第24話 幻影の騎士
その存在は、ワタシ達に畏怖しか見せなかった。
紫と黒で覆われた中世騎士のような甲冑。
その甲冑から溢れでている濃紫色をした霧状のそれは、《影》の背後でユラユラと風に靡かれ、《影》の存在を怪しく演出している。
騎士と言えば、王家に仕える武士のような者。
しかし、目の前のその人物の近くには、仕える者の姿は無く、彼自身も単体で此処にいる。
状況はよく呑み込めないが、現実コチラが不利であることはなんとなく察しがついた。
しばし睨めっこが続き、ようやく次の行動に移った《影》は、腰に下げていた闇色の剣を抜き放つ。
「………」
剣は、鞘から抜かれた瞬間、黒いモノを噴き出して、辺りの空気を蹂躙していく。
「不気味な、剣………」
そう。セレナさんの呟き通り、《影》が持つその剣は、不気味な邪気を放ち続けている。
「貴方は、いったい…………」
つい、言葉にして思ったことを溢してしまった。
気付いた時には刻既に遅く、《影》はようやく言葉を発した。
「ん?そうだな。コチラばかり名を知っているというのも、俺にとっては不服でしかないな……」
何を言っているのか分からなかったが、ワタシは彼のその言葉で、《影》という存在に少なからず疑問を抱いた。
「俺は、《夜天騎士団》第十一席《影騎士》」
「…………」
「とりあえず、今は本名は隠させてもらう」
今のワタシに、そんな言葉など入ってこなかった。
この時、ワタシが気になったのが、その《影騎士》の声だ。
確かに、彼の身体からは黒いモノが溢れ出ている。しかし、《影騎士》の声を聞く限りでは、普通の『人間』のように思えた。
彼がどのような人物なのか謎が深まるばかりだが、この展開を軽視することはできない。
「ヤテン、キシダン………。カゲ、キシ……………?」
それは、以前から聞き及んでいる存在。
その二つは、特にこの世界から警戒されている組織と人物の名。
だが、その逆にその二つの事は《局》の情報網にも何一つ引っ掛からない程の謎な存在で、また、誰一人見出だすことさえできない程の脅威的な存在でもあった。
ワタシは、どちらの存在をも風音さんから聞いており、《局》の書廊館からその組織に関係した報告書をいくつか読んだことがある。その中には、《夜天騎士団》を目撃したという文面がいくつか存在していた。しかし、《影騎士》の存在はどこにも載っていなかった。いや、正確には彼らは、一度も自身の《名》を名乗ってなどいなかった。名乗ったのは《夜天騎士団》という組織名だけだった。
だからこそ、情報が少なく、誰もそれ以上の情報を得ようとしなかった。
それは、以前ワタシがいた実験場と同じ。
《局》は自分達の身を守ることを優先し、助けられたはずの命をも見捨ててきた。
そんな奴らの集めた情報など当てにするつもりなど無いが、情報が少なすぎるという点では、ワタシは多少の違和感を抱いていた。
それと、以前未美さんの話にも《夜天に》という単語は存在していた。
その関係から考えれば、この状況は好機かもしれない。
それに、ワタシの持つ情報の中の〈虚幻計画〉と〈最終戦争〉、その二つの中には《夜天騎士団》の存在が一つも無かった。
彼らは無関係なのか。それとも、彼らは、ワタシと同じ情報を持ち合わせていて、それをどうにかしようとしているのか。
今はそれが気になっていた。
「貴方がたの目的はなんですか?」
なので、単刀直入に訊ねる。
「ふ。君は、薄々気付いているのだろう?」
「………」
その質問に答えなかった。
それは、ひとえに《影騎士》の思惑と意図を読んでの対応だった。
「そうか」
《影騎士》は、一人で納得する。
「だが、そう警戒せずとも、少なからず俺たちは《皇》の思惑など微塵も知らん」
「え?」
思わず、素っ頓狂な声が漏れる。
「ただ、与えられた役目を果たしているだけだ」
それが、《影騎士》が此処にいる理由。
「では、その役目は?」
聞いて、返ってくるだろうか……。
そう認識してワタシにとっては、次の《影騎士》の言葉は予想外に聞き取っていた。
「ふっ。俺の役目は、あくまで彼女の護衛だ」
だから、ワタシの判断は少し遅れていた。
《影騎士》が天に向けて、剣を向けたことを───。
「───柚希、避けてッ!!」
「──ッ!」
そして、おのずと次の行動に支障をきたした。
天を覆う黄金色の粒子が《影騎士》の剣に収束され、その存在を増加させ光輝くビームソードのような状態となり、ワタシ達を襲う。
「柚希ッ!!」
「アクッ!」
《影騎士》の攻撃をまともに喰らったワタシは、身体を大きく吹き飛ばされた。
「………?」
その刹那──、ワタシの耳は微かな影音を聴き取った。
「歌……?」
今でも、微かに鳴り響く鮮烈な歌。
今も誰かが何処かで歌っている。
ワタシは咄嗟に空を見上げ、視角を拡張させて空に漂う僅かな物体をその眼に映し出す。
「あれは………」
「だ、大丈夫?柚希」
咲良さんがワタシの側まで駆け寄り、ワタシ身体を抱き起こしてくれる。
そこは咲良さんに任せ、ワタシは自身の〈眼〉に映り混んだ物体を認識する。
「魔力粒子……」
「柚希……?」
咲良さんは心配そうに、ワタシの顔を窺う。
「どうやら、気付いたようだな。まあ良い。これも《計画》への序曲だ」
そう言って、《影騎士》は再び剣を天に掲げる。
微かに聴こえる歌は、まるでサビの部分と言わんばかりに、その旋律を強調する。
ワタシは、咄嗟の判断で咲良さんを投げ飛ばし、全身の力を戻す。
「柚希ッ…!」
「ハァァァアァァァァァァァ…………!!!」
相手の散布している魔力粒子を逆手に取り、小太刀に魔力粒子を纏わせて《影騎士》の一撃とぶつけて相殺させた。
「ッ……。これが、《超神姫》の〈権能〉か………」
辺り一帯は、大きな爆塵に呑まれた。
その間に《影騎士》は更なる手を講じた。
歌は鳴り止み、《影騎士》は単身でコチラに飛び込んできた。
ワタシは、咄嗟の判断で《影騎士》と対峙し、その一撃を受ける。
《影騎士》から受けた一撃はあまりにも大きく、その余波が辺りを包み込む。
「柚希ッ!!」
粉塵に紛れたワタシと《影騎士》。
鎖環を三つだけ外したとはいえ、今のワタシは大人をも倒せる程に強化されているはずだ。
しかし、現在ワタシは《影騎士》と激しい攻防を繰り広げている。
対当とは言えない戦況ではあるものの、それはワタシにとって不可思議な現象と言えた。
なので、攻防の一つ──弾かれたその刹那に、鎖環を二つ外した。
───ドクンッ!!
このタイミングで、ワタシの身体が一気に沸騰する。
「──ッ!」
いくらか慣れた感覚とは言え、身体への負担が大きく掛かる。
出来れば戦り合う前にやりたかったが、今はそうも言ってられない。
おもいっきり地を蹴り、《影騎士》との距離を詰める。
「くっ。全体的に増強したか……」
ッ?バレてる……?
どうやら、戦いに関して多大な知識を持ち合わせているようだ。少々戦いづらいなぁ~。
そんなこたを考えながら、ワタシは《影騎士》との交戦を続ける。
その間も謎の歌は一行に聞こえず、ワタシはそのことに細心の警戒心を向けつつ『型』に入る。
《六導十八門》。………三式八之型『焔九尾』!!
小太刀の先端からやや小さめの炎の弾を数発放ち、出来るだけ相手を翻弄する。
しかし、《影騎士》はその技の理論を知ってるかのように、放たれた炎弾を自身の剣で、全て切り裂いた。
少し驚きはしたものの、ワタシは顔色にせず相手の懐へと飛び込む。
《六導十八門》、………六式五之型『千羽杭』。
小太刀を槍のように扱い、相手の心臓を千突きにしようと地を駆ける。
しかし、それもその寸前で避けられ、逆に一撃を受ける。
「グアッ!」
《影騎士》の左膝が、ワタシの鳩尾に当たり、ワタシの身体は大きく後方へと飛ばされる。
「柚希ッ!!」
すぐ後ろで、咲良さんの声が聞こえる。
どうやら、粉塵の外へ出ていたようだ。
「ケホケホケホッ……、カハッ!」
鳩尾の痛みと、吸い込んだ粉塵を耐えるように、嗚咽を吐き出す。
その中に、血が混じっていた。
「柚希……?」
咲良さんが、心配そうにワタシの顔を覗き込む。
覗き込まれたワタシの顔は、酷い笑みを浮かべていた。
その表情の意味は、至って単純にこの戦況を『悦』に感じたからだ。
強い相手は世界を回ればいくらでもいるだろう。しかし、ワタシが今感じているのは、その強さの大きさであった。
鎖環を半分外しても届かぬ程の力量を持つ《影騎士》。
その相手に、ワタシは《神威兵器》を発動すべきか、鎖環をもう少し外すべきか苦悩した。
「《超神姫》としての実力はこの程度か……」
《影騎士》は、ワタシの次の行動を予測していたのか、思いがけない言葉を発した。
「もう、お遊びはここまでにしようか……。さぁ、《神威兵器》を展開しろ」
「──ッ!!?」
ワタシは、その言葉の通りにするしかなかった。いや、《神威兵器》を展開したところで勝てる相手とも思えなかった。
だが、今はやるしかない。
ワタシは〈冥樹〉に回路を繋ぎ、〈皇力〉を刻む。
そして、この場に適した《神威兵器》を顕現する。
───来い!”疎血の吸刃槍“………。
ワタシの〈皇力〉に応え、紅血色の剣刃が、ワタシの目の前に現れる。
「………これが、《神威兵器》。破戒を司る、贄の剣刃〈ダインスレイヴ〉…………」
「……………」
箍は二つ外れ、ワタシの意識は微睡みの中に溺れかけていた。
「今は、敵どうしだ!!」
だが、《影騎士》の放つ一閃が、ワタシの身体を一直線に貫き、意識を引き戻す。
「ガッ、ア………!!」
「柚希ッ!!」
「───ッ!!?」「このッ!!」
ワタシが受けた傷を覆うように、シルヴィアさんとセレナさんが、ようやく動き、《影騎士》の次なる攻撃を遮った。
「ヌルい………」
「アッ……」「ウッ……」
しかし、それは一瞬のことで、二人は《影騎士》に手も足も出ず、途端に倒されてしまう。
「シルヴィアさん!セレナ!」
やはり、圧倒的な力量の差を持つ《影騎士》。
ワタシは余韻に残る痛みを耐え、ゆっくりと立ち上がる。
「準備は整ったか?」
《影騎士》が訊ねてくる。
「…………」
意識も呼吸も乱れてはいない。しかし、ワタシの中で、何かが乱れていた。
「それじゃあ始めようか。戦曲の火蓋を切りに……!」
《影騎士》は再び剣を天に向けた。
それが、始まりと言わんばかりに、空気が波打ち、伴奏が流れる。
そして、ワタシと《影騎士》だけを覆うように、魔力の渦が見えない壁を作り、外部の音を遮断させた。
ゆっくりと聞こえ出す綺羅美やかな歌声。
それは、スローテンポでワタシの中の何かに深々と干渉してきた。
まるで、その歌に踊らされているかのように、ワタシと《影騎士》は魔力の渦の中で攻防を続ける。
その実力の差は圧倒で、今のワタシでも《影騎士》の意表を衝く程の攻撃しか出来ていない。
その差は何なのか、その力量がどう違うのか。ワタシにはそれが全く解らず、現状を引き延ばすことしか出来ない。
「ハァハァハァ…………。ウクッ……」
徐々に、ワタシの体力が底を尽きだす。
普通の状態であればまだ余裕であっただろう。
しかし、今のワタシでは、〈鎖環〉の解放と《神威兵器》の顕現。その権能を十二分に発揮できるはずなどなかった。
〈鎖環〉の解放の時点で身体に大きな不可を掛けている為、《神威兵器》を顕現ことは自殺行為にも等しい所業であろう。
「これが限界か………」
《影騎士》は、呆れたようにため息を吐いた。
その行動を察したのか、遠くの方から聞こえていた歌声は鳴り止んだ。
と思っていたが、実際はそうでは無かった。
「………。どうやら、彼方の存在に気付いた者がいるようだな………?」
魔力の渦は解かれ、辺りは古海町の景色一色となった。
「───ッ!」
その順応も束の間──。
「『油彩領域』。“紅紫縛鎖”!!」
紅々とした液体が大地を這い、《影騎士》の脚へと纏わり着き身動きを取れなくさせた。
「くっ!」
《影騎士》が、纏わり着いた紅い鎖をほどこうと足掻くが、紅い鎖はその力を一層強める。
「これが、《灰の錬金術士》の錬金術か………。さて、後は、『彼女』に行方を任せるかな………?」
トトロとリグレットは、古海町近くの大森林を掛けていた。
向かう先はただ一つ。歌声のする、家族の居る場所だ。
「“深紅の鞘”………」
トトロが、呟く。
それが、この歌の名前。
三年前に聴いた、軽やかなメロディーの歌だ。
けれど、それが与える恩恵は、『動乱』………。
人の心に干渉し、その感情を奮い立たせる効果がある。
「お姉ちゃん……」
リグレットもまた、呟く。
二人にとって大切な人物で、共に汗も、涙も、喜びも分かち合った、そんな家族だ。
「リーシャ………」
大森林に入って五分。二人は歌声の主、リーシャ・ハーメルンと接触した。
ピンクの長髪に、蒼の瞳。けれど、その首から下は、物騒な黄色の甲冑に包まれていた。
リーシャは、二人の存在に気付くと、その歌を止めた。
「お久し振りです。トトロ様、リグレット様」
リーシャは丁寧なお辞儀をし、冷静な表情を二人に見せた。
「どうして………」
トトロが問おうとするも、その内容は口から出なかった。
一年半前に別れてから、何となく予想はしていた事態。
しかし、こうして目の前に立つと、その現状には納得出来なかった。
「改めまして。《夜天騎士団》第四席、リーシャ・ハーメルンと申します」
トトロが問おうとしたことの答えを、リーシャは何の感情の揺らぎを見せることなく、淡々と答えた。
「お姉ちゃん………」
リグレットは、トトロの後ろに隠れたまま、リーシャの様子を窺うようにチラチラと顔を出しては引っ込めてを繰り返していた。
「リーシャ、今のアナタは……いったい…………」
トトロは、リーシャの答えに納得などしていなかった。
「御二人が思っていることは、何となく理解しています。ですが、この行動は『おじ様』より遣わされた、私だけの役目ですから」
「オジ…様……?」
その呼び名は、トトロ達にとっても大切な人物と一緒だと認識した。
「それって……」
「御二人のことは、おじ様より窺っております。《七罪聖典》の事、その《七罪聖典》としての『役目』の事も」
「──ッ!!」
「〈お人形〉さんの『覚醒』、ですよね?」
「…………なら、私達のミカ───」
「それは無いです……」
「──ッ!どうして!?」
「先ほども言いましたよね?今の私は、《夜天騎士団》の一員です。《七罪聖典》の味方ではありません」
「───ッ!!」
トトロは、再度驚く。
リーシャが、心に決めたことではなく、その頑なな意志に対して。
「それに、その《計画》はもう少しで成就されます」
「アナタは、《夜天騎士団》達は、あの子に何をしようとしているの!?」
「私達は、あの子に何の干渉も致しません。ですが、既に埋め込まれた〈権能〉を表へ引き出す場合は別ですが………」
「…………」
それは、本来《七罪聖典》の役目であった。
しかし、彼女達の行動は、その《計画》から逸脱したものであった。
「《計画》って……?」
だが、《七罪聖典》は、リーシャの言う《計画》を知らない。
いや。正確には、その《計画》の一部として、《七罪聖典》自身が以前より深く関わっていたのだ。
「《虚幻計画》………。おじ様は、そう仰っていました」
「キョゲン、ケイカク………」
その聞き慣れない単語、その《計画》の内容に、トトロとリグレットは愕然とした。
「ですが、安心して下さい。我々《夜天騎士団》の役目は、その《虚幻計画》の失敗を促すことですから」
「えっ?」
それは、誰が聞いても頭に疑問符を付けるであろう言葉だった。
《計画》の手伝いをしながら、その《計画》を破綻させるという計画。
それならば、最初からその破綻のみを命じれば良いものを………。
「御二人は、一つ勘違いをされています」
「??」
「正確には、《皇》様の命令が《計画》の成就であって、おじ様の命令が《計画》の破綻を促すことですから………」
「………?」
「………。それでは、私の役割は概ね終わりました。後は、この状況をどうにかするだけ……です」
そう言い、リーシャはフルートの口に自身の唇を当てた。
そして、ゆっくりと歌姫による演奏が始まった。
その演奏に呼応するように、物陰に隠れていた機械達が姿を見せ、トトロ達に襲い掛かった。
「リーシャ─ッ!!」
声など届くはずの無い。
今のリーシャは、トトロ達の知る《魔導協会》序列五位の《歌姫》ではなく、《夜天騎士団》第四席の騎士だ。
「リリッ!ひとまず、この邪魔な機械を始末するよ!」
「……!(コクッ)」
リグレットは、跳躍したトトロの援護を行うように、手持ちの人形を巨大化させた。
機械との戦闘は一筋縄とは行かないことは理解している。
しかし、現状はそれを大きく酷くさせていた。
原因は、リーシャの演奏にある。
大抵の敵であれば、《魔導協会》序列三位であるトトロと、同じく《魔導協会》序列七位であるリグレットの力を用いれば容易に倒すことはできる。
だが、リーシャの持つ〈歌〉の力は、その二人の力を合わせても、なお届かない。それが、リーシャの能力であり、本当の実力だ。
リーシャは、《魔導協会》の序列では五位という能力とは不釣り合いな地位であるが、その実力のみを鑑みれば、トトロの実力を大きく上回り、《魔導協会》の間は、その不可思議な評価と共に、《黒導詩書》と呼ばれる存在に名を列ねる知られている。
そんな相手に、トトロ達は対等に闘うことさえ儘ならない。
それでも、以前のリーシャであれば、家族であるトトロ達とはマトモに闘うことはしなかった。
しかし、今回は違う。家族という繋がりを休停し、敵同士として戦っている。
それならば、トトロ達はその思いにも似た忠誠心に従わざるを得ない。
「くっ!“踊り狂う銀翼の刃”!!!」
投げ込まれるナイフは、一直線に相手の急所を突き、機械達の行動を止める。
「これで、全部……動けなくしたと思うけど…………」
「うん………」
トトロ達は、改めてリーシャの方を見た。
全ての機械達を破壊されたことで、リーシャは演奏を止めた。
「やはり、旧式の駆動機械では駄目ですね……」
ブツブツと、一人言のように呟く。
「リーシャ………」
「ごめんなさい」
いきなり、リーシャは謝罪をした。
「え?」
「どうやら、今《計画》は此処までのようです」
リーシャは、足元の兜を拾い上げ、それを被った。
「ちょッ───」
「では、また会うことがありましたら。その時に………」
リーシャはフルートとは別の管楽器を取り出しその音を響かせた。そして、リーシャの足下から、闇色の光の粒子が放出される。
「───まだ、話はッ!」
「えと……、彼女のことは宜しくお願いします。おそらく、これ以上我々が干渉することは無いと思います」
「いや、そうじゃなくてッ………!」
トトロの思いも伝わらぬまま、リーシャはその場から離脱した。
「リーシャ………」
動けなくなった《影騎士》を他所に、未美さんと雅さんはワタシの側に来る。
「大丈夫………?」
「あ、はい。何とか………」
痛みを堪え、ワタシはゆっくりと立ち上がって見せる。
「あの人?………は?」
未美さんの後ろで、雅さんが訊ねてくる。
「《影騎士》、だそうです」
「えっ?」「は?」
その名を答えた途端、二人の表情は一変した。
「えっと………《影騎士》って、《夜天騎士団》の《影騎士》?」
「え?」
逆に、ワタシは素っ頓狂な声を発した。
「あ、はい。そう、本人が答えていました」
「…………そう………………」
未美さんも雅さんも唖然とする。
無理もない。《影騎士》は、《夜天騎士団》の一員だ。
しかし………、未美さんも雅さんもよく《影騎士》の存在を………?
それは、以前の話には無かったもの。
未美さん達《七罪聖典》は、《夜天騎士団》の《皇》という存在を倒すべく発足されたはず。いや、未美さん自身がそう話していた。
「ふがッ──!!」
そうこうとしたかいる内に、《影騎士》は紅い鎖を引き千切った。
「くっ、もう解かれたの!?」
予想打にしていなかった事態なのか、未美さんと雅さんは慌てて臨戦態勢に入った。
「ハァハァハァハァ…………。くっ、手こずらせてくれる……しかし、まぁいい。此処はこのくらいで良いだろう」
その言葉のすぐ後に、遠くの方から何かの鳴き声のような音が聴こえた。
それとほぼ同時に、《影騎士》の足下が闇色に煌めき、黒い粒子を放出された。
「あっ!!?」
そして、《影騎士》はその闇色の粒子と共に、虚空へと消えた。
その場に残されたワタシ達は、何も出来ぬままその場で立ち尽くしていた。
初めて出会した《夜天騎士団》。その実力は想定外で、ワタシ達は皆、絶望に見舞われた。
これが、ワタシの中にある情報の内である、〈虚幻計画〉の始まりであった。
それは知るよしも無かったのだが、ワタシはこの時から生じた地軸のブレを何となくで感知していた。




