第39話「終わった後の始まり」
三好はゆっくりと意識を取り戻した。
(……ここは……)
視界に映ったのは会場だった
身体を動かそうとするが、全身が重く、異様な疲労感に包まれている。
(……暴食スキルの暴走のせいか……)
すぐに思い出す。
ミノタウロスとの戦い。
暴食スキルの暴走。
ソーイとの対決。
ミノタウロスの肉を食い、圧倒的な空腹感に襲われながらも、最後にグレースの料理を食べたことで正気を取り戻した。
その後の記憶はぼんやりしているが、どうやら無事に生き延びたらしい。
「……はぁ……」
長い息を吐き、ゆっくりと上体を起こす。
と、その時、審査員席から話し声が聞こえてきた。
テイストキングの感謝
そこでは、テイストキングと数名の審査員たちが話し合っていた。
「……大会を中止にしたのは妥当な判断だったな」
「ああ、まさか魔王軍の幹部が紛れ込んでいたとは……」
「しかし……それよりも驚いたのは、あの冒険者だ」
「三好とか言ったか……彼がいなければ、この大会はめちゃくちゃになっていた」
「確かに……それに、グレースも決勝まで残ったしな」
「ふむ……特別賞を用意するべきだな」
「賛成だ」
その時、テイストキングが三好の方へと歩いてきた。
「……大丈夫か?」
威厳のある男――テイストキングが三好の前に立つ。
「お前には礼を言わねばならん。娘を助けてくれてありがとう」
そう言うと、彼は深く頭を下げた。
「いや……俺はただ……」
「いや、お前がいなければ、グレースはどうなっていたかわからん。本当に感謝している」
三好は少し気恥ずかしそうに頬をかきながら、
「……まあ、結果的に助けられてよかったよ」
と答える。
テイストキングは満足そうに頷くと、
「大会は中止になったが、決勝まで残ったグレースには特別賞を授与することになった」
「へぇ……それはよかったな」
「ああ。グレースも喜んでいた」
その言葉に、三好も自然と微笑んだ。
「それと……お前の体は大丈夫なのか?」
「ん? まあ、ちょっと疲れてるけど、どうにか……」
「無理はするな」
「……了解」
三好たちは家へと帰って、三好は部屋のベットに寝転がった。
(色々あったな……)
目を閉じると、次第に意識が深い眠りに沈んでいった。
夜の訪問者
深夜、三好はふと目を覚ました。
部屋は暗く、静まり返っている。
(……なんだ? 妙な気配がする……)
薄暗い中、ゆっくりと目を凝らすと、
――誰かがベッドの上にまたがっていた。
「……ん?」
暗がりの中、その人物の輪郭が浮かび上がる。
長い髪。スレンダーな体つき。
見覚えのあるシルエット。
「グレース……?」
そう呟いた瞬間、グレースは静かに服を脱ぎ始めた。
「……何してんだ、お前」
三好は一気に目を覚まし、動揺しながら尋ねた。
グレースは真剣な眼差しで三好を見つめ、
「お世話になったお礼をしに来たの」
と言うと、三好の手を取り、自分の胸にそっと押し当てた。
「は?」
三好は一瞬、状況が理解できず固まる。
「お世話になった人には、体でお礼をするって、マリアに聞いたの、初めてだけど頑張る」
「……はぁ?」
完全に目が覚めた三好は、思わず額を押さえた。
(おいおい……またあの神父娘かよ……)
ため息をつきながら、グレースの手をそっと外す。
「……グレース、そういうことはしなくていいんだよ」
「でも……三好にはたくさん助けてもらったし……」
「それなら、これからも料理を作ってくれればいい」
「……え?」
「お前の料理を食べられるだけで十分だよ」
三好は優しく微笑みながら言った。
グレースは少し考え込んだ後、照れたように頬を染めた。
「……そう、なの?」
「ああ。お前の作る飯は最高だからな」
グレースはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷き、
「……わかった。じゃあ、今日は帰るね」
そう言って服を整え、部屋を後にした。
三好は大きく息をつき、再びベッドに横になる。
(……マリア、後でしばく)
翌朝
朝、食堂で朝食を取っていると、マリアが上機嫌に紅茶を飲んでいた。
三好は静かに近づき、
「おい、マリア」
「ん? 何?」
ニッコリと微笑むマリアの頬を、
「お前、グレースに変なこと吹き込んだな」
――思い切り抓った。
「ひゃああっ!? ちょっ、いきなり何!?」
「……グレースが夜中に俺の部屋に来て、変なことしようとしてたんだが?」
「……え? マジで?」
「お前が『お世話になった人には体でお礼する』とか言ったんだろ?」
「あー……まぁ……それっぽいことは……」
「……お前なぁ……」
マリアは三好のジト目に肩をすくめ、
「だって、グレースって素直だから、冗談で言ったこと真に受けると思わなかったし……」
「冗談にしては悪質すぎんだろ……」
マリアは苦笑しながら「ごめんごめん」と軽く謝るが、三好は納得がいかない様子だった。
(……この神父娘、絶対あとで仕返ししてやる)
そう誓いながら、三好は朝食のスープを静かにすするのだった。




