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第59話:ハーヴェイの記憶《服従》


タワーと化した槍が襲撃者へと振り下ろされ、一瞬の間、時間が凍りついたかのように思えた。




ハーヴェイ:「止まれない……止まるわけには……いかないんだ!」




彼は槍の巨大な先端から身を守るため、雪の結晶の形をした盾を展開した。




必死に耐えるものの、その建造物の容赦なき落下をただ遅らせることにすぎなかった。




抵抗し、防御を続けるが、盾はみるみるうちに限界を迎え、結晶が崩壊し始める。彼の疲弊の兆候だった。




ハーヴェイ:「やり遂げなければならないんだ!」




バルコニーから遠ざかるアルテムの顔に涙が伝った。


アルテム:「アンナ、ごめんなさい……本当に彼を説得しようとしたのだけれど……」




突然、彼の中に一つの声が響き渡った。




???:「ハハハハ!!! お前の実力はそんなものか!?」




その声は、ハーヴェイ自身の声と全く同じだった。




???:「まだアニマがこれほど残っているではないか!? 私を使え、私を絞り尽くせ、そして己の狂気を受け入れろ! さすれば、新世界の道へ到達できる!!」




ハーヴェイは狂ったように笑い出した。


ハーヴェイ:「アハハハハハハハハハ!! 俺は偉大なるハーヴェイ・ラピスラズリ・レンだ!! この世の何者も、俺の歩みを止めることはできん!!!」




……そして、彼は突如として抵抗をやめた。




次の瞬間、盾にかかっていた絶大な圧力が消失した。巨大な槍が一気に突き刺さり、虫のように彼を押し潰そうとしたが、ハーヴェイは雪の結晶の盾の表面をわずか数度だけ傾けていた。




圧倒的な力に対抗してアニマで氷を硬化させるのではなく、彼はその逆を行った。盾の表面に全エネルギーを集中させ、絶対零度に近い温度へと到達させることで、一切の摩擦を消し去ったのだ。完璧かつ破壊不可能な滑り台を作り出したのである。




槍の先端が、傾いた表面の上を激しく滑り落ちた。




しかし、アルテムの攻撃の莫大な質量が消えてなくなるわけではなかった。この速度で滑ることで、運動エネルギーと圧倒的な圧力が、傾斜を支えていた唯一の支点――ハーヴェイの左腕へと転移せざるを得なくなった。




*バキッ!*




不気味な肉の裂ける音に続き、鈍い破砕音が響いた。彼の左腕は、軌道を逸らしていく槍の恐るべきねじれに耐えかねて折れ曲がり、骨が砕けて無数の開放骨折となって皮膚を突き破った。鋼鉄の塔が彼の顔面をかすめて滑り落ち、凄まじい摩擦が鎧と皮膚、そして左肩の筋肉の一部を剥ぎ取り、骨を剥き出しにした。噴き出した血は、彼の放つ氷結のオーラによって瞬時に結晶化し、失血死こそ免れたものの、損なわれ凍りついた肉の塊として左腕を固定した。




それでも、彼の狂気に満ちた笑いは止まらなかった。これこそが、彼の狙い通りだったからだ。




二本の指の間で激しく押し出されるリンゴの種のように、傾いた盾の上を滑る槍の巨大な下降力が、天然の推進力として働いた。運動エネルギーの圧力が、ハーヴェイを衝撃ゾーンの外へと超音速で弾き飛ばした。




背後に残された巨大な建造物は、地面に激突する直前に――




アルテム:「よし、仕留めたはず……『縮小ウー』!」




武器は自動的に縮小した。アルテムは攻撃の場所へと駆けつけたが、到着した彼女の目に映ったのは、ただ地面に突き刺さる己の槍だけだった。




アルテム:「なっ……何ですって!?」




突然、一つの影が近づいてきた。




ダリウス:「クソッ、まともに食らっちまったぜ、ハハ……めちゃくちゃ痛え……」




アルテム:「ダリウス!! ハーヴェイは……」




ダリウス:「もう遅すぎる」




彼は、いまや氷の城壁によって包囲された屋敷を指差した。




ダリウス:「残響エコーの所持者がこれほど力を増すということは、それだけ終焉に近づいている証拠だ……俺たちにはもう、どうすることもできない……」




屋敷の中では、使用人や衛兵たちが困惑していた。彼らは突然の寒気を感じ、一人が窓から外を覗き見ることにした。そして、彼女が目にしたものは、あまりにも恐ろしい光景だった。




使用人は悲鳴を噛み殺すように、震える両手を口元に当てた。中庭の中央、彼自身が呼び寄せた氷の嵐のただ中を、悪夢からそのまま抜け出してきたような異形が歩いていた。




それは若き主、ハーヴェイだった。あるいは、その成れの果てと言うべきか。




彼のシルエットは吹雪の中で異常に湾曲し、歪んでいた。彼は重く、足を引きずるような足取りで進み、致命傷を負いながらも倒れることを拒む捕食者のように、獣じみた不連続な流動性で身体を揺らしていた。彼の左腕はもはや視覚的なおぞましさそのものだった。剥き出しの肉、露出した筋肉、そして皮膚からトゲのように突き出た砕けた骨が不気味に絡み合い、全体が彼自身の血で赤く染まった分厚い氷の塊によって手粗に溶接されていた。




鎧と衣服の半分は、凄まじい摩擦によって引き裂かれていた。引き裂かれた肩からは、冷気の中で文字通り煙が立ち上っていた。彼の身体全体から白く濃い蒸気が放たれ、それは窒息するほどのアニマで満たされており、まるで彼自身の力が内側から彼を蝕んでいるかのようだった。




彼が不規則な一歩を進めるたびに、石畳は真紅の霜で凍りついた。彼は途切れ途切れに息をしており、その低く獣じまった喘ぎ声は、邸宅の壁を通じて響き渡るかのようだった。




突然、彼は足を止めた。




凍りついた脊椎を不気味に軋ませながら、彼はゆっくりと窓の方へと頭を上げた。その視線が、恐怖で身をすくませる使用人のものと交錯した。若い女は、心臓が跳ね上がるのを感じた。




ハーヴェイは笑っていた。




それは、引き裂かれた唇を理性の限界を超えて大きく広げた、異常なまでに巨大な笑みだった。見開かれ、血走った彼の両眸は、人間性や正気を完全に排した、狂気と歓喜の混ざり合う光景で輝いていた。氷の城壁によって屈折した月光の下、損なわれた身体と、その破壊的な喜びに歪んだ顔を持つ彼は、もはや貴族でも魔術師でもなかった。




それは、自らの取り分を要求しに現れた、人の形をした恐るべき怪物だった。




彼は窓辺に近づくと、ガラスに向かって息を吹きかけ、その空気の泡でハートのマークを描いた。恐怖に震える使用人は身動きが取れず、まるで金縛りに遭ったかのようだった。




ハーヴェイは窓をトントン、トントンと叩き始めた。哀れな女性は見つめることしかできなかった。三度叩くと、窓が溶け始めた。溶岩が注がれたかのように窓が溶けていくなど、常識ではあり得ないことだった。ハーヴェイの氷は、彼の精神状態を完璧に描写していた。窓が溶け落ちると、彼は中へと入り、こう言った。




ハーヴェイ:「ただ凍らせるだけでは、あまりにも芸がなさすぎるな」




彼が手を剣のように突き出すと、氷がそれを覆い、鋭利な剣を形成した。彼はその剣で使用人を突き刺した。女の血が滝のように流れ落ちる。衛兵たちが駆けつけたが、何の意味もなかった。彼らは全員、一瞬で斬り伏せられた。




ハーヴェイは誰一人として生かしておかなかった。そこにはもう何も残されていなかった。氷と血、そして闇が混ざり合い、邸宅を包み込んでいた。ハーヴェイは父親の執務室のエリアに入るのを注意深く避けるようにして、一歩、また一歩とその方向へと進んでいった。彼の額から、蛾の触角が静かに生え始めているのが見て取れた。ハーヴェイは壊れていた。そして、鈍い音を立てて彼は扉を開けた。




一人の気品ある男が立っていた。彼はハーヴェイに背を向け、窓越しに世界を見つめていた。




ハーヴェイ:「親父! ハハハ! 帰ってきたぞ!! 忘れたわけじゃないだろ、呪いってのは絶対に消えないんだからな!!」




男が振り返った。




ジョージ:「見窄らしいな……」




ハーヴェイの顔が怒りで満たされた。




ジョージ:「本当に消え失せたと思っていたのだが、不運にも、まだ私の領地を汚しに現れるとはな。アンナがこの家の新たな当主となった。お前にここでの役割はもうない。失せろ」




ハーヴェイは氷の棘を放ち、それはジョージの片目に真っ直ぐ突き刺さった。




ハーヴェイ:「親……父!! 俺がそんなことのために来たわけじゃないことくらい、分かっているだろ。少しは頭を使えよ。お前たち全員を破滅させに来たんだ! だがその前に、一つ質問をしたい。なぜだ? なぜ俺をそれほど憎む?」




ジョージ:「あああああ!!! ハハハハ!!! なぜ知りたいだと!!! この化け物が、私の最愛のひとシルヴィを殺したからだ!! シルヴィは純粋そのものだった。彼女は誰も憎まず、私を受け入れ、最も苦しい時に支えてくれた。私たちは幸福の中にいた、私が手にするに相応しい幸福の中にな!! だが出産のあの日、問題が起き、お前のせいで私のシルヴィは死んだ。そして、私の前に立つこの化け物だけを残していったのだ! 俺はお前が憎い、ハーヴェイ!!」




刹那、ハーヴェイは一撃で彼の首をはねた。




ハーヴェイ:「俺もあんたが憎いよ、ジョージ……」




ハーヴェイは一瞬、静寂を取り戻したかのようだった。


ハーヴェイ:「さて、次は残りの二人だ……」




邸宅の外――




ダリウス:「この城壁を破壊する力は、もう残ってないぜ、アルテム……」




アルテムは自分の槍を拾おうとしたが、彼女が近づくや否や、ハーヴェイの凍りついた血が極限の冷気を放ち、接近を阻んだ。




アルテム:「くそっ!! 他の騎士たちはどこにいるのよ!!! まだ到着していないなんて」




突如として、




*ズバッ!!*




城壁が両断され、巨大な亀裂が現れた。




ダリウスはニヤリと大きく笑った。


ダリウス:「騎士たちの代わりに、まさかあんたが来るとは思ってもみなかったぜ」




氷の霧が消え去ると同時に、鎧の静かで規則正しい足音が響いてきた。霧が完全に晴れた時、その姿がはっきりと見えた。




アルテム:「ヴァッサル(封臣)様!?」




???:「これほど苦労させてしまい申し訳ありません。ここからは私が引き受けます」




瞬きする間に、彼女の姿は消え去った。




アルテム:「彼女に……任せて本当に大丈夫だと思う?」




ダリウス:「俺は彼女を信じてるさ。彼女はいつだって冷静コールドでいられるからな……分かるか? 氷だけに、冷静コールド……」




アルテム:「もういいわ、分かったから……」




ヴァッサルは邸宅の内部へと足を踏み入れていた。




???:「本当に理性を失ってしまったのね」




彼女は戦闘の痕跡をたどり、扉を開けた……。




???:「ハーヴェイ……なぜ……」




ハーヴェイはそこにいた。父親の机の上に腰掛け、その生首を弄んでいた。




ハーヴェイ:「やっと来たか!! 妹よ、大きくなったな。本当に美しくなった。まだ俺の名前を覚えているか!? おかしな話だよな、ハーヴェイ……ハーヴェイとは、お前に全てを奪われた男の名前だ!」




アンナの思考:(触角? 彼、虚無の使徒へと変貌しつつあるのね!)




ハーヴェイ:「家族、愛、金、喜び、寵愛、お前は全てを手に入れた。そして俺は、あの無責任な父親によって壊され、閉じ込められていたんだ!!」




ハーヴェイはアンナの前に首を投げ捨てた。アンナは冷静にそれを受け止め、数条の涙を流すと、その額に口づけをした。




アンナ:(お許しください、父上。遅くなりました)




ハーヴェイ:「ほぅ? 驚くほど冷静だな! お前の父親を殺したんだぞ、アンナ!!」




アンナ:「あなたのせいではないわ。あなたは今、正気ではないのよ」




ハーヴェイ:「無駄話は終わりだ。決着をつけよう」




彼の周囲の空気が、突如として常軌を逸した温度まで急降下した。重厚なオーク材の格式高い机が瞬時に凍りつき、彼の殺気の圧力だけで粉々に吹き飛んだ。




ハーヴェイ:「死ねぇ!!!(クレーヴ)」




氷の腕を激しく突き出し、彼は黒く凍りついた棘の津波を放った。それらは部屋全体を埋め尽くすほど濃密で高速だった。死は免れ得ず、執務室全体が切り刻まれるかに思われた。




しかし、アンナは眉ひとつ動かさなかった。彼女の青みがかった瞳は、猛烈な鋭さで棘の軌道を見定めていた。




*カチッ。*




外科手術のような精密さで、彼女は鞘に収まったままの剣を掲げた。彼女の手は柄に触れてすらいなかった。その重厚な黒鋼の鞘に武器を固く収めたまま、彼女は空間に完璧な弧を描いた。




その鞘の凄まじい速度によって生み出された純粋な衝撃波が、氷の津波と激突した。衝撃はあまりにも激しく、攻撃をきらめく微粒子へと粉砕し、瞬時に邸宅の正面全体を吹き飛ばした。天井と壁が外側へと払いのけられ、二人の戦闘者は夜空の虚空へと放り出された。




落下の最中、アンナは空中で即座に姿勢を安定させ、鞘を下に向けたまま、一瞬の隙も無く警戒を怠らなかった。




ハーヴェイ:「黙れェ!!!(ラ・フェルム)」




完全な自由落下の中、ハーヴェイの背が激しく湾曲した。肉の裂ける不気味な音が夜の闇に響いた。彼の肩甲骨が瞬時に凍りつく血の噴水の中で弾け飛び、巨大な蛾を想起させる、死人のような白さを持つおぞましい一対の羽が背中から飛び出した。額の触角が伸び、狂気に身を震わせる。




彼の速度が爆発した。落下を止め、彼は隕石のごとき勢いでアンナへと突撃した。




激突の衝撃は、数百メートル四方の領地内にあるすべてのステンドグラスを粉々に砕いた。二人は中庭へと墜落し、霜のクレーターを穿った。そして、真の建築物破壊劇が幕を開けた。




ハーヴェイはもはや人間として戦ってはいなかった。彼は四つん這いで跳躍し、羽ばたく羽と足元からの冷気の爆発によって推進力を得て、進路上のすべてを破壊した。噴水、彫像、外壁――彼が触れるものはすべて凍りつき、粉砕された。彼は巨大な石柱を引き抜き、アンナへと投げつけ、家ほどの大きさの氷の塊を召喚しては隕石のように降らせた。




この破滅的な地獄のただ中で、アンナは極限まで無駄を省いた動きで動いていた。その顔は純粋な集中の仮面だった。




すべての回避がミリ単位で計算されていた。彼女は退かず、残骸の間を滑るように進んだ。巨大な塊が彼女を押し潰そうとすれば、彼女は鞘の腹で鋭くそれをいなした。そして、ハーヴェイが超音速で彼女の死角から爪を立てて襲いかかるたび、少女の重い鞘が、粗暴かつ精密極まる力でその猛攻を阻んだ。




*ドカッ!(バム)*




そのカウンターはあまりにも重く、ハーヴェイを衛兵の塔ごと叩き込み、塔は凄まじい音を立てて崩壊した。半秒の猶予も無駄にせず、アンナは武器の握りを引き締め、その呼吸は激化する戦闘のリズムと完璧に同調していた。この破壊的な力を前に、一瞬の油断が生死を分けることを彼女は理解していた。




ハーヴェイは這うようにして残骸から這い出た。彼の顔の半分は皮膚と融合した半透明の霜の外骨格に覆われていた。その目からは瞳孔が消え去り、盲目的なブルーの光を放つ二つの球体と化していた。欠損した左腕は、純粋な氷でできた歪で不釣り合いな武器の塊を形成していた。




ハーヴェイ:「氷結領域ドメーヌ・グラシエール……王の墓場ル・トンボー・デュ・ロワ!!」(エコーのかかった声で)




彼はその塊で地面を叩いた。地震のような激しさで大地が震えた。一族の領地全体、庭園、離れ、すべてが巻き上げられた。地中に潜む怪物の牙を思わせる無数の巨大な氷柱が深淵から突き出し、アンナを圧殺しようとした。邸宅全体が飲み込まれ、ハーヴェイの氷の山へと没した。




この終末的な崩壊の最中、宙へと打ち上げられたアンナの視線がさらに鋭さを増した。ここが勝負の分かれ目だった。




ハーヴェイは、自らの最大最強の攻撃の頂点で、武器を掲げて彼女へと跳躍し、空中で彼女をバラバラにせんと迫った。




アンナは標的を捕捉した。無重力の中、彼女は鞘に収まった剣を両手で握り締め、全身の力を込めた。ハーヴェイの軌道が直線になる、その完璧な刹那を待った。抑えきれない怒りと驚異的な力をもって、彼女は怪物の脳天へと向かって鞘を真っ直ぐに振り下ろした。




*バオォォォーム!!!(BAOOOOOM)*




一本の鞘の衝撃によって圧縮された大気圧が、鋭い風切り音とともに、氷の山を文字通り真っ二つに叩き割った。巨大な氷柱が数十億の破片へと爆発した。衝撃の力がハーヴェイの全身を突き抜け、その勢いを完全にへし折った。




彼は黒い血の奔流を吐き出し、稲妻のような速度で地面へと叩きつけられ、三重の氷の城壁を突き破って、荒廃した大地の奥深くへと墜落した。




破壊の煙霧がゆっくりと晴れていった。アンナは新たなクレーターの縁に、膝を曲げて力強く着地した。その黒い剣はいまだ両手で固く握られており、必要であればいつでも追撃できる構えをとっていた。彼女の瞳は穴の底を捉えて離さなかった。




底では、ハーヴェイが哀れに身を起こそうともがいていた。彼の蛾の羽は半分引き千切れ、ひび割れた外骨格からはアニマが傷口のように漏れ出していた。




アンナはゆっくりと身体を起こし、上段の構えを維持したまま、厳粛な重みを湛えた眼差しで兄の最後のあがきを見つめていた。




突然、戦士の瞳から涙が溢れ出た。




アンナ:「ハーヴェイ、あなたはどうしてそんなに我が儘なの……今この瞬間、お母様があなたをどんな目で見つめていると思う? お母様は……あなたの失踪が告げられた時、打ちひしがれ、夜も眠れず、毎晩泣いていたわ。毎夜、あなたを捜すために領地の外へ出て、それを何度も、何度も、休むことなく繰り返していたのよ! 何年も、何年も……そのせいで重病を患って、外出を禁じられても、それでもまだ、何度も何度も捜し続けて……そして亡くなったのよ!!! あなたのために死んだのよ、ハーヴェイ。どうしてそんなに自分勝手になれるの! 自分の都合の良いことしか見ていない……。私はあなたを愛しているわ、ハーヴェイ。あなたを憎むことなんてできない。あなたは父上と母上の息子であり、私の兄さんなのだから!!!」




ハーヴェイはついに立ち上がり、再び新たな攻撃の奔流を放たんとした。




アンナ:「いいでしょう。ならば、あなたを正気に戻してみせる」




彼女はついに鞘から刃を抜いた。そこから現実離れした輝きが放たれる。




アンナ:「エクスカリバー!」




怪物を思わせる巨大なルーレットが、見る者を圧倒するほど雄大に、途方もないスケールで天を覆い尽くした。ルーレットの針が動き、その音が王国全土に響き渡った。凄まじい音響とともに、前例のない輝きが放たれ、数十キロメートルに及ぶすべてを包み込んで行った。




ダリウス:「クソッ、アルテム! 早くここからズラかるぞ!」




一瞬の間、ハーヴェイはその輝きに晒されながらも、正気を取り戻した。




ハーヴェイ:「これが……俺とお前の間にある、決定的な断絶(格差)か……」




そして突然、視界が白い画面へと変わった。




ハーヴェイ(目を閉じたまま):「何だ……これは……俺の頭が……」




彼の触角も、傷ついた身体も、すべてが癒えていた。彼は人間の姿を取り戻し、椅子に座っていた。




突然、彼は音を耳にした。




*コン、コン、コン*(裁判の木槌の音)




彼が目を開けると、目の前には多くの人々がいた。そこにはアンナ、ダリウス、そしてアルテムの姿もあった。




???:「よし、我が方の被告人がようやく目を覚ましたようだな。審判を始める時間だ」




ハーヴェイ:「俺は……裁判所にいるのか?」




???:「これより、ヴァッサル・イカルの審問官であるこのセリルが、本法廷の裁判長を務める」




重苦しい沈黙が室内に立ち込めた。ハーヴェイは人間の姿に戻った自分の両手を見つめた。彼は否定しようとはせず、一言も発さなかった。指についた使用人の血の記憶、絨毯の上を転がるジョージの首の光景……彼は自分が何をしたか分かっていた。すでに己の判決を理解しており、その沈黙の中で、それを受け入れていた。




この場所の建築そのものが、ここが通常の法廷ではないことを物語っていた。床は木でも石でもなく、完全に静止した巨大な黒い水の鏡であり、そこには数百本の灯された蝋燭が浮かぶ、終わりのない夜空が映し出されていた。部屋を区切る壁はなく、ただ白い大理石の柱の列が虚無の彼方へと伸びている。ダリウスやアルテムを含む騎士や陪審員たちは、太い金の鎖によって宙に吊るされた雛壇に座っていた。




その広大な空間の中央、水の上に浮遊する粗削りの石の玉座に腰掛けた審問官セリルが、一切の残響を残さない声で口を開いた。




セリル:「ハーヴェイ・ラピスラズリ・レン。領地の衛兵および使用人の虐殺、家長ジョージ・ラピスラズリ・レンの冷酷なる殺害、そして『虚無の使徒』への変貌の罪により……ヴァッサル・イカルの法典が定める結末はただ一つ。お前のアニマの完全なる消滅、および公開処刑である」




ハーヴェイは微動だにせず、足元の黒い水面を見つめたままだった。静かに。死人のように。




アンナ:「異議を申し立てます」




アンナの心の叫びが、法廷の厳粛さを打ち破った。騎士たちの間にざわめきが広がる。ダリウスは拳を握り締め、アルテムは自らの matriarche(女家長)の視線を受け止めきれずに頭を下げた。




セリルは仮面に覆われた顔をゆっくりと彼女の方へ向けた。




セリル:「ヴァッサル・アンナ。あなたは当主となられたが、帝国の法の外にいるわけではない。あなたの兄の罪は、一族の諍いの枠を超えている。彼は虚無に触れたのだ」




アンナ:「彼は私の血を分けた兄です! ラピスラズリの血を引く者です! 彼を蝕んだ狂気は、父上の罪から生まれたものであり、彼の意志によるものではありません! ヴァッサルとして、私は決闘による救済の権利を要求します。私が彼の行為の責任を負い、私の管理下でその力を封じ込めます」




ハーヴェイは目に涙を浮かべ、自分を庇う彼女の前で、目を上げることすらできなかった。




ハーヴェイ:「俺があれほどのことをしたというのに、お前はそれでも……」




突然、もう一つの声が法廷に響き渡った。




???:「そんなに簡単に逃がしてやるのは不公平というものだな」




セリル:「ほう……『不易の劇場』のヴァッサル様。どのような風の吹き回しでここへ?」




そのヴァッサルは全身を包帯で覆われており、危険でもなければ、さりとて健全でもない、奇妙なオーラを漂わせていた。




ヴァッサル:「実は、この件に関して王とお目通りしてな。口出しをする許可をいただいたのだよ」




アンナ:「王だと!? なぜ王がこのようなことに興味を?」




ヴァッサル:「ハーヴェイは死刑にはならん。彼は私の副官、すなわち『不易の劇場』の副ヴァッサルとなり、付随的に私の生涯の奴隷となる……。この取引でどうかな、アンナ?」




アンナ:「何ですって!?」




ダリウスとアルテムは沈黙を守った。この件は彼らの権限を遥かに超えていた。




セリル:「素晴らしいお話ですが、王の差し金であるという証拠はどこにありますか?」




ヴァッサルが手を挙げ、その手のひらを見せると、そこから錆色の光が放たれた。




アンナ:「間違いない……あれは『黄衣の印』!?」




セリル:「『黄衣の印』だと!? 王国に存在する最も重要な刻印か。確かに、あなたの言葉を証明している」




アンナ:「ですが、あなたは……」




セリル:「アンナ様、敬意を表しますが、これを受け入れるか、さもなくば死刑かのどちらかです」




あの日から、俺、ハーヴェイは宿命の奴隷となった。俺のアニマが映し出すのは、ただ己の《服従》だけだった。怒りと挫折、そして羞恥に満ちた俺は、他者との一切の連絡を絶ち、毎夜、その鎖を引きずりながらペレイラを歩いていた。あの日に彼らと出会うまでは。すべては彼、サクライ・アラタから始まったのだ。




【現在へと戻る】




ハーヴェイ:「――だからこそ、俺はお前を見捨てない、フェンリル!」

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