第19話 下道ピエロと気弱な人形使い
夢の続きも真相も分からないまま、ワタシは目を醒ました。
結局、何一つ変わらない記憶の写し夢。
しかし、今までと違い、今回の夢はワタシの記憶として脳内にしっかりと保存されていた。
それが、悠哉さんや伊織さん誕生のきっかけなのかは今だ確信を持てない。
だけど、その時に出てきていた人物の姓は、最中さんの姓と同じであった。
それはおそらく、彼女と小薙という存在に何かの関連性があると匂わせていた。
「………」
ワタシは、そんな考えを余韻に残し、その日の朝食を作るため、私服に着替えて台所に向かった。
この日の日常は、依頼のこなすことを中心とした。
迷子の捜索や素材の採取など、楽な仕事もあったが何よりも大変なのが、現在の状況であった。
「柚希?」
今日も隣にいる咲良さんの言葉で、ワタシは足を止めた。
そして、ワタシは小さく呟いた。
「迷い……ました」
「…………」
呆れたような眼差しでコチラを見つめる咲良さん。
その眼差しは、正直……痛い。
「はぁ~~」
終には、ため息を付かれてしまう始末だ。
「ひ、ひとまず、出口を探してみましょう」
苦しい言い訳を吐き、ワタシはそそくさと歩き出した。
「探すってどうするの?」
訊ねられ、ワタシは自問自答した。
ワタシの五感は、常人──いや、生物上で最も勝れている。
だが、普段はその五感を数分の一程度まで封じている。
それは、“対戦闘覇戒兵装”によって拘束している訳ではない状態。
そもそも、“対戦闘覇戒兵装”は破格の力を持つ肉体を制限するモノ。
それを五感と一緒に制限してしまうと、ワタシの肉体はワタシの制御の範疇を超えてしまう怖れがある。
なので、その感覚神経ごとに、別のカタチで拘束している。
ワタシは、五感の内嗅覚と聴覚を数段元に戻し、鼻を鳴らして耳を澄ました。
「こっち………でしょうか」
微かに感じる冷たい空気と、微かに聴こえる水の音。
ワタシは、その音のする方へ歩き出した。
「本当に大丈夫?」
咲良さんは心配そうにそう訊ねるが、それ以降は何も言わず、ただワタシの後ろを着いてきていた。
その後どのくらい歩いただろうか。
一応、嗅覚と聴覚に頼り、密林のような場所から、湖の畔のような場所に出た。
目の前には、瀑布と呼べなくもない大きな滝が大げな音と水飛沫をあげている。
「此処は……?」
咲良さんに訊ねられ、ワタシは辺りを見渡した。
往々と生い茂る木々に、湖から溢れ出した水を流す小さな天然の用水路。
ワタシは、その用水路に沿って歩き出した。
山に溜まった水は、重力の影響で近くの河や海に流れる。
ならば、この用水路を沿って歩けばいずれは森の外へ脱け出せるだろう。
「あ……」「………」
二組の先行者の視線が、互いの姿を認識した。
そしてその後ろにいた二人も互いの存在を認識する。
目の前の二人組は、以前《遊殻亭》で接客をしていた少女だった。
「ココで、ナニしてるの?」
目の前の少女に訊ねられ、ワタシは頬を軽く掻いた。
正直に迷子とは言いづらいからだ。
ふと、視線を少女の腰あたりに落とした。
そこには、少女の服の裾を掴み、少女の後ろに怯えたように隠れている幼女の姿があった。
「迷子ですよ」
意識を少女の腰あたりに向かわせているうちに、少女の質問に咲良さんが代弁するように答えた。
「こんなトコロで?」
「ええ」
こんなところもどんなところも、ワタシにとっては迷子になる場所でしかなかった。
「えと、そちらは何をしにこの森へ?」
これ以上気分を害されたくはなかったので、ワタシは慌てて逆に少女に訊ねた。
しかし、その答えは既に少女の背中の篭と、そこから発せられているであろう匂いで、なんとなく察しが付いていた。
「ん?食材調達」
少女は淡々と答える。
その後、会話が続くことはなく、ワタシは二人の目の前を横切ろうと歩き出した。
「あ。ちょっと待って」
と。少女は、ワタシ達をすぐさまひき止めた。
「はい?」
特に用が無かったが、なんとなくそんな気がして少女の言葉に振り向いた。
「出口までの案内をしてあげるから、ワタシ達の手伝いしてくれない?」
「………」
当然の提案に悩む。
その提案に拒否する理由は無かったが、少女の背後で怯えるように隠れている幼女の姿が気にかかっていた。
「いいですよ」
返答に悩んでいると、咲良さんが代わりに答えた。
「そっか、ありがとー」
少女は、本当に嬉しそうな表情をした。
しかし、その後ろの幼女はさらに怯えた感じに見えた。
気にしても仕方のない事だと割り切り、ワタシと咲良さんは少女達の手伝いを開始した。正確には、ワタシだけ手伝わされている状況なのだが…………。
「そういえば、自己紹介がまだだったよね?」
背後から、少女が訊ねる。
「はい」
ワタシは五感を研ぎ澄ませながら、相づちを打つ。
「ワタシの名前は、トトロ。トトロ・グリリンスハート。こっちは、リリ。リグレット・ヴァーミリオン」
リリ………。
変わったあだ名、あるいは呼び方ではあるが、西洋圏ではそのような縮め方をすると以前誰かから聞いた覚えがある。
「ところで………、ドコまで行く気?」
うぐっ!
トトロさんの言葉で、ワタシは足を止めた。
「ま~た、迷子なの?」
「………はい」
図星を着かれ、ワタシは正直に答えた。
「なんだか、リーシャみたいだね?」
トトロさんはポツリと呟いた。
「リーシャ……さん?」
その発言の意味的には、それは人の名前のようだ。
「そう。今の柚希みたいに、リーシャもよく迷子になってたから」
似てるのはその点だけなんだろうか。
なんとなく、親近感ではないが、それと似たカンジを感じた。
「その子も、そんなによく迷子になるの?」
「そうそう。あの子は、一本道の帰り道でもよく迷子になってたんだよ。リーシャは、………そんな子……だった」
「だった?」
それは、意味深な発言だった。
「…………」
咲良さんの問いに、トトロさんは明後日の方向を向いて答える。
「一年半前の事件。柚希は知ってるよね?」
「………あ、はい。おそらく……」
それは、一年半に《北》と《西》で同時に起きた、《局》による大規模な事件。
その内容は、《聖皇教会》と《魔導協会》、二つの巨大組織を潰滅させるための一斉摘発という名目の出来事。
ワタシ達《烙奴隷》が《局》に保護されたことで、《局》はその実験所の所有する者達とその関係者を逮捕することとなった。
あれは、世界中が歓喜の声に湧いた。そんな出来事だと、ワタシは認識していた。
しかし、現実はそうでは無かったようだ。
「その時の事件で、ワタシ達は離れ離れになった」
確かに、〈悪〉は滅ばされるべきであろう。
しかし、そんなことは世間が、廻りの凡人が思っているだけのただの理想だ。
人の中には、その〈闇〉の中でしか生きられない者がいる。
〈闇〉の中にこそ、『光』があると信じて止まない人達がいる。
おそらく、その時の出来事は、その事を否定され、覆され、また〈闇〉を産むだけの、ただの偽善者の諸行として認識される。
その事に何の意味があるのか、そんな事をして誰が得をするのか。それはもう、解らなくなっていた。
「では、トトロさん達のオジサンにした『取引』は……」
少し気になり、ワタシは訊ねた。
「互いの安全」
それこそ、何のメリットも無い事だった。
彼女達が〈闇〉として生きている限り、また廻りが疎ましく思うだろう。
それでも、二人はオジサンとの取引の為に、今だその意向に従っている。
それは、分からないでもなかった。
目的の為に〈闇〉を自ら受け入れることも、否定された〈闇〉を演じ続けることも。
それが、『人間』の本質の一部だと言うのなら、ワタシは、自分が《人工生命体》で良かったと、そう思えるような気がした。
「ん?」
ワタシ達は、突如として目の前に現れた人物に目をやった。
あれって………。
その色合いや風貌は違えど、明らかにその人物は《機巧人形》だと認識した。
「はじめまして。私、〈水精基〉と申します」
目の前の《機巧人形》は、スカートの両端を摘まむように掴み軽く持ち上げて、自己紹介し軽い会釈をした。
前者三基と違い礼儀正しいようではあるが、どうやら、彼女の目的は和合などでは無さそうだった。
「以前、姉二人と妹がお世話になったようで」
少女は再び頭を下げる。
お世話と言われるほど長くいた訳では無いが、少女の目的がそれらと同じだと推測した。
「ですが、その件は今回とは関係ありません。私の目的は………」
そう言って、少女はドコからか剣を抜き出し、ゆったりと構えた。
その時、ワタシの心臓は熱く高鳴っていた。
「貴女が、第五世代………ですわね?」
…………え?
その問いは、ワタシに対してのモノだと瞬時に理解した。
「なんだか、訳の分かんないことを言ってるけど、まさか、ワタシ達と殺りあうの?」
先頭に立っていたトトロさんが、短剣を双刃構え、少女と対峙する。
「特に殺り合う必要性は無いとの指示ですが、それがお望みとあれば、此方も容赦は致しません」
少女は、右手でスカートの端を摘まみ上げ、体勢をフェンシングのようにし、左手一本で剣を構えた。
フェグラマ剣術………。
そう、ワタシの頭の中に『文字』が検出された。
その剣術は、およそ三百年ほど前に、《北》の《闘匠》と呼ばれる人物が創設したモノで、現在一人の人物が継承していると聞いたことがある。
それが彼女である訳は当然無く、ワタシは心臓の鼓動をなんとか抑え、腰から短刀を抜き構えた。
そして、《全能虚樹》の『根』に回路を接続する。
“対戦闘覇戒兵装”……。
その拘束の内、四つの鎖環を解く。
「ア、グッ!!」
通常時とりも心臓の状態が異常なためか、ワタシの心身が悲鳴を挙げた。
「お姉様の話では、目的は観測されたそうですが………、もしや、コレが………?」
少女は、ワタシを見てそう呟く。
よく分からない発言だったが、ワタシは自身の身体に異変を覚え、一つを拘束し、改めて《全能虚樹》の『根』に回路を接続した。
“対戦術予知視眼”………。
…………。
やっぱりそうだ。
その異変は明確に表れた。
“対戦術予知視眼”は、利き目である左目の視力を失わせる代わりに、右目に全情報を捉えさせる技術。
しかし、発動した技術は適応されず、左目の視力が失われた状態となっていた。
「では、行きます」
異変の元凶が検出される前に、少女はワタシ達に向かって突撃してきた。
その時だ。突然、腹部に痛みが走った。
「グッ!!」
気付けば、ワタシの身体は大きく後方へ弾き飛ばされていた。
「戦えないなら、そこで指加えて見ててッ!リリ」
「ん。分かってる………」
トトロさんの指示で、リグレットさんはトトロさん前に出る。
そして、持っていた熊のヌイグルミを前に突き出した。
「ッ!!」
リグレットさんが、ヌイグルミから手を離した途端、ヌイグルミは自身の足で大地に立った。
その途中、ヌイグルミの大きさは倍以上に膨れ上がった。
人形使い、あるいは傀儡師か…………?
リグレットさんは、ヌイグルミを離すと、途端にトトロさんの後方へ跳躍した。
熊のヌイグルミは、自身の意志で動いてるかのように地を蹴り、少女に突進する。
「それじゃ。ワタシも動きますかね………」
そう言うと、トトロさんは取り出した短剣を、まるで手品のようにその数を増やした。
「“踊り狂う銀翼の刃”!!!」
トトロさんは大きく真上に跳躍し、増やした短剣を少女に向かって放った。
「ッ!!」
少女は、短剣の霰を交わそうとするが、その対処を目の前の熊のヌイグルミが許してくれる訳がなく、少女の身体を短剣の霰が襲う。
その間、ワタシの心臓はさらに高鳴り、次第に意識も朦朧とし出していた。
そうして、戦闘も苦しみも続く中、ワタシの脳に声が聞こえてきた。
ーーー〈異戒偽子〉ノ存在ヲ、検知………。
コード………ロスト……………?
始めて聞く単語に、ワタシは苦しみどころでは無くなっていた。
その声は、以前聞いたモノ。無機質な機械音の《全能虚樹》の声だ。
その声の言葉が指すモノは、おそらく現在目下戦闘中の少女のことだと判断した。
「っ。そろそろ、頃合いでしょう」
「?」
突然の台詞。トトロさんが首を傾げるも、既に手遅れだった。
熊のヌイグルミの放った豪快なパンチが、少女の腹部に直撃。
少女の腹部に風穴が開いた。
それこそが、少女の狙いであった。
「………(ニッ)」
少女は頬を綻ばせると、少女の身体は途端に光出す。
「ッ!全員伏せて!!」
トトロさんの咄嗟の判断。咄嗟の言葉で、ワタシ達は一斉に伏せた。
ドゴォォォォォォォォォ………ン!!
盛大な爆発音と爆風を放って、少女は自壊した。
「ウグッ!」
その爆風の影響か、ワタシは自身の身体に痛みを覚えた。
そして聞こえた《全能虚樹》の声。
ーーー〈異戒偽子〉ノ接続ヲ、確認。
音も風も止み、トトロさんが辺りを見渡し安全を確認する。
「もう、大丈夫みたいだね………」
その言葉を聞き、咲良さんとリグレットさんはゆっくりと顔を挙げる。
しかし、ワタシは違った。
「柚希?」
隣にいた咲良さんが、すぐさまワタシの異変に気付き、心配そうに声を掛けてくる。
だが、事態は誰もが思うより、大きく悪化していた。
「ア、グッ!アアァ………」
ワタシの身体を、今までに無いような激痛が襲う。
正確には、それは痛みでは無く、意識そのものが自身から切り離されていくような感覚だ。
ーーー〈異戒偽子〉、『水精基』ト認定………。複合因子ノ解読ヲ、実行スル。
「柚希……柚希!!」
「アアァァァアァァァァァァァァァ……………」
やがて視界も紅々と染まりだし、《全能虚樹》の言葉はまだ続いてゆく。
ーーー認証サレタ因子ニ従イ、〈鎖環〉ヲ、解放………。
その言葉で、ワタシの身体が《全能虚樹》の『根』に回路が接続され、“対戦闘覇戒兵装”が起動した。
いや、起動する………はずだった。
ーーー複合因子ヨリ誤差ヲ、検知。因子ノ変更ヲ………、提案スル。
“対戦闘覇戒兵装”の鎖環は解放されるどころか、逆に全てが拘束された。
ーーー〈起動鍵〉ヲ、“杖“カラ”槍“ヘ………。
その時、ワタシの身体の中で、『何か』が渦巻くのが分かった。
ーーー〈皇力〉ヲ、結晶化。〈神威兵器〉ノ外郭ヲ、構成。
血液よりも濃い、ワタシの中のもっと深い部分からソレは集まってきた。
「アガッ、ガ!」
次第に、痛みは左目に集中しだした。
ーーー『魔女』ノ核殻ヲ、適応。
「柚希!?」
「何これ………、左目が黄色く……」
ーーー〈神威導器〉ヲ摘出………。
「黄色い光が点滅してる………」
ーーー〈神威兵器〉ヨリ、怨嗟ノ声ヲ喰ライテ。汝、我ガ亡骸ヲ立証セン………。
「ガッ!ア、アア、アアァァァアァァァァァァァァァ………!!!」
「きゃっ、何!」
「くっ!メンドな………」
鳴り響く咆哮。
それを受けて、トトロは咄嗟に咲良とリグレットを抱えて、柚希から離れるように後方へ跳躍した。
「トトロ………」
リグレットが、困惑したようにトトロの服の袖を引っ張る。
「チッ、これだから錬金術士のすることは気にならないんだよね………」
トトロは、安全域と思われる場所まで咲良とリグレットを運ぶと、柚希の前に立ち短剣を構えた。
「何をするの?」
「あのコを止める」
「手伝う?」
「いや、リリは咲良の保護と辺りの警戒に当たってて」
「ん(コクッ)……」
「ちょっと待って!柚希と戦う気なの?」
二人の会話に、咲良が咄嗟に声を張り上げる。
少し離れた場所では、柚希が奇怪な咆哮を挙げ、おぞましい気配を放っている。
「しょうがないよ。今のあのコはワタシにも予想できない状況にいるんだから」
「でも………」
現状の危険度は、戦闘の経験の無い咲良でも容易に予想できた。
しかし、それでも何かしらの手段があると、あるはずの無い期待を抱いていた。
そして、その時は来た。
ーーー刻メ、我ガ依代。汝ノ核殻ニ権能ヲ記シ、〈神威兵器〉ヲ………顕現……セヨ。
柚希は咆哮を途絶え、天を仰ぎ左手を挙げる。
「魔窟に囚われし絶倫の暴君。祖は、血潮の富を貪り喰らいて、破戒の魔女の贄とせん………」
「何をする気?」
黄色く光る柚希の左目は、その輝きを一段と増してゆく。
それとほぼ同時に、柚希の右肩が紅々と輝き出す。
「我が名に配列し、個の袂へ顕現せよ!!」
柚希の身体を覆っていたおぞましいほどの気配は、『闇色の瘴気』となって左手に収束される。
―――ソノ権能ノ名ハ、《Dain Culgeif》………。
「“疎血の───」
左手に収束された《皇力》が、槍の形状を象る。
「──吸刃槍”」
象られた槍は、柚希の手の内で禍々しくもおぞましい瘴気を放つ。
「くっ、ナニ……この感じ………」
柚希の放つ瘴気を正面から受けつつも、トトロは現状の把握に努める。
「しかし………、これが《人工生命体》か………」
トトロは一人呟き、柚希と改めて対峙する。
戦闘が始まり、最初に仕掛けたのは、トトロだった。
「“踊り狂う銀翼の刃”!!」
トトロは、牽制するように増やした短剣を投げる。
しかし、柚希はそんな攻撃を軽々と弾き、トトロとの距離を一瞬にして詰めた。
「ッ!!速いッ……!」
その力量差はわずかであろう。
しかし、今の柚希の実力は以前、入衛未美が対峙した際より遥かに上回っていた。
それは、未美と同等の実力を持つトトロが一番理解していた。
以前の柚希が『人間』とするならば、今の柚希は、最早〈兵器〉という存在と化してしまっているだろう。
(くっ……、このままじゃ、ラチが明かないな……。アレをやるか……?だけど………)
柚希の攻撃を流すので精一杯なトトロは、唯一の打開策を強行する。
「トトロ…………」
少し離れた場所で、リグレットの心配そうな声で呟く。
トトロは、それを別のカタチで答えた。
「やるしかないよね………?」
トトロは懐から、ピエロの仮面を取り出した。
(もう、頼らないと決めていたけど………、っ!)
トトロは、深く考えその仮面を装着した。
「グッ!ウウッ………」
その途端、トトロの身体を悲痛が襲う。
トトロが装着したその仮面は、《魔導協会》の『魔』の部分に触れる代物。
「アアァ………、アアァァァアァァァァァァァァァ………!!!」
だが、トトロにとってその仮面は、ただの〈切り札〉という訳ではなかった。
その仮面の名は、《反骨の死面装》。
それは、柚希の“対戦略観測思考”と同等の役割を持つ《魔導遺失物》の一つだ。
ゆえに、その仮面がもたらす恩恵は『絶対亡縛』───つまり、不老不死に似た能力だ。
仮面の能力は完全では無いため、その使用者であるトトロに多大な負担を強要する。
しかし、トトロはそんなリスクなど承知の上で、その仮面に手を付けた。
(もう後には引けない───。そう、決めたから………)
トトロは意を固め、柚希と再び戦う。
「くっ、このッ!!“道化師の輪廻舞踊”!!!」
戦場を舞うように繰り出すトトロの攻撃。
その対応はトトロが思っていたよりも速く、柚希の反撃がトトロに致命打を与えた。
「アッ!!………グッ!」
柚希の重い一撃を受けて、トトロは意識が朦朧とし思考能力が低下していった。
「ハァハァハァ………。ッ、“愚鈍なる桎梏”!!」
しかし、トトロは怯むことなく、攻撃を続けた。
黒鉄の鎖が、柚希の身体にまとわり付く。
「…………」
バキバキバキバキッ………。
柚希は、徐々に締め付けが強くなる鎖の力を利用し、逆に鎖に圧を加えた。
ガキンッ!と、柚希は鎖を難なくと破壊した。
「くっ、いったいどうしたら…………」
決定的な致命打を与えることは出来なくても、何かしらの手立てがあると───そう、思っていた。
だが、その事態は一向に悪化していく一方だった。




