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第20章 ―― 迷宮の歌


空気が低い地鳴りのように震えていた。


スピーカーがざらつきを立て、やがて冷ややかで楽しげな声が響いた。




――「まあ……仕方ないね。警告はしただろう。


あと正確に二時間でガスが噴出する。


さあ走れ、我が小さな役者たちよ。」




短い沈黙。


だが、突如としてエレキギターが闇を切り裂いた。




――「Friends say it’s fine, friends say it’s good,


Everybody says it’s just like rock and roll…」




その歌が地下網を満たし、湿った壁に跳ね返る。


どのトンネルも『20th Century Boy』のリズムに震えた。


陽気だがねじれた旋律は、生き残った者たちの顔に嘲りを投げつける。





---




アラタ側




息を乱し、埃まみれのアラタは曲がり角で立ち止まった。


――「バン、大丈夫だろうか……」と彼は短く囁く。


歯を食いしばり、独り言を続けた。――「これが俺の夢見た異世界かよ……」




むせるような音。すすり泣き。


アラタがヘッドライトを向けると、壁にもたれ小さく丸まる男の子が見えた。震えている。




――「お父さんが……お母さんが……」と子供は嗚咽する。




アラタは膝をついた。


――「よし、落ち着け。ここから連れ出す。いいか?」と優しく声をかける。




その言葉がまだ子供に届く前、仮面の声がスピーカーを通して鳴り渡った。




――「その子を放っておきなさい。お前の足手まといになるだけだ。」




アラタは顔を上げ、怒りに満ちた声で叫んだ。


――「この声、知ってる……テレビのあの野郎だ!」




――「“野郎”は私が選ぶ言葉ではないよ」と声は嗜笑するように答えた。


――「だが言っただろう、ガスまで二時間を切っている。放っていけ。重要じゃない。」




アラタは拳を握り締め、顎を震わせた。――「重要じゃないだと……?」




ゆっくり立ち上がり、天井を見上げる。


――「馬鹿かもしれない。生き残れないかもしれない。だがひとつだけ確かなことがある――」




彼は子供を背負い、ヘッドランプのベルトを整え、叫んだ。




――「異世界主人公でも、泣いている子供を見捨てるヤツはいねぇ!」




そして全力で走り出した。金属を踏む彼の足音が響く。曲は高揚していく。




――「I’m a 20th Century Boy,


I wanna be your toy!」





---




ハストゥルとエファ側




時刻は03:03。音楽の振動が壁をまだ揺らしている。




エファは荒い息を吐いて問いかける。――「この歌、何なの? それに私たち、正確に今どこなの? アラタとバンは? いつ死ぬのよ、ここで?!」 ハストゥルは軽く手をあげて制した。――「黙って一秒だけ。」




彼は目を閉じた。


曲はすべての回廊、すべての金属の壁に響き渡っている。そこで彼は気づく。




――「スピーカーだ。音はそこら中から流れている。」




エファは眉をひそめる。――「それがどうしたっていうの?」




ハストゥルの口元に微笑が浮かぶ。――「全てが変わるよ。」




彼はこめかみに二本の指を当て、低く囁いた。――「リリス、目覚めよ。」




耳元で、生物的な殻が砕けるような音がした。


透明な小さなトンボのような存在が現れ、その羽は黄金に光って震えている。




エファは後ずさり、驚愕する。――「それ、何なの!?」 ――「リリスだ。俺の哨戒だ。」とハストゥル。


彼の声は落ち着いて機械的だった。――「残存するアニマを感知できる。今回の曲は、それを拡散するための完璧な周波数だ。」




ハストゥルの瞳が緑と黄色に光り始める。――「聞け……この音場で、リリスは広く拡がる。バンやアラタの気配があれば、俺は感じ取れるだろう。」




リリスの羽が二つに、またさらに増え、やがて光の虫の群れとなってトンネルへ飛び散った。曲の振動に乗り、隙間に潜り込む。




エファは目を丸くして訊く。――「もし仮面がそれを聞いたら?」




ハストゥルは冷静に応じる。――「そうなれば、奴は我々を恐れていないと知るだろう。」




どこかでサイレンが唸った。リフレインが反響で歪む。




――「Life’s just a groove, yeah, you know what I mean…


Women on love, machine on dream…」




トンネルが震え、天井の粉塵が降り落ちた。




エファはコートを抱き締める。――「劇場が、本当に始まったみたいね。」




ハストゥルは穏やかに言った。――「なら、我々も演じよう。」




二人は再び進路を取った。迷宮の歌に導かれながら。

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