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第63話:不穏な閃光


かつて美しかったドリーム・デザートの群島の残骸の上で、二人の神秘的な存在による避けられぬ戦いが繰り広げられていた。アビサエルは警戒を怠らず戦闘態勢をとっていたが、対する敵はどこか不真面目で、ひらひらと飛び跳ねるように動き回っていた。


アビサエル:「何だと……」


男は動きを止め、口を開いた。


赤衣の男:「……いやはや、私としたことがうっかりしていた。事を構える前に自己紹介をするべきだったね。私の名前はジョイ……ミラクル・ジョイ。シンプルにジョイと呼んでおくれ!」


アビサエルはそんな言葉に耳も貸さず、指先で空間を削り取り始めた。それはまるで、卵の殻を剥き取るかのような手つきだった。


ジョイ:「それで、君の名前は……いや、待った! ハハハハ! 君が誰だか私はもう知っているよ!」


アビサエルは気に留めることもなく、空間を切り裂く作業を続けた。


ジョイ:「君はアビサエル。君こそが『ポータル』であり、私たちの行く手を阻む唯一の、本当の障害だ……」


アビサエルの腕の周囲の空間が完全に粉砕された。彼はそこへ手を突っ込み、すぐさま人面のついた干からびた樹木のようなものを引き抜いた。


アビサエル:「ビンゴだ」


その人面が大きく口を開けた。


ジョイは外套の中に手を入れ、懐中時計を取り出した。


怪物の口から、何千もの小さな刺が猛烈な速度で放たれた。


アビサエル:「その刺には毒がある。かすりでもすれば、奴は即死だ」


ジョイは懐中時計のボタンを押し、呟いた。


ジョイ:「ストップ」


世界が静止した。

毒の刺は空中に静止したまま浮かんでいた。

舞い上がる埃も、落ちるのを止めた。

風さえもが消失していた。

アビサエルの目が驚愕に見開かれる。

アビサエル:「……一体、何をした?」


ジョイ:「戦いをそんな風に始めてはいけないよ。まずはコイントスから始めなくては」


アビサエル:「何……!?」


ジョイ:「よし、私は表を選ぶ。だから君は自動的に裏だ」


ジョイがコインを投げ上げ、それが宙に舞った瞬間、彼の姿が消えた。


アビサエル:「なっ……!?」


彼はアビサエルの目の前に現れていた。固く握られたその拳の後ろには、虹色の光の軌跡がうっすらと見えた。


ジョイ:「しかし、コイントスの最中に攻撃してはならないというルールもないのさ」


凄まじい極彩色の光が周囲を包み込んだ。


その一撃だけで、地面に巨大なクレーターが形成された。しかし驚くべきことに、立ち込める土煙が晴れると、アビサエルは何の傷もなくそこに立ち尽くしていた。


ジョイは後退し、落ちてくる前にコインを受け止めた。


アビサエルの周囲の空間が砕け散り、一種の輪のような形を成していた。そこにはただ虚無だけが見えていたが、次第に一つの巨大なリングが這い出てきた。その周囲には、無数の「目」が配置されていた。


目に彩られた巨大なリングは、死のような静寂の中で脈打ち、アビサエルの背後に浮かんでいた。それを囲む異次元の虚無はドリーム・デザートの地面を侵食し、砂を無へと変えてゆく。


アビサエル:「戦闘を長引かせるのは本当に好まない……。終わりにしよう」


アビサエルは鋭い動作で、自身の影の中に直接両手を突き入れた。布地を引き裂くような鈍い音が響き、空間が引き裂かれる。


突如として、空が完全に暗転した。常軌を逸したスケールの巨体が、次元の裂け目から這い出し始めた。それは、一つの国に匹敵するほどの大きさを持つ巨鯨だった。その腹部は、伸縮する恐竜のような巨大な脚によって支えられていた。その生物の質量だけで、周囲の重力が歪み始めていた。


その下方に、浮遊する巨大な亀の群れが現れた。彼らの甲羅からは濃密な黒い煙が立ち上り、大気を汚染していく。


アビサエル:「踏み潰せ」


巨鯨はその爬虫類めいた脚を一本、地面に向けて振り下ろした。その巨躯の下降によって引き起こされた風圧だけで、下方にあった瓦礫の山々は粉砕され始めた。群島の全領土が、純粋な圧力によって地図から消し去られようとしていた。


ジョイの顔から笑みが消えた。その視線は固定され、まるで硝子のようだった。この生物学的な黙示録を前にして、彼は両腕を広げた。


ジョイ:「スペクトラム・ディストーション(光彩歪曲)」


彼の身体から噴き出した虹は、およそ陽気なものとはかけ離れていた。それは網膜を焼き尽くすかのような、過飽和で、滲み、震える色彩の奔流だった。その光が通り抜けるすべての場所で、空間の幾何学が不気味に歪み、視覚的な吐き気を催させた。


ジョイは文字通り虚空を歩き、その背後に砕けた硝子のように凝固する色彩の架け橋を残していった。彼は手を鋭く振り、その歪んだ色彩の光線を巨獣の脚へと放った。


――パリィン!


虹の光に触れた瞬間、巨鯨の肉体はピクセル化し始め、不規則な色彩の立方体へと変異していった。アビサエルが召喚した生物の有機物は汚染され、何十億もの色彩の破片へと砕け散る不活性な幾何学的質量へと変えられた。この崩壊の衝撃は衝撃波を走らせ、ドリーム・デザートを数十キロメートルにわたって薙ぎ払い、あらゆる地形を消滅させた。


最初の召喚獣を失ったにもかかわらず、アビサエルは動じることなく再び両手を合わせた。彼の前方の空間が卵の殻のようにひび割れ、その新たな裂け目から、顔の造形が純粋な苦悶の表情で凝固した人面の「スフィンクス」が姿を現した。


スフィンクスは口を開き、ジョイの光の障壁を打ち砕く鋭い咆哮を放った。同時に、アビサエルの浮遊する亀たちが黒煙を突き抜けて急降下し、ジョイを包囲して反転重力の圧力で圧殺しようとした。


衣服を引き裂かれ、サイケデリックな反射のオーラに満たされたジョイは、スフィンクスを見上げた。彼の仮面が、その禍々しい力の光を反射していた。


ジョイ:「見事な百獣の王だ……。だが、君の怪物たちには決定的に『色彩』が欠けているね」


ジョイは拒絶の動作とともに、懐中時計を握りしめた。亀たちとスフィンクスの存在によってすでに変質していた空全体が、突如として巨大な虹色の格子状の線によって仕切られた。


アビサエル:『奇妙だ、これほど法外な能力……。奴は「虚無の使徒」なのか? いや……意識が明晰すぎる。ならば、上位の存在エンティティか? いや……奴の内に依然として王の「アニマ」を感じる。間違いなく、一筋縄ではいかない強敵だ……』


それはもはや光ではなく、大気を捕らえる色彩の監獄であり、耐え難い緊張の中で全てを爆発させようとしていた。


衝撃によって生じた砂嵐が晴れると、アビサエルの身体を覆っていた外套は引き裂かれ、その仮面にはかすり傷がついていた。そこから、彼女の女性らしいシルエットが露わになった。


ジョイ:「おやまあ。お転婆さんだね、君が女性だなんて聞いていなかったよ……」


アビサエル(当惑と怒りを同時に滲ませて):「それがどうしたというの!」


ジョイ:「君は知らないんだよ、アビサエル。ドクターが何も分かっていないということをね……」


アビサエル:「その名を口にすることは許さない……」


ジョイ:「彼は自分が君を送り出すことで、どれほどの泥沼を招いたか分かっていないんだ……。いや、現実的に言えば、彼は君がどれほど重要な存在であるかさえ理解していないのさ」


***


暗い部屋の中――。


ドクター:「この騒がしさは一体何事だ……!? アビサエルが苦戦しているというのか? 馬鹿げている……」


その時、突如として壁から一つの顔が突き出た。


ヨリン:「アビサエルが、自分に見合った好敵手を見つけたようですよ、これは……」


ドクター:「ちょうどいいところに来た」


ヨリン:「アビサエルに加勢しに行くべきですか?」


ドクター:「いや……。それよりも、お前は中央劇場の近くに留まっていろ。何かが来ようとしている……私の本能がそう叫んでいるのだ」


ヨリン:「御意に、ヴァサール……」


ドクター:「我々が対峙すべき敵は、ダンテだけではないようだな……。ミラリン……。私は王の元へ行ってくる」


***


我らが仲間たちの側――。彼らは依然として、地面に閉ざされた門を開けようとしていた。


アラタ:「エファのことが心配だな……」


ハスター(エビを口に咥えたまま):「心配ないって。エファはすごく強いよ、それはこれまでに何度も証明されてるじゃないか」


ラスタバン(ステーキを呑み込みながら):「ああ、そいつの言う通りだ……」


ハーヴェイ:「お前たち、いい加減にドカ食いをやめないか!」


アラタ:「あ、そっか、確かに……。俺たちの分も少し残しておいてくれよ!」


ハーヴェイ:「お前たちは全員、救いようがないな……」


その時、一人のフードをかぶった女性が、ハスターの耳元で密かに何かを囁いた。ハスターは即座に身震いし、それからだらしなく笑い始めた。


ハスター:「いひひひ」


アラタ:「ん?」


注目を集めてしまったことに気づいたその若い女性は、極度の恥ずかしさから両手で顔を覆ってしまった。彼女は非常に内気なようだった。


もう一人の女性が彼女に近づき、肩を叩いて言った。


女性:「ジュナが言いたかったのは、あれほど激しい戦闘の後には、少しの休息が必要だということです……。もしよろしければ……私たちが、簡単なマッサ……」


アラタが遮るように言った。


アラタ:「はい!!!」


女性は驚いて言った。


女性:「でも、まだ最後まで言っていな……」


アラタ:「はい!」


涙を浮かべながら、アラタ、ハスター、ラスタバンの三人は叫んだ。


三人:「男には、決して逃してはならない好機があるのだ!!!」


ラスタバン(涙を流しながら二人の戦友を抱きしめて):「我が兄弟たちよ……ついに俺たちの旅はここで終わる。俺たちはついに理想郷ユートピアを見つけたんだ」


ハスター(涙を止めどなく流しながら):「ついに僕たちも、この童貞からおさらばできるんだね……」


アラタ:「兄弟たちよ、行こう。運命が俺たちを待っている」


しかしその瞬間、彼らの足元が氷によって凍りつき、身動きが取れなくなった。


ハーヴェイ:「お前たちはそこにいろ」


三人の男は、悲観的で失望した様子で声を揃えた。


三人:「そん telephone……(ええーっ……)」


ハーヴェイ:「それから、そこの婆さん、頼むからあんたの娘たちを抑えてくれ」


長老:「私は婆さんではない、無礼な若造め。それに、この子たちのせいではないわ。理解してやりなさい、彼女たちが人間のオスを見るのはこれが初めてなのだから」


アラタ:「ハーヴェイ……お前、ずいぶん心配そうだな」


ハーヴェイ:「当然だろ! エファが消えたんだぞ、俺が焦らないとでも思ったか!? ……聞いてくれ、これは俺にとって極めて重要なことなんだ……お前たちに話しておきたい」


そうして、ハーヴェイは彼らに自身の過酷な幼少期、フェンリルとの生活、実の姉との戦い、そして何が彼を変えたのかをすべて語り聞かせた。


アラタ・サクライの目から涙が溢れ出た。


アラタ:「うわあ……! 素晴らしいよ。なぁ、お前……自分の過去を元にライトノベルを書くべきだよ」


ラスタバンがアラタの頭を小突いた。


ラスタバン:「馬鹿野郎、今そんな話をしてる場合か」


ハーヴェイ:「……これが全てだ。実を言うと、俺たちが地上にいた時、何かが俺を呼んでいるように感じたんだ。その声はフェンリルに酷似していた。だが今にして思えば、あの呼び声は俺に向けられたものではなかったのかもしれない。呼ばれていたのは、エファだったのかも……」


ハスター:「でも、どうして彼女が?」


ラスタバン:「確かにそうだな。ダンテの鳥、そして今度はフェンリル……。これだけのことが重なるのは、多すぎる……」


ハーヴェイ:「エファとは、一体何者なんだ?」


***


その下方のエファの側――。


フェンリルは、次第に狭くなっていくトンネルの中を、ますます速度を上げて走り続けていた。


***


同時刻、ジョイとアビサエルの側――。


アビサエル:「……一体、何を言っているの?」


ジョイ:「君はとても重要なんだ。そして、そのことを君自身さえも分かっていない……アビサエル……」


***


同時刻――。


フェンリルはさらに速度を加速させていた。


ジョイ:「アビサエル、現実として、君自身が『門』なのだよ」


フェンリルが加速する。エファの瞳の光彩が、一種の無限(∞)の記号を形成し始めていた。


アビサエルは困惑したまま、硬直していた。


ジョイ:「厳密に言えばもっと複雑さ。君は大雑把に言えば『均衡バランス』の最も純粋な具現化だ。異なる宇宙の領地間の門を閉じ、維持しているのは君なのだからね」


アビサエル:「……ならばお前の論理に従うなら、お前はその均衡を破壊するために私を排除したいというわけか」


ジョイ:「私がかい!? まさか、私にはそんなことは不可能だよ」


フェンリルはさらに加速する。


ジョイ:「私はそれほど強力な存在ではないのさ、どう見てもね」


アビサエル:「では、この戦いの目的は何?」


ジョイ:「私は彼女のために、時間を稼いでいるだけさ」


アビサエル:「彼女……?」


フェンリルはさらに加速し、ついにトンネルの終点である、閉ざされた一つの『門』が見えてきた。


ジョイ:「間もなく生まれ来る、彼女のために……」


フェンリルが猛烈な勢いでその門へと接近する。


ジョイ:「世界の均衡を、永遠に打ち砕く彼女のために……」


強力な一撃とともに、フェンリルはその門を粉砕した――。


その瞬間、アビサエルの身体が激しくよろめいた。血が大量に吹き出し、彼女の仮面は半分ほどに砕け散った。


***


ドクターの側――。彼は王が鎮座する玉座の間へと到着していた。重苦しい気配を感じ、彼は激しい眩暈を覚えていた。


ドクター:「本日は随分とご機嫌のようですな、我が王よ……」


そして、彼は胸の内で思考を巡らせた。

『これは、私が考えていたよりも遥かに不穏な事態だ……』

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