第十二話 黄昏川の噂と音猫ちゃん
南区に戻りあらためて散策すると、さっきよりも活気があり賑やかな場所にたどり着いた。
石畳の道の両脇には露店が並び、色とりどりの布やキラキラ光るアクセサリー、手彫りが施されたシルバー製の装身具や見たこともない形や素材の雑貨や食器が売られている。
露店で色んなものを見ていると、どうしてこんなにワクワクするんだろうね♪
「へぇ……これ、可愛いなぁ」
足を止めて可愛く絵付けされた小さな風鈴を眺めていると、ウルバが肩越しに覗き込んできた。
「ジニ姉そういうの好きだよな。音が鳴るやつ」
「うん。風が通ると精霊が可愛く話しているみたいな感じがして良くない!?」
そう答えるとウルバはくすっと笑った。
「相変わらずだなぁ。 ……ま、そこがいいんだけどさ」
露店の間を歩きながら時々立ち止まっては品物を眺め、試しに音を鳴らしたり店主と少し言葉を交わしたり。
観光客も多くて街の人たちの声も柔らかい。
聖王都ってもっと堅い場所だと思ってたけど、今は旅人に優しい空気が流れている。
「そういえばさ」
歩きながらウルバがふと思い出したように口を開いた。
「俺がこの街に来た理由、まだちゃんと話してなかったよな」
「うん。演奏のついで、って顔はしてないけど~…もしかして都会の可愛い子をナンパしに来たの?」
「うおっ!?バレてたか!って、なんでそうなるんだよ!」
ウルバは大げさなリアクションをした後、少しだけ声のトーンを落とした。
「“黄昏川”って噂、聞いたことある?」
……その言葉に僕は首を傾げた。
「黄昏川?」
「そう。 二百年くらい前から吟遊詩人とか冒険者の間で語られてる密かに有名なおとぎ話だ」
彼は歩きながらも周囲を気にして少しだけ声を潜める。
「川の水は透き通った琥珀色。川底の砂は砂金やこぶし大の宝石が普通にゴロゴロ沈んでるって話だぜ」
「えぇ……それ、本当?」
あきらかに空想上の世界にしか存在しない景色をイメージした僕は、思わず聞き返すとウルバは苦笑しながら肩をすくめた。
「さあな。実際に見たって記録が残ってるのは、たった一人」
「ひとり!?」
「探検家だよ。 黄昏川を発見したって言い残して、詳しい場所の手がかりも残してる」
ウルバは自分の顎に拳を当て、わざとらしく真剣に考えているふりをしながら…
「でもさ…その人 “もう一度行く”って言ったきり、行方不明になってるんだよな」
そう言ってウルバは前を見た。
「唯一の手がかりは、場所がリヒトニアの南東…それも幻夢の森の奥だってことだけ」
幻夢の森。
昼でも薄暗くて森の奥には凶悪な魔物が棲み、道に迷えば二度と戻れないとも言われる魔の場所。
「……危ない場所じゃん!」
「だからこそ、だろ?俺たちは未知の世界を旅して物語を紡ぐ吟遊詩人じゃないか!」
ウルバは少しだけいたずらな表情をしながら、にやりっ!と笑った。
「それに見つけたら間違いなく一生遊んで暮らせる財宝だぜ?夢…あるだろ?」
軽口みたいに言ってるけど、その目はちゃんと本気だった。
こやつ…財宝目当てだな、瞳の奥に金貨の山が見える…!
「まぁ、まだ情報集めの段階だけどな。俺も真実を曲げてつくった空想物語とか冗談半分って思ってるし」
「もし本当なら危険だけど宝探しをする価値ありそうだよね」
答えながら僕はなぜか少しだけ胸の奥がざわついているのに気づいた。
僕のしっぽは少し寒気を感じながらゆったり揺れている。
ウルバの師匠は流れの吟遊詩人。
たしか…ウルバが新米冒険者として活動していたときに出会って、二年ほどその吟遊詩人の人に演奏の仕方とか魔導楽器の使い方を教わったって言ってたっけ。
でもたった二年で魔導楽器を実戦に活かせるほどの腕前をつけるのは厳しかったし、楽器の演奏も基礎的なものだけを学んだらしい。
そんなウルバと僕が初めて出会った頃に僕たちは三年ほどの間、師匠から一緒に楽器の演奏や魔導楽器の使い方について教えてもらっていたんだ。
だから一応…ウルバは僕の後輩になり、今ではウルバも僕のことを”ジニ姉”って呼ぶようになったんだよね。
ウルバも幼い頃から冒険譚や英雄譚、おとぎ話とかがほんと好きだよねぇ、とふと当時のことを思い出した。
僕たちは本当に存在するのかわからない黄昏川についての話をしながら街を散策していると…
路地を抜けて一気に視界が広がった。
大きな噴水のある広場だった。
高い建物が視界からなくなり、壮大な青空が僕たちを迎えてくれる。
白い石で縁取られた円形の広場の中心では、水が高く噴き上がり陽の光を受けてキラキラと輝いている。
人々はベンチに腰掛け、子どもたちは噴水の周りを走り回っていた。
「いい場所だな」
僕がそう呟くとウルバがにやっと笑う。
「雰囲気抜群だな。吟遊詩人2人がこんなステージにピッタリな場所を見つけたとなれば、やることは一つだけ…だろ?」
ヴァイオリンケースを軽く叩いて僕を見る。
「久しぶりに即興やろうぜ」
「……ここで!?」
「こういう場所の方が音跳ねるから好きなんだよなぁ♪」
僕はこの広場で演奏する音色がまだ見つかっていなかったから少し迷ったけど、難しく考えないで心の赴くままに弾いてみよっ!
「そだね♪ここで演奏したら気持ちよさそう」
そう思いながらバックパックを下ろした。
中から取り出すのは使い慣れたアコースティックギター。
通称――
音猫ちゃん。
ローズウッド材で作られている焦げ茶色の指板には猫のシルエットのポジションマークがついている。
師匠からもらった愛用のギター。
僕は弦を軽く張り直して音程を調整し膝に乗せる。
ウルバも調律を終えてヴァイオリンを顎に構えた。
そして弓を弦に軽く乗せ…ゆっくりと弓を動かす。
ヴァイオリンから低く落ち着いた音色が流れ出す。
それに合わせて僕はそっとコードを鳴らした。
噴水の水音と人々のざわめきに溶けながら、ふたりの音が広場に広がっていく。
――旅はまだ始まったばかり。
この街で奏でる音を僕はきっと忘れない。
僕は思うままに弦を爪弾いた。
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