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蒼の錬金術師~底辺生活の少年が【超越の錬金術】で人生逆転し、最強へと至るまで~  作者: 字書きサバ/Saba can
第1章 一輪の妖精少女

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第28話 出立のとき

 翌朝。


 ルーカスは朝食を済ませ、帰り支度を整えていた。


 何から何まで世話になりっぱなしというのも気が引ける。そこで、せめてものお礼にとパン作りを買って出た。錬金術を応用してふかふかに焼き上げたパンを振る舞うと、二人は嬉しそうに頬張ってくれた。


 そして、荷物をまとめて玄関の前に立つ。


「お世話になりました。おかげで、すっかり回復しましたよ」

「それなら良かった。困ったときには、またおいで」

「ふふ、ルカ君ったら、他人行儀なんだから」


 マリンは快い笑みを浮かべる。


「それと……これ。昨日、整備した魔道具よ!」

「ありがとうございます。使わせてもらいます」

「だけど……条件があるわ」

「えっと……条件、ですか?」


 ルーカスは身構えた。


 何せ特殊な魔道具だ。相当な金額を要求されるのかもしれない。


 だが、マリンが口にした条件は——


「必ず生きて戻ってくること。これだけは絶対に約束してちょうだい」


 アクアマリンを彷彿とさせる瞳が、強く煌めく。その光に魅せられながら、ルーカスは思った。


 ——やっぱり、マリンさんらしいや。


「わかりました。必ず生きて、また来ますよ」

「約束だからね! なんとしてでも生き抜いて!」


 いつの間にか、マリンの目元は赤みを帯びていた。


「そんな……なにも泣くことは——」


 ルーカスは、そこで言葉を止める。


 以前にも、彼女は言っていた。


 ——生命なんて容易く消えてしまう。


 その言葉の重みが、今なら少しだけ分かる気がした。


「泣かなくてもいいですよ。僕だって、死ぬに死ねない事情があるんですから。それに、最近になって、また目的ができたんです」


 それが、ルーカスなりの精一杯の言葉だった。


 そこへ、アベルがキリッと笑みを浮かべる。


「……ルーカス君。応援しているよ」

「はいっ!」

 

 別れを告げ、ルーカスは背を向ける。


 来たる時に備え、彼は再び歩き出した。


------

 

 「……」


 宿屋の一室で、ルーカスは慎重に《錬金術》を操っていた。


 本日の作業は、魔道具の整備と魔力の充填。


 先の妖花の魔女(アルラウネ)との戦闘では、かなりの消耗を強いられた。錬金短剣は刃こぼれこそないものの、刻まれた魔法陣が摩耗している。《聖盾》のペンダントも同様だ。


 特に《聖盾》は重要な命綱。いざというときに結界が使えなければ、それこそ生死に直結する。


「……よし。これで完了。あとは投げナイフと、電撃石(サンダーストーン)くらいかな」


 投擲武器もかなり消耗していた。せっかくなので、今回は改良も兼ねて増産するつもりだ。


 材料には、ゼルドア工房から譲り受けた廃材を使う。


 武器や防具に加工する際に出る鉄屑などは、普通なら処分されるものだ。だが、錬金術師であるルーカスにとっては立派な資源だった。


 不純物が混じっていても、《錬金術》で取り除けばいい。


 ジールたちも処分に困っていたらしく、ルーカスが引き取ることになった。おかげで材料費を大幅に抑えられる。


 何しろ市場で一から調達すれば、それなりの金額になる。生活が苦しいルーカスにとって、決して安い出費ではない。


「取り敢えず、こんなものかな」


 完成した装備を、一つずつ収納具へ収めていく。準備は着々と進んでいた。


 一通り作業を終えたルーカスは、揃えた装備を見渡して、ふと思う。


「ん〜。本当は中級魔法が使える魔道具にしたいんだけどなぁ……」


 ルーカスが作る魔道具は、基本的に初級魔法の魔法陣しか使われていない。


 理由は単純。小型の武器に刻めるほど、魔法陣が小さいからだ。


 魔法陣は、術式を記した魔力の回路。魔法の階級が上がるほど術式は複雑になり、それに伴って魔法陣も大きくなる。


 初級なら、印鑑ほどの大きさでも十分だ。


 しかし、中級ともなれば、そうはいかない。


 術式の文字列が増えることで、魔法陣は初級の十倍近くにまで膨れ上がる。必然的に、それを刻む器も大きくなってしまう。


 冒険者などが扱う大型の魔法武器などが、その代表例だ。


「小型化できれば、もっと便利なんだけど……」


 初級魔法陣なら、魔石や魔物由来の素材を使った染料で魔力の反応を高め、出力を底上げすることもできる。


 ただし、そのぶん魔素反応が強くなり、魔法陣の摩耗も激しくなる。


 便利ではあるが、長期運用には向かない。


「……やっぱり、今の僕じゃこれが限界か」


 限界があるなら、発想と環境で補う。それがルーカス流の戦い方だ。今は、そうするしかない。


「錬金釜と……一応、軽く食料も用意しておいたけど……」


 もしかしたら、思わぬ事態で長丁場になるかもしれない。何かと便利な錬金釜に、数日分の保存食。持っていくに越したことはない。


 だが、荷物を見直していたルーカスは、ふと眉をひそめた。


「この干し肉……大丈夫かな」


 腹持ちのいい保存食ではある。けれど、干し肉は匂いが強い。


 魔女だけ相手にするつもりが、余計な魔獣を誘き寄せてしまったら厄介だ。


「……干し肉はやめて、ビスケットにしようか」

(——お肉、持ってかないの?)

「うん、そうしようと思って——えっ?」

(ん?)


 突然、頭の中に幼い声が響いた。


 ルーカスは思わず言葉を止める。

 

 咄嗟に辺りを見回すと、そこにいたのは——ふわりと宙に浮かぶ子犬の精霊だった。


「うわっ⁉︎ い、いつの間に!」

(うん。だってさっき来たばっかりだもん)


 到着したばかりとはいえ、まるで気配を感じなかった。にもかかわらず、本人は何食わぬ顔でふわふわと浮かんでいる。


「き、君はたしか……風狼の使い魔か!」

(そうだよ! 主様にね、ルカお兄ちゃんを連れてこいって言われたんだ!)


 そういえば、風狼は魔女の居場所を突き止めると言っていた。


 使い魔がやって来たということは——ついに、見つけたのだ。


「そっか。遠かっただろうに、ありがとうね」

(えへへ〜。頑張ったよ〜!)


 相変わらず愛くるしい反応をする子犬だ。


 けれど、そう言いながらも、視線はちゃっかり干し肉へ向いている。


「……君、ひょっとして干し肉が欲しいの?」

(うん!)

「……一枚だけだよ」

(わーい! やったー!)


 使い魔は嬉々として、その場で干し肉に食らいついた。小さな口で、硬い肉をはむはむと噛む姿もまた可愛らしい。


「さて……そうと決まれば、僕も行こうか」


 準備した道具類を背負子にまとめる。《浄化魔法》の魔道具と、傷薬をはじめとする薬類。短剣のホルダーよし。ポーチもよし。不足はない。


 荷物を持って、ルーカスは部屋を出ようとした。


(待って! せっかくだから、僕が送ってくよ!)

「えっ? 送るってどうやって?」

(それはね〜……風で飛ばすの!)


 なるほど、風の精霊らしい送り方だ。


 だが、無邪気な顔をしているだけに、少し嫌な予感もする。


「飛ばすって言っても……この部屋ごと吹き飛ばさないでね?」

(ふっふっふ。大丈夫だよ。やり方は主様に教わってるんだ!)

「それなら……お願いしようかな」


 それを聞いて、ルーカスは少し安心した。


 風狼のことだ。人間相手に、そう乱暴な飛ばし方はさせないだろう。


 とはいえ、念のために窓の外へ出ておく。幸い一階なので、外へ出るのも容易だった。


(それじゃいくよ? まずは〜、まん丸の風を起こして〜)

「おっ? おぉ〜!」


 ルーカスを包み込むように、球状の風が巻き起こる。途端に、身体がふわりと宙へ浮かんだ。背負子の重さすら感じない。


「すごい……!」


 風の力に感心していると、使い魔が元気よく声を上げた。


(それで〜……ヒュー! って飛ばすの! せーのっ‼︎)


「なるほど。これなら意外と安全に——」


 その瞬間。


 ゴッ‼︎


(ガオォォォォォッ‼︎)


 使い魔の咆哮とともに、旋風が巻き起こる。


「うわぁぁぁぁぁッ⁉︎」


 これには思わず絶叫。ルーカスの身体は、天高く吹き飛ばされた。


 目の前の景色が目まぐるしく流れていく。風の膜が身体を包んでいるおかげで、なんとか意識は保っているものの、風を切る轟音が耳を劈く。


 青空に大きな放物線を描きながら、ルーカスはそのまま森へと飛んでいくのだった。

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