表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異星旅行  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

沈黙職人


 僕の仕事は、沈黙を作ることだ。

 正確には、「完璧な沈黙の部屋」を設計し、施工する。


 一切の音が入らない。

 一切の音が出ない。


 究極の静寂空間。


 それが、僕の商品だ。


◆◆◆


 最初の客は、会社員の男性だった。


「毎日、騒音に悩まされているんです。電車、工事、人の声……もう、うんざりで」

 男性は、疲れた顔で言った。


「静かな場所が、欲しいんです」

「かしこまりました」


 僕は、設計図を描いた。

 防音材、吸音材、二重壁、特殊ガラス。

 あらゆる技術を使って、完璧な沈黙の部屋を作った。


◆◆◆


 一週間後、部屋が完成した。


 男性は、喜んで使い始めた。

 最初の数日は、満足そうだった。


 でも——

 一ヶ月後、連絡が来た。


「すみません……やっぱり、少し音が欲しいです」

「音、ですか」

「はい。完全な無音だと……逆に、気になって。もう少し、何か……川のせせらぎとか」


 僕は、頷いた。


 結局、男性の部屋には小さなスピーカーが設置された。

 微かな自然音が、流れるようになった。


◆◆◆


 二人目の客は、作家の女性だった。


「執筆に集中したいんです。でも、家はうるさくて」

「完璧な沈黙の部屋、いかがですか?」

「それです! それが欲しいんです!」


 女性は、目を輝かせた。


◆◆◆


 部屋が完成し、女性は使い始めた。


 でも——

 二週間後、連絡が来た。


「静かすぎて……書けないんです」


 女性は、困った顔をした。


「なんだか、自分の呼吸音が気になって。心臓の音も聞こえるし……」

「そうですか」

「カフェくらいの雑音が、ちょうどいいかもしれません」


 結局、女性の部屋にも音が追加された。


◆◆◆


 三人目の客は、老人だった。


「年を取ると、耳が敏感になってね。小さな音も、気になるんだ」

「完璧な沈黙の部屋なら、何も聞こえませんよ」

「それが欲しい」


 老人は、静かに言った。


◆◆◆


 部屋が完成し、老人は使い始めた。


 でも——

 数日後、老人から電話があった。


「やっぱり……少し音があった方がいいよ」

「寂しいですか?」

「ああ。音がないと、生きている感じがしない」


 老人の部屋にも、鳥のさえずりが追加された。


◆◆◆


 それから、何人もの客が来た。

 みんな、完璧な沈黙を求める。


 でも——

 みんな、結局は音を追加してほしいと頼んでくる。


 人間は、完全な沈黙には耐えられないのだ。


 適度な音。

 それが、人間には必要だった。


◆◆◆


 ある日、施工中にトラブルがあった。


 客が、現場に立ち会っていた。

 僕は、いつものようにイヤホンをして作業をしていた。


 その時——

 工具に引っかかって、イヤホンが外れた。


 瞬間、爆音が響いた。


 ヘビーメタルの轟音。


 客は、驚いて僕を見た。


「え……今の音……」

「あ、すみません」


 僕は、慌ててイヤホンを拾った。


「いつも、音楽を聴きながら作業してるんです」

「爆音ですね……」

「はい」


 僕は、少し恥ずかしそうに言った。


「静かだと、落ち着かないんです」


 客は、呆れたように笑った。


「沈黙を作る職人なのに?」

「はい。皮肉ですよね」


 僕も、笑った。


◆◆◆


 仕事が終わった後、僕は自分の部屋に戻る。


 僕の部屋も——

 完璧な防音室だ。


 自分で設計し、施工した。

 外には、一切音が漏れない。


 だから——

 僕は、爆音で音楽を聴く。


 ヘビーメタル、ロック、パンク。


 耳が痛くなるくらいの、爆音。

 壁が震えるくらいの、音量。


 でも、外には聞こえない。

 完璧な防音だから。


 僕は、沈黙を作る職人。


 でも——誰よりも、音を愛している。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ