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幼女兄貴(SSSランク)と僕とダンジョン ~思いついても真似できない、十年磨いた水魔法の攻略配信~  作者: 葦原エイ
第一章 幼女兄貴救出編

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11/33

10部屋目 チョコに叡智を

――――――――――――――――――――


・現在の使用可能タイル

(4問目終了、オシリスの封印手番まで)

 BCD FGH  KLM

  P     V XY

12345  890


――――――――――――――――――――

 ぜぇぜぇと息を吐いたオシリスは、ゆっくりと深呼吸して怒りを鎮めたのち、知恵の神に向き直った。


「なあトート、今は封じる文字を考える時間だよな?」

「はい。無制限にしたのはオシリスの落ち度ですね」

「違う! たとえ推測できても、ここで延々と解答用の文字を考えるのは、本来の用途から逸脱している! 本質……そう、本質を見誤るな!」

「――なるほど。わかりました」


 トート神は僕らに向き直った。


「他の制限時間を鑑みて、封印する文字の選択も60秒以内とするのが妥当ですね」

「うおぉーい、横暴だぞー! 神も仏もねえのかー!?」

「神です」

「ガッデム、神ジョーク!」


 天を仰ぐQ次郎の隣で、猪尾さんが手を挙げた。


「あの、トート様。文字を選ぶ時間を60秒にする代わりに、最終問題の制限時間は、周りの水時計全てにできませんか? 急に条件が変わるのですから、せめてこのぐらいは」

「なるほど。途中から制限を加える以上、その要求も妥当ですね」


 トート神がオシリスを見た。


「如何ですか、オシリス?」

「ふむ……、それを決めるのは予ではないな。アヌビス、いけるか?」

「構いません」


 トート神は、手に小さな水時計を出した。


「では、封印する文字の選択は60秒以内。最終問題の制限時間は、残る水時計全てとします」


 オシリスは僕らを見て、ニヤリと笑った。


「フッフッフッフ……。お前たち、少しだけパイロットの寿命が延びたぞ? 良かったな」



※:うっわー……

※:余裕取り戻してニッコニコやん

※:ラストは330秒か



 Qが相手をしている間に子音だけの5文字を閃きたかったけど、向こうの対策が早すぎた。

 なら、セカンドベストを取る。


「今度は0を軸にしよう。コレさえ残せば、5文字以上は作れるからね。僕らが次に消すのは、それ以外で相手が有利になる文字だよ」


 僕らは、O(オー)の入った5文字を指差し確認しあったのち、封じる文字の合意を取った。


「決まりました」


 僕はトート神に向き直った。


「封じる3文字は、P、V、そしてYです」

「わかりました」


 Pは、PHの組み合わせが怖いから。Vは、OVで終わるロシア系の人名が怖いから。Yは……絶対怖いから。


 トート神がボーナスの5枚を上皿に入れ、天秤の傾きが少し緩やかになった。すぐに問題選択へと移るが、「辞書」で内定しているため、ここもシンキングタイムだ。

 猪尾さんが、指でほほを叩いていた。


「COLD(コールド)、GOLD(ゴールド)、GOLD(ゴールド) COAST(コースト)……はダメね。長くなるとキビしいわ」

「猪尾さん、Oが2つ並ぶ形は?」

「良さそうに思えてワナよ。4文字ばっかりなの、DOOMとか」

「あー」


 DOOM(ドゥーム)……神が人類におこなう最後の審判。今の状況に相応(ふさわ)しすぎて泣くべきか。


「薫チーム、時間です」

「はい、トート様。僕たちは『辞書の見出し』を選択します」


 精一杯粘ってここまでだ。


「ダメね、私思いつかない。いっそ最後は、シィポンとナメクジさんのダメ出しに徹するわ」

「オーホホホ! OKよ、クーニャン!」

「俺様の灰色の脳細胞が輝くぜ!」



※:がんばれー

※:応援してるぞ!



 視聴者数に比べ、コメントの勢いは格段に減っていた。どうやら、ほとんどがフィルターに掛かっているらしい。


 ――でも、逆に言えば、それだけたくさんの人がヒントをくれてる証なんだ。

 「見えない」事実が、ありがたい。


「フッフッフッフ、いよいよ5問目だな」


 手の平を向けてきたオシリスが、スッと人差し指だけに変えた。


「では最終問題だ。『現在、世界で発行されている〈辞書〉(ディクショナリー)だが、その見出し語を1つ答えよ』。――君らは神を超えられるかな? それでは、始め!」


 手が叩かれた直後、僕らは事前に決めていた5文字を集め、上皿へ投げ入れようとした。


「! Q、待った!」

「薫!?」

「ダメだ……! トート神が、書(・)き(・)直(・)し(・)て(・)る(・)!」


 冥界の書記は、まさに神速のペンさばきだった。


「ねえ、菊知くん? トート神が、いま5文字ってことはない?」

「ううん、猪尾さん。Oの2連続が特徴的な動きだったから、最初が4文字。そこに、何か書き加えてて5文字。さらにその下に、何か書いたあとで今のを二重線で消してたから、6文字以上は確定だよ」


 勝負は最初の2秒だった。そこでハッキリと見てしまった以上は。


「5文字じゃ……勝てない」

「なぁ薫、ハッタリの可能性はねえか?」

「ううん……。過去動画では、必ず上乗せしてたから」


 訂正したフリをして、また5文字を書く神様ではない。


「6文字以上だよ、あれは」

「そっか、そんなら考え直さねえとな」

「オーホホホ! 大丈夫よ、みんな! 6文字ぐらい楽勝! あたしが思いついたチョコより長い単語を、必ず見つけられるわ!」


 その直後。


 シャシャ~ッ。


「ほぇっ?」


 別のパピルスに書き記したトート神が、前のものを丁寧に折り畳んだ。


「再訂正しました、薫チーム」

「ええ~っ!?」

「おい、トリ神(がみ)! そんなのアリかよ!!」

「アリです、滑川久次郎」


 な、7文字……!


「フッフッフッフ、トートの本領発揮だな。やりすぎて、挑戦者の心を折るのは止めてやれ?」

「ご心配なく、オシリス。1文字ずつ増やした文字数は、これで最後です」


 そ、それはありがたい……けど、それでも7文字か。


「クソッ、うだうだ言っても始まらねえ! 叩き台になるぜ! ゴースト!!」

「本当に叩き台ね。GHOST(SとT) でダメよ」

「オホホッ、ポップコーン!」

「POPCORN(PとRとN)でダメ。P封じたのコッチよ、シィポン?」

「チィッ、部屋(ルーム)、月(ムーン)、スプーン、フォーク……おっ、フォークはいけるぞ!?」

「ナメクジさん? FORK(それ、R)」

「オーホホホ! なら、フォークソング!!」

「FOLKSONG(SとN)!」


 Qとお嬢様のアイデアに、猪尾さんがダメ出しをする仕組みは上手く回っていた。なので僕は、そちらのルートは一任し、ある違和感へと全力で取り組むことにした。



 ――なぜトート神は、訂正を2(・)度(・)に(・)分(・)け(・)た(・)んだろう?



 僕らに気付かせるためなら、6文字を書いた直後でも良かったハズだ。連続していて分かりづらいなら、僕が6文字の話題を出したときに再訂正すれば良かったし、なんなら、「1文字ずつ増やした」とまで教えてくれたのだから、言及さえあれば確実に判別できた。


 な(・)ぜ(・)、あのタイミングだった?


 もしかして……あのとき、何かの単語に気(・)付(・)い(・)た(・)?


 えっと、千桜さんが言ったあとだったよね。そこでトート神が再訂正して、千桜さんがリアクションしたからハッキリ覚えてる。で、その時はチョコを言ったんだ。スペルは、シー、エイチ、オー、シー、オー……。


「チクショウ、時間なくなってきたぞ! ココイチ!」

「はぁ? もしかしてCOCO壱(カレー)? 載ってても5文字!」

「シーオーシーオー……あ、クーニャン! 繭!( コクーン )」

「COCOON(NにOが3つ)!」


 あぁ、Oが3つだとオゾンだね。セーフなのは2つで酸素までだ。えぇっと、シー、エイチ、オー、シー、オー……お?








「ああああああああああああ!!!!!」


 出し抜けの大声に、みんなが僕を見た。


 すかさず壁に目をやる。水時計は……残り1個!


「Q次郎! H(エイチ)だ!! チョコにHを足して上皿に!!」

「!? お、おう!」


 立て続けにQが投げ始めるなか、僕は数字タイルへ走った。1枚をつかみ取り、高々と上がった羽根の上皿へとまっすぐに掲げる。


「何をする気、菊知くん!? そこから投げたら遠すぎよ!!」

「いえ、クーニャン! 大丈夫!」


 千桜さんはスグにしゃがんでくれた。僕は気持ちを鎮め、一瞬で集中する。


「【聖水】」


 投げ入れたりはできないけど……、狙いは何度もつけてきた!


 タイルを包んだ水は、ゆるやかな放物線を描いて上皿へと飛んでいった。



※:ビューリホー……

※:左手は添えるだけ

※:う、美しい……ハッ!



 パシャンッ。


 最後の1枚は、水ごと上皿の真ん中へ吸い込まれていった。


「いよっし、答えは……!」

「残念、時間切れだ」


 オシリスは、壁を無慈悲に指差した。


「すでに水時計は落ちきっている。つまり、解答しても無効。そうだな、トート?」

「もちろん有効です」

「ほらな……何ィッ!?」

「有効です」


 トート神は淡々と続けた。


「オシリスは先ほど、バスケットボールの試合になぞらえました。タイムが0となる前に投じられたボールは、入れば得点。今の菊知薫は、まさにブザービーターです」

「あ、あれは、予が見てる側だからいいんだ! 食らう側になるのは大嫌いだ!」

「感想は分かりました。――有効です」


 トート神は僕を手で示した。


「薫チーム。宣言をどうぞ」

「はい」


 僕は軽く呼吸を整えた。


「CH3COOH。――酢酸《さくさん》」


 ディクショナリーには、辞書だけでなく辞典という和訳もあった。

 なら、化学辞典も入るハズだ。――つまり、化学式も!


「薫チームが宣言しました。正解かどうかを述べる前に、私の答えを提示しましょう」


 トート神はパピルスを反転させた。


「気が合いますね」








 CH3COOH









「いよおおおぉぉっし!!!」



※:うおおおーっ!

※:薫子様が吠えた!!

※:かいしん の ガッツポーズ!

※:男の娘、最高!! 男の娘、最高ー!!!(ガン泣き



「薫、やったな!」

「ワ~、キャ~ッ!!」

「化学式、よく気付いたわね!」

「みんな……! ううん、みんなのおかげだよ。千桜さんがコクーンって言って、猪尾さんがOが3つのダメ出しをしてくれたから。それで、オゾンって思えたんだ」

「へへっ、よせよ相棒。つーことは、俺のココイチが起点だろ?」

「Q、自分で言ったら台無し」

「オメーが言わねえからさあ! 大事なトコをさあ!」


 わいわいやっていると、冥府の神が拍手してくれた。


「素晴らしいな、薫。じつに見事な発想だった」

「ありがとうございます!」

「――で、終了だ」

「は?」


 突然の真顔に、冷水を浴びせられた気分だった。


「ど、どういうことですか?」

「おいおい、予の部屋を訪れた理由だよ。君らはクリアがしたかったのかい? 違うだろう。予に、認(・)め(・)て(・)も(・)ら(・)う(・)のが目的だったよな?」

「あ……」

「おぉ、おぉ。君らは予をけちょんけちょんにしながら、クリア寸前までこぎつけた。良かったなあ、あとはメジェドを倒すだけだ」


 ま、まさか……。


「当然だが、クリアしても予は認めんぞ」

「そんな!」

「お前たちは、早い段階で予をバカにしていただろう。挙げ句、数々のやり込めに、無礼な振る舞い。――あれだけカマされて、認める神がいるか!」

「うぐっ……」


 正論だった。今までの挑戦者は、クリアしたら確実に称号がもらえていたし、奮闘すればOKの確率は高かったのに、完全に逆となってしまった。


「オシリス」


 机一式を片付けた冥界の書記が、天秤からフワリと降り立った。


「前言を翻す気はないですか?」

「ないな、トート。それとも、予を認めさせるために戦うかね?」

「いえ。あなたと争いたくはないですね」


 トート神が僕のほうを見た。


「なので、私が認めましょう」








 ――え?



「おや、菊知薫。私からの称号では不服ですか?」

「い、いえ! ビックリしただけです! ありがとうございます!!」


 オシリスも呆気に取られていた。


「トート……お前、それアリ?」

「アリですね、オシリス」

「おいーーーーーーーーー!!!!!」

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