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夜天幻時録  作者: 影光
第1章 春桜開花編
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第18話 偽りの記憶

 その記憶は、ワタシの中にあるもので最も新しく、最も古い他人の記憶だった。

 その記憶が映し出されたのは、ワタシの『夢』の中で、その色合いは、白黒でも、セピア色でもなく、最もシンプルなカラーで染められた一般的な記憶であった。

 それは、随分前の出来事であろう。

 その物語は、盛大な爆音から始まった。

 ドォォゥゥゥン!という爆撃音。

 その震源であった建物は半壊し、一人の少年がその建物から吹き飛ばされ、大きく地面に叩きつけられながら、一人の少女の前に現れた。

「きゃっ!な、何?」

 目をパチクリとさせて、少女は現状を把握する。

「ゲホゲホッ!」

 少年は大きな咳払いをし、ゆっくりと目蓋を開いた。

「だ、大丈夫………?」

 少女の言葉に、少年は現状を把握する。

「水色の縞々…………」

「え?」

「あ、いえ、大丈夫……です」

 少年は視線を反らし、慌てて起き上がった。

「イタタッ………」

 少年は痛みを感じ、背中を押さえる。

「本当に、大丈夫?」

 少女が、心配そうに少年を労る。

「あ、いえ。大丈夫です。自業自得ですから」

 少年は、不適な笑みを浮かべて歩き出す。

 そんな少年を見つめながら、少女は不思議な感覚を胸にその場を離れた。

 その翌日、翌々日、また翌々と、少女はこの場所を訪れていた。

 それは、単にとある依頼が関係するのだが、少女はいつしか興味本意で訪れる事が多くなっていた。

 三度と起こる爆発。三度吹き飛ばされる少年。

 しかし、その翌々、翌々日も、少年は盛大な爆発と共に、近くの草原に叩きつけられていた。

 少女が受けていた依頼は、その爆発音による近所迷惑の対処であった。

 しかし、少女はそんな依頼よりも、少年の事が気掛かりでならなかったのだ。

 幾度爆発に巻き込まれようと、幾度吹き飛ばされようと、少年がその爆発を止めることは無かった。

 しかし………、

「あれ?今日は、あのアクティビティはやらないの?」

「へ?」

 少年は、目を丸くした。

 自分の行動が、少女にとってはただの危険な遊びと思われてしまっていることに。

「え、あ、はい。今日は……」

「なんで?」

 少女は訊ねる。

 しかし、少年にとって、それを説明する義理など無かった。

「…………」

 少年は、少女の問いに答えることはなく、スタスタと近くの森に足を踏み入れて行った。

 正直、少年は少女のことが、苦手であり怖かったのだ。

 少年は、武術もろくに出来ない人間であるがゆえ、少女が腰にぶら下げている剣に少なからず恐れてを抱いていた。

 そんな少女は、少年から理由を聞こうと、少年の後を着いて森の中を進んでいた。

 少年は、慣れた感じで森の中に落ちている小枝や、木々に成っていた植物などを採取していく。

 その間も、少女は何度も少年に訊ねる。

 少年が採取するモノを変えると、その度に少女は質問を増やしていっていた。

 少年は、正直少女の存在が鬱陶しかったが、自身の腕力で少女に敵うはずもなく……、少年は、ただ少女を無視したまま採取を続けていった。

「うぐっ!」

 少年が、持参していた篭を持ち上げようとするも、篭はいっこうに上がらなかった。

 しかし───、

「ヨッ、と」

 少女は、そんな少年を見かねてか、少年の篭を軽々と持ち上げた。

「あ、ありがとうございます………」

 そして、少女は何も言わず、無言で少年の次の行動を待っていた。

「な、なんですか?」

「次、どこ行くの?」

「…………」

 少年は軽く頬を掻き、森をさらに奥へと進んで行く。

 その後ろを、少女は無言で着いて来ていた。

 今度は、質問など一切してこず、少女はただ少年の後を着いていくだけとなっていた。

 少女は、少年が崖登りや川渡りなどに苦戦していると、即座に手を差し伸べ、無言で少年の手助けをしていった。

 少年にとって、それも正直怖かったが、何より、少女の対応の急変にも怖れを抱いていた。

「あ、そういえば、ワタシ達、自己紹介がまだだったよね?」

「え?あ、はい……」

 少女の唐突な質問に、少年は少女への警戒を一層強めた。

 いつしか逆転していた立ち位置、少女は振り返り、改めて少年に自己紹介をした。

「ワタシ、小薙(コナギ)美琴(ミコト)。現在《魔導協会》に在籍しているの」

「ッ!!!」

 おそらく、少年は人生で一番目を見開いたであろう。

 まさか、自身の所属する〈結社〉と対立している組織の人間が、目の前に堂々と姿を現していることは思いもよらず、少年は全身から力が全て抜け、その場にへたり込んでしまった。

「あ。えと、大丈夫?」

 正直、大丈夫ではない。

 少年の胸の内には『殺される』という、自己解釈しか残っていなかったのだ。

 しかし、少女は、腰に下げた剣を抜くことはなく、ただ少年に手を差し伸べることしかしなかった。

「ぼ、僕は………」

 その親切心に煽られてか、少年は少女に自身の存在を明かすことを決断した。

「あ、大丈夫大丈夫」

 しかし、少年の決意も虚しく、少女は少年の言葉を遮り───、

「アナタの事は事前に調べてあるから。師法(シホウ)隆充(タカミチ)。《聖皇教会》所属、序列十八位の通称『理の錬金術士』さんだよね?」

 ペラペラと少年の存在を明かした。

「あ、はい。そうです………」

 少年は何も言えず、頷くことしか出来なかった。

「よかったぁ~。合ってて」

「??」

 少年の頭に疑問符が数個並ぶ。

 少女が思っていることが何なのかは分からなかったが、二人はひとまず森を抜けて、少年の自宅でその辺を話すことにした。


 この時の《聖皇教会》は、単純な武力のみが序列に繁栄されていた。

 なので、武術を扱えない隆充にとって、その序列とは、無価値に等しいモノであった。

 それでも、隆充が序列十八位という地位にいられるのは、純粋に隆充の錬金術士としての能力が高いからと言われている。

 この時代の錬金術士は、隆充を入れてもおよそ三十人足らず。

 その中でも、隆充は《聖皇教会》に在籍している錬金術士だけの序列ならば、二位に該当する。

 しかし、その点を考えれば、《魔導協会》に在籍しているという少女───小薙美琴が、自分を尋ねて来ることに疑問が浮かぶ。

「それで、《魔導協会》の『斑黒の織姫』が、僕に何の用なのでしょうか?」

 隆充は、引きぎみに美琴に訊ねる。

「え?う~~ん。単純に、錬金術に興味があるだけ………かな?」

「………」

 隆充は、美琴のそのあまりに単純すぎる返答に言葉を失っていた。

 隆充にとって、他人の存在は自分に害があると認識している為、美琴の存在は鬱陶しく思っている。

「えと、錬金術を習いたいのでしたら、僕ではなくもう一つ上位の方を尋ねた方が良いのではないですか?」

 隆充が、腕力で美琴に敵うことは出来ない。

 ならば、なけなしの知力で彼女を追い出す他ない。

 そう考え、隆充が他の錬金術士を紹介するも、美琴はそれが気に喰わないらしく……。

「アナタじゃなきゃダメなの!」

 美琴は、机をひっくり返しそうな勢いで立ち上がり、隆充に抗議の声を上げた。

「は、はぁぁ………」

 隆充にとって、それが何より迷惑でしかなかった。

 わざわざ、所属する組織から遠ざけた場所にアトリエを構えたのもその為だ。

 隆充は、序列や組織のしきたりなどには何の興味は無かった。

 隆充が唯一持っていたのは、錬金術に対する純粋な熱意のみだった。

 それを邪魔されるのは、隆充にとって不愉快でしかなかった。

「ど、どうしてでしょうか………」

 錬金術に興味を持ってくれるのは嬉しい。

 しかし、そもそも彼女と自分は、所属している組織が違う。

 ならば、彼女な錬金術を教えたところで、彼女が自身のアトリエを持つことは不可能だ。

 だが、その思いを無下にすることを、隆充には出来なかった。

 なので、ひとまず彼女の意見を聞くことにした。

「錬金術って凄いじゃない?料理みたいに、幾通りかの裁分で、様々なモノが生成出来るなんて!」

 美琴は、興奮したように鼻を鳴らす。

 その表情は、さすがの隆充も出来ない。

「そういう点でしたら、アナタの剣術も同じではないですか?」

 隆充には、武術の類いは理解不能だ。

 だが、どのようなモノにも、決められた最良というものは存在する。

 その点では、自分の持たない武功を持つ美琴は、隆充にとっての憧れな比例する。

「そうかな?武術は、鍛練さえ積めば誰だって習得可能だろうけど、錬金術の場合は人によって向き不向きがあるじゃない?」

 それは、隆充も納得だった。

 隆充の場合、その体力の無さから武術を磨くのを諦めた口だ。

 なので、その武術を会得している美琴は、隆充に出来ないモノを持ってる事となる。

「ま、まぁ。そうでしょうね………」

 いくらその熱意をぶつけられても、隆充にとっては迷惑なモノでしかない。

「だから、ね?」

「………」

 一向に折れようとしない美琴の熱意に、隆充は負けを認めた。

「はぁ……。分かりました。教えますよ、錬金術」

「やたっ!ありがとう!!」

 美琴は、勢い良く立ち上がり、隆充の両手を掴み、勢い良く上下に振った。

 この後、隆充は知った。

 美琴が、自分と同い年であることを………。


 記憶は進んだ。

 二人の出会いから、二人がどのように錬金術に、周囲に関わってきたのかという話に………。

 二人が一緒にいる時間は長くなっていった。

 共に素材を採取し、共に錬金釜に向かって作業した。

 初めは苦手だった美琴の存在が、隆充にとってかけがえのない存在になりつつあった。

 そんな二人の関係を危惧するかのように、ある日、二人は所属する組織の召集を受けていた。

「やぁ、師法くん」

「あ、お久しぶりです。先輩」

 隆充が、《聖皇教会》第三支部の廊下でばったり出会したのは、隆充の錬金術の先輩であり、この《聖皇教会》で序列九位の『霧の錬金術士』と呼ばれるグラノ・B・ヴァイン教授だ。

 今回、隆充が呼ばれたのは、最近の《魔導協会》の動向についてだった。

 本来、このような形で、序列二桁以下が呼ばれることは無い。

 故に、隆充は《聖皇教会》のやり方に不信感を抱いていた。

「注意すべきは、上位三位までの人物………」

 序列二位である人物の台詞に、隆充はピクリと反応する。

 このときの上位三位までに、小薙美琴が存在するからだ。

 だが、知力はあっても武力を持たない隆充には、此処にいる誰一人として敵わうはずもなく。

 今回の召集は、単なる警告のような会議で終わった。

「師法くん」

 その帰り道。隆充は、男性に呼び止められ振り向く。

「あ、グラノ先輩」

 グラノは、隆充の隣に立ち、隆充の帰り道を歩く。

「どうだ、最近の調子は………」

 隆充には、グラノの言わんとしている事が分かっていた。

 現在の隆充は、他の錬金術士だけでなく、《聖皇教会》からも一目置かれた存在だ。

「まったくダメです」

 おそらく、皆が隆充に信頼と期待を寄せているのだろ。

 しかし、隆充にとって、それは邪魔な思いでしかなかった。

「そうか………」

 グラノは残念そうに肩を落とす。

「せめて、《超神基(グラマ・シャトー)》のような強大な《戒因子(パルム)》が存在すれば、話は別でしょうが………」

 伝説のような存在《超神基》。

 それがあれば、この長きに渡る錬金術士達の研究はすぐさま終わるだろう。

 そう考えた隆充は、そんなことを呟いた。

「何?師法くんは、幻のような存在を信じているのかね?」

「あ、いえ。そういった存在が本当に存在すれば……の話ですが」

 実際に存在しないことは分かっている。

 しかし、この世の何処かに存在するという情報が存在する以上、こんな面倒なことを早く終わらせたい隆充にとって、その存在は天からの贈り物に近いほどの代物だ。

「そうだな。まぁ、また何かあれば論文を発表してくれ。キミの成果を、世界中の誰もが期待している」

 実際そうかは知らない。

 だが、隆充が今あるのはそういう状況の中なのだと、幼い頃より理解していた。

 なので、隆充の返事に拒否など無かった。

「分かってます」

 隆充には、それしか言える『権限』が無かった。

 隆充はグラノに一礼し、自身のアトリエに戻った。

「ほかへり~~」

 帰宅して早々、見慣れた人物が隆充のアトリエで洋菓子を貪り寛いでいた。

「美琴さん……」

 先程までの緊張のような感じが嘘のように、のほほんとした空気が隆充を脱力させた。

「どうだった……?」

 美琴の質問は、当然《聖皇教会》での議題についてだ。

「どう。とは?」

「う~~ん。コッチでは、ソッチが《人工生命体(ホムンクルス)》?っていうのの研究をしてるから気をつけろ。ってさ」

 隆充が逆に訊ねると、美琴はまるで他人事のように答えた。

「えと。〈結社〉は、三位までの人物に気を付けろ。と言っていましたが………」

「三位までか………、だとすると、ワタシは当然その中に入っちゃってるよね」

 美琴の序列は三位。

 現状ではギリギリ入っていると言えるが、実際には美琴が一番危険視されている。

 そんなことをハッキリと言える訳がなく、隆充は自前のマグカップにコーヒーを注いで、美琴の真向かいの席に座った。

「ところで。今日はどうする?」

 訊ねられ、隆充は二度コーヒーを啜った。

「今日は、少しやっておいた方が良い事をやろうと思ってます」

「やっておいた方が良い事?」

 美琴は、ただ首を傾げた。

「はい。なので、飲み終わりましたら、その素材を採取しに行きましょう」

 隆充の提案で、二人はアトリエから遠く離れた森を探索した。

「此処に、その必要なモノがあるの?」

「はい」

 美琴の質問に薄く答え、隆充は奥へと進んでいく。

 隆充が採取したのは、大型魔獣の生き血と骨、高層になる禁種の花をそれぞれ数種類ずつ。

 これらを持ち帰り、隆充は早速錬金を開始した。

「これ、何が出来るの?」

 錬金釜に入れられた素材達を見つめながら、美琴が隆充の隣で訊ねる。

「………《人工生命体》ですよ」

 多少言いづらくはあったが、隆充にとってこれが責務であった。

「え?」

 美琴が驚くのも無理はない。

 《魔導協会》が警戒しているという《聖皇教会》の錬金術士達が生成しようとしている存在。

 それを、隆充は生成しようとしていた。

 本来ならば、その点に関して美琴は剣を抜くべきであろう。

 しかし───、

「それって、簡単に造れちゃうモノなの?」

 そんな彼女は前のめり気味の体勢で、瞳をキラキラと輝かしていた。

「え?あ、はい。そうそう簡単に、とはいきませんが………」

 その迫力に、隆充は背を反らした。

「へぇ~~」

 美琴は、視線を錬金釜に向けた。

 その姿勢のまま、隆充に訊ねた。

「ねぇ。そもそも、《人工生命体》ってどんななの?」

「えと………」

 隆充は言葉に詰まった。

 それは、隆充自身も、その存在を完全に把握している訳ではなかったからだ。

「特に、これと言って無いですよ」

「そうなの?」

「はい。今のところ、確認されているのは〈第一世代(スライム)〉、〈第二世代(マンドラゴ)〉、〈第三世代(コボルド)〉くらいですから」

「ん~~、よく分かんないけど、それって大変なの?」

「どうでしょうか。僕はそうは思えませんが、生成自体に未だ謎も多いようですし……」

「そっかぁ………。ワタシもやってみたかったけど、大変そうならいいかな?」

 その時、隆充の脳裏にとあるひらめきが浮かんだ。

「でしたら、やってみますか?」

 それは、隆充からの初の提案でもあった。

 今までは錬金術士の手でのみ研究されてきた《人工生命体》。

 その謎に、別の要素が加われば、何か別の発見があるかもしれない。

「ホント!?」

 美琴は目を見開き、物凄く前のめりになって、隆充に襲い掛かるように顔を近付けてきた。

 その迫力に、隆充は再び気圧されそうになる。

 隆充は、なんとか冷静を保ち、美琴と共に《人工生命体》生成に必要な素材を取りに出掛けた。

 隆充にとって、錬金術をしている時間が一番安心できる刻だった。

 最近は、美琴と共に錬金術に励んでいた。

 美琴の存在は、緊張しかしなかった。

 けれど、何故か最近、緊張ではなく何か胸の奥で引っ掛かるモノが、隆充の心にあった。

 生成は、失敗もあれば成功もあった。

 幾度も爆発を繰り返し、二人で真っ黒焦げになったり……、成功し美琴の無邪気さに振り回されて万歳に付き合ったり……。

 いつしか、美琴も隆充のことが気に掛かるようになっていた。

 しかし、そんな二人の事を思う人間は少なくなく、特に、互いの組織はそれを良しとはしなかった。

 そして、事件は起きた。

 《聖皇教会》と《魔導協会》。

 二つの組織に追われる身となった二人は、息を合わせて相手を翻弄し時間を稼いだ。

 二人の間に出来た小さな命。二人の努力の結晶である《人工生命体》の〈第四世代(ヒューマノイド)〉。

 その二つを護るべく、二人は辛い決断を行った。

 その決断は、決して間違っていなかったであろう。

 しかし、それはどちらかを必ず失うと覚悟もしていた証でもあった。

 多勢の相手を惹き付け、美琴は森の中を突き抜ける。

 この日の天候は、大雨だった。

 視界も足場も悪い中、美琴は走り続けた。

 それで、二つの『命』の護れるのであれば、自分の未来などどうでもいいと、そう考えていた。

「ようやく、追い付きましたよ」

 背後から聞こえてきた言葉に、美琴は足を止めゆっくりと振り向く。

「久しぶりだね。《匣使い(パンドラー)》」

 美琴は嫌味たっぷりに目の前の男に顔を飛ばす。

 しかし、男が、美琴の挑発に乗ることは無く。

「まさか、貴女のような人が、あんな者のために日々を費やすなど………」

「アナタは………いえ、アナタ達は隆充のことを何にも理解していないみたいだね?」

「いえ、貴女よりも理解しているつもりですよ。当然、『道具』としてですが」

「ッ!!」

 それは、美琴の逆鱗に触れるが如くの台詞だった。

 しかし、そんなことで美琴が取り乱すことはなかった。

 美琴は、逆に自身の持つ情報を男に叩き付けた。

「貴方こそ、ウチの《魔女》と随分と親しいじゃない?」

「ふっ………」

 その台詞に、男は嘲笑うかの如く噴き出す。

 それは、美琴に納得を与えてしまう言動だった。

「何?」

「いえ、なんでも。ところで、貴女はこんなところにいて良いのですか?」

「何が言いたいの?」

「いえ。彼、今頃《魔導協会》に追われてるでしょうから」

「だろうね……」

「本当に良いのですか?」

「ええ。それが狙いだからね………」

「なっ!!」

 男は、酷く驚いた。

「大丈夫。あの人は、ちゃんとやれるから………」

 美琴の中には、確かな確信があった。

 美琴は隆充を信じている。

 たとえ、この場で自分の身に何が起きても、きっと、彼ならやってくれると、そんな自身に美琴は満たされていた。

「さぁ、存分に楽しみましょう。〈虹〉と〈黒〉に染まりし《幻想の方舟》を渡しに!!」

 美琴は特攻で仕掛けた。

 悦楽も悲劇も忘れて、ただ純粋な希望を持って───。

 それは、『源初の夢』だった。

 ナニモノにも邪魔されない。ナニモノにも染まらない。───そんな、『無垢な幻』であった。


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