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第9話:【義務配信】一番安全な部屋と、二十四時間のリポップ


「クソッ、本当にどこにいやがるんだあのジャージおっさんは!」

「1層の隅から隅まで探したぞ! 炊き出しの鍋も段ボールハウスも見当たらねえ!」



 新宿ダンジョンの1層では、100万円の懸賞金を目当てに集まったD〜Cランクの中堅冒険者たちが、武器を片手に苛立ちを爆発させていた。

 ソロでの適正層が、Dランクなら25層、Cランクなら75層まで挑める彼らにとって、初心者用の最弱モンスターしか出ない1層の捜索など、本来なら散歩のようなものだ。


 彼らの認識では、川野誠(38)は「1層のセーフティーエリアあたりにコソコソ隠れて、最新のAI技術で『地下都市で無双するCG動画』を偽造して配信しているイタい浮浪者」だった。

Fランクの未更新おっさんがそれより・・に下りられるはずがない。

だからこそ、1層のどこかにある安全地帯セーフティーエリアの物陰に引きこもっているはずなのに、どれだけ血眼になって探しても、おっさんの姿は塵一つ見つからないのだ。



「……まさか、2層や3層、いやもっと下のセーフティーエリアまで下りて隠れてんのか?」

「おいおい、あいつはFランクだぞ? Fランクの適正はせいぜい5層までだ。見栄を張って10層(Eランク適正)や25層(Dランク適正)のエリアに迷い込んでたら、俺たちが探す前にとっくに魔物に食われて死んでるって!」



 地上の中堅たちが「おっさんがこれ以上深いところへ行けるはずがない」と高をくくっている、まさにその瞬間。





【新宿ダンジョン・地下400層・ボス部屋】


「……よし、今日の分のレンガの焼き上がりは完璧だな。大通りの西側の壁は、これで綺麗に囲めそうだ」


 川野誠(38)は、15年かけてコツコツとレンガを積み上げて作った自宅のテラスで、出来立てのレンガを満足げに眺めていた。

 誠の配信は、地上の一部コア層から「ダンジョンすみっコぐらし」や「超ハイクオリティな街づくりクラフトゲーム動画」と呼ばれている。その名の通り、誠は誰も来ないこの地下の片隅で、自分の理想の地下都市を建築し、静かに暮らす趣味を極めていた。


 彼が拠点にしているこの広大な空間。

実は、新宿の未制覇ダンジョンにおける『第400層のボス部屋』だった。


 誠が15年前にここに住み着いてから今日まで、この場所にはただの一人も人間がやってきたことはない。そのため、誠は自身の状況を大きく勘違いしていた。

(それにしても……ここは本当に人気のない、過疎ダンジョンなんだなぁ。15年も住んでるのに、近所迷惑になるような他の探索者を一度も見かけたことがない。やっぱり家賃がタダでも、こんな寂れた地下深くまでわざわざ引っ越してくる物好きは俺くらいか)


 そもそも、自分以外の人間が「物理的に400層まで到達できない」という事実を、彼は一ミリも理解していなかった。ただただ「人気がない不人気ダンジョンでラッキー」程度に思っているのだ。

 そんなコミュ障の彼にとって、このボス部屋はこれ以上ない最高のセーフティーエリアだった。


「やっぱり、住むならボス部屋に限るよな。ここなら、うろちょろして日曜大工の邪魔をする変な雑魚モンスターが一切湧かないから、一番安全なんだよ」


 そう、ダンジョンの仕様上、ボス部屋にはその階層を支配する「ボス」以外、一切の雑魚モンスターが出現しない。静かに暮らしたい誠にとって、これほど管理が楽な部屋はなかった。


 ピキピキピキ……ッ!!!


 その時、誠の美しいレンガ通りの先、ボス部屋の出現ポイントの空間がドロリと漆黒に歪んだ。

 現れたのは400層の通常ボス――全身が青い地獄の炎で包まれた、体長10メートルを超える巨獣『蒼炎の獄狼・ハティ』。

 もしこれが地上に出現すれば、Sランクの最高峰探索者たちが数十人、命を捨てて挑んでようやく相打ちにできるかどうかという、一撃で大陸の生態系を焼き尽くすレベルの奈落の天災である。

 しかし、誠の反応は「あ、予定通りの時間だな」という極めて事務的なものだった。


「おー、よしよし。24時間経ったな。時間通りリポップ(再出現)してくれて助かるよ。ちょうど新しい家の暖炉に使う『不滅の魔石』が足りなくなるところだったんだ」


 誠は作業着のポケットから、サビ取りに使っていたミスリルの針金を無造作に取り出すと、サンダルをパタパタと鳴らしながら、せっせと獄狼へ近づいていく。


 グルゥゥゥ……ッ!?


 世界を焼き尽くすはずの天災ボスが、ジャージ姿のおっさんから放たれるデタラメな威圧感を間近で察知し、恐怖で一瞬にして硬直した。


「そこ、動くなよ。形が崩れるとドロップ品が悪くなるからな」


 トォン。


 誠がミスリル針金で、獄狼の眉間をピシッと軽く叩いた。ただそれだけ。

 しかし、誠のカンストした筋力と身体強化の極致による一撃は、獄狼の強固な絶対障壁を分子レベルで消し飛ばした。蒼炎の獄狼は悲鳴を上げることすら許されず、一瞬で光の粒子となって爆散した。戦闘時間はわずか1秒。

 床には、最高品質の『蒼炎の魔晶石』がコロンと寂しく転がっている。


「よし、これで暖炉のエネルギーはバッチリだな」


 誠は魔石を雑に拾い上げると、再びレンガ積みのクラフト作業へと戻っていった。

 誠の頭上では、国給のドローンがその「1秒のワンパン討伐」をバッチリと撮影しており、平均視聴者数【211人】の過疎チャンネルの画面には、リスナーたちののんきなコメントが流れていた。


『出た、おじさんの24時間リポップボス狩りタイムwww』

『この青い狼のグラフィック、相変わらず毛並みのフサフサ感がガチで凄い』

『おっさん、今日もクラフトの素材集めお疲れ様ー』


 地上の人間たちが「ハッタリのCGクラフト動画」だと笑っている画面の向こうで、おっさんは今日も、世界で一番安全なボス部屋(絶対不可侵域)ですみっコぐらしを大満喫しているのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


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今後とも【義務配信】をよろしくお願いいたします!

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