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炎と氷の執事  作者: 秋那須
第四章 帰還に向けて
6/9

5. ゲームの世界

 目が覚めると、なぜか泣いていた。

 違うわこれ。出血だ。


 あのムフェト○ーヴァもどきの後、強い光があったまま記憶がない。

 死んだのかと思ったが、「アジの開き」じゃなくて「幽体離脱」しているような感覚は――幽体離脱を経験するなんて死なないと無理なんだが――ない。

 自分の手を見ても何ら問題はない。つまり俺はまだ死んでいない。

 死んでいないということは、遮蔽物に隠れるというとっさの判断は間違っていなかったということだ。

 モン○ンの知識がここで活かされるなんて思っていなかった。

 と言っても配信者の実況を見ていただけなんだけど。


 ところでこの薄気味悪い苔の生えた汚い洞窟の最奥にある大きな岩は何だろう。

 出血の感じからして多分俺はこの岩から落っこちて目が覚めているのだが。


 これ、「始まりの岩」じゃね?

 もちろんこの場所は何度も見ている。

 オープンワールドゲームにしてはかなり珍しいかもしれない、初期地点の固定。

 多分ここは「ウィザードソード」の初期地点に違いない。

 少し違和感があるのだが、気のせいということにしておこう。

 なぜ俺はここにいるのだろう。

 疑問しかないのだが、嬉しい気持ちも少しある。

 好きなゲームの世界に来れたから。


 もしここがゲームの世界なら、早く資源を集めないと初期地点で飢え死にすることになる。

 リスポーンができるかどうかまだわからない。

 早くしなければ。

 そういえば俺の主属性は何だろう。

 たしか主属性であればそれにあった下級魔法を最初から扱えるはずなんだが、できない。

 ゲームの世界と言ってもそう簡単にはいかないのか。

 それにしても魔法が使えないとなるときついな。

 とにかく食料集めからかな。

 

 辺りが暗くなってきた。

 この世界に来て何時間経ったのだろう。毎日のようにプレイしていたゲームとはいえ、実際に自分で動いてみると全く動きが違う。

 最初から頭の高さまでジャンプできるわけではないし、五キロほど走ればすぐ疲れてしまう。

 あれ。俺ってそんな走ったっけ。

 もう夜か。

 洞窟のすぐ近くに王国があるはずだ。

 もし王国に入れなくてもその近くにある民家に泊めてもらえるかもしれない。

 それができなくても、森の中だが古い小屋がある。

 時間もあまりないしそこに行こう。


 最悪の事態を考えて、食料は三日分ほど持った。

 閉じ込められたりしても多分大丈夫。

 いくらやりこんでいるゲームとはいえ、というかまだそうと決まったわけでもない。

 念には念をだ。

 せめて寝る場所ぐらいは確保したいしな。

 古小屋に着いたはいいものの、実際に自分で直面してみると、この小屋ってすっごい不気味。蜘蛛の巣とか腐った床とか壁とか、こんなところに長時間いるのは無理だ。生理的に受け付けない。

 今日はここで少し休んで、明日の朝には出ていこう。

 初日の進捗はまあまあだったが、ゲームと同じように考えてはいけない。これは現実なんだ。受け入れよう。

 そして早く寝よう。


――――


 俺は真っ白な部屋の中で一人、でんぐり返しをしている。

 そろそろ目が回ってきた。

「いてっ」

 なんか当たったな。

 なんか足みたいな感触だった気がするんだけど。

 

――――


 翌朝、天井から漏れる日の光で目が覚めた。

 クソみてえな夢を見てた気がするんだが?

 すげえ目回ってるし。

 おえっ。ちょっと気持ち悪い。


 やっと回復した。

 朝からやめてくれよ。

 てか今何時だろう。

 腕時計はしているが、来た時から全く役に立っていない。

 昨日洞窟を出た時に一日の時間を計ってみようと思ってタイマーをセットしたのだが、四十時間経ってやっと一日。

 もうこの世界ではこの時計を時計として使うことは無いだろう。


「使えねえな。捨てるか」


 そう口にしてみた。何となく。

 でも捨てられない。

 中学生の時、夕と一緒に買いに行った時計だ。どうしても生活が苦しくなった時に、中の金属を売ることもできるし、その時が来るまで、思い出として大事に付けておこう。

 金が欲しい!

 早めに王国を目指そう。

 もしかしたら入れるかもしれない。

 ちなみにゲームの場合、序盤は王国に入ることができない。なんでかは知らんけど。


 門の前に来てみたが、ゲームで見るより圧倒的にでかい。

 門がでかいというより、城壁自体がとてつもなくでかい。門だけでも学校の校舎以上あるというのに、城壁については門の二倍近くある。こんなもん誰が作ったんだ。

 進○の巨人じゃねえか。

 ゲームの場合だと確か空からの不法入国か、入国許可証の偽造だったはずだ。

 まだ空から入ることはできないので、入国許可証の偽造をしたいと思ったのだが、ゲームと違って俺自身の器用さが大きく作用するし、やめておいた方が良いかもな。

 そもそもゲームと同じなんて誰が決めたんだよ。

 俺が病院で寝たきりになっていて、今は夢を見ている。それだけのことかもしれない。

 とりま門の方に行こう。もしかしたら普通に入れるかもしれない。

 なんか沢山兵隊いるなぁ。


 入れた。

 やったね。第一関門突破!

 そもそも何も言われずに簡単に入れたし。

 ゲームの世界だけだったか。不法入国しか入る手段がないってのは。

 ラスボスまで倒せば元の世界に戻れるかもしれないし、この国では金稼ぎと装備集めだな。

 初期装備の石剣を売ってちょっとしたお金にすることができたはずだ。

 石剣はっと。


「あれ?」


 こんなボロボロだったっけ。

 そうだ! 初期装備がないなと思って探してる時に出くわしたゴブリンを殴り殺してゲットした粗末な木剣しかないんだった! マジで幸先が悪い。


 とりあえず行商人のところに行って売れるか試してみるか。


「これ売れますか?」

「なんだお前。見ない顔だな。なんで俺様がお前からボロを買い取らなきゃいけねえんだよ」

「ですよね」


「俺様は商人なんかじゃねえんだよ! もっと偉い、騎士だ! お前みたいなボロを売ろうとするクソみてえな人間じゃねえんだよ!」

「すみません!」

「素直に謝れる奴は珍しいな! お前にいいところを教えてやるよ。この道を突き当たりまで進んで、右に行け。左側に――」

「娼館ですよね。知ってます。僕そういうの興味ないんで。ありがとうございました」

「なんだつまんねえ奴だな。そのボロい剣でもスライムの腕ぐらいは切れるんじゃねえか? ま、ゴブリンにはよくてもボコられて捨てられるだけかもな! ガハハハハハ」


「この剣、ゴブリンからギったやつっす」

「何言ってんだお前。じゃあもともとあった剣はどこ行ったんだよ」

「いや、素手で、こう」

 そう言って俺は殴る動作をしてみた。

「馬鹿言え! 偶々通りがかった勇者様に助けてもらっただけだろ!」


 こいつ配慮というものが全くない。なんならクソ野郎だ。

 いずれというか数日すればこの国もすぐに出ていくつもりだし、こんな奴どうでもいいんだけど。


「そすか。あざした」


 早めに宿をとっておこう。お金は装備に使いたい。宿はできるだけ安いのでいいかな。

 あとは食べ物を入れる袋が欲しいできれば頑丈なものがいい。

 しかしこの国は本当に栄えているな。いろんな商品が数多く並んでいる。

 その分変な奴も沢山いるんだが、まあそれは仕方ないし、日本でもそんな感じだった。人が多ければ変な奴も増える。あたりまえだな。


「なんだその適当な返事は! って、いねえじゃねえか! どこ行った! まだ話は終わってねえぞぉ!」


 なんかうるせえな、あのおっさん。ほっとこ。


 この国で一番安い宿は確か、この丘を越えた先にある大通りを右に行って、十二個目の街灯を左に曲がれば、その道の突き当りにある。

 道中では毎日セールやってる狂ったばあさんがいるから、そこでいろいろ買いそろえよう。

 狂ってはいるけど品揃えは王国でも手足の指で数えられるぐらいの良さだからな。

 道中の行商人にこの木剣を買い取ってもらうか。そいつも無理ならおとなしく暖炉の燃料として使おう。

 街灯の幅が広いから、十二個目となると体感では一キロぐらいある。

 大通りと言っても日本とは違って車は一つも走っていない。馬車でさえもあまり走っていない。基本的にこの大通りは露店かホームレスが脇に構え、人が多く集まるだけである。国の繁栄の象徴にもなっている。


「すみませーん。この木剣売れますか?」

「うーん。綺麗な状態なら売れるんだがねぇ。ちょっと難しいな」

「そうっすか。すみません、ありがとうございます」

「ごめんね」


 そらそうだろうな。こんなボロい剣買いたい奴なんてなかなかいないよな。

 そうだ、俺今お金持ってるわ。日本の。

 ただこの世界だと確実に使えないからこれを売ってしまえばいいんだ。


「あ、じゃあこの金属買ってくれますか? もういらないんで」

「おいあんた、これどこで手に入れたんだ? 特にこの小さくて軽い金属。この辺どころかこの大陸じゃめったに見ない金属だぞ! 俺じゃあ買えない。質屋みたいなもっと高価なもん扱ってるところで買ってもらいな。あとこれあんまり人前に出すなよ?襲われるかもしれないからな。金目の物を狙ってるやつらに」


 こんな設定あったっけ。

 そうか! レアすぎてゲームでも見なかったんだ。そうだな、うん。


「ちなみにこれどんぐらいするんですか?」

「白金貨十枚程度だな。この重さだと。わかりやすく言うと白銀貨一万枚。金貨一千万枚。小国の国家予算を持ち歩いているのと同じようなもんだぞ! しかも同じものを何枚も……」


 この財布には一円玉が二十四枚入っている。最近は一円玉を忌み嫌う人だっているというのに。特に俺のクラスの担任とかね。


「まじすか。気を付けます」


 ちなみに金貨一千万枚は銀貨百億枚、銅貨十兆枚。つまりこの一円玉一枚が銅貨約十兆枚分のお金になるということだ。ただ実際のところ、白金貨を銅貨に直接変えることはできない。白金貨からの変換は金貨以上からが相場である。

 銅貨一枚は日本円で言うところの十円。

 俺は日本円の一円を、日本円の百兆円に錬成することができる。また、それによって手に入れた金貨を日本で金として売ることで、約一兆一千億円にできる。

 俺の財布の中には今二十六兆四千億円ある。急に周りから狙われそうで怖い。


「これはいくらで売れますか? 全部で十二枚あるんですけど」

「この大きさなら一つで銅貨一枚だね。色も形もほぼ同じじゃないか」


 銅貨は特に模様がない、シンプルな貨幣だが、日本の十円硬貨ともとても似ている。


「あと大きめのやつも。三枚あるんですけど」

「なんかかっこいいから金貨三百枚で買ってやるよ」


 面倒だなって思っただろこのおっさん。俺も思ったけどさ。

 正直この日本の金はもう要らないし、元の世界に戻ってから考えよう。

 戻れるかすらもわからないしな。


「そんなに持てないです。金貨三十枚でいいですよ。あんまりたくさん持ちたくないですし」

「あんたがそういうなら仕方ないね。じゃあ金貨三十枚と交換ね」

「ありがとうございます」

「どういたしまして。この辺じゃあんたみたいに礼儀正しくて変な客はなかなかいないからね。いい買い物したよ。こちらこそありがとう」

「いえいえ。ははは」


 変な奴はディスってるだろ。

 まあいいか結構な大金手に入れちゃったしな。

 いろいろ買い揃えよう。宿もちょっと高めのところに泊まれそうだし。ラッキー!

 待てよ。アルミが激レアな金属ということだよな? 元居た世界と同じではないことはわかったが、まさかレアな鉱物もむこうとこっちでは違うのではないか? だったら時計なんて装飾品としてしか売れないのではないだろうか。まあそれはあとで考えよう。


 俺が持ってきた食料は生肉とか山菜ばっかりだから、果物が欲しい。あと肉がもうちょい欲しい。

 狂ばあはもう少し行った道路のど真ん中にいるからすごくわかりやすい。


「おいあんた見ない顔だな」


 当たり前だろ昨日この世界にやってきたばっかりの異世界人なんだから。


「家はこの辺りじゃないんで。僕急いでるんです。あとにしてください」

「そうか、じゃあな」


 そういって急に絡んできた男はそのままどこかへ走っていった。真面目に、狙っているのかと思った。

 もっと粘り強く付いて来ると思ったけどあっけなかったな。何がしたかったのかは気になるけど、あの人なりの挨拶だったのかもしれないな。

 そうそう、挨拶で思い出したのだが、俺がこの世界で普通に喋れているのは、やりこみすぎた所為でゲームの世界の言語を覚えてしまったから。でもなんでもなく、多分いい感じに脳が作り替えられているのかな。だってゲームの言語日本語だもん。


「肉と果物ください」

「はいよ。何肉がいいんだい?」

「牛がいいです。一キロ」


 この世界では鮮度という概念が無い。魔法によって常に新鮮な状態に保つことができるからだ。また、魔法を使わずとも魔素に触れている状態を維持できれば鮮度はある程度保っていられる。


「果物は?」

「キウイ」

「そんなものはないよ。適当なこと言わないでおくれ」


 結構ちゃんとミスった。俺の好物だから仕方ないだろう。


「すみません間違えました。林檎を五個ください」

「はい。じゃあ、牛肉一キロと林檎五個ね。全部で銅貨五枚ね」


 五十円か、安いな。


「あと布の袋もいいですか?強めのやつ」

「銅貨十枚」


 安く感じてくるな。


「じゃあ剣もください」

「剣が欲しいなら武器屋に行きな。ここじゃボロいもんしか売ってないよ」

「金貨一枚でいいですか?」

「はいまいどあり。そこらに転がってるホームレスは銀貨でも盗んでくるからね。気をつけな」

「お気遣い感謝します」


 まあ知ってるんだけど。

 ゲームで初めてこの国に来た時、この大通りでスリを働くホームレスに何十回と金を盗まれては発狂した覚えがある。


 狂ばあは武器屋の方が良いと言っていたし、大金をずっと持っておくのも嫌だ。ちゃっちゃと武器を買っておこう。


 道端に落ちていた小さな石ころを蹴飛ばしながら武器屋へ向かう。

 どんな武器がいいかなぁ。弓だったら簡単に使えると思うけど、どう考えても剣の方が動きやすい。ま、剣でいいか。

 武器屋へ、レッツゴー!

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