6. 旅の準備
隅から隅まで武器を見漁っていく。
少し見えにくい場所にも、武器が置いてある。
明らかに強そうなものや、装飾がバチバチに付いたものは、壁に掛けられている。
この細剣めちゃくちゃかっけえ!
「この細剣はいくら?」
店員がいないので店の奥の方に向かって叫んだ。
「銀貨三百枚だな」
背後から声がした。
どうやら店に入るときにいたごっつい男は店主だったようだ。
「この辺の者ではないと思うんだが、冒険者か? それにしては随分と不思議な格好をしているな。」
「まあそんなところです」
「そうかそうか。好きに見て行ってくれ」
「オススメの武器ってありますか? 僕に合うような武器が欲しいです」
「そうだなぁ。お前さんの使える武器は何だ? それによって武器の種類も変わってくるだろう」
「一応弓は使えます。でも近距離武器が欲しいです。動きやすいし」
「そうかい。だったら片手剣かそれより少し大きいものがいいかもしれんな。雰囲気からして新米冒険者だろう?どんなものが欲しいか言ってみな」
新米どころか冒険者でもないんですけどね。まあこの世界だと武器を求める人間は冒険者か自宅警備員ぐらいだからな。それか転売ヤーと同じ類の人間。
いずれ魔王と戦う。ずっと使えるものがいい。
「丈夫で、切れ味のいいものが欲しいです」
「わかったよ。探してみる」
「ありがとうございます」
「ちなみに金はどんぐらい持ってるんだ?」
「金貨二十五枚ぐらい」
「そりゃ大金だなぁ。ぜひともこの店でたくさん使ってもらわないとだな!」
そう言って店主は店の奥の方へと消えていった。恐らく武器庫や鍛冶場があるのだろう。
何分待っただろうか。入ったときは太陽が真上まで来ていたのに、もう夕陽が綺麗な時間帯になってきた。その辺に落っこちていた酒樽に腰を掛け、勿論使えないスマホの画面に映る自分の顔を見て、溜息を吐いた。
「はぁ」
夕に話すこと考えておかないとな。こんなところに来て何も面白いことを話せないなんて意味わからねえし。
「よお、お待たせ。すまないね長々と待たせちまって。大金を持ったお客さんに、せっかくだからいい買い物をしてもらおうと思って漁っていたんだよ。好きなものを選びな。実際に振って確かめてみてもいいぞ」
お、この両手剣いいな。
うわ! 刀があるじゃないか!
迷うなぁ。日本人(一応)として、刀を使いたい気持ちが抑えられない。
振った感じは申し分ない。というよりすごい馴染んでいる気がする。
「お前さん、刀似合うんじゃないか?」
「そうっすか!?」
「ああ。お世辞抜きでな」
「じゃあこれにします!」
「即決だな! この辺だとなかなか作れる奴がいなくてな。ちょいと高くつくが、買ってくれるよな?」
「いくらするんですか?」
「金貨二枚だ。お前さんなら買えると思うがな」
「買います!」
「毎度あり!」
「あとこの両手剣なんですけど、いくらしますか?」
「こいつはやめておいた方がいい。持ってきておいてなんだが、二本持っておくというなら両手剣よりも片手剣の方がオススメだ。せめて片手半だな。」
ちょっと重いもんなこれだと。
この世界の重力なら持って走ることもできるかもしれないが、それでも振り回しているうちに疲労がたまっていくからな。
「じゃあこの地味な片手剣で」
「地味だと?」
「あ、すみません! でもそれ以外言葉が思いつかないんです」
じゃあ言うなし。
「まあ確かに地味に見えなくもないが、とんでもない性能を誇る代物だぞ?使ってみればわかる」
「じゃ、じゃあ」
店主は俺にその剣を渡してきた。
そして横にあった太めの巻藁をセットした。
「この巻藁にゆっくり振り下ろしてみろ」
そう言ってジェスチャーをした。とてもゆっくりと。弓道ぐらい。
「こんなの勢いつけないと斬れませんよ! さすがに僕でも分かります」
「そう思うだろ? いいから一回やってみろ。ゆっくりだぞ?」
いわれるがままやってみた。
ゆっくりと、巻藁の斜め上から剣を下ろしていく。
ドサッっという音がして、巻藁の上半分が床に落っこちた。
「どうだ? 刀身にかけられた魔法で切れ味が大幅に上昇している」
店主がにやにやしながらこっちを見ている。一度だが無理だと言った俺をバカにするような顔だ。
こんなのわかるかい!
「これ逆に危なくないっすか? 鞘とか、気づいたら壊れてたなんて嫌ですよ」
「それは安心しろ。この剣よりもさらに強い金属で作られた特殊な鞘もセットで渡す」
なら大丈夫か。
でもお高いんでしょう?
「ちなみにこれはいくらするんですか?」
「金貨十三枚だ」
たっか!
買えないこともないんだけどさ。
「買うか?」
そんなにキラキラした目でこっちを見るな。
「買ってほしいという感情が外に出ちゃってますよ? 商売人たるもの感情を露骨に外に出してはダメじゃないですか」
まあ買うんだけどね。
「そんなこと言って、お前さんなら買うんだろう?」
「もちろん買いますよ?」
「だよなぁ!」
ノリノリだな。店主も俺も。
「まいどありぃ!」
「そうだお前さん、何を倒したいとか、目標はあるのかい? 冒険者なんだったら獲物の目標がないと楽しくないよ。悪魔をぶっ殺してやる! なんて言っていた客が、死にかけでこの辺を歩いていた時はさすがに笑ったがね。がっはっは!」
「魔王を倒したいです。炎魔大帝ディモスガー」
こいつを倒せば元の世界に戻れるとは思っていないが、自分の身体でゲームをクリアしてみたい。
少しの希望でも、あった方がいいだろう?
少し間が空き、店主が口を開いた。
「さっきの話を聞いてそれを言うなんて、随分と勇気があるんだな。健闘を祈るよ。だが一つだけ、忠告というか言いたいことがある」
さっきまでの楽しい雰囲気とは一転して、重い空気に変わった。
「なんですか?」
「ディモスガーは、今まで人間には負けたことがない。なんなら悪魔とでさえ、互角に終わっている」
知ってるさ。ゲームでも何回も聞いた。あんたが他の客に説明しているところをね。
だって大事なストーリーのうちの一つだもん。
ただ、悪魔って何だろう。そんなものは知らないぞ。
「悪魔って何ですか? そんなに強いんですか?」
「ああそりゃあね。世界が創造された直後に生まれた龍ほどではないが、それに準ずる力を持っている」
つんよ。龍は何だか知らないけど多分俺が戦うことは無いだろう。
「悪魔は全部で八体確認されている。うちの六体は、焔、冰、霆、天、嵐、霊の属性を持っていて、残りの二体は無属性だがずば抜けて強い」
なるほど。つまり戦うまでもなく死ぬかもしれないということか。
「その剣を持っているお前さんなら大丈夫だろう。怪我はしても死ぬことはない。俺が保証する」
そのセリフよく聞くけどフラグじゃねえのか? まあ自身は持てるよ。ありがたい。
「ありがとう。買っておいてよかったよ」
「じゃあな。お前さんとまた会えるといいな。魔王の首を持ち帰ってくるお前さんの姿を見れることを願っているよ」
もう外が暗い。宿をとらねば。
俺は足早に店を後にし、例の宿へ向かった。
「おーい! 忘れ物!」
上着忘れてた。
「誰のかと思ったがこんな珍しいのはお前さんしか着ないからな。気をつけろよ」
「何から何までありがとうございます」
「そうだ。一つ言い忘れていたことがあった」
*
マジで疲れた。移動中はそんなに気にならなかったけど、荷物ばり重い。
それだけじゃない。
宿のチェックインをしようと思ったら店員がいなくて、裏で作業してんのかなって思って受付前でちょっと待ってた。ここまではいいんだけど後ろから来たおっさんに急に怒鳴られて、何だこいつって思ってる間に荷物漁られた。マジむかつくんですけど。
ただそいつ目ぼしいものが無かったのか、荷物ぶん投げて急に殴ってきやがった。
偶々角から顔出してきたおばあちゃんが受付の中に入り込んで店員を呼んできてくれたから大事には至らなかったけど、おっさんは気づいたらいなくなってた。
一瞬顔が見えたから思い出してみたけど、たぶんあれ昼間に声かけてきた奴かもしれない。
偶々同じ場所にいたから、ぶん殴った感じかな。ウザい。
いったん落ち着こうか。みんな落ち着いて!
安いけどとっても快適。
家具は一通りあるし、ベッドもちょうどいいふかふか具合。
食事は自分で用意するしかないみたいだけど、料理は好きだし、今までたくさんやってきた。余裕っしょ。
何を食べようかと十分ほど考え、少し仮眠しようという結論に至った。
目が覚めた時には外が明るくなっていた。
朝飯の時間です。
転移前から背負っていた鞄の中に入っている菓子パン。これだけ。
うめえや。
今日は防具とか魔法装具を買いに行こうと思う。
制服で戦うのは結構きついし、そもそも武器を運ぶのが大変。というか無理。
この国のほとんどの場所を熟知している俺は、真っ先に部屋を出て郊外の大きな防具屋に向かう。
裏道もあるんだけど、あんまり危険を冒しすぎない方が良いかなと思って、普通の道から行くことにした。
どんな防具がいいんだろう。
勿論全く分からない。
店員とか教えてくれるし、それでいいか。
なぜやりこんでいたゲームなのにわからないと思う?
だって実際に自分で着てみたら重すぎて動けなくなっちゃうもん。
鎧なんてゲームじゃないと着ないって。それか騎士団。
二キロほど歩くと、”防具屋”と大きな看板に書かれた店が見えてきた。
この国で最も大きな防具屋である。
実際に自分で見てみると圧倒されるな。
置いてある防具はゲームをやっているときとは少し違うな。
禍々しいオーラを放った真っ黒な鎧や、騎士団が着用しているような、シンプルながら動きやすそうな鎧まである。
魔術師用のローブなんかも売っているし、シンプルな剣なら何百本と置かれている。
中でも一際目立つ防具がある。
店の中心部、人が群がりよく見えないが、遠くからでもわかるぐらいに雰囲気が違った。
金色の装飾が施された、黒色の防具だった。
鎧のようないかにも強そうな見た目ではなく、軍服のような見た目をしている。
これなら俺でも動きやすい。これにしよう。
そう思ったのだが、値札を見て気絶しかけた。
重魔法防具 ー 龍霊気鎧服・神
金貨 百二十枚
買えません。無理です。
仕方ない。別のものを探すか。
大体一時間ぐらい見て回ったが、鎧ばっかであまり良さげなものが見当たらない。
さっき見た高い防具の、一回りか二回り階級の低い物だったら買えるんじゃなかな。
そう思いながらずっと探してるのに、見当たらん!
店員がカウンターにしかいないから訊けない。
うーん。二階かなぁ。
行きたくないんだよね、二階。
この店は一階と二階があるんだけど、二階に行くまでの道が長すぎる。
一段一段の高さが踝ぐらいまでしかなく、おまけに幅が広い。
そして何より腹が立つのは、天井が高いせいで必要な段数が余計に増えるということ。
体感では一キロぐらい歩くことになる。というか攻略サイトには一キロ以上って書いてあった。
弓道部にこれはきついって。
トレーニングになるしいいか!いやでも普通に時間かかるの嫌だなぁ。もうちょっと優しい設計にしてくれればなぁ。
などと、ぶつぶつ文句を言ったり思ったりしながらだが、二階に辿り着いた。
長かったぁぁぁ。
ん?
目の前には目当ての防具があった。
階段を上ってすぐ、両脇に置いてあった。
左が一回り低いやつ。
右が二回り低いやつ。
重魔法防具 ー 龍霊気鎧服・皇
金貨 九十五枚
重魔法防具 ー 龍霊気鎧服・上
金貨 五十五枚
どっちもちょっと高いなあ。
昨日の夜鞄の中から発見した500円玉一枚をまたあの商人に買い取ってもらうか。
でも俺は一度も買ってないのに大金だけ払わせていたら可哀想ではないのか?
まあいいか。
俺の心配はしてくれていたけど、いずれは国も去るし、あの場所ならもっと稼いでるだろ。
待てよ?金貨三百枚で買い取るって言ってたよな。てことは売る時はその値段なんじゃ?
いい商売してんねぇ、おっさん。
俺は防具屋を出てすぐに例の商人の元に走った。
五百円玉を握りしめて。
「おっちゃん! これ買い取って! 昨日鞄の中から発見した!」
「前は金貨十枚で買い取ったが、今回もそうするか? それとも正規の百枚で……」
おっちゃん固まっちまったよ。
ショックだったのかな?
運営! バグった! 直して! 低評価押すぞ!
「あんた……これ、前のやつと違くないか? 前は一色だっただろ?」
あー、変わったんだっけ。
「値段下がっちゃいますか?」
「逆だ。百五十枚は出せる」
「そんな珍しい金属入ってるんですか?」
「いや、そういうわけではない。むしろちょっと高価なだけの金属だ」
じゃあなんで?
「じゃあなんで?」
「側面のギザギザが決め手だな。間隔が異なっている部分があるだろう? これが良かった」
理由ショボくねえか?おっちゃん。
「あとは普通に綺麗」
洗えばどうとでもなるやろ!
俺の鞄が綺麗だったからかな。へへへ
「じゃ、じゃあ金貨百五十枚でもいいですか?」
「もちろんだとも! またいい買い物しちまったぜ!」
よかったな、おっちゃん。
おっちゃんのお陰で俺もいい買い物できそうだ。
俺はまた防具屋までの道を走った。
神位の方を買える!
防具屋に入り、早速中央まで走る。
よし、まだある!
店員を呼ぼう。
勝手に取ることはできない決まりなんだ。
「これを買われるんですね? 使用されている武器はなんですか?」
「太刀です。これっすね」
「でしたら少々お待ちください。この状態ではお渡しできないので」
「はーい」
店員が一瞬目を大きく開いたように見えたけど、気の所為かな!
俺ちょっと興奮しすぎてるかも。
落ち着いて、みんな!
カウンターの近くにあった椅子に腰掛け、店員を待つ。
「あんちゃん、そこ椅子じゃねえぜ?」
「あ、ほんとだ。ありがとうございます」
どうやら俺はゴミ箱に座っていたらしい。
「お待たせしましたー」
お、終わったかな。
「太刀をご使用とのことでしたので、太刀紐をお付けしました。その他に必要な装備があれば何なりとお申し付けください」
「ありがとうございます」
俺はお礼を言ってそのまま着てみる。
うん。やっぱり着心地が半端ないな。
ちょっと圧を感じるけど、多分この防具に元々かかっている魔法の所為だ。
とりあえず必要な装備はもう揃った。このまま出発してもいいのだが、国の中を少し探索して回ろうかと思う。
ゲームの中の知り合いに会えるかもしれないからな。




