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夜天幻時録  作者: 影光
第1章 春桜開花編
23/102

第22話 滅戒の焔

 打ち鳴らされた〈鼓の音〉は、ワタシの身体を『支配』した。

 抗うことなど出来ず、ただ茫然とその〈チカラ〉に呑まれるように……。

 そして今、ワタシは自身の『精神(ココロ)』の中にいる。

 ーーー総テヲ喰ラウ、大イナル『焔』。

 何度も聞いた無機質な声。

 しかし、今はそれよりも気になることがあった。

「ねぇ、柚希。この声は、いったい何処から聴こえてくるの?」

 完全に普通の女の子と思わせる声。

 その主は、ワタシの隣でそう訊ねてくる。

「此処は、《全能虚樹(アーケフォルチャ)》の中です」

「アーケ、フォルチャ……?」

 言っても解らないだろう。

 それは、ワタシが名付けた名前で、本当の名前はワタシも知らない。

「…………。それじゃあ、此処が貴女の『チカラの源』?」

 咲良さんは、辺りを見渡しそう訊ねてくる。

「おそらく……」

 《旧皇時代(ニーベルング)》───。

 そう呼ばれている神話が、数億年前から言い伝えられているらしい。

 その中に出てくる動物や植物、果てには〈神〉と呼ばれるモノまで。ワタシは、その名を適用して技やそれに関するモノに名を付けている。

 《旧皇時代》の際に行われた終焉の戦争を《汐約戦争》と呼び、その末路に出来たのが、この世界とされている。

 神々は自らの行いを愁い、この世界を創造した後、幾つかの〈種族〉が誕生した。

 そして、それらは互いの意見を持って、争いを引き起こした。

 その果てに、今なおこの世界では何処かで戦争が続いている。

 それは、此処でも同じなのかもしれない。

 いや。その延長を、誰かが引き起こそうとしているのだろう。

 ーーー虚ナル扉ハ、今………開カレタ。

「キョなる扉………」

 その言葉からして、おそらくこの世界の事だろう。

 ワタシに入ってきた三つ目の《超神基(グラマ・シャトー)》。

 それによって開かれた『情報』は、《神桜樹》についての情報だった。

 それは、この場にいる咲良さんについても関係することだろう。

 ーーー紅キ万物ヲ喰ライテ、蒼キ世界ヲ溶カシ……、碧キ理ヲ破壊セン………。

 それが、ワタシの中に眠っていた『権能(チカラ)』が示す、《超導姫(ワタシ)》の役割なのだろう。

 しかし、ワタシはソレを演じることなどしたくなかった。

 そこに疑問など感じない。ただ、純粋にそうしたかったのだ。


 崩落した研究所は、紅い閃光と怒号の咆哮を鳴り放って………塵と化した。

 爆塵となって包み込まれた古海市は、遂に一つの建物も失い無惨な荒れ地を晒すこととなった。

「これ、は………」

 その光景を間近に受け、未美と雅は絶句した。

 研究所から放たれた鉄屑が、雨霰のように古海市内全域に飛来する。

「うわっ、危なッ!」

「ど、どうするの!?」

「ッ!」

 困惑する雅に、未美は思考を巡らせる。

「とりあえず、雅はトトロ達を呼んできて!」

「未美はどうするの?」

「私は、現状をどうにか出来ないか検討してみる」

「一人で残るっていうの?」

「『ひとまず』わね………」

「危険過ぎるよッ!?」

「仕方無いじゃない!!今は、こんな所で議論してる場合でも無いんだからッ!!」

 柚希の《チカラ》は、二人ともよく知っている。

 されど、それを盾にして逃げ出すことなどしたく無かった。

 その上で、未美は自分達に出来る最善の手立てを交錯した。

「わ、わかった……。でも、無茶だけはしないでね………?」

 そう言い残して、雅は離脱した。

「無茶、か………」

 一人その場に残された未美は、惜しむように呟く。

 幼馴染みの言葉だけあって、その言葉は未美の思いを高めさせた。

「それは、約束出来そうにないな………」

 そう呟き、未美は腰に下げていたウエストポーチから、色の異なる小さな石ころを数個取り出した。

「《鉱彩呪術(ジェムマギア)》…………」

 未美が取り出したソレラは、赤・青・黄・緑・黒・白・無色の眩い光沢を放つ鉱石であった。

 未美は、その内の赤と青の鉱石を握り潰し、その手を後方へ回し構える。

「“緋紫地雷(アメジストマイン)”………」

 そして、手の中で混ぜた鉱石を目の前の『敵』に向かって投げ付けた。

 それを、『敵』は生成した大剣で叩き斬った。

 ドゴォオォォォォォォ…………ン!!

 その瞬間に、その地雷は起爆した。

「これで効くとは思えないけど、少しは時間を稼げるでしょう………」

 そう呟き、緑と無色の鉱石を混ぜ靴の裏に貼り付けた未美は、駿足で駆け『敵』の近くに倒れていた最中と結羽灯を回収した。

「──ッ!!」

 二人の身柄を回収した未美であったが、『敵』の対応は未美の予想を大きく上回っており、爆塵の立ち込める中から複数の斬撃が、未美に向かって放たれる。

「ぐあっ!」

 斬撃の直撃を寸前で交わすが、その余波は未美と回収された二人を大きく吹き飛ばした。

「うくっ……!」

 多くの瓦礫と地面を砕き巻き上げて、その威力を強調する。

「やっぱり、無理があるか………。けど、諦めないよ……柚希」


 スクリーン状の画面に写し出された映像を、ワタシは咲良さんと見ていた。

 救援を呼びにいった雅さん。ワタシに真正面から立ち向かう未美さん。崩落の下敷きとなっていた最中さんと結羽灯さん。

 彼女達は皆、ワタシが起こした『事件』の巻き添えを食らってしまっている。

 それなのに、ワタシはそんな彼女達に何もしてあげられる事が無かった。いや、することなど考えてもいない。

 それは、ワタシのココロに無いことで、それをするメリットも情も無いのが事実だ。

「此処が、柚希の中で………私達には何も、出来ない………」

 ワタシの後ろで、咲良さんはへたりこみ弱音を呟く。

「………」

 確かに何も出来ないだろう。

 しかし、その術は確かにワタシの中にはあった。

 だが、それを行うための『存在』が存在しなかった。

 けれど、それは今のワタシには到底手に入れられない代物でもあった。

 だから───

「ごめんなさい、咲良さん」

「えっ?」

 ワタシは咲良さんの胸ぐらを乱暴に掴み、彼女の身体を持ち上げた。

「柚希、何を!?」

 そして、自身の空間に風穴を開け、その中に咲良さんを放り込んだ。

「柚希!?」

「最後の《超神基》を探して下さい……」

「柚希~~!」

 その空間は『外』に繋がっている。

 そこに咲良さんを放り出せば、『外』にいる未美さん達がワタシの意図に気付いてくれると、そう確信していた。


「“黄牙雷尖(トパーズライズ)”!」

 未美の放った黄色の鉱石は、稲妻の形状(カタチ)と威力を持って、柚希の右肩を貫いた。

「っ。速度で押すことも出来ないなんて……。ホント、チート過ぎるでしょ。でも、弱音なんて吐いてられないね……」

 血と砂埃にまみれながらも、未美は闘志を燃やして柚希と戦っていた。

 そこには、もう助けられないと断言できるほどの畏怖を感じていながらも、諦めきれない少女の『思い』があった。

「どうしてだろうね。あんたとはまだ一ヶ月くらいしか経ってないのに、『助けたい』って気持ちが溢れてくるよ………」

 それは、未美がこの十五年間一度も感じたことなど無い『信念』だった。

 幼馴染みである雅にも、そんな気持ちを感じたことなど無いはずなのに、出会って間もない少女とは『家族』や『親友』に似た〈何か〉を感じている。

 未美は、それを不思議と感じながらも、どこか愉悦を感じていた。

 それは、初めての感情だからじゃない。どこかに引っ掛かる疑念を抱いているからだった。

 柚希は《第四世代(ヒューマノイド)》であって《第四世代》でない《第五世代(ヴァース)》であり、『人間(ヒト)』という系型を持つ《人工生命体(ホムンクルス)》である。

 その存在は未知数であり、その柚希を造り出した人物は今だ不明のままだ。

 それで何が変わる訳でも無いが、少しは対応のしがいのあるはずだ。

 未美は、そう思っていた。

 その時だ───

「っ?あれは………」

 柚希の腹部から、不可思議な黒い渦が発生し、そこから見覚えのある人物が投げ飛ばされた。

 投げ飛ばされた少女は、空を舞い、未美の目の前に落下した。

 未美は、一瞬の事で動転していたが、柚希が次の攻撃に入ろうとしていたことに気付き、黒と白の鉱石を握り潰し、柚希に向かって放った。

 柚希の放った斬撃と未美が投げた鉱石が衝突し、柚希と未美の間に灰色の煙幕が発生する。

 柚希がその煙幕に対応するほんの僅かな時間の間に、未美は咲良を回収し、すぐさま柚希との距離を取った。

「けほけほっ………」

 煙幕からを離れたことで、その直撃を受けた咲良は、新鮮な空気を吸い込むように噎せ込んだ。

「な、何………いったい。殺風景な場所から粉塵の舞う場所だなんて………」

「ひとまず大丈夫そうだね」

「イリエ………、ミミ…………?」

 二人の間に、しばしの沈黙が生まれた。

「ここ、は……『外』………ですか?」

「?? え、あ、うん……」

「………。あっ、そうだ。柚希が……!」

 何かを思い出した咲良は、突然未美に飛び掛かった。

「うわっ。な、何ッ!?」

 突然のことで困惑する未美。

 咲良の言う『柚希』とは、自分たちの目の前にいる破格の権能を振るう少女のことだろう。

「え、えぇと。ひとまず落ち着いて────ッ!!」

 空気を読まないとは、こういうことだろう。

 咲良を宥める間も無く、柚希が攻撃を仕掛けてきた。

「ひゃっ!」「うわぁ!」

 未美の咄嗟の判断で直撃は交わしたものの、その余波は再び未美達を襲う。

 圧倒的な力の差を前に、未美は戦意を喪失し始める。

(これが、人工生命体………。これが、世界中の錬金術士が夢見、焦がれた存在……)

 あまりにも強大過ぎる存在は、未美の『夢』をも打ち砕こうとしていた。

(いったい、どうすれば…………)

 絶望するにはまだ早いが、それに似た渇望は抱いていた。

 現状、出来る限りの最善は尽くしたであろう。

 それでも届かない現実は、いつだってすぐ目の前に存在していた。

 それは、『昔』も『今』も変わらない。

 何故届かないのか。何故守れないのか。

 その答えを、未美はどうしても知りたかった。

 だからこそ、《鉱彩呪術(ココ)》までの無茶を通したのだ。

 結局、その答えも道も見付けることができなかった。

 これ以上、自分に何が出来るのか……。それを見付けるので精一杯だった。


 その『焔』の色は何色だろうか………?

 一般的な紅。珍しい碧。それとも、黒………なのか。

 考えたって仕方がないのは承知の上だ。

 しかし、一度気になるとどうしてもその答えを知りたくなる。

 『炎精基(イフリート)』を倒したことで手に入った三番目の情報〈神桜樹〉。

 その情報の影響か、ワタシの中に謎めいた『火の光』が灯っている。

 その『焔』の色は、確かに黄色みを帯びた紅い───けれど、どこか黒みを帯びてもいた………そんな不思議な色合いをしたどこか見覚えのある『焔』だ。

「────ッ!!!」

 その色の答えを見付けた途端、ワタシの中に、最後の情報が入り込んできた。

 ようやく入り込んできた情報〈虚幻計画〉。

 それによってワタシの中に、今までに無い全く予想だにしていなかった『映像』が大量に流れ込んできた。

「ア、アアァァ、アア…………」

 その『映像』は、とても辛く、とても悲惨なモノだった。

 ワタシは必死に情報を整理し、流れ込んでくる『映像』の中身に『目』を通していく。

「これは、誰かの……他人の記憶じゃない。ワタシの………『記憶』……?」

 そう。ワタシが今『見ている』映像は、ワタシの過去の記憶。

 たった唯一の、決して忘れてはいけなかったモノとの大切な記憶だ。

「アグッ!ウッ、ウウゥ……。ア、アアァァァァァ…………!!」

 ワタシに悲しみは無い。怒りも、無い。

 だからこそ、この記憶は大切なモノなんだ。

 ワタシの唯一の繋がり。《超導姫(ワタシ)》という兵器(オモチャ)のたった一つの在り方だった。


 『外』の状況は、危うかった。

 しかし、駆けつけた二人の少女によって、未美は直前の『死』を難とか脱することができた。

 その二人が駆けつけても、今だ不利という状況は変わらない。

 そんな中で、駆けつけた少女の一人、トトロ・グリリンスハートが思いがけない一言を放った。

「なら、いっそのこと殺しちゃう?」

「なっ!」「は?」「………」

 未美と雅は驚き、駆けつけたもう一人の少女、リグレット・ヴァーミリオンは沈黙を通す。

「何とか出来ないんじゃ、しょうがないよね?」

 トトロは、続けて問う。

 未美の中で答えは決まっていた。

 だが、それを口に出来るほど、今の自分は万全ではない。

 なら、どうすべきか。

 考えたところで違う答えが浮かぶとも思えなかった。

 ならば、いっそのこと…………。

「グッ、ギギッ、ギッ!……グガッ!!」

 突然。柚希は奇妙な唸り声を上げ、悶絶するような仕草を見せた。

 戦況は未美からトトロに変わったが、無惨な現実は変わらず、結局、柚希は自身の手で、自身の暴走を止めた。

 その結果は、未美達に未熟者という烙印を押させるだけの出来事となった。


 グラノ・B・ヴァィンは、戦場と化した古海町から離脱し、一人森の中を走っていた。

「な、何なんだ。あれは………」

 情報には無かった出来事に、グラノは混乱し、行く宛も走り続けた。

 しかし、歳には勝てず、グラノは幾分も行かぬうちに息切れを起こした。

「ハァハァハァハァ、グッ。くそっ!」

 激しい舌打ちをし、その場にへたりこむ。

「どうやら。〈事〉は計画通りに進みそうですね」

 と。そこへ、一人の男が現れる。

「ッ。お前………、マルクト・ルヴァーチェ………」

「覚えていただきありがとうございます」

 グラノの嫌味にも動じず、マルクトは営業用の対応で言葉を紡ぐ。

「貴方のお陰で、コチラの《計画》は予定通り開催出来そうです」

「キサマっ………」

 グラノはマルクトに腹を立てていたが、それを口にすることはできなかった。

 なぜなら、自分も一人の『悪人』であるからだ。

 いくら研究のためとはいえ、他人の所有物を盗む──それも、人形(ヒトカタ)をした女の子を拉致しようとしていた。

 それは、先程の入衛未美が怒鳴る理由と同じだ。

 とはいえ、あの場から逃げ出したことで自分が犯罪に手を伸ばし、その直前で手を引っ込めたとしても、今の自分に犯罪者という汚名が付いたことに変わりはなかった。

 そのことに、グラノは一番の苦悩を覚えた。

「あとは、最後の『玩具』をどの段階で渡すか、ですが………。ッ!!」

 ───グサッ‼

「ガッ、グッ………!」

 突如、グラノの背中を大振りな槍が貫いた。

「ガハッ!!い、いったい……何が………?」

 自身に起きた出来事に理解出来ないでいたグラノは、自身の腹部に手をやった。

「や、槍……?」

 そこには、背中から一突きとして突き刺さっている大振りな槍──騎兵槍(ランス)の形があった。

 大きな息切れのせいか、グラノは騎兵槍の姿を認識してすぐ、その場に倒れ、ことの数秒も経たぬ内に息の根を止めた。

「し、死んじゃいましたか?」

 その数秒後、小柄な少女が、恐る恐るといった感じでマルクトの前に姿を見せた。

「貴女は………」

 マルクトは、その少女の存在に絶句する。

 本来、この場にいるはずの無い少女。その存在はマルクトに大きな驚愕を与えた。

「何故此処に……?いえ。それより、今のは貴女……ではありませんね?」

「あ、は、はい。ごめんなさい!」

 何故謝られたのか理解が出来なかったが、少女の後ろから現れた人物を見て、マルクトはさらに驚愕し、パニックに陥った。

「何故、《影騎士(アナタ)》が此処に……」

 その存在はマルクトに多大な畏怖を与え、それを大きく増幅させた。

 誰しもが会いたくなかった人物《影騎士》は、マルクトの存在に眼もくれず、目の前で倒れるグラノに近付く。

 そして、携えた大剣を振り上げ、すでに息の根の止まっているはずのグラノの首に向かって降り下ろした。

 ───ガキンッ!!

 しかし、その大剣は、マルクトによって近場にあった枝木で払われた。

 その後、一瞬の静寂が訪れたが、《影騎士》は何の驚いた雰囲気を見せることなく、再び大剣を降り上げた。

「くっ!」

 無謀だと知りつつも、マルクトは咄嗟の判断で『型』に入った。

「だ、駄目です!!」

 その時だった。

 その後の展開を予測した少女が、大手を拡げて二人の間に入った。

 少女の行動により、二人はピタリと手を止め、《影騎士》は大剣を降ろし、マルクトは『型』を崩した。

「ご、ごめんなさい。ルヴァーチェ様」

 二人の敵意が薄れたことを認識した少女は、マルクトに頭を下げた。

「い、いえ。コチラこそ、取り乱しました。それより、貴女は何故此処に?それに、ソチラの方は………」

 マルクトは《影騎士》に警戒心を向けたまま、少女に用件とその理由を訊ねた。

「あ、えと。まず、一言に申しまして、他の騎士達の《計画》のお手伝いに参りました」

 その手を煩わせる必要には及ばないと判断していたマルクトにとって、少女の行動はその意図を聞いても理解できるはずもなかった。

「そのお手伝いに関しまして、この行動は、ワタシの勝手な意思であります。《(コチラ)》での《計画》に関しましては、すでに《皇》様のご意向と一致し、コチラの御主人様の承諾は得ております」

「なっ!」

 マルクトは、驚く。

 それは、《影騎士》が承諾したという点ではなく、少女が、《影騎士》の存在に畏怖を抱いていない点だった。

 少女は《夜天騎士団》の中でも最年少の人物だ。

 それに、マルクトの知る少女は、とても臆病で内気なところがあり、《騎士団》でも、まともに話しているところなど見たことが無い。

 現に、少女はマルクトと会話する際でも、たどたどしく話している。

「要件は解りました。では、《(コチラ)》は貴女方に任せても良いということですね?」

 《影騎士》の側にいることを恐れたマルクトは、中途半端にしか理解していなくとも、無理矢理頭をフル回転させ少女に訊ねる。

「あ、はい。あ、後は、《計画》の開始への後押しすれば、宜しいのですよね?」

「ええぇ」

「わ、分かりました。では、お引き受け致します」

「助かります」

 少女は頭を深く下げ、マルクトは足早にその場を離脱した。

 マルクトが向かう先は、当然港だ。

 しかし、その道中、少女と《影騎士》の存在が気掛かりとなっていた。

「《皇》の意向……ですか」

 マルクトに野望など無かった。

 他の騎士達が何を望むことも知りたく無かったが、どうしても、少女の存在だけは軽視出来ない『何か』を感じていた。

「《夜天騎士団》第四席。リーシャ・ハーメルン………。貴女はいったい何を望み、何処へ向かおうとしているのか……」

 マルクトは不適な笑みを浮かべた。

 単純にこの先の末路を想像したからじゃない。

 リーシャだけでなく、その他の騎士達が、いったい《皇》に何を祈願し、何を交わしたのか、それが気になったのだ。

 そして、各所で行われている《計画》。

 それらは、本当に彼らを救うのか。

 それとも、単なるお遊びか。

 先の読めぬ展開に、マルクトは愉悦を覚えた。


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