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第64章:王、起つ


あらゆる紛争、あらゆる喧騒や戦いから遠く離れた場所――。そこは「黄衣の王」の王国でも、あの擬似劇場の空間でもないようだった。古いレコードプレーヤーがジャズのメロディを奏でているようなその孤立した空間で、一人の男が椅子に腰掛け、本らしきもののページをめくっていた。そしてもう一人、細身ながらも威圧感のある体格をした高身長の男がいた。その男は短い髪、瞳孔が細い十字を成す二つの白い眼、そして額に小さな一本の角を持っており、部屋の中をせわしなく行き来していた。やがて、その角の男が声を荒らげた。


「ここに閉じこもって、もう何年になると思っている! 私は心配なのだ! あの無数の地鳴りが聞こえなかったのか!? あれがシグナルなのか!?」


椅子の後ろにいる男が、冷静に返した。


「いや、まだだ……。ああーっ! なんで俺は本なんて読んでるんだ? 読書は大嫌いなのに!」


もう一人の男が言い返した。


「だが、一体いつになったら動くのだ!? なぜこれほど長く待つ!? もし奴らに……もし奴らの身に、何かしらの不幸が起きていたらどうする!」


椅子に座っていた男が立ち上がり、応じた。


「お前は忘れたのか、俺が国家の第一級公敵エネミー・ナンバーワンだってことを。それに……あれからもう、12年以上が経っているんだ……」


***


時を同じくして、王国の全土を統べる王が鎮座する、「オブリビオン・ハリー」の城にて――。


ドクターは、オブリビオン・ハリーの城の深奥へと足を踏み入れていた。


そこには静寂が支配していた。


あまりにも広大なその静寂は、音という概念そのものを呑み込んでしまったかのようだった。


回廊は見渡す限りの彼方へと延びている。


天井は数百メートルも上方の、深い闇の中に消えていた。


ところどころ、虚空に吊るされた巨大なシャンデリアが、宮殿の規格外な建築構造を微かに照らし出している。


そこで燃えている炎は、黄色かった。


奇妙な黄色。


あまりにも生々しく。


あまりにも鋭くこちらを注視しているかのような。


ドクターは歩みを進めた。


彼のブーツの音が、完璧に磨き上げられた黒大理石の床に響き渡る。


しかし、足元に映る鏡面のような影は、必ずしも彼の動きを正確に再現してはいなかった。


時折、その影の動きは一瞬遅れることがあった。


時折、影はわずかに首を巡らせた。


まるで、何か別のものを見つめているかのように。


まるで、誰かを観察しているかのように。


ドクターは歩調を緩めなかった。


彼はとうの昔に、この種の超常現象に気を留めることをやめていた。


前方に、巨大なアーチが現れた。


それは、ひとつの山がその空洞を通り抜けられるほどに巨大だった。


通路の両脇には、巨大な彫像が立ち並んでいる。


それらの顔面は、意図的に打ち砕かれていた。


残されているのは、その「笑み」だけだった。


石に刻まれ、固定された、不気味な巨なる笑み。


ドクターはアーチを通り抜けた。


その先には、さらに広大な大広間が広がっていた。


壁一面を何千もの絵画が埋め尽くしている。


何一つとして同じ場面を描いたものはなかった。


それなのに、すべての絵が同じ物語を語っているようだった。


玉座に腰掛ける、一人の王の物語を。


常に同じ王であり。


常に異なる王。


ある絵の中では王冠を戴き。


ある絵の中では仮面をつけ。


またある絵の中では、もはや人間の姿すら留めていなかった。


ドクターは視線を逸らした。


これほどの年月を経てもなお、これらの絵画を長く見つめすぎることは悪手であり続けた。


彼は先へ進んだ。


階段。


連絡通路。


宙に浮かぶ回廊。


その建築はあらゆる論理を拒絶していた。


時として、ドクターはより上方の階層にたどり着くために、階段を下りなければならなかった。


またある時は、より下方の階層へ行くために、何段もの階段を上る必要があった。


空間がそれ自体の中に折りたたまれているかのようだった。


まるで城そのものが、世界の通常の法則に従うことを拒んでいるかのように。


それでも、ドクターは行く手を完璧に把握していた。


彼の思考は別の場所にあった。


アビサエル。


ジョイ。


ミラリン。


ダンテ。


フェンリル。


異常アノマリーが乗算的に増殖している。


何かが近づいている。


彼の本能が、ここ数日ずっとそう叫び続けていた。


そして、彼は足を止めた。


眼前に、一つの扉がそびえ立っていた。


いや。


それは扉の姿に擬態した「断崖絶壁」だった。


あまりにも高くそびえ立ち、その扉の対となる重厚な扉板は、天井の闇の中へと消え去っていた。


その表面は、蠢く何千もの彫刻で覆い尽くされている。


王たち。


怪物たち。


星々。


大海原。


見知らぬ無数の顔。


それら全体が、まるで扉自体が呼吸しているかのように、ゆっくりと蠢いていた。


ドクターは冷たい金属に手を触れた。


地響きが城全体を駆け巡った。


扉板が開き始める。


ゆっくりと。


あまりにもゆっくりと。


まるで神格がその瞼をうっすらと開けるかのように。


その隙間から、黄色の光が漏れ出してきた。


ドクターは即座に「それ」の気配を察知した。


この圧倒的な圧力。


この歓喜。


この狂気じみた多幸感。


それはいつも以上に強烈だった。


そしてそれは、決して安心できるものではなかった。


ドクターは目を細め、


そして、敷居を跨いだ。


病的な黄色の光が、玉座の間を包み込んでいく……。


あまりにも広大で、入り口の扉からその玉座の間には、何キロメートルもの距離があるように感じられた。


床は、反射を映さない水面へと置き換えられたかのようだった。


遥か彼方に、それぞれが王冠を戴いた人間の頭蓋骨で形成されているかのような、巨大な玉座が見えた……。


だが、最も凄まじいのはそんなことではなかった。


ドクターにはよく分かっていた……。


彼を恐怖させているのは、決して敵の存在などではない……。


実のところ、この「王」の不安定な挙動こそが、彼を何よりも恐怖させているのだ……。


王はそこに、玉座に腰掛けていた。


ドクターが近づいていく。


一歩一歩、段階的に。


ドクター:「頭が……割れるように痛む……。機能を果たすべきあの装置は一体どこへ……」


その時、彼は上方に、ヴァサールたちが集うはずの球体を見上げた。それはほとんど損壊しかかっており、同じ言葉を繰り返し叫んでいた。


『――ストレージが限界に達しました……緊急事態……ストレージが限界に達しました……』


ドクター:「これまでの、すべての努力が……」


ドクターはさらに近づき、ある一定の距離まで達したその時、異常なことに、ついに王のシルエットがその全貌を現した……。


長い腰布。城全体を包み込めるほどに長い。


その腰布は黄色い色彩を放ち、その異形の怪物を覆い隠して、ほとんど何も外に見せてはいなかった。


???:「ドクター……」


ドクター:「は……はい!」


その時、玉座の間に笑い声が響き渡った。


ドクター:「ご心配には及びません! 我が王よ!」


彼はさらに距離を縮めるために駆け寄り、王の数メートル手前まで近づいた。


ドクター:「状況は完全にコントロール下にあります! どうか、冷静にお狂いなく……」


???:「お前たちが何年もの間、これらすべての凶行を働くのを、なぜ私が黙認していたか分かるかね? なぜ私が、あの球体に自身のエネルギーを吸収されることを受け入れていたか分かるかね? なぜ私が、これほど長い間、ここに沈黙して座り続けていたか分かるかね?」


王が、立ち上がった。


彼は一歩、また一歩と歩んだ。


その隙間から垣間見える足は、不気味なほどに輝く白さをしていた。


彼は近づき、ドクターの目の前に立ちはだかった……。


ドクターは決して小柄ではない、それどころか大柄な部類だ。


かなり高身長と言える。


それなのに、王の体躯は彼の二倍はあった。


巨人のような筋肉質な体型ではない、ただ常軌を逸した規格外の身長だった。


***


再び、先ほどの二人の男がいる部屋へと場面が戻る。


角を持つ男:


「おい……。俺たちは一体いつになったら行動を起こすのだ?」


もう一人の男はため息をひとつついてから、言葉を返した。


「お前は知っているか? なぜあの『黄衣の王』が、ここ数年の間、あれほど上の空で存在感を消しているように見えたのかを……」


角を持つ男:


「また何を言い出すのだ……」


もう一人の男:


「奴はこれまでの何年もの間、自身の身体をほとんど休止状態インエールに保ちながら、その『意識』を放射し、拡張し続けていたのさ。空間のすべての繊維の上、あらゆる隅々、あらゆる地域、あらゆる領土を奴の精神が捜索し、いくつかの次元にまで自らを投影していた……。幸いにもこの次元には届いていないが、それでもここから奴の気配を感じ取ることができる。そのせいで、時々眠れなくなるくらいさ……。なぜ、これほどの執念を燃やすか分かるか?」


***


同時刻、玉座の間にて、王は歓喜に満ちた様子で言い放った。


???:「もはや、ダンテを探す必要はなくなった……」


***


再び、あの部屋の中――。


男が言った。


「ビンゴだ!」


角を持つ男が言い返した。


「しかし、理解できん……。なぜもう探す必要がないのだ?」


男は振り返り、言った。


「運命が、ついに動き始めたからさ。もはやどの勢力も、現状維持のまま静止していることはできない……。それに、お前のガキどものことなら、必ず見つかるさ。――ダンテの名に懸けてな。ただ辛抱強く待て、ドーラン……」


男が歩き出そうとしたその時、バキッと鈍い骨の音が響いた。


ダンテ:「あたたたっ! 俺の腰が……!」


_______________


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




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お手数おかけしますが、よろしくお願いします。

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