第十三話 広場に踊る音、大銅貨の行方
大銅貨一枚=地球のお金で例えると~約1,000円の価値♪
最初はほんの数人だった。
噴水の縁に腰掛けていた人が立ち止まって耳を澄ませる。
通り過ぎかけた旅人が音色を聴いて足を止める。
その視線の先にはウルバがヴァイオリンを弾いている。
低く落ち着いた音を紡ぐ。
……いい音だ。
深くてやわらかくて、胸の奥をそっと撫でるような旋律。
それに合わせて僕はストロークでリズムを刻む。
強すぎない。
でも世界観を表現するにはちょうどいいアクセント。
噴水の水音と混じって広場全体がひとつの楽器みたいになる。
少しずつ…少しずつ人が増えていく。
次の曲は、ふと懐かしい記憶を思い出すように…儚くて少し切なさを感じる音色をアルペジオで爪弾く。
音猫ちゃんの弦を一本ずつ、丁寧に鳴らす。
そこにウルバの哀愁漂うヴァイオリンの音色が重なる。
儚くて遠くまで響き渡る高音で奏でる旋律。
誰かが小さく息を吸ったのが分かった。
子どもが母親の手をぎゅっと握る。母親は子どもをそっと抱きしめる。
年配の男性が帽子を胸に当てて目を閉じる。
……ああ。
こういう音、この雰囲気…僕、好きだ。
旅の途中で感じてた不安も、夜の野宿からまだ少し張りつめていた気持ちも、
この音の中に少しずつ溶けていく。
何曲か演奏して空気がすっかり和らいだころ。
ウルバがちらっと僕を見る。
にやり。
あ、この感じは…。
「……いくか?」
「うん、いこ~!!」
次は、ノリのいいやつだ。
僕はリズムを一段階上げ、速いテンポでギターを鳴らす。
ジャッ、ジャッ、ジャッジャラッ!
足が自然に動くテンポ。無意識にダンスをしたくなる軽快なリズム。
ウルバのヴァイオリンも跳ねるように音を刻み始める。
誰かが手拍子を始めた。
それが波みたいに広がる。
子どもたちが踊りながらくるくる回り始める。
大人たちも笑いながら体を揺らす。
「いいぞー!」
「もう一曲!」
声が飛ぶ。
……あはは。
気づいたら僕も笑ってた。
肩の力が抜けて自然と口が開く。
「よーし、じゃあ最後いくよー!」
今なら少し分かる。
この広場がどんな音を欲しがってるか。
僕とウルバは深く考えずに即興で奏で続ける。
自分たちの心に素直に従いながらその場の雰囲気に合う音色を響かせる。
吟遊詩人の想い全てを込めて…。
――ジャーン!
最後のコードを鳴らすと拍手と歓声が、噴水の音をかき消した。
そしてヴァイオリンの旋律も寄り添うように静かに消えていく。
「よかったぜ~!!」
「お兄さんかっこいい~!」
「めっちゃよかった!」
「良い演奏ありがと~!」
「猫耳もふもふさせてくれぇ~!!」
(猫耳をもふもふ!?誰だ今言ったの!)
たくさんの感想を聞きながら僕たちはお辞儀して演奏を終えた。
話しかけてくれた人と少し会話してから別れを告げ、足元を見ると…
用意していた箱のなかにはキラキラ光る大銅貨が入っていた。
数えてみる。
……一、二、三……
「……十六枚」
「おーっ!」
ウルバが声を上げる。
「やったな、ジニ姉!」
「大満足~♪半分こだね!」
大銅貨を八枚ずつ分ける。
手のひらに乗った大銅貨が、ずっしりしてあったかい。
「よっしゃぁ~!」
ウルバが拳を突き上げる。
「酒場だ酒場!今日は宴だぁ~!」
「賛成~っ!」
気づけば僕はいつものにぎやかな調子に戻っていた。
一人旅を2ヶ月以上も続けていたからか、最近大人しい性格になってたのに今更気づく僕。
喜んでいる僕たちの姿を見て、演奏を聴いてくれていた人たちが笑っている。
あ、ちょっと恥ずかしい…。
でも少し大げさに手を振ってお辞儀する。
「ありがとー!またどこかで演奏してたら聴いてね!」
うんうん、と手を振りながら笑顔を返してくれた。
広場を離れながらウルバが僕の肩に腕を回した。
「やっぱさ」
「うん?」
「俺たち組むと強いよな」
「……ふふ、そうかもしれないね~」
否定する理由はどこにもなかった。
ウルバとなら自然とキーやリズム、演奏の流れがわかるので一緒に演奏しやすいし、なにより楽しい。
あと…弟同然な存在だから肩を組まれても嫌な気が全然しない。
(でも…ちょっとウルバチャラくなってない!?)
「チャラウルバ~!僕に気安く肩組むなぁ~!」
ふざけながら僕は組んできた腕を振りほどき、ウルバのお腹にグーで思い切りパンチをくらわす!
「うっ!マジいってぇ…」
完全に不意打ちだった僕からのボディブローにウルバが呻きながらしゃがみこむ。
あれ?思い切り殴りすぎちゃった!?
「うぅ…立てねぇ…。なんてな!ジニ姉のグーパンなんかゴブリン同然!!俺に効くわけないだろっ!」
へへへっ!とわざと不敵な笑いを浮かべながらウルバが何事もなかったかのように立ち上がり、仁王立ちする。
「なら~…これでどうだっ!」
どや顔するウルバの脇腹目掛けて勢いよく会心の一撃を放つ!
「ぐっ!!そこはっ…さすがに…!」
少し体勢を崩したけどウルバは、はっはっは~!!こんなもんじゃまだまだ効かねぇ!
そんな表情をして僕を見つめる。
「うぬぬっ…、成長したねぇウルバ」
後輩の成長ぶりになんか感動しちゃったので、ウルバの頭をわしゃわしゃ撫でまわしてあげた。
「お、おい!髪がぐしゃぐしゃになるだろ!?今日良い感じに髪型決まってたのに!」
「へっへっへ~!僕の勝ちだねっ!にげろ~!!」
「待ちやがれ!いたずら猫ぉ~!!」
僕は全速力で駆けながらウルバから逃げる。
獣人族の僕の俊敏さにさすがのウルバも追いつけず、本気の顔になりながら追いかけてくる。
「若者よぉ~まだまだだね~!これで僕の凄さがわかっ…」
そう言いかけながら僕は道端に転がっていた大きな石に足をひっかけてそのまま転んでしまう。
うぅ…、地味に痛いし精神的苦痛がすごい…。
少し涙目になって地面に手をついている僕を追い越していくウルバ。
「はっはっは~!ジニ姉安定のドジっ子だな!おっさき~ぃ!」
「なんだとぉ~!!!まてぇ~!」
僕はすぐ立ち上がり生意気なことをいうウルバを追いかける。
なんだか懐かしいやり取りに感じてすごく楽しい。
聖王都の夕暮れにふたりの笑い声が溶けていく。
――旅は楽しい。
仲間がいるとさらにすごく楽しい!
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