第38話 「暴走する暴食と、救いの料理」
会場は混乱に包まれていた。
地面には、血まみれのミノタウロスの残骸。
そして、それを喰らい尽くし、赤黒いオーラをまとった三好が、静かに立っている。
──その視線の先には、ソーイ。
「……こいつ……俺を獲物として見てやがる……」
ソーイは内心、舌打ちした。
まさか、ここまで暴食スキルが暴走するとは思っていなかった。
三好の目には、もはや理性がない。
あるのは、ただ喰らい尽くすという本能のみ。
「なら……来いよ、化け物が!!」
ソーイは構えを取り、戦闘態勢に入った。
その瞬間、三好が地面を蹴り、飛びかかる。
ドンッ!!
瞬く間にソーイとの距離が詰まり、三好の鋭い牙がソーイの首元を狙う。
ガギィン!!
ソーイはすんでのところで包丁をクロスさせ、三好の噛みつきを受け止める。
「ッ……速い……!!」
三好は牙を突き立てるように、さらに噛みつこうとするが、ソーイは身体をひねってかわす。
すかさず反撃。
「はあっ!!」
包丁が風を切り、三好の腹部を斬る。
しかし──
「ッ……全然効いてねぇ……!?」
傷口は一瞬で再生し、血すら出てこない。
「クク……まだ足りない……」
三好が低く唸る。
「もっと食わせろ!!」
形勢逆転
再び三好が飛びかかる。
今度は、爪を使った引き裂くような攻撃。
ソーイは後方に跳び、かわそうとするが、爪の一撃が肩をかすめる。
「ぐっ……!」
鋭い爪痕がエプロンの上に刻まれ、血が滲む。
「チッ……これはマズいな……」
ソーイは冷静に状況を分析する。
──三好の動きは尋常ではない。
──再生能力がある以上、長期戦になればなるほど不利。
──攻撃を受けたら最後、一気に喰われる可能性がある。
「だったら……」
ソーイは包丁を握り直し、一気に攻めに転じた。
「てやぁっ!!」
右手の包丁が三好の左脇腹を斬る。
「ぐぅ……!」
直後、左手の包丁が三好の肩を突き刺した。
「ぐあっ……!!」
ソーイの素早い攻撃に、三好の動きが鈍る。
そして次の瞬間、強烈な蹴りが三好の腹に炸裂した。
「くらえッ!!」
ドゴォォォン!!!
三好の身体が宙を舞い、地面に激しく叩きつけられる。
「がはっ……!!」
砂煙が舞い上がる。
三好は大の字になったまま、微動だにしない。
テイストキングの一閃
「やったか……?」
ソーイが息を整えながら確認しようとした、その時。
「──甘いな。」
シュバッ!!
一閃。
鋭い刃が、ソーイの右肩を斬り裂いた。
「……ぐあっ!!」
鮮血が飛び散る。
ソーイは驚愕し、飛び退く。
そこにいたのは──テイストキング。
「……気を取られすぎだ、ソーイ。」
「くっ……!」
ソーイは肩を押さえながら、忌々しげに睨みつける。
「まだ戦うか?」
テイストキングの言葉に、ソーイは状況を判断する。
──右肩をやられた今、満足な戦闘はできない。
──ミノタウロスも倒されている。
──長引けば、こちらが不利になる。
「……今日はここまでだ。」
ソーイは包丁を構え直し、素早く後方へ飛び、黒い煙を発生させる。
「次に会う時は、貴様の最後だ…。」
そう言い残し、煙の中へと姿を消した。
料理がもたらす救済
ソーイが撤退し、戦いは終わった。
だが──
「三好……!」
カオル、グレース、マリアが駆け寄る。
三好は依然として、荒い息をしながら横たわっていた。
「暴食スキルの暴走が止まらない……」
グレースが不安そうに呟く。
その時、カオルが何かに気付いた。
「……あれ?」
審査員席に残された料理の皿。
「もしかして……」
カオルは駆け寄り、その蓋を開けた。
「……グレースの料理……」
そこには、決勝戦で作られた料理があった。
「食わせるぞ!」
カオルは急いで、三好の口元へ料理を差し出す。
「三好! これを食え!」
意識が朦朧としたまま、三好はグレースの料理を口にする。
──パクッ
その瞬間、三好の全身を包んでいた赤黒いオーラが、スッと消えた。
「……」
三好の目がゆっくりと閉じる。
そして、そのまま意識を失い、静かに眠りについた。
それぞれの安堵
「……治まった?」
マリアが不安そうに見つめる。
「……あぁ、元に戻ったみたいだ。」
カオルが安堵の息を漏らす。
「……良かった……!」
グレースが泣きながら三好の手を握りしめた。
三好は、再び人としての姿を取り戻したのだった。
──料理は、人を救う。
暴食の暴走を鎮めたのは、グレースの作った料理だった。




