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蒼の錬金術師~底辺生活の少年が【超越の錬金術】で人生逆転し、最強へと至るまで~  作者: 字書きサバ/Saba can
第1章 一輪の妖精少女

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第20話 ざわめく心

「えっ……離れろって……」

「私を誤魔化せると思った? その子、アルラウネでしょ?」

「……」

「隠さないで」

「……そうですけど」

「やっぱり……」


 冷ややかで、少しだけ怒気を孕んだ声色が、ルーカスの耳を劈く。あまりにも衝撃的で頭が真っ白になりそうだった。こんなにも神妙な顔つきのマリンは見たことがなかったからだ。


「で、でも……彼女は傷を治してくれたんだ。命だって助けてもらった……」

「それでも、信用しちゃダメ。年長者として、今のルカ君の状況を見過ごすわけにはいかないわ」


 ルーカスの反論は呆気なく力を失った。借金に追われ、先の未来を描き難い人生の中で見つけた、刺激的な日々。


 その色彩が、音を立てて崩れていく気がした。


「どうして……信用しちゃいけないんですか……」

「その子が魔物であることに変わりはないからよ」


 青い瞳がルーカスに突き刺さる。海のような瞳は、冷たさの中に仄かな優しさが滲んでいる。本気でルーカスを心配しているのだと、懸命に訴えている目だった。


「……私が冒険者だった頃にね、パーティーに傷ついたサラマンダーを助けた男の子がいたの。最初はとても懐いていて、危険だなんて思わなかったわ……」


 マリンが何を言おうとしているのか。察してしまったルーカスは思わず息を呑んだ。


「ッ! まさか!」

「そうよ。すっかり回復したサラマンダーは——彼を食い殺したのよ。人間なんて、魔物からすれば所詮はただの魔力が豊富な肉塊。こっちが愛情を注いでも、食い物にされるのよ」


 残酷な記憶だった。


「もちろん、今回のその子に悪意があるかなんてわからないわ。だけど……万が一、ということもあるのよ」

「……」

 

 いつの間にか、ルーカスは黙って拳を握りしめていた。今まで過ごしてきた時間の意味を否定された気分だった。


「ルカ君……私だって意地悪で言ってるんじゃないのよ。曖昧かもしれないけど……嫌な予感がするのよ」

「嫌な予感ですか……?」


 ルーカスがそう聞き返すと、マリンは短く頷く。


「ここ最近、狂爪大熊(マッドグリズリー)みたいな凶暴な魔物が目撃されてるでしょ。あくまでも推測なんだけど……何かただならぬ事が起ころうとしている前兆なのかもしれないわ」

「それって……」


 そういえば、風狼も同じようなことを言っていた。狂爪大熊が何者かに住処を追われたから、普段はいないはずの区域にいるのだと。


 よもや、シルヴィが関係しているというのだろうか。


「だけど、風狼は繋がりを感じられないって言っていたんです。群れる魔物には特有の魔力の繋がりがあって、それでリーダーが支配してるって……」

「そうなの? それは初耳だわ」

「でしたら——」


 ——関係ないのではないか、とルーカスは言いかけるが、マリンは遮って言葉を続けた。


「でも、それだけじゃわからないわ。敢えて切り離して泳がせてるって可能性もあるもの」

「それは流石に考えすぎじゃ……」

「そうかもしれないわ。……私だって外れていてほしいと思ってる。だけどね、魔物っていうのは狡猾な生き物なのよ」


 生き残るために学習し、考え、時には人間さえ利用する。


 “魔物絡みは先が読めない” 


 ——だからこそ、深入りし過ぎてはいけない。


「……わかりました。少なくとも、危ないと感じたら離れるようにします」


 どこか心にモヤを残しつつも、マリンの言葉を受け取ることにしたルーカス。だが、彼を見送るマリンの瞳には、拭いきれない憂いが宿っていた。


「私としては、ルカ君がこれ以上危険な目に遭ってほしくないわ」

「大丈夫ですよ。危機管理には自信があるので……」

「自信があるとか…そういう話でなんとかなるものじゃないのよッ! 下手をすれば——容易く生命なんて消えてしまうもの……」

 

 マリンの言葉の一つ一つが重く、痛かった。口で並べるのはおろか、思い出すだけでも吐き気がするような、辛い記憶。その記憶が繰り返され、また大切な人を呑み込むのではないかという不安が、彼女の胸の内に浮かび上がってきたのだろう。


「ッ! ご、ごめんね……ルカ君。ちょっとだけ熱くなっちゃったわ……」

「……いえ、僕も迂闊でした。マリンさんのお言葉はごもっともです」


 人の命は儚い。狂爪大熊の大技が迫った瞬間の光景が脳裏をよぎる。あの時、ほんの少し運が悪ければ、自分はここにいなかった。


 この世界は、常に死と隣り合わせなのだ。


「せめて、死なないよう抗いますよ。それじゃ、僕はこれで失礼します。また、来週も来ますよ」

「ルカ君……」

「心配しないでください。いつもの注文、持ってきますよ」


 ルーカスは空になった背負子を背負い、店を後にした。


(それに……今のままじゃ、終われない。僕には、やるべきことが残っている)


 振り返ると、マリンはまだ店先に立っていた。


 その視線を背中に受けながら、ルーカスは歩き出す。

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