第61章:ツェッペリンの上の怠惰
しばらくの沈黙の後、ハーヴェイが口を開いた。
ハーヴェイ:「クソッ! 奴らを追わなきゃならねえ!」
アラタ:「今、何が起きたんだ……? あれってエファだったのか?」
長老:「……」
ハーヴェイ:「そんなことを考えてる時間はない!」
長老:「いや、しかし……あれは夢じゃなかった。あの少女は女王ではなかったが……だが、まるであれは……」
ラスタバン:「あんな化け物、今まで相手にしたことがない……。我々を狩ろうとしていたわけですらなさそうだ。何かを探しているようだった。そして、その何かとは、この『門』だ……」
遠くの空を、一つの影が飛んでいた。
ラスタバン:「ハスター!?」
それは、案内鳥にベルトを掴まれて運ばれているハスターだった。
ハスター:「へへへ……また会ったね……。あんな一撃、食らったことがないよ。まるで山に殴られたみたいだった」
小さな鳥は、彼を地面へと乱暴に落とした。
ハスター:「痛っ!」
ハスターは埃を払った。
ハスター:「ゴホンゴホン……。まあいいや、ボクは何をバカなことで見落としちゃったのかな?」
ハーヴェイ:「俺たちはこの門を越えなきゃならない……」
***
エファの側――。
フェンリルは地底の通路を走っているようだったが、エファにはそんな景色は一切見えていなかった。彼女は虚空を見つめ、その瞳には様々な映像が浮かび上がっていた。
赤い頭巾をかぶった一人の女性が立ち、彼女をじっと見つめている。
エファ:「なに……? 私はどこへ行けばいいの?」
???:「進みなさい……。過去の痕跡が刻まれ、あなたの未来がある場所へ……。歩きなさい……走りなさい……あなたは目覚めなければならない……」
***
そして、ヴァサール(封臣)たちの側では、状況がさらに悪化の一途をたどっていた。相次ぐ重大な事件、そしてペレリアのヴァサールと副ヴァサールの失踪――。
中央劇場の側――。
ヴァサール・アンナの総督執務室。
アンナは完全に焦燥しきった様子で、行ったり来たりを繰り返していた。
彼女はそわそわと動き回りながら、親指の爪を噛んだ。
アンナ:「そんな……そんなのあり得ないわ。もう何日も捜索を続けているのに、ハーヴェイの痕跡が一つも見つからないなんて……。私自身が行くべきなのかしら……いや、ダメよ! 私はヴァサール。そんな勝手な行動は許されない……」
言葉は激しい往復の歩みによって途切れ途切れになり、彼女はもうじっとしていられなかった。
アンナ:「でも、彼は私の唯一の弟なのよ……! それに、ハリー湖に任務で派遣された部隊はどこへ行ったの? アルテムやネプチューンたちは無事なの? ……落ち着いてアンナ。淑女は常に冷静でいなければならないわ……。何としても、冷静さを取り戻さなければ!」
その時、大きな扉が叩かれた。
コン、コン――。
アンナは即座に硬直したが、すぐに冷静さを取り戻し、冷徹で威厳のある指揮官の目つきに戻った。
騎士:「アンナ様!!」
アンナ:「何事ですか? 入りなさい」
息を切らした騎士が入ってくる。
騎士:「大変です!!!……最悪の事態です!!」
アンナ:「何だって?」
***
病院内、治療室の奥――。
医者:「運が良かったな……」
医者が部屋から出てきた。
その傍らには、もう一人の騎士が立っていた。
激しい音が響き渡る。アンナだった。彼女は治療室へと突き進んできた。
医者:「お待ちください、どうか冷静に……」
彼女は医者を乱暴に押し除けて部屋へと押し入った。そして、そこで目にした光景に衝撃を受けた。
部隊は全滅状態だった。彼らの身体は引き裂かれ、損壊していた。全員が死亡しており、生き残ったのはただ一人、ベッドに横たわり全身を包帯で巻かれた悲惨な状態のネプチューンだけだった。
アンナはその場に崩れ落ちた。彼女は、かつての友人であり、生涯の腹心だったアルテムが横たわるベッドへと這いつくばった。彼女の身体は二つに引き裂かれていた。
一瞬、アンナの目から治療室の光景が消えた。
彼女の脳裏に、領地の庭園を木刀を手に走り回る、二人の小さな少女の姿が蘇った。
薔薇の茂みに足を取られて転び、それでも大声で笑いながら立ち上がるアルテムの姿が。
幼い頃の約束が。
『いつか二人で一緒に騎士になろうね!』
それから年月が流れた。
二人は共に学び。
共に訓練に励み。
最初の試験に共に挑んだ。
騎士に叙任されたあの日、最初に彼女を抱きしめてくれたのはアルテムだった。
アンナがヴァサールとなり、王国の重圧がその肩にのしかかった後でさえ、二人の関係は何も変わらなかった。
アルテムは相変わらず、許可も取らずに彼女の執務室の椅子に腰掛けた。
そして、自分の失恋話をバカバカしいほど真剣に語るのだった。
『アンナ、今度こそ本当に運命の人だったのよ!』
そして一週間後には、
『やっぱり違ったわ……』
そう言って、二人は吹き出して笑い合った。
アルテムはいつもそこにいた。
良い時も。
悪い時も。
勝利の日も。
不安に苛まれる夜も。
彼女はただの騎士ではなかった。
最高の親友であり。
支えであり。
家族だった。
アンナは震える手をシーツの上に置いた。
その身体はもう動かない。
静寂が耐え難いほどに重い。
アンナの目から涙が溢れ出した。
その時、彼女の頭の中に激しい言葉の嵐が突き刺さった。
アンナ:『なぜ……なぜ運命はこれほど私に過酷なの』
アンナ:『なぜハーヴェイ、あなたは行ってしまったの? 私をそれほど嫌っているの? あなたも、アルテム、あなたも私を置いていったのね。他の皆と同じように!』
アンナ:『冷静にならなきゃ』
アンナ:『お母様も行ってしまった。私を見捨てたのよ』
アンナ:『落ち着いていなきゃダメよ』
アンナ:『みんな死んでしまったわ!!』
アンナ:『あの人は気品のある女性が好きなのに』
アンナ:『我が王よ!!!』
アンナ:『あの人は私を愛してくれているの……?』
彼女はそのまま崩れ落ち、意識を失った。
すべてが真っ暗になった。
声も消え。
痛みも消え。
涙も消えた。
そこにあるのは、ただ静かな虚無だけだった。
やがて、何かが響き始めた。
チク、タク。
緩やかに。
遠くから。
まるで巨大な時計の鼓動のように。
チク。
タク。
チク。
タク。
その音は次第に大きく、強くなっていく。
次第に近づいてくる。
ついには闇を完全に支配するほどに。
アンナはゆっくりと目を開けた。
彼女は巨大な時計の頂点に立っていた。
足元には見渡す限りの文字盤が広がっている。
彼女の頭上には、月が異常なほど近くに迫り、まるで世界のすぐ上に浮かんでいるかのようだった。
アンナは身動きもせず、立ち尽くした。
虚ろな目。
壊れてしまった心。
彼女はただ、空に吊るされたその天体を見つめていた。
アンナ:「……」
その時、突然――。
月の表面に、二つの巨大な目が開いた。
裂けたような巨大な口が形作られる。
そして、あり得ないほどの笑みを浮かべた。
月:「シュリリリリ!!」
その笑い声はあまりにも巨大で、世界全体を震わせるかのようだった。
月:「どうしたのだね、アルトリウスの末裔よ? なぜそれほどまでに悲しんでいる?」
アンナは沈黙を守った。起きている出来事に驚きさえしていないようだった。
月:「これほど強く見えるというのに、その実、硝子のように脆いのだな! シュリリリリ! いいことを教えてやろう。すべてを修復するチャンス、失ったものすべてを取り戻す手段を与えてやろう。そのためには、私の『宴』に参加してもらう必要がある。もうすぐ始まるはずだ!」
アンナの顔に、突然生気が戻った。彼女はついに意識を向けた。
アンナ:「すべてを取り戻す、手段……」
月:「シュリリリリ!」
***
「不変の劇場」と「中央劇場」の間のどこか、少し離れた場所――。
白い仮面をつけた一つの存在が、徒歩で平原や野原を横切っていた。
アビサエル:「どれほど探しても何も見つからん……。ドリーム・デザートの残骸を捜索しても、大した収穫はなかった。それに……」
アビサエルは頭を下げた。すると、彼の視界を通じて驚くべき現象が起きた。アビサエルが歩いている地面が透明な硝子のようになり、その向こう側に、今まさに我々の英雄たちがいる下の世界が見えたのだ。
アビサエル:「ここに痕跡がないということは、彼らはきっと下にいるのだろう。だが、一体どこを通って下へ降りたというのだ? ドクターと私は、何年も前に下へと続くすべての通路を完全に封鎖したはずだが……。調査を続け、一刻も早くミラリンを見つけ出さなければならないな……」
***
空飛ぶ止まり木によく似た家の屋上――。
テラスに寝そべってだらだらとしていた男の視界を、ある鳥のような影が遮った。よく見ると、それは翼を持った一人の男だった。彼はそれが誰であるかを知っていた。ヘリオスだ。
ヘリオス:「ヨリン! 相変わらずダラダラしてるみたいだな」
ヨリン:「放っておいてくれよヘリオス。ただの休憩中だ」
ヘリオスはテラスに着陸し、同じように寝そべった。
ヘリオス:「俺も休憩したいもんだよ……」
ヨリン:「誰が許可したんだよ、この鳥野郎が」
ヘリオス:「最近、この王国は本当に動きが多すぎる。親父もカンカンになって怒り狂っててさ、『不変の劇場』のヴァサールを調査させるためにインクイジター(異端審問官)どもを全員動員したんだぜ」
ヨリン:「マジかよ! 実は俺もドクターから同じ任務を与えられてるんだ……。彼が言うには、300年前の事件よりもさらに恐ろしい何かが間もなく起こるらしい。それに……」
ヘリオス:「ん……?」
ヨリンは突如として立ち上がった。彼の周囲に、赤黒い物質がゆっくりと這い回り始める。風が強く吹き荒れ始めたが、それは不自然に途切れるような不気味な音を立てていた。
ヨリンの目は、その悪魔的な笑みとは対照的に、底知れぬ憎悪に満ちた恐ろしいものへと変貌していた。
ヨリン:「ダンテとミラリンが、この王国にいる可能性があるんだと……。こいつは本物の大虐殺になるぞ……」
ヘリオスは興奮で目を輝かせた。
ヘリオス:「今、ダンテって言ったか!?」
翼を持つ男の顔にも、同じように笑みがじわりと浮かび上がった。
ヘリオス:「いよいよ、面白くなってきやがったな!」




