第58話 :ハーヴェイの記憶《Vendetta》
ハーヴェイ:「……ここは……どこだ?」
確かに主人公は、再び奇妙な場所にいた。
光もなく、
構造もなく、
ただ闇だけが広がる黒い空間――。
???:「ここは私の領域だ。」
ハーヴェイが振り向く。
そして――その男を見た。
大きい。
いや、異常なほど大きかった。
長い黒いマントを纏い、
顔には鳥を模した奇妙な仮面。
だが、その隙間から覗く深紅の瞳だけは、
冷酷なまでにはっきりと見えていた。
まだ幼かった当時のハーヴェイでも、
その男が誰なのかすぐに理解した。
ハーヴェイ:「Doctor!? ここはどこなんだ!? アリアは!? フェンリルは!? それにあれは……! あの下の世界が……!」
Doctor:「ハーヴェイ。君は長い間、行方不明だった。……なるほど、あそこにいたのか。」
男は静かに指を上げた。
Doctor:「どうやってあの場所へ辿り着いた?
……もっと多くの“目”が必要だな。観測が足りない。」
彼は小さくため息をついた。
Doctor:「いいか、ハーヴェイ。
下で見たことは誰にも話すな。」
ハーヴェイ:「でも――!」
Doctor:「“下の世界”という言葉を再び口にした瞬間、
私は君を殺さなければならなくなる。」
ハーヴェイ:「Doctor……俺と一緒に誰かいなかったのか……?」
Doctorは小さく笑った。
Doctor:「誰もいなかったさ。
……さて、私はそろそろ失礼するとしよう。
良い目覚めを。」
ハーヴェイ:「……え?」
その瞬間――
ハーヴェイは激しく息を切らしながら飛び起きた。
ハーヴェイ:「まるで……無理やり吐き出されたみたいだ……」
???:「ハーヴェイ様!! お目覚めになられたのですね!!」
ハーヴェイが顔を向ける。
そこには銀の鎧を纏った美しい女性が立っていた。
短い茶髪。
どこか懐かしい顔。
ハーヴェイ:「……」
???:「え? 私のこと分かりませんか?
アンナ様の侍女だった――」
ハーヴェイ:「待て……アルテム!?」
アルテム:「はい! そのアルテムです!」
ハーヴェイ:「嘘だろ……。アルテムはもっと騒がしくて、子供っぽかったはずだ。」
アルテム:「ちょっと! 時は流れるんですよ!
私だって騎士になりましたし……アンナ様も――
……いえ、今はまずお休みください。」
ハーヴェイ:「……」
アルテム:「私は医務室へ知らせに行ってきます!」
アルテムは急いで部屋を出て行った。
静寂。
ハーヴェイはゆっくりと目を伏せる。
ハーヴェイ:「アリア……フェンリル……
もう、お前たちに迷惑はかけない……」
そして――
彼は窓から飛び降りた。
---
ハーヴェイ:「随分変わったな……
でも分かる……
ここはラピスラズリ家の西館……
今は秋か……」
赤橙色の葉が舞う。
邸宅は鮮やかな秋色に包まれていた。
だがハーヴェイは、
疲弊した身体を引きずるように歩き続けた。
西館を抜け、
さらに奇妙な村へと辿り着く。
その村では、
人々が“雲”の上で野菜を育てていた。
巨大な梯子が空へ伸びている。
村人たちは彼に声をかけようとしたが――
ハーヴェイは何も答えず歩き続けた。
そして辿り着く。
自分が育った場所へ。
ハーヴェイ:「……冬は、まだ終わってないんだな……
ハラルド叔父上……」
---
屋敷へ入る。
そこは荒れ果てていた。
蜘蛛の巣。
崩れた床。
だが――
ハーヴェイには見えていなかった。
彼の目には、
昔の豪華な屋敷が映っていた。
煌びやかなシャンデリア。
美しい絵画。
栄華を極めたラピスラズリ家。
そして――
ハラルドの部屋。
ハーヴェイは走った。
勢いよく扉を開ける。
だが――
そこにあったのは悪夢だった。
全て壊れていた。
暗闇。
腐敗。
静寂。
その中心に――
一人の老人が車椅子に座っていた。
痩せ細った身体。
失われた四肢。
虚ろな目。
ハーヴェイの呼吸が止まる。
ハーヴェイ:「……叔父上……」
ハラルド:「皆、私を捨てた……」
弱々しい声。
だがその奥には、
底知れぬ怨念があった。
ハラルド:「皆……あちら側へ行った……
私は捨てられた……
もう価値などない……」
沈黙。
そして次の瞬間――
ハラルドが勢いよく顔を上げた。
ハラルド:「全てお前のせいだァァァァ!!!」
ハーヴェイが震える。
ハラルド:「私はお前を信じていた!!
ハーヴェイ!!!」
怒号が部屋を揺らした。
ハラルド:「何年もお前を育て!!
鍛え!!
全てを注いだ!!」
彼は肘掛けを激しく叩く。
ハラルド:「それなのに!!
全て無駄だったァァ!!」
ハーヴェイ:「ち、違う……」
ハラルド:「結局はあの“出来損ない”に全て奪われた!!」
ハーヴェイの呼吸が乱れる。
ハラルド:「ハーヴェイ!!
貴様は無能だ!!!」
ハーヴェイ:「やめて……ください……」
ハラルドはゆっくり笑った。
壊れたような笑みだった。
ハラルド:「だが一つだけ……
お前の父親と意見が合った。」
ハーヴェイの瞳が揺れる。
ハラルド:「お前はラピスラズリ家の呪いだ。」
ハーヴェイはその場に崩れ落ちた。
呼吸が苦しい。
記憶が混ざる。
父。
毒。
首飾り。
アンナ。
フェンリル。
アリア。
ハラルド:「私もお前も……
価値などない。」
部屋の温度が急激に下がっていく。
ハラルド:「消えるべきなんだ。」
氷が床を覆い始めた。
ハラルド:「もし最後に私へ尽くしたいなら――」
空気が凍る。
ハラルド:「死ね、ハーヴェイ。」
その瞬間――
ハーヴェイ:「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
---
一方その頃――
看護師:「ハーヴェイ様がいません!!」
アルテムは開いた窓を見る。
アルテム:「窓……!」
彼女は即座に飛び降りた。
看護師:「アルテム様!?」
アルテム:「探してきます!!」
その直後――
ドォォォォォン!!!!
巨大な轟音。
吹き荒れる氷の暴風。
アルテムは空を見上げた。
雲が一点へ集束している。
アルテム:「ハーヴェイ……!!」
彼女は即座に叫ぶ。
アルテム:「すぐに衛兵を!!
可能ならアンナ様にも知らせてください!!」
だが――
もう遅かった。
巨大な氷の隼が空を裂いていた。
アルテム:「本館へ向かってる!?」
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アルテム:「伸長――!!」
彼女の槍が一気に伸びる。
その反動で空へ跳躍。
そして見た。
氷の怪物の上に立つハーヴェイを。
アルテム:「やっぱり……ハーヴェイ!!」
彼女が飛び乗ろうとした瞬間――
ズガァッ!!
氷柱が鎧を貫いた。
アルテム:「くっ……!」
ハーヴェイ:「俺の邪魔をするな。」
氷の隼は超音速で雲を裂き、
周囲を吹雪へ変えていく。
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本館へ到達した瞬間――
巨大な盾が出現した。
その表面には、
巨大なヒュドラの紋章。
ハーヴェイ:「ダリウス!!!」
ダリウス:「若様。
相変わらず短気ですねぇ。
……ですが、アンナ様直属の騎士として、止めさせてもらいます。」
ハーヴェイ:「どけェ!!」
氷の隼が突撃する。
ダリウス:「いやいや、通しませんよ。」
ダリウスは盾を掲げた。
ダリウス:「《愉悦のヒュドラ》」
盾のヒュドラが笑う。
BOOOOING!!
ハーヴェイ:「なっ――!?」
氷の隼ごと吹き飛ばされた。
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ダリウスが追撃しようとした瞬間。
ダリウス:「……ん?」
アルテムが落下してくる。
アルテム:「うわぁぁぁ!!」
ダリウスが受け止めた。
アルテム:「今すぐ降ろしてください!!」
ダリウス:「いやです。太もも掴みながら走ります。」
アルテム:「ダリウス!!!」
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その頃。
ハーヴェイはゆっくり立ち上がる。
瞳には狂気。
アルテム:「ハーヴェイ!!
どうか落ち着いてください!!」
沈黙。
そして――
爆発的な冷気。
ハーヴェイ:「落ち着け……?」
地面が一瞬で凍結した。
ハーヴェイ:「ふざけるなァァァ!!」
吹雪が荒れ狂う。
ハーヴェイ:「俺はずっと耐えてきた!!」
氷柱が浮かび上がる。
ハーヴェイ:「ずっと我慢してきた!!」
空気そのものが凍り始める。
ハーヴェイ:「その結果がこれかァァァ!!!」
ダリウス:「まずい!! 下がれ!!」
彼は大量の盾を展開した。
だが冷気は止まらない。
ダリウス:「アルテム!!
君は戻れ!!」
アルテム:「……分かりました!」
そして――
ハーヴェイが突撃した。
氷柱が同時に放たれる。
CLANG!!!
ダリウスが受け止める。
だが直後――
先ほど生成された氷が形を変える。
蝶。
無数の氷蝶がダリウスを囲んだ。
ダリウス:「ちっ……!」
盾を足場に跳躍。
ギリギリで回避する。
ダリウス:「危なっ!?」
だがハーヴェイは止まらない。
冷気はさらに増していく。
ダリウス:「若様……
この出力は異常だ……」
霧が濃くなる。
そして――
無数の氷鏡。
そこに映る無数のハーヴェイ。
ハーヴェイ:「最後に警告する。」
その声が霧中に響く。
ハーヴェイ:「道を開けろ。」
ダリウスは深く息を吸った。
ダリウス:「《双翼のヒュドラ》!!」
二つの盾が出現。
ダリウス:「防御は終わりだ……
次は攻める!!」
彼は鏡を次々破壊する。
だが霧は濃すぎた。
ダリウス:「空気が……凍ってる……!」
その瞬間――
霧の上空。
巨大な影。
氷の隼。
密かに再構築されていた。
ハーヴェイ:「だから言ったはずだ。」
巨大な隼が急降下する。
吹雪が全てを飲み込んだ。
ハーヴェイ自身も苦しんでいた。
だが――
狂気に近づくほど、
彼のアニマは強くなっていく。
そして再び、
氷の隼へ乗る。
目的地はただ一つ。
本館。
その時――
バルコニーに立つアルテムが槍を構えた。
ハーヴェイ:「無駄だ。」
アルテム:「拡大――」
ハーヴェイ:「……は?」
槍が巨大化していく。
さらに。
さらに。
やがて――
空から落ちてくる巨大な塔のようになっていた。




