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蒼の錬金術師~底辺生活の少年が【超越の錬金術】で人生逆転し、最強へと至るまで~  作者: 字書きサバ/Saba can
第1章 一輪の妖精少女

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第32話 意外な収穫

(……カッ……きろ……ルカッ!)

「……はっ⁉︎ 風狼……」


 風狼の肉球と、揺さぶるような呼び声によって、次第に意識が戻ってくる。


 身体中を包む冷たい感触が、鮮明な記憶を呼び起こした。


「気絶しちゃったか……そうだっ! あの竜はッ⁉︎」

(……どうやら、生き絶えたようだぞ……)


 風狼の目配せを受け、ルーカスもそちらに視線を向ける。


 黒鉄竜は瞳を閉じ、ぐったりと倒れ伏していた。


 金属音はおろか、微かな鼻息すら聞こえてこない。


 その姿には、もはや生命の気配など微塵もなかった。

 

 まるで、荘厳に鎮座する、黒鉄のオブジェのようだった。


(……もっとも、最後まで牙を剥けてきたのは度肝を抜かれたがな……)

「僕が気絶している間に、何があったの……?」

(迫り来る電撃を捌いていたら、最期の“閃雷”を放とうとしてきた。流石の我も、冷や汗が止まらなかったぞ……下手にその場から動くこともできなかったからな)

「最後の……閃雷?」

(うむ。断末魔の代わりとでも言うべきか……気絶したルカを守りながら、我は奴の攻撃を凌いでいた。だが、奴は最後の力を振り絞って、あの雷を放とうとしてきたのだ)


 風狼は苦々しげに語る。

 

(我も渾身の咆哮で迎え撃ち、どうにか“閃雷”の軌道を逸らした。……正直、あれ以上の余力があったなら、我もルカも死んでいただろう)

「……そこまで……」


 ルーカスは改めて、倒れ伏した黒鉄竜へ視線を向けた。


 既に息絶えている。


 それでも——最後の最後まで、己の縄張りを侵す者へ牙を剥き続けた。


 その姿には、奇妙な畏敬すら覚えた。


(それにしても、まさか地面を凍らせて電撃を弾くとは……見事な策だった)

「咄嗟に思いついたんだよ。磁鉄鉱は急激に冷やすと電気を通しづらくなるって、聞いたことがあったから」


 もっとも、ルーカスも詳しい理屈まで知っているわけではない。工房仕事の中で教わった、あくまでも断片的な知識だ。


「だけど……“閃雷”はまともに受けていたら、防御のしようがなかったと思う。仮に、僕が《聖盾》を展開できたとしても、貫通されてたよ……きっと」

(そうか。それと、その“閃雷”なのだが……どうやら、雷を纏わせて礫を放つものだったようだ)

「……そうなの?」

(うむ。あの壁に埋まった、光る石だ)


 風狼の視線を、ルーカスも追う。その先には、黒鉄の壁を赤熱させながら、蒼白く光る鉱石の塊が突き刺さっていた。


「つぶ……て? 岩でしょ……どう見ても」

(……言われてみれば、そうだな。うむ……)


 黒鉄竜からすれば石ころのようなもの。


 それを、あれほどの超高速で撃ち出す。


 改めて考えてみれば——奴の脅威はやはり底知れない。


 そんな相手に、力不足ながらよく勝てたものだと、ルーカスは今更ながら実感した。


「それにしても……やっぱり。あの鉱石、灯りと全く同じだ」

(なるほど……だたの灯りではなかったということか)


 違いがあるとすれば、撃ち出された直後は強く発光し、微かに電気を帯びていたことくらいだ。


 恐らく、あの鉱石には電気を蓄える性質がある。


「……ってことは」


 ルーカスの視線が、ゆっくりと黒鉄竜へ向いた。鋭い爪。巨大な翼。全身を覆う、黒鉄の外殻。


 どれも、これまで見てきた素材とは比べ物にならない。


「……風狼。少し時間をくれない?」

(むっ? 何をするつもりだ?)

「この竜の素材を使って、装備を強化するんだ」

(……先を急がねば、間に合わなくなるぞ)

「わかってる。だけど、この先もさっきみたいな足止めを喰らうかもしれないでしょ」


 ルーカスは、黒鉄竜の亡骸を見つめる。


 この身体には散々苦しめられた。同時に、地上の魔物とは明らかに格が違うことも思い知らされた。


 だからこそ思うのだ。


「念入りに準備しておくに越したことはないと思うんだ」

(……できるだけ、手早く済ませることだ。我もこんなところで長居などしたくない)

「もちろん、そうするよ……準備ができたら、すぐに出発しよう」


 錬金短剣を片手に、ルーカスは亡骸の元へと向かう。


 目的のために、生存競争を勝ち抜く。


 それが、この迷宮の理なのだった。


------


 ひと通り準備を終えたルーカスたちは、本格的に迷宮探索を再開した。 


 それからの探索は、拍子抜けするほど順調だった。


 道中、数々の魔物が立ちはだかってきたものの、黒鉄竜ほどの強敵はいない。ほどんどは風狼が吹き飛ばし、ルーカスはその補助に回る。


 時折、消耗した魔力を回復させる程度。戦闘でのルーカスの役割は、これまで以上に小さくなっていた。


 だが、それでいい。


 一つ一つの攻撃手段が消耗品であるルーカスにとって、無駄な戦闘を避けられるのは好都合だった。


 魔力と素材を温存できる。風狼に戦闘を任せるこの役割分担は、むしろ理想的だった。


 本命は、“シルヴィの救出”。


 今は余計な消耗を避けながら、ただ前へ進む。


 もっとも、走りっぱなしというわけにもいかない。主戦力の風狼の体力を回復させるため、道中で見つけた住居跡を利用し、適度に休憩を挟みながら探索を続けていた。


(ルカ。コイツを調理してくれないか?)

「……なにそれ……デカい……鳥?」

(たぶん“バジリスク”だな。ほれ、大蛇の尾を持ち合わせているだろう?)


 風狼が咥えてきたのは、毒々しい色彩の大型怪鳥だった。腹が減ったらしく、通りかかったついでに狩ってきたらしい。

 

(羽毛と皮さえ剥がしてしまえば、いい食い物になるのでな。ルカもどうだ? 食べるか?)

「……いらない。っていうか、毒とかあるんじゃないのかな……?」

(あるにはあるが……血抜きをして火で炙れば問題なかろう。その昔、血抜きして生で喰ったことがあるが、大変美味だったぞ? それに、毒への耐性を付けられるやもしれん)

「……それでも、僕は食べなくていい」


 ルーカスはジト目で、冷ややかにそう言った。


 百歩譲って、風狼ならまだいい。特殊な体質によって、毒への耐性をつけられるという合理的なメリットがある。


 だが、ルーカスは人間だ。毒に侵されるリスクを冒してまで食べる理由はない。解毒剤があったとしても、バジリスクの血肉に含まれる毒に効く保証はない。


 というか——いかにも「毒でーす‼︎」と主張しているものを、わざわざ口に入れようと思うだろうか。


 ……悪食もいいところだ。


(そうか……ならば仕方がない。だが、肉は焼いてくれ)

「はぁ……わかったよ。焼けばいいんでしょ……」

(はは、かたじけない。礼と言ってはなんだが、バジリスクの素材はルカに譲ろう)

「あ、ありがとう……」


 貴重な素材を貰えるというのに、このときばかりは嬉しさも半減していた。


(よーしっ! 我が下部たちよ! 下処理にかかれーっ!)

「キャンキャンキャンッ!」

「キャーンッ!」


 風狼の使い魔たちが一斉に群がり、バジリスクの皮を剥ぎ、羽毛を毟っていく。その凄まじい手際を見ていると、改めて使い魔の凶暴さがひしひしと伝わってくる。


「……内臓、取り出さないの?」

(当然だろう。むしろ内臓こそ珍味よ。あの苦みと、舌に残るピリつきがまたクセになるのだ〜)

「へ、へぇ〜……」


 流石は経験者。毒物に慣れすぎて、バジリスク程度では何とも思わないらしい。


 以前、バーンの実で激辛の味付けにした肉を「美味い」と平然と食べていたくらいだ。今さら驚くことでもない。


 ……とはいえ、やはり内臓まで食べるのは理解できない。


 そんなルーカスをよそに、解体はあっという間に終わった。


 その後、ルーカスは頼まれた通りに肉に火をかけ、香ばしいローストバジリスクを作り上げた。


「……匂いで魔物が寄ってこないかな?」

(心配いらん。周辺は我が“威圧”をかけておる。そう近づいてくる奴などおらん)

「へぇ〜。やっぱり風狼は敵なしだね……」

(伊達に【守護者】をしているわけではないのでな)


 長年培ってきた実力は、迷宮の生態系にも通用するらしい。迷宮探索においては、実に頼もしい存在だ。


 ……悪食に目を瞑れば、の話なのだが。


(それにしても、また錬金術で作業していたのか。相変わらず仕事熱心だな)

「ちょっと調べたいことがあったからね。特に、あの竜の外殻とか。装備を作ったはいいけど、性質まではよくわからなかったし」

(ほう。それで、何かわかったのか?)

「うん。色々わかったよ……」


 そう言って、ルーカスは黒鉄竜の鱗を一枚取り出した。


「まず、戦ったときに感じた錬金術への抵抗。あれは、単一の鉱物じゃなかったんだ」


 竜鱗を指先でなぞりながら、ルーカスは続ける。


「いくつかの金属が混ざった合金だった。たぶん、結合の強さや色合いからして、鉄と炭化タングステンが主要成分だと思う」


 黒鉄竜の外殻が異様な硬さを誇っていた理由。それが、ようやく見えてきた。


 そして、もう一つ。


「だけど……この鉱石はね、高温にすると硬くなって、逆に冷やせば脆くなるみたいだ」

(そうか……ん? ということは……)

 

 風狼も、ようやく気づいたらしい。


 ルーカスは苦笑を浮かべた。


「そう……氷結剣を使っていれば、もっと楽に勝てたんだよ」

(ふむ……思わぬ弱点だったというわけか……)


 見た目だけでは、何もわからない。


 少なくとも、黒鉄竜に関してはそうだった。迷宮という魔境では、地上での常識をそのまま持ち込むべきではないらしい。


「だけど、思わぬ収穫だったよ。性質さえ分かれば、後は錬金術師の領分。風狼が狩りに行っていた間に、装備は新調済みだよ」

(はは、準備は万全といったところか。だが、休息は必要だぞ。なんせ、今回の作戦はルカの魔道具が要となる)

「そうだね。けど、僕としては先を急ぎたい……」


 事は一刻を争う。


 シルヴィの自我が残っているうちに、何とかしなくてはならない。


(そうだな……では、我の背で運んでいこうか。その間に、仮眠をとっておけ)

「それはありがたいね。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

(もっとも、寝てる暇があるかどうか怪しいがなっ! ははは!)

「せめて、振り落とさないでくれよ……」


 そんなやり取りを交わし、二人は準備を終えると探索を再開した。


 風狼の背に乗っての移動は、驚くほど快適だった。


 階層を進むにつれて魔物も強くなっていったが、風狼の爪にかかれば敵ではない。立ちはだかる魔物を次々と蹴散らしながら、迷宮の奥へと突き進んでいく。


 さらに使い魔たち周囲の探索へ向かわせることで、迷路のような構造も難なく突破していった。


 その結果、仮眠を取る暇さえないほどの速度で探索は進み、ついに目的地に続く階段へと辿り着いた。


(……ふむ。使い魔の目で確認した場所だ。この階段を降りた先が、魔女の根城だ)

「この下で……間違いないの……?」

(ああ、相違ない。なんせ魔力の波長も……あの忌々しい女のものだからな……!)


 風狼の声色には、明確な怒りが滲んでいた。


 忘れもしない。同胞を無惨な亡骸に変え、あまつさえ森の安寧さえも脅かした、あの魔女。


 積み重なった怒りも、同胞への無念も、すべてぶつける時が来たのだ。


「あの魔女を倒して……シルヴィを助けるっ!」


 二人は決意を胸に、暗闇の階段を下りていく。 

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