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蒼の錬金術師~底辺生活の少年が【超越の錬金術】で人生逆転し、最強へと至るまで~  作者: 字書きサバ/Saba can
第1章 一輪の妖精少女

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第14話 木陰で交流タイム

「うわ〜……髪ボサボサ……傷もすごいし」

「毛を全部千切られるかと思ったよ……」


 時刻は昼頃。木陰の下でルーカスたちは休息を取っていた。もっとも、髪が悲惨なことになっているので、昼食は後回しだ。おまけに身体中に打撲痕もできている。


「ごめんねシルヴィ。回復魔術使ってもらっちゃって……」

「……魔力制御の良い練習になるから、別にいいけど……」


 そんなルーカスの身体を労わるように、シルヴィは【癒しの雫(ヒーリング)】で治療をしていた。


「体力には自信があったんだけどなぁ……」

(いや、基礎的な体力は十分だ。足りんのは狩場での経験と視野の広さだな)


 そう言いながら、風狼はゆったりと寄ってきた。


(髪を千切られる恐怖に囚われて周りが見えておらんかっただろう。戦場は、ことに森は周りにも危険が潜んでいる)

「は、はい。警戒心がまだ足りていませんでした」

(うむ。そういうことだ)


 まだまだ未熟だな。ルーカスは悔しさに顔を歪ませた。だが、風狼は彼に寄り添うように、一言付け加える。


(もっとも、それは獣も同じこと。視野が狭まれば気づける危険も見逃してしまうものだ)


 その一言に、ルーカスはハッと気づきを得た。


「つまり、冷静な対処を心がければ、相手よりも優位に立てるってことですか?」

(その通りだ。それゆえ周りを把握し、不意打ちを仕掛けることができれば、勝利に近づく)


 風狼は「良い気づきだ」と言わんばかりに微笑む。


(まぁ、感覚の話だからな。まずは基礎的な能力を底上げすることが最優先だ)

「そうですね。精進します!」


 何事も数の積み重ねだ。余裕を持つためにも、まずは基礎を固めなければいけない。錬金術の習熟もそうだった。


 幼い頃から、既にやってきた道筋だ。ならば、この先もきっと乗り越えていけるだろう。


「はい、治ったよ」


 シルヴィの声に、ルーカスははっと顔を上げた。


「ありがとうシルヴィ」

「お礼なんて……いいよ」


 患部の赤みは綺麗に消えた。代わりに、シルヴィの頬が赤くなった。


(ルーカス。我は腹が減ったぞ。約束通り辛い肉を作ってくれ)


 と、風狼が首を突っ込んできた。良い感じ? の雰囲気だったというのに台無しである。


 だが、お腹が空いたのは二人も同じだった。


「いいけど、お肉持ってきてないよ?」

「バーンの実の用意も時間かかるし……」


 調味料はシルヴィが用意してくれれば、後は錬金術でなんとかなる。問題は、風狼が満足できる量の肉が準備できていないことだ。街の肉屋を回って持ってくるのは嵩張るし、そもそもそんな量を買うお金がなかった。


 だが、心配はいらないと言わんばかりに、風狼は口角を上げた。


(はは、肉は我の方で調達済みだ。ほれ、飯がやってきたぞ)


 風狼が視線を向けた先。何かが猛スピードで迫ってきていた。


 発達した毛皮に身を包んだ、大牙を持つ魔獣——


「まさか……大牙猪(ファングボア)⁉︎」

「えっ、なにその強そうな魔物⁉︎」


 名前だけは聞いたことがある。森の奥地を生息域とする屈強な魔物だ。よもや、風狼は挑発して呼び寄せたうえで、爪の一太刀で斬り伏せるとでも言うのか。


 だが、少し奇妙な点があった。


 その大牙猪は足を動かしておらず、そして目が虚だった。


 では、どうやってこちらに向かって来ているのか?


 謎の答えは、聞き覚えのある声ではっきりした。


「「「「キャン!キャン! キャ〜ン‼︎」」」」

「アイツらかっ‼︎」


 ルーカスにトラウマを植え付けた、あの子狼たちだ。風の使い魔らしく、連携の取れた軽快な走りっぷりで運んできた。


(よし、宙に上げろぉ‼︎)


 風狼の命令に従って、「キャンッ‼︎」と子狼たちが大猪を突き上げる。


 そして、風狼は宙を舞いながら鋭利な爪で大猪を切り裂いた。次の瞬間には、獲物は骨まで断たれ、数枚の分厚い肉塊となって地に落ちていった。ご丁寧に毛皮まで剥がされている。


(ふむ。こんなところか。どうだルーカス。この量ならば、皆でたらふく食えるだろう?)

「あ、ありがとう……」

(はは! では早速、我の分を用意してくれ! とびきりデカいのを三枚! 無論、辛味を付けてな!)


 豪快に笑う風狼に、ルーカスはつい苦笑いしてしまう。それは、食欲に対するものではない。


 バーンの実はもちろん食用にできるが、小さじ一杯分でも十分な辛味付けになる。それを巨大な肉に満遍なく塗るとなると、どれだけの量を使うことになるのか。


(たしか、大熊に使った粉末の辛味油はバーンの実二個分………うっ)


 確実に“致死量”になる。想像するだけでも悍ましい。


 そして、もう一つ懸念点があった。どうやらシルヴィも同じことを考えていたようで、ルーカスの耳元で小声で呟いた。


「ねぇ、ルーカス……魔物のお肉って食べても大丈夫なの?」

「血抜きはされてるみたいだから、食べられるはず……だよ」


 魔物の血肉は、人間にとって毒物となるのが大半である。取り込んだ魔素による肉質の変化が激しいからだ。


 もちろん、変質の程度が弱い魔物はすれば食べられる魔物もいる。しかし、大牙猪の例は聞いたことがない。


(よく焼けばいけそうか……いや、強い魔物は魔素濃縮で毒性が抜けなさそうだな……)


 たとえ血抜きされ、中までしっかり火を通しても、安全性が確保されるのか……


 かといって、風狼の粋な計らいを無碍にはできなさそうだ。ルーカスは悩んだ末、最悪死ぬことのないように解毒剤も用意しようと決めた。


「と、取り敢えず、調理を始めようか」


 目の前に積まれた肉に目を向けながら、ルーカスは調理器具を準備するのだった。



-----



(ふぅ〜、食った食った! 大熊よりも食べ応えがあったぞ! 馳走になったな、ルーカス!)

「辛かったけど……元気が出る味だった」

「それはどうも。口にあったなら良かったよ」


 冷水を啜りながら、ルーカスはそう返事を返した。


 結局、風狼の分の猪肉にはバーンの実を二つ使って辛味を加えた。最初こそ口から火を吐きそうな勢いで舌の痛みを訴えてきたものの、「この味がクセになるのだ!」などと言いながら、どんどん胃に収めていった。


 一方で、ルーカスたちはサンドイッチにして頂いた。即席の窯で焼いたパンに、スライストマト、レタス、熱々の猪肉を数枚挟んだ逸品だ。


 なお、安全性の懸念は杞憂に終わった。十分な血抜きと加熱のおかげだ。さらにニンニクを擦り込んだことで、味も絶品に仕上がっていた。


(それにしても驚いたぞ。よもや錬金術でパンとやらを作るとは)

「私も、錬金術でパンを作れるなんて思わなかった」

「料理は錬金術に通じるからね。野営のときに役立つんだ」


 パン生地は錬金術で発酵させた。錬金術で酵母の代謝を促進させ、本来なら数時間かかる発酵時間を二十分まで短縮したのだ。


(ほう。やはりルーカスは我の知る錬金術師とはかけ離れているな。錬金術師はアトリエにこもって研究に打ち込むものとばかり思っていた)

「あながち間違いじゃありませんけど、それはもう昔の風習ですよ。今は現場仕事と並行しながら研究する人も増えているんです」


 歴史的に見れば、風狼の思い描く錬金術師の像はもう百数十年前のものだ。かつての錬金術師は生活技術の昇華のみならず、哲学を含めた思想家であった。


 しかし、そこから「経験を通じて真理を知るのだ!」という——いわば「経験論」思想が風靡し、学術職だけでなく現場派の錬金術師も生まれていった。


 もっとも、ルーカスがこの歴史を知るようになったのは、つい最近になってからのことだ。


「僕は……研究職とかじゃないし、そんな気高い考えに触発されて錬金術師になったわけじゃないけどね」

「じゃあ、どうして錬金術師になったの……?」


 シルヴィは首を傾げながら、ルーカスを見つめた。そんな彼女の言葉に、ルーカスはただ一言、こう返した。


「それはね……大切な思い出があるからなんだ」

「思い出?」


 ルーカスは短く頷く。そして、荷物から一冊の古本を取り出して、空を見上げた。


「そう。僕の——両親との思い出さ」


 微風が、最初の一ページをめくった。

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