第十ニ話 生きる為の魔法
ハンニベルの土魔法による拘束を自らの力で打破したルナティアはこの授業の内容に驚いている。
見渡せばクラスメイトは土魔法で拘束されたままである。
とても学校の授業とは思えない光景だ。
「ルナティアよ。
見事だ。
無詠唱を獲得したようだな。
この状況を打破したのはお前が初めてだ。
先ずは生き残る為の行動が一つ取れたな。
だが、一旦拘束されたからな。
グランドは30周に負けてやる。
それと走る時に魔法を使うのは禁止だ。
己の体力だけで完走しろ。
行け!」
「はい!」
グランドに向かってルナティアは走って行った。
走りながらルナティアはハンニベルの言う生きる為の魔法について考えていた。
『先生は魔導士の弱点を教えてくれたんだ。
詠唱を封じられると何もできない。』
その事は知識としてわかっていても、実際に窮地に陥った時とでは感覚が違う。
クラスメイト達の様子も気になりながら一生懸命走り続けた。
「さあ、ルナティアは脱出したぞ。
他には居ないのか?
この状況を打破できる奴は?
シャーリン、ミラルバ、アインラット、イレーヌ、フィレネッテどうした、上位の成績者も何も出来ずに終わるのか?
授業終了まで後20分しか無いぞ。
まだ打破できる術はあるぞ。
考えろ!考えて悩んで泥臭く生きる事に拘れ!
今の状況を分析しろ!
何かあるはずだ!
考える事をやめたら死ぬぞ!」
大きな声が広々としたその場に響き渡る。
その時、ミラルバは考えていた。
『くぅ〜、力じゃ壊さない。
土魔法で拘束されてる。
土魔法は水に弱い……。』
魔法は口が封じられていて正確に詠唱出来ない。
『口が……、もしかしたら……。』ある可能性にミラルバは気が付いた。
唾液で口を塞いでいる部分だけを湿らせ始めた。
少しではあるが、口が動く程度、小さい声しか出せないが、ほんの小さなスペースを確保できた。
これなら詠唱出来る。
「荒ぶる炎よ、我に纏いて渦を巻け」
小さい声なので魔法威力は小さいが身体を炎で纏い弾けると拘束していた土魔法を跳ね飛ばした。
「はぁはぁはぁはぁ。」
息も荒く膝をついてその場にしゃがみ込んだ。
ミラルバは拘束を解いた。
「おお!
ミラルバ!
良くやった。
見事だな。」
時間はかかったが、この状況を打破したミラルバに笑顔で声をかけた。
「は、はい。
やりました。」
しゃがんでいたミラルバは立ち上がって答えた。
「詠唱出来ないと敵は油断している。
その隙をついて口の周りに詠唱出来るスペースを作り出し小声でありながら魔法を使うとは見事だ。
良いかミラルバ。
魔導士は詠唱を封じられると唯の人だ。
その状況に陥った時、どうすれば自分自身が生きられるか?
それは常に頭に置いておけ。
自分が打破出来なければ仲間が全滅という事もあり得る。
分かったか?」
「はい。
肝に銘じます。」
ハンニベルの強い意志の言葉にミラルバは姿勢を正した。
「では、お前もグランド30周だ。
ルナティア同様魔法は禁止だ。
行け!」
「はい。」
急いでグランドに向かってミラルバは走り出した。
「さあ、2人が打破したぞ。
後はどうだ?
居ないのか?
後10分しか無いぞ!」
だが、その後打破する者は現れなかった。
時間だけが虚しく過ぎ去ると終業のチャイムが鳴り響いた。
生徒達の拘束はハンニベルが杖を振ると螺旋状の土は崩れ去り全員が解放された。
「残り全員グランド50周だ!
行け!」
「はい。」
全員がグランドに向かって走り出した。
ホッとしている者、悔しそうにしている者。
様々な思いを持ちながら、グランドを走り始めた。
そうしているとルナティアは30周走り終えた。
「はぁ、はぁはぁはぁ…。」
息を切らせてかがみ込んでいる。
自分の体力のなさにも幻滅していた。
「ルナティア。
無詠唱に関して説明しておく。
イメージするだけで魔法が発動する。
詠唱を必要としないが、慣れて来ないと思う様に魔法が操れない事が多い。
それに関しては鍛錬を積んでおけ。
無詠唱スキルは珍しいスキルだけに他人からのアドバイスは期待しない方が良い。」
いつのまにかグランドにハンニベルが来ていた。
そして、ルナティアの近くに来ると走っている生徒達を見ながら説明を話している。
「はい。
ありがとうございます。
先生。
もう一つスキルを取得しているんですけど。
念熟スキルとはどう言うスキルなんでしょうか?」
走っている時に世界の声が聞こえてスキルを取得した。
「念熟スキルか。
平凡なスキルだな。
普通は経験によってスキルやステータスが覚醒したり上昇したりするものなのだが、念熟スキルがあると強く念じる事でもステータス上昇やスキル覚醒が起こりやすくなる。
だが、ただ思うだけでは何も起こらない。
強く念じる必要がある。
特に生死を分ける様な状況程覚醒しやすくなる。」
「そうなんですね。
ありがとうございます。」
「ただ、無詠唱スキルとは相性が良いとされている。
無詠唱はイメージや想像力で魔法が発動する。
念じる事とも繋がる故、取得している魔法に関しても進化しやすくなる。
覚えておくと良い。」
なるほど、上位魔法にも進化しやすくなると言う事なのだと、ルナティアは思案深く考えていた。
ルナティアはステータスを確認した。
15歳
人間族 女
ステータス 健康状態
魔力 1500万マルス
筋力 55
防御 80
魔法防御 135
知能 300
魅力 320
素早さ 170
運 110(神の加護により+120)
魔力変換率 13075マルス/秒
気力 50
スキル
無詠唱 レベル1
魔力強化 レベル5
祈り レベル6
風属性強化 レベル7
自然回復 レベル5
治癒魔法強化 レベル3
念熟 レベル1
ギフト
天真爛漫
啓示
心愛の定め
使用可能通常魔法
風属性 レベル3
使用可能高位魔法
光属性 レベル4
入学当初より数多の上昇が見える。
「ステータスが気になるか?
アドバイスするとすれば、お前は気力をもっと鍛えろ。
気力は地味なイメージがあるかもしれないが、本当に危機迫った時は気力が大きく作用する時がある。
後は魔法防御も鍛えたほうがいい。
今でも低いわけでは無いが、上がりにくい能力でもある。
魔法防御は魔法に対する抵抗力を上げる事で高く上昇し、実際に魔法によるダメージが軽減される。」
「先生。
いろいろありがとうございます。
まだまだ知らない事が多いので教えて下さい。」
「そうだな。
俺に出来る事ならば幾らでも教えてやる。」
そうして話をしていると、ミラルバやクラスメイト達がグランドを走り終えて集まってきた。
「全員集合だ。」
「はい。」
クラスメイト達もハンニベルとの実力の差をまじまじと経験させられて、一目置く様になったのか号令に対する反応も早くなっていた。
「魔法実技1限目は終わりだ。
この授業で俺が伝えたかったのは、魔導士の弱点と、これから先魔導士となり仕事とする時、今の様な場面にも遭遇するかもしれない。
俺は若くて優秀な魔導士の死を沢山見てきた。
その中で、生死を決定づけるものがある。
それは、どんな状況でも臆病である事。
これに限る。
勇敢と無謀は違う。
生き残るものの共通点は臆病な事だ。
何事にも逃げろと言う事では無い。
時には劣勢であっても戦わなくてはならない状況もある。
だが、臆病な者は考える。
どうすれば安全であるかを。
そして、ピンチの時もどうすれば良いか、常に考えろ。
そして、醜くても生きる事に貪欲になれ。
可愛い教え子達の哀れな姿は見たく無い。
その為に、俺はお前達に厳しく指導する。
覚えておけ!」
「はい!」
全員の大きな返事が響き渡る。
「直ぐに2限目に入る。
魔法は使う事で魔力が洗練されて、魔力返還率も上がってくる。
今からは力尽きるまで魔法を使い続ける。
魔力は抑えて的を狙い続けろ。
準備ができ次第行う。」
「はい!」
元気な返事と共に魔法実技2限目が開始された。
ファイアーボール、エアーカッター、ロックブラスト、ウォーターショットあらゆる属性の基礎となる魔法を魔力制御しながら使い続けると言う過酷なメニューだ。
次から次へと生徒達は魔力が低下して座り込んだ。
その度、ハンニベルは休憩させて回復したら魔法実技を行わせた。
その中でもルナティアは休む事なく打ち続けていた。
無尽蔵の魔力が他を圧倒しているのは皆が理解できた。




