1. 愉快すぎる仲間
ある日、俺は学校の帰りに商店街にやってきた。隣町の小さな商店街だ。
俺が住んでいるあの田舎とは違って人がたくさんいて、ビルが立ち並んでいる。
たまには息抜きとしてこんなとこに来るのもいいかもな。
商店街の隠れたところに占いができる場所があるらしい。例の友達が言っていた場所だ。
俺はそこを目指している。
目指しているというか、探しているんだけど。
あった。ここか。意外と広い道なんだな。
商店街といっても路地裏の向こう側だから結構怖いね。
ホラーゲームは好きだ。故に進むしかない。
どういう理屈だと訊かないでくれよ。
この店は「占いの館」という名前らしい。
どこにでもありそうな名前だ。
まああまり信じてはいないし、お遊び程度にやってやろう。
と思っていたのだが。
俺が知っている占いの店じゃない。こんなに不気味なことがあるか。
壁に飾ってある装飾品は変なオーラを放ち、その辺に置かれた剣や杖などといった武器たちは本物にしか見えない。
それにしても店主の顔がよく見えないうえに目の前には変に光る水晶玉がある。ナニコレーー。
こいつに襲われても逃げ切れる自信はある。
が、実はこの老人はとんでもない武器を隠し持っていて、逃げようとすることも許されず俺は殺されてバラバラになってしまうのではないか。俺が逃げて安心しきったところを魔法で苦しめて殺してしまうのではないか。
などと、変に不吉な妄想をしてしまった所為でちょっと不安になってきた。
てかこの店めっちゃいい匂いするんですけど。
とにかく、占ってもらってすぐ帰ろう。
なぜ占いなのかって?何となくだよ。人生はなんとなくの連続だ。
洗濯だっけ。ちげえよ選択だよ、バ――。
「はあああ」
思わずため息が出てしまった。
疲れた。何が息抜きだよ。
一通り儀式みたいなのをした後、いろいろ占った。
老人が前世を占ってみないかいなどとかぬかしてきたので、占ってもらった。俺優しい!
一通り終わったものの、全てにおいてパッとしなかった。
俺は終始真顔で後ろの装飾を眺めていたというのも、理解できていない原因の一つなんだろう。
そしてなにより金が高すぎる。今年のお年玉、どこいった?
前世は執事らしい。
正直言って本当にどうでもいいんだけど。
老人曰く、俺は人を支える仕事の方が向いているらしい。
本当に何を言っているのかわからないが、しかし言われてみればそんな気がしなくもない。
中学校の時も、部長ではなく副部長に立候補していた。部長だって決まっていないのにだ。
今だって副部長だ。まあ弓道部は女子が権力を独占しているから仕方がないというか、全然いい方だと思うんだけど。
早く帰ろう。
もう日没だ。
帰り道。
俺は田んぼに佇む不気味な人影に全く気づかなかった。気づけなかったのだ。
そのことに気づいたのはまた後の話。
この時に気づいていれば、あるいはもっと早く気づいていれば、俺はあんな目には合わなかっただろう。
……気づいた気づいたうるさいな。
*
快晴といってもいいぐらいによく晴れたある日。
つい一日前まで中学二年生の従兄妹の家に行って一緒に勉強していた。理科が苦手と聞いていたが、地学が一番苦手とのことで、全部丁寧に教えてやった。
雲量がとても懐かしく感じたので、教えておこう。2だ。「快晴じゃないだろ」というツッコミは受け付けないからな。快晴とは言っていないし。
ぼけーっと歩いていると、前から誰かが走ってきた。そのまま俺の方に突進しt
「痛っ」
痛くないよ。安心して。反射で出ただけだから。そういえば中学の理科では反射というものが……
「ごめんなさい!」
こんな女の子見たことないぞ。かわいいな。高校生には見えるが、ってよく見たら制服が違うじゃないか。
どうしたんだそんなにそわそわして。迷ったなら言えよ?優しく教えてやるから。
そうそう、反射って――
「すみません。ここどこですか?」
「どこってここは高校だぞ」
「それはわかるんですけど、なんていう高校ですか?」
この子何言ってるんだ? わかってて入ったわけじゃないのか。
ここが高校であることは人を見ればわかるだろう。
用があってきたんなら学校名ぐらいわかるんじゃないか。
「高校の名前ならちょうどここに――」
「ああ、書いてあるじゃん。あざーっす」
自己完結早いって。
「ところでなんでこんなところにいるの? この高校の制服とはずいぶんと違うみたいだけど」
「ここも随分と変わりましたねぇ」
いや何歳だよ。
ばあちゃんか。
思い出の場所に孫と一緒に来てみたおばあちゃんやないか。
「ところであなた、何者なんですか?」
失礼なことを聞いてしまっていないか心配だが、もしそうだとしても許してくれ。俺だって少し困惑しているんだよ。
「な・い・しょっ」
彼女は自分より頭一・五個分ほど背の高い男子に向かって上目づかいで口の前に人差し指を置き、一言だけそう言い放ち、その場を足早に去っていった。
かわいい。その一言だけだ。
俺はその場に固まったまま呆けていた。
ふざけんな。
転校生が来るということで、俺のクラスはとても盛り上がっている。
どんな人が来るんだろうとみんな楽しみにしているようだ。
正直、男子より女子に来てほしい。
どれだけ早くその子と仲良くなれるかが彼女作りの大事なキーになる。
あんまり期待しすぎて期待外れだったらちょとあれだな。
期待外れとか言ったらかわいそうか。
「お前ら! 自習の時間だぞ!」
「とりあえず静かにしてればいいから、勉強やらなんやらしてなさい」
「「はーい!!!」」
返事の方がうるさかったよな今。
園児みたいなこのノリ、俺結構好き。
「もう朝自習終わってんじゃねえか」
気付くの遅っ!
「じゃあ朝のホームルーム始めるぞー、席つけー」
「日直は……田平と小木だな。よろしく」
日直って二人いる意味あるのかな。これ小学生の時から思ってたんだよね。一人でも足りるのに。
「先生、今日転校生来るって聞いてるんですけど、まだですか?」
「おお! 知ってるのか。そうだな、今紹介してもらおう」
いやこれ忘れてたやつですやん。
元々今の予定だったのを忘れてたのかもな。
転校生かわいそう。期待外れだったら、とか考えてた俺が言えることではないが。
「ごめんね、白羽根さん。入って。」
すげえ珍しい苗字だな。どんな人だろう。
「失礼します」
女子の声!
待ってましたよ!
「初めまして、今日からお世話になります。白羽根癒月です」
あれこの子どこかで見た気が……。
彼女と目が合った。
おう、今めちゃくちゃこっち見て笑ってたよな? 馬鹿にすんじゃねえ!
「癒月さんは、天馬さんの後ろの席でお願いします」
「先生! ここ夕の席です!」
「ああ、そうだったな。ごめんごめん。天馬の横でいいか?」
「はい!」
はい、勝ち組、アザース。こんなにかわいい子と隣の席なんて女子からも嫉妬されてしまいそうだなぁ彼氏は俺決定なので他のやつらは俺との仲をもっと深めて余韻でも楽しんでてくださーい。
じゃなくて。あの先生、夕の存在完全に忘れていたよな。許せない。わけではないけど……幼馴染としては少し悲しい。
「どこかで会いました?」
「どこかでって、この学校で昨日会ったばっかりですよ?」
「ああ! 何者かって聞いてきた人だ!」
覚えてるのそこかよ。「ああ、あのクソ陰キャ!」とか言われなかっただけマシなのは言うまでもないか。
「朝の会終わり! お前ら一限目の準備しとけ!」
一限は体育だ。準備も何も、一限が体育の日は登校するときもジャージを着ていいことになっているので荷物持ってそのまま体育館行くだけだ。
あれ?白羽根さん制服だったよな。
「どこで着替えるの?」
「癒月ちゃん体操服持ってきてたの?」
「わたしは忘れたのにすごいなぁ」
おい。はよ教えたげて。あと忘れんなし。
それにしても女子って仲良くなるの早いよな。
笑顔とか見て敵味方判断するから。みたいなことをどっかで聞いたって誰かからか聞いた気がする。
男子はプライドとかあんのかな。知らんけど。
そんなことを考えていると、後ろから悪魔のささやきが……
「天馬ぁ」
「その呼び方やめろ。気持ち悪い」
ネチネチしすぎなんだよ。
「白羽根さんの着替えに付いて行ってあげようぜ? ほらまだ更衣室の場所とかわからないだろから。俺らが教えてあげようぜ」
「勝手にやっとけ」
「ええ~」
こいつは変態。変態って呼ぶほうが短くていい。もう本名はどうでもいい。
多分だけどこいつの場合更衣室は「行為室」になってたりするんだろうか。
「おまえな」
「あ、ごめんごめん。付いて行くだけじゃかわいそうだね。ちゃんとお着替えも手伝ってあげないと」
あ、駄目だこりゃ。
すまん癒月さん。こいつは止められない。
でもこいつは妄想がとても気持ち悪く変な方向に行きがちなんだけで行動にまで移したことは、一回しかないから。小学生の時に。
「なんでずっとこっち見てるんですか?私の身体が欲しいんですか? あげませんよ?」
はぁ。どいつもこいつも。
は?
「癒月ちゃーん! 早くしないと遅れちゃう!」
「まってー!」
そうだよ。変態と絡んでいる場合じゃない。
「おぉ!」
お前は何が「おぉ」だ。いちいちそんな反応してたらキリが無いぞ。
あと俺らも急がねえと。
女子眺めてる場合じゃない。
特にそこの、まだ制服の変態。
いつも着替える遅いだろ。




