第23話 モノの在り方
それは、遠い記憶では無い。
ワタシの今後を左右する、そんな重要な出来事でも無い。ただの何気無い、過去の記憶だ。
それは、ほんの一年半前。ワタシが自衛局に捕らえられてから、半年が経った頃の目が覚めたところから始まった。
「お。起きた……」
すぐ近くで聞こえたその声に反応し、ワタシは軽く辺りを見渡してから、声のした方へと首を回した。
「………」
そこにいたのは、この時まだワタシの上司では無かった双葉風音だった。
「気分はどう?」
風音さんは、唐突に訊ねてくる。
「…………」
この時のワタシはまだ、『対話』という術を持っておらず、周りとのコミュニケーションなど必要無いと認識していた。
「ま、良いけど」
何かを諦めたかのような面持ちだったが、風音さんは布団の上にA4サイズくらいの茶封筒を乗っけた。
「その封筒には、貴女の今後が書かれた書類が数枚入ってるから。気が向いたら、その書類の通りに行動してみて」
その台詞を言った後、風音さんはその場から立ち去った。
最初は乗り気ではなかった。
それが命令であれば即座に行動したが、その時の風音さんの台詞から察するに、その台詞は任意であることは明白だった。
ワタシは、再び一人ぼっちとなった後、もう一度部屋中を見渡した。
何の面白みも無い真っ白な空間。
冴えた色は、持ち込まれた多種な書物と今目の前にある封筒のみだ。
何の変鉄もないその部屋の空間にも慣れ、再び書物を手にすること無かったワタシは、自然と目の前に置かれた封筒に手を伸ばし、中身を取り出した。
「…………」
中に入っていた書類は五枚。
その内の二枚が、何かしらの契約書のようなものなのは理解したが、それ以外の書類が何なのかはよく分からなかった。
ワタシは再度、部屋の中を見渡し扉のある方へと進んだ。
電流が流れたり、鉄線が張り巡らされていることを警戒しつつ扉のドアノブに手を掛けたが、ワタシの手には何の違和感も伝わらなかった。
ゆえに、ドアノブを捻り、扉を開いた。
その時、もう一段階の警戒。警備員の存在を気配で確認し、存在しなかったので、扉の影に隠れた状態で再度、黙視による確認を行うが、それでも人の気配すら感知出来なかった。
「…………」
ワタシは、それに疑問を覚え、内心で首を傾げた。
その場でしばし待つが、人が近寄る気配も、広範囲に向けて放った殺気に気付くモノも無かった。
なので、警戒を最小限に弱め、風の吹く先へと進んだ。
空気の流れは一律ではない。
しかし、この場所は総てを分厚い鉄で覆われた巨大な建物。
それゆえ、空気の流れはあちこちに流れ、その場で滞留し、別の行き先を求めて縦横無尽と動き回る。
だからこそ、その風が行く道ではなく、来た道を辿るのが懸命だった。
ワタシがいた建前は、三十階ほどの大きさの建物で、その中のほぼ最上階とおぼしき階層にワタシは捕らえられていた。
いくら分厚かろうと、壁は鉄だ。
それをぶち抜くことは案外容易であろうが、それで事態が悪化しては元も子もない。
別に、戦闘が嫌いというわけでは無い。ただ、面倒事はなるべく避けたい主義なのだ。
真っ直ぐ階段のある方へと進み、階層が変わるごとに警戒心を張り巡らせて、極力面倒事を避ける。
そうしてどのくらい経っただろう。
監守塔の外へ出た頃には、辺りはすでに茜色に染まっていた。
「……………」
久々に見た紅い空と、霞みがかった空気。
どのくらい閉じ込められていたかは知らないが、なんとなく平害な気分だった。
ヒュゥウゥゥゥ~~~…………と。横殴りのそよ風が、ワタシの頬を掠める。
ワタシは踵を返し、自室となっている部屋へ戻った。
次の日。ワタシは前日よりも早めに行動を開始し、渡された書類に書かれた場所に向かった。
始めは、役所だ。
「いらっしゃいませ~。本日はどのようなご用意でしょうか?」
「…………」
受付の人に対応せず、最初の書類を差し出す。
「……………。えと………。あ、はい。只今、対応致します!」
怪訝そうな面持ちで書類に目をやった受付の人は、書類の下の方に目をやると、途端に表情を一変させ一礼して奥に引っ込み、奥に居たどっしりとした体型の人物の元へと向かった。
その後、そのどっしりとした人物と何かをこそこそ話し、わらわらと集まってきた人物とも何やら話しをし出し、ただならない雰囲気を醸し出す。
そしてものの数分後、その内の一人が離れ、別の人の元へ行き、先程の人物はこちらに戻ってきた。
「お待たせ致しました。すぐにご用意致します」
そう言うと、受付の人は、再び奥へと引っ込み、ようやく作業を開始した。
受付の人の作業中、先程の集団の内の一人が受付の人の元に近寄り何かをその耳元で囁くと、受付の人は一瞬焦ったような表情を見せた後、大慌てで作業を再開した。
思ったよりも時間を喰ったワタシは、役所の外でそっと空を見上げた。
陽はすでに真上に来ていた。時刻はお昼と思われる。
特にどうとも思わないが、ワタシのお腹はそれを許さず、けたたましく唸り声を上げる。
渡された茶封筒の中には、お金も入っている。
これまでの人生で、ワタシは一度も買い物をしたことなどなく、どうしたものかと悩み、けたたましく鳴り続けるお腹を宥めようと、無意識に屋台の並ぶ街へと向かった。
街は、盛況であった。
多くの人が街を闊歩し、思い思いに買い物や長話を謳歌している。
ワタシは、そんな人々の間を縫うように進み、手持ちに見合い、且つ一番お腹の満たされるモノを売っている店に向かった。
嗅覚と視覚、その二つが選ぶ最も妥当な店の前に立ち、いくつかある品物の中から適切なモノを選ぶ。
ここでも、店の人や、廻りの目が気にかかったが、ワタシはそれを無視して落ち着ける場所──特に、座れる場所を見付けて、その場で昼食を摂った。
正直、味の良し悪しは分からない。ただ言えるのは、この食べ物に毒が入っていないということだけだった。
空腹を満たしたワタシは、食べ終えた後処理を、指先から出した炎で焼却し、次の目的地へと向かった。
次へ向かうのは、不動産屋。その後、金融棟、呉服屋へと向かい、ようやく最後の目的地である自衛局に向かった。
「お。ようやく来たね?」
管理塔に入ってすぐ、ワタシは受付の手前で、その人物に呼び止められた。
そこで待っていたのは、二日前にワタシにこの茶封筒を渡した張本人、双葉風音であった。
「遅かったね。渡してから二日も経ってるなんて………」
「…………」
何を言われているかは分かっている。しかし、ワタシの中ではそんな事を訊ねられに来た訳じゃない、という思いで一杯だった。
「どう。外の世界は?」
ワタシの返答など待たず、風音さんは質問を続ける。
「ま。アンタのことだから、どうせ昨日は辺りの警戒で時間を喰われ過ぎたんでしょうけど」
風音さんは、見ていたかのように事実を口にする。
「それで?」
風音さんは、不意に問う。
「貴女は、これからどうしたい?」
続けて問う。
「良かったら、ワタシと来ない?嫌なら、再び牢屋行きだけど」
その答えなど、ワタシは持ち合わせていなかった。
何故なら、自分が〈兵器〉であり、ただの〈実験体〉であることは明白であるからだ。
だからこそ、こう発言することしかできなかった。
「それは、命令………?」
「え……?」
風音さんは、その翠の瞳を大きく開かせ、素っ頓狂な声を漏らした。
「あ。えと、待って。それって、どういう意味?」
我に還った風音さんに、逆に訊ねられた。
「…………」
ワタシは、しばし黙った。
ワタシが聞きたいのは『命令』のみ。
ゆえに、それ以外の言葉など、ただ周りが騒いでいるだけの雑音に過ぎなかった。
「ん~~~。えと、じゃあ。とりあえず『命令』ということで良いかな?────良いのかな…………?」
風音さんは、曖昧に悩む。
風音さんはワタシのチカラを欲し、ワタシは飼い主の命令を欲している。
理屈も条件も合っているはずなのに、二人の間には、どこか歪みが存在していた。
何がそこを歪ませているのかは分からなかったが、なんとなく、その違いは読めた。
けれど、ワタシはその答えを発言することなどできなかった。
「ま、まあ良いわ。とりあえず、今日の宿は事前に用意してあるから、そこに泊まってって。明日、呼びに来るから………」
何をさせる気だろう、と柄ではない疑問が浮かんだ。
「目的はまた明日。その時になったら教えてあげるから、今日はゆっくりと休んでおきなさい」
コチラの思いを察したかのように、風音さんは不適な笑みを浮かべて、管理塔から出ていった。
ワタシは、そのまま受付へ進み、部屋の鍵を貰ってその予定の停泊する部屋へと向かった。
その次の日──。
「ありゃ、早いわね………」
何故か、ワタシの返答に風音さんがいた。
部屋に鍵はしてないが、部屋の番号までは知らないはずだが……。
ワタシは、風音さんの感心を素通りし、洗面所に行って顔を洗って歯を磨き、髪をとかす。
「それにしても、柚希って綺麗な髪と眼をしてるよね?」
不意に、訊ねられる。
この時のワタシはまだカラーコンタクトをしておらず、彩眼異色は剥き出しのままだった。
「………………。──?」
それよりも、ワタシには気になることがあった。
「ユズ……キ?」
聞こえた単語を、この時初めて声に出した。
「ん?何か引っ掛かる?」
「…………」
実験所での呼び名は───鎖錠1946だった。
それは、単なる玩具であるワタシたちに振られた番号である。
「あ。名前?」
風音さんは、コチラの意図に気付く。
「貴女のことは、事前に色々な方面の手を尽くして調べたけど、何も出なかったからね。コチラで妥当なのを取り付けといたから」
「…………」
それは名前に限らず、今後のワタシの人生をも左右する事だった。
「それで。とりあえずは、貴女の名前を【神威柚希】ということにして、《局》に登録しておいたから」
「…………」
言われて、しばし考える。
初めての名前。それは、道具以外にも存在していたことを再認識させられるモノだった。
「それは、何故?」
答えが見付からず、そう訊ねる。
「ん?駄目?良いと思うんだけど……」
さも当然のように聞き返してくる。
なので、逆に聞き返す。
「それ、必要?」
「? う~ん、どうだろ」
顎に手をあてて考える。
「まぁ、私的には必要……かな?」
その回答は、まさかの疑問系だった。
「……………」
どうして良いか分からず、ワタシは終に諦めた。
そうして。ワタシの、【神威柚希】としての人生が始まった。
その始まりは、いつも通りであったが………。
「用意は良い?」
訊ねられ、ワタシは軽く頷く。
「じゃあ、今回の任務内容を説明するね」
言って、風音さんは口を開く。
「犯人は五人。人質は二千人。状況は硬直状態。どう、いける?」
「ん。なんとかする」
「そう。一応、殺害はなるべく避けて。柚希に与える任務は、犯人の所持している武器の奪取か、戦意喪失を促すこと。あるいは、本部の部隊が突入するまでの時間を稼ぐこと。どう?どれか遣れる?」
「殺害は許可されない?」
「ん~。できるだけ避けて」
「どの程度なら、良い?」
「不可抗力程度」
「……………。分かった。殺さない程度に武器を奪取する」
「分かったわ。じゃあ、その通りに上には伝えるから。柚希は先に、現場に突入してて」
「ワタシは、一人で突入?」
「ん?そうだよ。もしかして、心配?」
「そうじゃない。邪魔なら、ソチラから片付ける」
「危ない発言。大丈夫、柚希の行動を見計らって突入する予定にする。おそらく、本部が向かうのは、柚希が全部片付けた後になると思う」
「ん。分かった。じゃ、行ってくる」
「うん。気をつけてね?」
言ってて疑問を覚えたワタシは、特に気にした感じの素振りを見せることなく現場へと向かった。
ワタシの初めての任務は、金融庁での強盗事件。その際に転じて起きた立て籠り事件の収束だ。
風音さんの話では、現状は硬直状態らしいが、実際は違う。
立て籠った犯人の内の一人が、長期の硬直状態により一人暴走。人質の内の数人を殺害。
なので、事態は早急をようするらしく、風音さんはそれを聞き付け、指示の無い今事件に介入した。そして、その風音さんの部下でたるワタシも、その事件に駆り出される事となっている。
別に、事件が嫌いという訳では無い。むしろ、好きな方だ。
しかし、ワタシの中にその感覚は無く、ただ、上司である風音さんの命令で、今日まで生きている。
「…………。ココ、かな……」
ワタシは、現場に到着し建物の概容を目視で確認する。
大きさは……、デカイ。金融庁の建物は染紅色の外見で、中の構造は大分複雑である。
ひとまず、手薄そうな裏口から突入し、直前に見せられた内部地図と照らし合わせてゆっくりと進んで行く。
その途中、ポツリと呟く。
「五人じゃないじゃん…………」
敵の数は目視で四人。銃器を所持している人物の数は八人。
本部が簡易設置している拠点地はあっちか……。陽は、西陽が射し込んできているな。もう、午後か……。
相手の懐に飛び込む前に、自身の装備を改めて確認する。
ワタシは、小太刀一本。相手の装備は、銃器。おそらく、その懐にはナイフや手榴弾のようなモノも詰めているだろう。
しかし、それは問題ではない。
ワタシが危惧しているのは、風音さんに言われた『できるだけ、殺害は無しで』と言う言葉だった。
殺し以外の用で戦場に立つのは初めてなので、正直不安は大きい。
「とは言っても、ヤルしかないか………」
大き紅息を吐き出し、新たな空気を肺の中に取り入れる。
ワタシの役目は、敵の戦意喪失。
その為には、相手の銃器を破壊する必要がある。
目的は極めて単純であろう。何故なら、相手は同業者でなければ、軍人でもない。ただの一般人だからだ。しかし、問題はそこではない。その敵の元には、『人質』が居るという点だ。
風音さんに『人質』の安否まで指示されていないが、目的は、あくまで敵の戦意喪失。そして、この任務の大本は『立て籠り事件』。
なので。ワタシの役目に、人質の安全配慮も盛り込まれているだろう。
そのことを想定し、ワタシは敵のすぐ目の前。しかし、それらからは死角となる位置に身を潜める。そして、改めて敵の情報を探る。
敵は、銃器の取り扱いを得てはいても、あくまで素人だ。
彼らの形は、軍人のようにも見えるが、その行動そのものには焦りや不安のようなモノが見て取れる。
その存在から、汗が滲む。
敵がエキスパートであれば、人質への配慮は要らないだろう。しかし、彼らは素人。その銃口、弾道がどちらを向くかは分からない。
「遣りづらいな………」
ポツリと呟く。
殺しなら、もっと楽だったであろう。
「…………」
考えてても、しょうがなかった。
頭では分かっている。しかし、それを実行に移すのが難関だった。
役目は……任務は、なんとか達せられた。
人質は無事に救出。犯人たちにも怪我人はおらず、難なく制圧され逮捕された。
しかし、その件に関して風音さんは本部のお叱りを受け、ワタシはその一部の責任の為、事務労働を余儀無くされた。
その後もワタシは風音さんの指示で、あらゆる現場な赴き、風音さんの身勝手な判断で現場を荒らし回った。
そうして、ワタシが目覚めてからの半年間。現場荒らしと、その罰則を繰り返してきた。
その後は、風音さんが《局》から離れ、《東方》へ向かった。
そのことで、ワタシは再び一人ぼっちとなり、初めに登録していた局軍学校へ時々顔を出すも、居心地が悪く感じ、街を出歩いたり、図書館で書物を読み漁ったりなどして、その後の一年を過ごした。
初期のの直前。つまり、三月の暮れ。突如、アパートに一通の便箋が届いた。
その差出人は、当然風音さんであった。
用件は、風音さんのいる《東方》関東部《秦》への渡航である。
行き方は単純。定期船であるフェリーのみだ。
その点で、問題が二つ浮上した。
一つは、定期船による島入は、到着まで一週間近く掛かる点。二つ目は、ワタシが『船』というモノに、初めて乗る点だった。
同じことの繰り返し。ワタシは気にせず、風音さんの指示通りに《秦》へと向かった。
それが、どんな場所なのかは後回しだ。
「そう。後回しだ…………」
そうして、意識は現在に戻る。
「んっ。あ………」
そうだ。そうだったんだ。
記憶は一周した。
だからこそ、気付いた。
ワタシは、『役目』を果たすだけだ。
その『役目』とは、『桜の花を咲かせること』。
現状、すでに《神桜樹》の花は咲いた。
その《神桜樹》に関する情報は、ワタシの中にある。
しかし、今はどうでもよくなった。
《神桜樹》が咲いた以上、ワタシがこの場にいる必要は無くなったはずだ。
だが、現状風音さんからの指示は無く、《局》へ戻ろうにも、国外への入国には上層部の許可が必要となる。
なので、ワタシの次の行動は確定しておらず、しばらくは《秦》での待機となる。
「……………」
しばし、今後について愚考する。
ん?と。不意に、辺りに目を向ける。
そこは、妙に見覚えのある風景だった。
それはおそらく、自室だ。
未だ意識が朦朧としているせいか、ココがワタシの今の部屋かも確証が持てない。
だから、ワタシはその場を離れ、やはり見覚えのある場所を歩く。
部屋の外に出て、庭先の池の前に立つ。
その池の中央に浮かぶ、綺麗な満月の画。
時折吹く夜風が、ワタシの頬や寝間着だけでなく、池の水も揺らし、不安感を植え付けてくる。
「何だか、イヤな予感がする………」
そう。イヤな予感だ。
今までに感じたことの無い、不思議な感覚。されど、どこかで感じたことのあるような。そんな、曖昧な感覚がある。
これが、予知か………。あるいは、単なる確定した出来事までの、前触れなのか……。ハッキリとは分からない。
それに、その夜風に混じって、何か〈黒いモノ〉が飛んでいた気もするし………。
「……………」
しかし……、今後の方針か………。
確かに、ワタシの中には、この《セカイ》に関する情報がいくつか存在している。
だが、それでも今後の方針までは定められなかった。
何故なら、ココまでの歴史が、ワタシの中にある情報とは大きく異なっているからだ。
ワタシの中にある情報では、〈最終戦争〉によりセカイは崩落し、〈虚幻計画〉によって再び創造される、というモノ。
それはまだ先の話であろうが、少なくとも〈この時代〉は、どこか違う方向へ向かっている気がしていた。
それに、確かな確証は無いが、《神桜樹》から産まれたであろう咲良さんと、ワタシの中に眠っていた異質な権能《神威兵器》。
《神威兵器》はこの〈最終戦争〉に関係しており、《神桜樹》は〈虚幻計画〉と関係している。
しかも、その〈最終戦争〉についての微かな映像の中には、咲良さんに類似する人物や《神威兵器》を所持している人物が映っていた。
しかし、今ワタシが気にしている点はそこではない。
気になっているのは、咲良さんとワタシの関係だ。
それは、情報のどこを見ても見当たらない事実であった。
「とりあえずは、ソコから………かな?」
そう呟き、ワタシは自室に戻って床に着いた。
次の日。ワタシは、制服を着ておいて学園には向かわず、その逆方向へ進んだ。
初めは、商店街。
「えっ?」「ん?」
到着したはずの場所のその有り様を見て、同行していた咲良さんと、シルヴィアさんが驚く。
二人の表情の変化で分からないであろうが、少なからず、ワタシも驚いている。
「崩壊、したはず……」
一人平然としていたセレナさんが呟く。
そう。崩壊したはずであった………。
しかし、現状の商店街はそんな感じを匂わせることなく、平然とその場に存在していた。
その場を行き交う人々も、店の人達も平然としている。
当然の光景では無いが、それがそれほど驚くほどの光景でも無いことはなんとなく察しがついていた。
「この様子だと、あの場所も………」
言って、ワタシ達は次なる場所へ移動した。
その場所は当然…………、
「此処も……」
移動先──師法研究所も一緒であった。
しかし、此処は、先程の商店街とは少し違う点があった。
それは、街の様子そのもの。
大瀬橋や師法研究所の復元はそのままなものの、古海町自体の状態はまるっきり違っていた。
「更地、みたい………」
そう。更地だ。
以前来た時は、街一つが吹き飛んだように瓦礫などが散乱していたが、現状の古海町は更地に師法研究所が一軒だけ建っている有り様だった。
これがどういう意味なのかは置いといて……。ひとまず、これがこの《セカイ》の在り方であるのは確かであろう。
「あれ?柚希ちゃんと、その他。えと……誰だっけ?」
「咲良さんとシルヴィアさんに、セレナさんですよ。結羽灯さん」
突然現れた人物に、簡素な紹介をする。
「あの、結羽灯さん。これは………」
辺りを見渡し、率直に訊ねる。
「ん。何が?」
「……………」
大まかな問い掛けとは言え、結羽灯さんがこのような態度ということは、結羽灯さん本人がこの状況を理解していないのだろう。
「いえ。何でもありません」
言って、その場を立ち去ろうとした刹那────、
「──ッ!!」
とてつもない程の大きさの悪寒と殺気を察知した。
それは、〈影〉と〈闇〉を混ぜ合わせたようなモノ。
以前、どこかで感じたことのある、可解な感覚。
目の前に立つその物体は闇色に煌めき、黒いモノを常時放出している。
「まさか………、貴方は……………」
知らない……はずなのに、ワタシの口からそんな言葉が漏れた。
そう。知らないはずだ。
〈彼〉の存在など……、その在り方など………。ワタシには、知るよしの無いことのはずだった。




