第十一話 再会の音色
街の通りを歩いていると…
ふと、風に乗って届いてきた音があった。
低くて落ち着いた音。
でも芯があって、音の奥に小さな熱を隠している綺麗な音色。
……ヴァイオリンだ。
人混みのざわめきに溶けながらも、その旋律だけははっきりと耳に残る。
自由で…少し不器用で…どこか懐かしい。
「……あれ?」
足が勝手に止まった。
この音、知ってる。
アージェントの路地裏。
森の中での焚き火のそば。
何度も一緒に音を重ねた、あの弦の鳴り方。
「……もしかして」
そう思った瞬間だった。
演奏がすっと止まる。
「ん?おぉ!?」
聞き覚えのある、やんちゃそうな声。
次の瞬間、ヴァイオリンを構えていた青年がこちらを見た。
オレンジがかった赤茶の髪を後ろで一つに結び、少し開いた襟元の七分袖シャツを着ている。
動きやすそうなロングベスト風の上着に、腰には片手剣といくつかのポーチ。
灰色の瞳が一瞬だけ細められて――
それから、ぱっ!と明るくなる。
「…ジニ姉!?」
「やっぱり…ウルバ!」
思わず声が弾んだ。
彼はヴァイオリンを抱えたまま立ち上がって肩をすくめる。
「なーんだよ、こんなとこで会うとは思わなかったぜ。リヒトニアだぞ?あの聖王都だぞ!?」
「それはこっちのセリフだよ。ウルバ来てたんだ」
「まあな。ちょっと宝探しをしようと思ってね」
軽い口調は相変わらず。
でも、その目はちゃんと周りを見ていて常に状況を把握していた。
ウルバは吟遊詩人だけど、同時に中級冒険者として各地を旅している。
演奏中に見せていた真剣な表情から、一瞬で“いつものウルバ”に戻る切り替えの早さも、懐かしい。
彼のヴァイオリンには、僕と同じくらいの大きさの火色の魔石が装着されている。
まだ新米吟遊詩人用の控えめな性能だけど弾き手の想いをちゃんと理解して音を鳴らしてくれる魔導楽器。
「いい音だったよ」
そう言うとウルバは少し照れたように鼻を鳴らす。
「お、分かる?さすがジニ姉。この街、音が多すぎてさ。負けないようにちゃんと“自分の音”出さねぇとな」
……変わってない。
自由で調子いいことばかり言っているのに、自分のやるべきことはきちんと分かってる。
最後にアージェントで出会った頃より少しだけ背が伸びて…少しだけ見た目が大人になっていた。
「ジニ姉は?その顔、ただの観光じゃねぇよな」
「うん。楽器のことでちょっとね」
「ははっ、だろーな。じゃあさ」
ウルバはケースにしまったヴァイオリンを持って楽しそうに笑った。
「せっかくだ。この街の音、一緒に歩きながら探そうぜ」
その言葉に胸の奥が少しだけ軽くなる。
……ああ。
この街で僕と歩いてくれる友達がいた。
初めて訪れた不安いっぱいの大きな街で…。
その安心さに、とても幸せを感じた。




