第十九話 罰ゲーム
ワレサールの問いに対してルナティアは自信を持って手を挙げた。
普段から魔法に対する好奇心は誰にも負けないと自負しているからだ。
だが、答えを間違えると罰ゲームを課せられると聞かされると普通の女の子らしく少しだけその自信も揺らいでいた。
「お父様から聞いた事があります。
魔臓器の機能には遺伝によるものが大きいと。
魔法も血族遺伝による精霊とのコンタクトが異なります。
魔法とはもしかして血に由来する要素が大きいのでは無いでしょうか?」
その瞬間ワレサールはルナティアに向かって拍手をした。
「まあ、しかしルナティアさんは賢い方ですね。
確かに魔法や魔臓器を語る時に遺伝や血のの要素は切っても切れない。
正解ですね。
さて、ルナティアさんが正解してしまったので、他の生徒達は全員罰ゲームを受けて貰いましょう。」
「え〜!」
クラスメイト達は大きな声を挙げた。
自分以外が罰ゲームと聞いてルナティアもキョトンとして現状把握に時間を要している。
「さて、罰ゲームはクラス全員とルナティアさんによる模擬戦をやります。
それでは、早速やりましょう。」
「え?ちょっと先生!」
ルナティアの叫びも虚しく、突拍子もないワレサールの発言によりクラスメイト達は教室を出た。
ワレサールの案内に従って男女それぞれ更衣室に入っていく。
女子更衣室には、見た事のない制服を着た数名の大人の女性がルナティア達の事を待っていた。
「あの〜、どちら様ですか?」
最初に部屋に入ったハミルが女性に声を掛けた。
「私どもは魔法研究所の職員です。
皆さんに王国より支給されたマジカルスーツの説明に参りました。」
その女性達の背後にはマネキンがあり、見た事も無いスーツが着せられている。
それを見て「何も聞いてませんが」とミネルバが前に出て発言した。
「そうなんですね。
でも、所長より今日は模擬戦で使うから用意しておくように言われていますし、おそらく今から模擬戦ではありませんか?」
クラスの女子達は皆顔を見合わせた。
「ワレサール先生は最初から模擬戦をやるつもりだったんだね。
良いわ。
やりましょう。」
颯爽とシャーリンが皆の前に出て腰に手を当ててやる気を漲らせている。
そうして、ルナティア達は研究所の職員からスーツの説明を受けた。
「なるほど。
魔法や斬撃のダメージから身を守る機能と胸のエレメンタルゲージを模擬戦に使うと簡易的なダメージを身体に与えて身体が痺れて動けなるという機能を使って勝敗を決めるわけね。」
スーツ自体にルナティアは興味津々で眺めている。
魔法化学の凄さに目を輝かせていた。
職員からルナティアはスーツを渡されると着てみる事にした。
スーツは特殊な合成合皮のようで、ルナティアの竜眼によると繊維に魔力を込めて強靭な繊維に仕上げてあるのがわかった。
竜眼は魔力を可視化出来るだけでなく、その魔力の性質や強さ弱さも見て取れる。
その他に超視力帯と呼ばれる性質の魔力筋繊維が構成されて、視力が通常の何千倍と処理能力を上げている。
それにより、物体や移動するものの動きのスピードを無視してスローになって見ることが出来る。
スーツは黒を基調として着用するとウエットスーツのように自然と身体にフィットする。
形はワンピースタイプになっていて背中にジッパーがある。
ボトムスはレギンスタイプで専用のロングブーツを着用する。
見た目は渋い黒色だが、ミニのフレアスカートが可愛いさを演出している。
女子生徒達は皆着替え終えるとその着心地を体感していた。
「このスーツ体型に合わせて伸縮するのね。
それにスカートが可愛い!」
一番早く着替えたルナティアはスーツの体感を口にした。
着替え終えると男子達も合流して全員がグランド集合した。
外ではワレサールが待ちくたびれていた。
「皆、遅いですよ。
時間がないのだから素早く行動してくださいね。」
腕組みをして踵を地面に何度も踏みつけてイライラしている様子が見て取れる。
「先生。
全員集まりました。」
ルナティアは先頭に立ってクラスメイトの点呼をとって全員が来ている事を確認した。
「罰ゲームはクラス全員対ルナティアさん一人で模擬戦をやってもらいます。
スーツの性能テストも兼ねているのでよろしくお願いします。
それとルナティアさんは手加減なくお願いしますね。
そうで無いと面白くありませんから。」
一対全員と言う特殊な模擬戦が始まろうとしている。
否応なしにもルナティアに緊張が走る。
「ルナ!手加減無しよ!」
「リン…、うん!わかった!」
魔族との戦闘でルナティアは大きく成長していた。
魔力を自由自在に操り臨戦体制に入っている。
先ずはルナティアが高速でウインドアローを連射すると、次々にクラスメイトの胸に直撃して一瞬で数十人は戦闘不能に陥った。
「うっ!」
ダメージにより地面に倒れ込んでいる。
辛うじてシャーリンやミネルバ、それに数人のクラスメイトが交わすことが出来た。
学校に来る前の朝。
この日の朝も早くから起きて禊を行い礼拝を済ませると魔法の研究に勤しんでいた。
ルナティアが気になっていたのは魔族との戦闘で魔力を推進力に変えて移動する瞬間移動の様な技である。
「あの時魔力を身体に纏わせて瞬間的な推進力を得る事が出来たわ。
どんな属性の影響も受けない単純な魔力による魔法効果。
興味深いわ。」
ルナティアは飽きる事なく数時間もの間魔力を操作して、あの日の現象を再現した。
魔法への探究心がこの日ばかりは思わぬ良い結果を生む事になる。
「ここからよ。
ミラもリンも覚悟してね。」
魔力を全身に纏わせると一瞬でミラルバの側に移動した。
そして、胸に目掛けて軽くウインドアローを放ち、同時にすぐ側に居たシャーリンにも同じ様に魔法を放った。
2人とも一瞬の事で何が起こったか分からないまま倒れ込む。
気が付けばルナティア以外のもの達は簡単に倒されてしまっていた。
「はいはい。そこまでですね。
ルナティアさんは飛び抜けて強いのが分かりました。
もう同学年の諸君らでは相手にならない様ですね…。
着替え終わったら、ルナティアさんは学校長室まで来てください。」
授業が終わって制服に着替えるとルナティアは単身校長室に赴いた。
部屋をノックして入るとラサエル校長とワレサール先生と数人の紳士な男性が2人とソファに座っていた。
「ルナティアさん。
よくいらっしゃいましたね。
どうぞ、こちらに。」
一礼をしてルナティアは数歩前に歩んだ。
「ルナティア・シルブラット。参りました。」
「どうぞ、そこに腰掛けて。」
校長は入り口に近い場所の空いているソファに座る様に促した。
「はい。失礼致します。」
何事かと不安そうな顔でルナティアは腰掛けた。
「こちらのお2人をご紹介しますね。
ラスタナル王国軍広報部隊事務官ナサルト・ラングラス殿と事務補佐官マナト・アーベン殿です。」
2人は立ち上がると一礼をした。
それに合わせてルナティアも立ち上がり一礼をする。
再びソファに座ると話が始まった。
「シルブラット公爵令嬢ルナティア・シルブラット様ですね。
ご紹介に預かりました、ナサルト・ラングラスと申します。
本日ご訪問させていただきましたのは、時読みの巫女マステーナ様より天言があり、勇者の召喚がなされる事になったのです。
それに際して陛下よりルナティア様にも立ち会う様にとの命がおりましたので、お伝えにあがりました。
まあ、どう言うことかは御察し頂けるものと思いますが、ルナティア様には明日午前10時迄にはお城に来て頂きたいとのことです。」
「承知いたしました。」
時読みの巫女による天言により、勇者召喚が成される。
ルナティアが生まれてから勇者召喚は3度目になる。
魔王の復活が近くなることで、巫女は神の言葉である天言を賜る。
神の力で異世界から勇者が召喚されてくるのだ。
だが、未だ召喚された勇者が魔王を討伐できるほどの強者だった事はなく、何らかの原因で命を落としていた。
今回で3度目の勇者召喚に当たって貴族の慣例となる持ち回り役がある。
それは勇者候補の異世界人の世話役が貴族の若い女性に与えられる。
ルナティアはこの2人が自分を訪ねてきた事で世話役の任を与えられた事を悟った。




