↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎と氷の執事  作者: 秋那須
第三章 王国の異変
4/9

3. とある調査団員

 明け方。城壁の一角で、一人の騎士が倒れた。

 原因は不明。

 周囲に人影はなく、怪しいものも何もなかった。

 とても健康な状態だったのにも関わらず、その騎士は死んだ。

 騎士は首から少し血を流し、塀に頭を打ちつけたのか、頭からの流血で土に血を滲ませていた。


 朝、王都を散歩していたとある貴族の子供が、門の横で頭から血を流し倒れている騎士を見つけた。

 今まで見たことも無い光景に焦り、走って家に帰り父親に報告しに行った。

 他にも数人が見かけ、騒ぎが大きくなったことで調査が始まった。


 今回の調査に派遣されたうちの一人。ミュラー・レウルア。

 まだまだ若いが、一週間飲まず食わずで調べ物をするほどの狂った人材である。


 今回の調査はあまりにも奇妙だという判断だったため、他国からも調査団が数人派遣された。

 たった一人の騎士が死んだだけでこんな大騒ぎになるのにはそれなりの理由があった。

 死んだ騎士は、ただの騎士ではなかった。

 国王直属の、騎士団副団長。

 団長ほどではないが、王国の枠を超え世界でもトップに入るであろう人物であった。

 ちょうど他国で起きた魔王による事件を解決するために赴こうとしたところだったそう。

 

 彼が殺された理由はあまりはっきりと解っていない。

 しかし死因はすぐに判明した。

 呪いをかけられた跡と、それを抵抗(レジスト)した跡から、事故死ではないことが解った。

 恐らく呪いに耐えられず、転倒したときに頭を打ち付け、頭部からの大量出血が致命傷となった。


 死因が判明したのだから、もう調査をする必要はない。

 そう言って調査団はあっさり解散となった。

 しかしミュラーだけは、まだ調査を続けると言ってその場を離れなかった。

 犯人と、動機が知りたかった。

 誰が、何のために。

 なぜ副団長なのか。

 それが知りたかったのだ。


 図書館に籠り、過去の事件について調べる。

 ついでとばかりにレウルア家が載っている本を探し、また事件について調べる。

 ミュラーはいつも変わらず窓辺の席を陣取っていた。

 管理人は思ったよりもすぐに許可してくれたのだが、他の利用者に迷惑になると良くないということで、専用のブースを設けてくれた。

 そして、とても心優しいおっちゃんというイメージがミュラーからつけられた。



 ある日、気晴らしにと外を散策していたミュラーのもとに、清潔感のない少し筋肉の目立つ男と、サングラスをつけ明らかに怪しい男が近づいてきた。

 数十メートル歩いたところで、後ろから来る男二人に気づいたミュラーは急いで走り始めたがもう遅かった。

 ミュラーは馬と同じぐらいのスピードで走ることができるのだが、この男達はそれ以上に速かった。

 あっという間に追いつかれ左右から追いつめられる。

 苦無のようなものを大量に投げつけられ、逃げながらよけなくてはいけなくなった。

 苦無に集中していると、一人が急に体当たりしてきた。

 なんとか無詠唱魔法で風を起こし躱したが、それでも抵抗空しく捕まってしまった。



*



 どれぐらいの時間がたっただろうか。

 あの男たちに捕まってからの意識が無い。

 逃げ始めてから捕まるまで、本当に一瞬だった。

 顔に袋を被せられ、馬車の荷台に投げ込まれた。

 そしてそのまま座られた。

 身動きが取れず、少し動くだけで殴られ蹴られた。

 急に意識が遠のいて、わたしはしばらく寝てしまった。


 男に殴られ目を覚ました。


「おいガキ!」


 わたしのことを呼んでいるということはすぐに理解できた。

 そもそもここにいるのは三人だけだから。

 しかしまだ目的地に着いていないのか、スピードは落ちることなく馬車が走り続けている。

 動かないのにも慣れ始めたので、動かないように慎重になりながら男達の会話を盗み聞きしていた。


「このガキ動かなくなったな」

「また寝たんだろ」


 いや寝てねえし!


「このタイプの若い奴は結構売れるからな。こういうのが好きな奴もいるしとっとと売っちまおうぜ」

「確かにそうだが、こいつはそういう目的で捕まえたわけじゃないだろ?」

「そうだったな。まあ冗談だ」

「こいつは殿の計画を潰そうとしていた、不届きものだ。殺したいところだが、それは殿に任せるとしよう」


 わたしが計画を邪魔していた?

 ただ調査をしていただけなのに。

 まさかこいつら、事件の犯人だったりして……


「あの!」

「あ? 起きてたのかよ」

「おい、さっきの会話聞いてないよな?」


 聞いちゃった。やばいかな。


「ガキは寝とけ!」

「がはっ」


 痛い。なんでこいつらはすぐに殴ったり蹴ったりするんだろう。

 ちょっと声を出しただけですぐに蹴られて何も言えなかった。

 もう何を言おうとしたかわからなくなったじゃん。

 ていうか、殿って何だろう。

 聞こうと思ったけど、また声を出したら何をされるかわからない。ここは静かにしておくのが一番いいかな。

 それよりもまだ着かないの?

 寝るしかないかぁ。



「起きろ!」


 わたしは多分道の真ん中に放り投げられている。

 ちょうど背骨のところに大きめの石が当たっていてすごく痛い。


「こいつ血だらけじゃねえか。きったねぇ」

「殿に見せる前に洗うか」


 あ、わたし血出てたんだ。全然気づかなかった。何度も蹴られて殴られて、打撲痕ぐらいなら沢山あると思っていたけど、血だらけだったんだ。

 あなた達の所為だと思うんですけど?


「こっちに来い! ガキ」


 いや先ず動けるようにしてくれない?

 そしてガキ呼ばわりはやめて欲しい。

 わたしが寝ている間に身体をぐるぐる巻きにしてたのかな。

 そして随分と適当に巻かれている。

 身体に巻き付いた縄を解くのに数十分かかった。

 洗うって言っていたけど、どこで洗うんだろう。


「洗い場まで遠いし、その辺の台車使って運ぶか」


 いや洗い場って。

 その辺の台車使うのはいいけど、物みたいな扱い方されている感じがして悲しいな。


「面倒臭えな」

「ガキは体力多いだろう。歩け」


 ですよね。そうなると思ったよ。



 やっと着いた。


「よし。服を脱がせてとっとと洗え」

「了解です!」


 了解です! じゃないわ!

 物みたいに扱うのやめて欲しいんだけど?

 あとわたし女なんだけど。

 そんなすぐ脱がされちゃ恥ずかしいんですけどね。


「ちょ、まっ――」


 やっちゃったね、あんたら。


「え?」

「こいつ女?」

「さらしを巻く男がいるわけないもんな……」


 嘘だろこいつら。

 人を乱暴に扱った挙句性別を間違えるなんて。

 さらし巻いてたから胸が無いように見えたのか。


「そうだな、えっと……」


 そもそも男と間違えられるほど男前じゃないんですけど!

 確かに着ている服とか髪型とか、胸が小さいところとか、男に間違われてもまあおかしくはないけど。

 それにしても普通にショックです。


「自分で洗え」

「あ、はい」


 わたしが返事をする頃には、男達は走って逃げていた。



「いてっ」

 もー、痺れる!

 どのタイミングでできたのかわからない傷口に水が入ってすごく痛い。

 声にならない呻き声をあげながらなんとか洗い終わり、洗い場の横に落ちていた自分の服の残骸を身に纏い、さっきの男達が迎えに来るのを待っていた。

 通りがかった人が偶にお金をくれるのだが、そういうことではなく服が引き裂かれただけだし、お金はあいつらに取られるだろうから正直言っていらない。




 一時間待っても来ない。

 捨てられたのか。

 帰ろうかな。

 でもここがどこだかわからないし、この格好でうろつくのは気が引ける。


 そう思っていると見覚えのある顔の男が二人やってきた。

 わたしを攫った奴らだ。

 もう一人はどこに行ったんだろう。


「まだここにいたのか。てっきりもう逃げたかと思っていたし、そのつもりでいたのだが」

「そうだな」


 申し訳なさそうな顔をしている。

 わたしは服を脱がされたことよりも男と間違えられたことがとても悲しい。


「殿にもさっきのことは説明した。とりあえず連れて来いとのことだった」

「さっきは申し訳なかった」

「いいですよ。それより、男と間違えられたことは許しませんからね」

「変なガキだな」


 ていうかわたしガキじゃないし。


「殿って誰なんですか?」

「誰が質問していいと言った?殿っていうのは、まあ、愛称みたいなもんだ。俺らが従っている、世界五強のうちの一人で、焔の王と呼ばれている、とても強い方だ」


 答えてくれなさそうな雰囲気出しながらも答えてくれるんだね。もしかして根は優しいのかな。


「殿に迷惑かけたら殺されるかもしれねえ。勿論お前も、俺らもだ」


 どんだけ野蛮な奴なんだよ。そんなのに従ってるとか頭狂ってるんじゃ?

 仕事を失敗した奴は殺すってことね。


「あの山の頂上にある城に殿がいる」

「大きい……」

「ああそうだろう。焔の王と呼ばれる、殿に相応しい城だろ?」

「そうですね」


 そういえば、こいつら私が女だと気づいてからすごく優しくなった気がする。

 最初から女だと知っていたらどうだったんだろう。


「そういえば、もう一人はどこに?」

「ああ。あいつは、あれだ。まあ、そうだな。知らない方が良いこともこの世にはある」


 確かもう一人はわたしの服を引っぺがしたときに目の前にいた奴だった。

 何か大事な用事でもあったのかな。


 焔の王ってどんな感じなんだろう。

 無駄に大きい玉座に座った全身に鎧を纏った大男なのかな。

 魔王みたいな?

 実際にそういう人に会ったことがないから怖いな。

 今すぐ逃げ出したいけど、ここにいる三人とも殺されるっぽいし、おとなしく付いて行って、言われた事をしておけばいいか。


 わたしが考えたり怯えたり自己解決したりしてるうちに城の前に着いた。


「ここからはいつ殿が来るかわからない。注意するんだぞ」

「いつ来るかわからないって、玉座とかに座っているんじゃないんですか?」

「同じような質問をしていた部下が数人いたが、殿は国の王様ではない。昔言っていたそうだが、人々の上に立つよりも誰かを支える方が好きらしい。言っていなかったか?殿は王様の執事なのだが……」

「じゃああなた達は王様に仕えている人に仕えているんですか?」

「つまりそういうことだな」

「焔の王なんて言うから王様かと思ったじゃないですか」

「人々にそう言われているだけだ。俺らは殿と呼んでいる」


 そんなの先に言ってくれないと分からないじゃん。


 緊張するなぁ。

 どんな人だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。