4. 対面
「おい。殿だ。跪け」
「は、はい!」
どこ?
「誰かいると思ったら君達か。頭を上げろ。俺はそういうのが嫌いだと前から言っているだろ?」
「ですが殿、我々はあなたに忠誠を誓っているのです。このような形でしか表すことができないことを詫びたい程です」
「うるせぇ!」
穏やかな性格かと思ったけどイメージ通りのところもあるんだ。
「ていうか、そこの女性は?」
「例の者です。我々の計画を邪魔していたので捕まえると報告していた者です」
「あれ? 君達あの時十歳ぐらいの男の子みたいに言ってなかった?」
「……はい」
「ずっと男だと思っていました。申し訳ございません」
「そもそも俺の計画ではあるけどそんなに重要じゃないし、あの騎士を殺すことは目的じゃないんだ。あの建物の中に入った後からが計画だったから、ただの犠牲者ってこと。すまないね」
だとしても殺し方からして一人を狙ったような感じだった。
ばったり会ってしまったのだとしたらもうちょっと惨い死に方してそうだし。
まだ会ったばっかりだしこの人の言っていることが本当とは限らない。
「君達!」
「「は、はい!」」
「今後は俺のことを『殿』と呼ぶのを止めなさい。王の前でうっかり言ってしまったらどうするんだ」
「で、では今後はなんと呼べば」
「好きに呼んでいい。『ルビアス』でも『ルビー』でも『るーちゃん』でも何でもいいよ。『焔の王』はやめてね。この呼び名恥ずかしいんだから」
るーちゃんはないでしょ。かわいいけど。
「じゃあルビアス様とお呼びしますね!」
「私も。そうお呼びいたします」
「君達二人が俺の従者の中で一番強いんだから、もっと気楽にしてていいのに」
「「嫌です!」」
「はぁ」
一番!?
そりゃあわたしでも一瞬で捕まるわけだ。納得。
「君は何について調べていたんだい?」
「わたしですか?」
「うん」
「騎士の死因と、犯人について、調べていました」
騎士の死因については、調査ではっきりした。
呪いと、頭部からの出血、この二つが大きな原因であった。
首にあった小さな傷は、出血の状況や傷口の状況から、物理魔術である『石弾』だと推測できた。
「死因ねぇ。それはもう判明したの?」
「はい。恐らく頭部からの多量出血です。犯人はまだ……」
「犯人はこの二人と一緒にいた男だよ。ね?」
「はい。確かにあの騎士を殺したのはあいつです」
なんだ。じゃあこれで事件解決だ。こんな形で解決するとは思わなかったけど、結果オーライだ。
「彼は今どこに?」
つまり彼は今逃走中ってことか。
犯人を見つけ出さないと本国に無事戻っても怒られてしまう。「何をしに行っていたんだ」と。
「あいつはもう死んだ。正確に言うと俺らが殺した」
「俺が命令したんだけどね」
ちょっと複雑になってきた。
計画を進めるうえで誰かしら死んでいたのだろうということはなんとなくわかった。
「まあいいや」
「俺の計画はもう成功した。その犯人とやらをどうしたいのかは知らないけど、何か手伝ってほしいことがあれば好きに言ってね」
この人結構優しいのかな。
そうだ、会った時から気になっていた事を言わなくては。
「あの、一つ質問なんですけど、いいですか?」
「もちろんさ」
なんでこの人はこんなにも澄ました顔をしているのだろう。
「いつもこの格好なんですか?」
「うん。王の前にいる時以外はね」
「え」
「そんなに驚くことかい?」
「殿、じゃなくてルビアス様。だから人と会う時はもう少し整った格好をしてくださいと言ったのに」
そんな前からこうなの? この人結構いい人なのかもしれない。
わたし結構こういう人好きかも。
「着心地の良いパジャマでいることと着心地の悪い正装でいること。君はどっちを選ぶ?」
「えっと……。わたしは基本正装でいることが多いので慣れましたけど、着心地のいい服でいたいというのはよくわかります。王様の前で正装なのであれば大きな問題にはならないと思います」
「わかってるね、君。気に入った。俺の仲間にならない?」
「ちょルビアス様! 判断が速すぎます! ていうか正装じゃないとダメなんですよ普通! こいつも別にパジャマでいて良いと言ったわけではないですよ!」
「なんだよ。そんな厳しくしなくてもいいのに……。まあさっきのは冗談。好きにしてくれていいよ」
そんなに正装が嫌いなのかな。
確かにわたしも最近やっと慣れてきたし、ルビアスさんも多分慣れるはずなんだけどな。
「誰だ!」
え、うそ。誰かいたの?全然気づかなかった。
「俺だルビアス。報告に来た。王にはもう伝えてある」
「なんだサファイオか。報告とはなんだ。早よ言え」
「俺は正装よりパジャマ派だ」
「知ってるわ! 暇なときはパジャマのまま街で食べ歩きしてるくせに今更何言ってんだ」
「それはお前もだろう」
それは報告じゃないでしょ!
「で、本題は?」
「先ほど隣国バリゾドルト王国の首都、バルファルンにて、謎の飛行物体と共に人間によく似た生物が城に攻め入った。恐らく異世界人だろう。隣国への緊急応援要請が来ている。早急に対処しなくてはならない。数十日後には百怪夜行が来るとの予測がされている。被害が大きくなる前に異世界人への対処を行い、百怪夜行に向けての対策も練らなければならない。俺等もバルファルンへ向かう。早く着替えろ」
「おけ」
返事短っ!
途中から情報が入ってこなかったけど、こういうところはしっかりしていて安心したな。
「バルファルンってわたしの家がある町なんだけ――」
「知っている。お前が連れ去られた時からずっと見張っていたぞ」
「なんでそんなところからずっとみは――」
「あとお前が水浴びしているところはじっくり見させてもらった。感謝する」
「やめてください」
あ、やっぱりここにいる人はみんな頭のネジが何本か抜けているんだ。
しかもこの人さっきからわたしが話し終わらないうちに答えちゃうから圧が怖い。
「水浴びの件は冗談だ。あんな個室にいれば流石の俺でも気づかれるに決まっているだろう。透明化しているわけではないから」
気配を消せるのかな。
すごいな、この人。
「お前あまり失礼なことを言うなよ?」
横から男が耳打ちしてきた。
「何となく雰囲気で分かりますけど、この人もルビアスさんと似たような感じですか?圧が怖いんですけど」
「この人は巷で冰の王と呼ばれている、ルビアス様と同じく世界五強のうちの一人で、王の執事だ」
「そこ! 陰口はやめなさい!」
「違います! サファイオ様の説明をしていただけで――」
「陰でコソコソしてんだから陰口なんだよ!」
「すみません!」
なんかもうコントに思えてきた。
「じゃ、俺等はバルファルンへ向かう。お前も行くぞ、そこの、えっと……、ミュラー行くぞ」
何を思い出そうとしていたのかと思ったらわたしの名前か。
って、まだここにいる人たちに名乗ってないんですけど!
まあこの人なら知っててもおかしくないかな。
「現地はかなり状況がひどい。お前の家族はもういないかもしれない。それだけは先に言っておく。行きたくないというならここにいていい。どうする」
「あ、わたしも行き――」
「わかった。付いて来い」
そういうと冰の王、サファイオさんは王国の方向(多分)を向いて、とんでもない速さで跳躍した!
と思ったのだが、なぜか頭から地面に落っこちていた。
見上げると足を掴まれ宙吊りになっていた。
「俺等はそれができるけど、ミュラーはそんな早く移動できないんだぞ。ちょっと焦りすぎだ」
「そうか。じゃあもう少しスピードを落とす」
「そういう問題じゃなくて! 陸路にしようってこと!」
「そういうことなら最初に言ってくれ、ルビー」
「お前が速すぎるんだ」
陸路だったら私も得意だし、その方がありがたいな。
「じゃあ気を取り直して、往こうか」
「おけ」
ルビアスさんはこのタイプの返事好きだなあ。
何度か付いていけず置いていかれながらも、なんとか五時間ほどでバルファルンに着いた。
最後に目にしたバルファルンの様子とは大きく違っていた。
ほとんどの家がボロボロになていた。
わたしが不在の間に、こんなに変わっていたなんて。
先ずは家に行って家族の安否を……
「ミュラー。すまない」
「お父さん!?」
目の前には父がいた。
そしてわたしに銃を向け、
放った。
耳を劈く爆音とともに、わたしは地面に倒れた。
意識が遠のいていく。
「うぅ」
声にならない呻き声が喉から漏れ出る。
そしてまた何度か、爆音が轟く。
「……っ!」
わたしは仰向けのまま血を吐き、最後の力を振り絞って助けを呼んだ。
「ルビ、ア…さん……たすけ…!」
「うっ!」
わたしはここで死ぬのかもしれない。
父の手によって殺される。
今度こそ、死ぬ。
嫌だなあ。
――おい! 起きろ!
夢かな。
聞き覚えのある声。
低くて、やわらかい声。
誰だっけ。




