》
※:BAKAめ、これは質量を伴った本体だ!
※:すごく……大きいです
「ふむ、とうとう来たか。――予とメジェド以外は撤退するか?」
「いいえ」
トート神は自身の目を示した。
「審判は見届け役ですので」
「そうか」
「机はすでに避難させたため、憂いなしです」
※:【祝】焚書回避!
※:つまりトート神自身は焼かれると
※:その意気やよし
※:俺が4んだら、スマホはリサイクル業者に(隙自語
「それと、アヌビスも控えておりますよ」
「うむ。予のために大儀であったな、アヌビス」
黙って頷く犬頭の神。
「おぉ、さすれば赤の女王よ。メジェドを倒すさい、他の神も巻き添えだな。敵以外の第三者に累を及ぼすとは、人間の良くないエゴだぞ?」
※:なーんか総評始まった
※:たまに神っぽさを思い出す緑
※:聞くな令嬢、落とせ!
「君は、目的のために手段を選ばぬ傾向があるな。また、『悪役令嬢』という演技に引っ張られ、あらぬ暴走もしがちときている。そんな女王に、予からの助言はたった1つだ」
冥府の神は、微笑とともに人差し指を立てた。
「自重せよ、汐音」
「――で、き、る、かー!!!!」
燃え盛る太陽が着弾した。ド派手に吹っ飛ぶオシリスやメジェドが一瞬映ったのち、画面は真っ黒になる。
ややあって、映像が復活した。千桜さんのスマホだろう。
「【防火】ありがと、クーニャン……。危うく、自分の【ヘビーボム】で死にかけたわ……」
※:生存ヨシ!
※:うーむ、ヘビーな戦いだった
※:↑自重せよ(キリッ
※:できてねえで草
地面に落ちきった上皿からゆっくりと下りたお嬢様は、煤けた姿でエレベーターへと歩き出した。部屋にはすでに誰もおらず、巨石の妨害もない。
「あ、報告~。倒したあとに次の部屋案内は出ました。495です。――はぁ~あ、大方の予想通り、すでにクリア済みの部屋でーす」
※:令嬢が令嬢ロールをやめとるw
※:いやあ、オシリス(の舌)は強敵でしたね
※:焚き付け用のバフはもらいまくってたけどなw
※:さっすが冥府の神! 墓穴掘るのもお手の物やで!
「汐音や」
「あ、ジニーさん」
「よく頑張ったのお」
「えへへ、やりました~!」
お嬢様は、エレベーターの方から駆けてきた幼女とファイブタッチした。
※:尊い・・・
※:てぇてぇ
※:ヤりました~(神56し的な意味で
※:かみは バラバラになった(伝説
そうして二人が、和気藹々と帰ろうとしたとき。
「ん?」
後戻りしたお嬢様が看板を映す。
「ねぇ、みんな。ちょっとこれ、ヒドくない?」
・5人で5問解け、重厚に。
※:ブハッww
※:重っ!!
※:もはや呪いじゃん
※:ヤツの悪癖は重々承知よ
「のお、汐音。ここにはトートがおったんじゃし、変えてもらえばどうじゃ?」
「それもそうですね。――トート様、なにとぞ単語を、コレに変えてください。あ、ちょっと画面変えますね」
どうやらスマホに文字を入力したらしい。映像が戻ったときには、案内板の「重厚」の文字が消え、代わりの文字が浮かび上がっていた。
・5人で5問解け、盤石に。
※:これはっ!w 良きリズムっっ!!ww
※:盤石に文句ある奴いる? いねえよなぁ!!?
※:めっちゃシーソーゲームだったがなw
※:部屋は石造りだったからセーフ
「ん! ありがとうございます!!」
看板前で自撮りしたお嬢様たちは、大喝采(と一部の笑い)コメントのなか、足取り軽く帰還した。
どこかの掲示板にて
※:とっても素敵なハーモニーやったな
※:そうだな、何重奏にも……あ(《自爆》




