第12話 師法研究所
その景色は、ワタシの予想を大きく上回っていた。
一面が、紅と黒で覆われた不思議な空間。
それは、ワタシの記憶には存在しないはずの映像。
だから、自然と理解した。
これは、他人の記憶。他人が忘れたい、過去の悲しい記憶だと。
その人の瞳に映る色は、紅が炎。黒は煙。
目を凝らせば、若干白の壁も見える。
そして理解した。
此処は、部屋の中。その現状は、火災だ。
「だ、れか…………」
……声が聞こえた。
それは幼い少年の声。
その声は内側から聞こえていた。
つまり、この記憶は、その少年の記憶と言うことになる。
少年は、息絶える寸前でありながら、必死に声を上げ、助けを求める。
少年は、幾分か苦しみ悶え、ようやく部屋の外に出た。
「おとう…さん、おねえ…ちゃん、いお……り……、だれ、か………」
何千度という高温に焼かれた鉄の壁に必死にしがみつき、宛も無く歩き始めた。
「ハァハァハァハァ…………カハッ、ウッ、ハァハァ………」
時折苦しそうな仕草をするも、少年はそんなことに足を止めること無く、歩き続ける。
「へぇ~~、全員死んだと思っていたが……、まさか、こんな所に一人居たとはな…………」
突然の声。
「………!?」
それは、目の前から聞こえてきた。
少年が顔を上げると、そこには、フードを着た人物が立っていた。
その人物はフードを深く被っているため、顔は確認出来る無いが、その声音から、その人物が三十代後半くらいの男性と推測できる。
「コレが唯一の成功体、人工生命体の第四世代……」
少年は、そのフードの男が何を言っているのか分からず、呼吸を整えるで精一杯だった。
「あな、たは…………?」
余力の力を振り絞り、少年が問う。
「(ニッ)………」
フードの男は少年の問いに答えず、ただ微笑を浮かべて腰に携えた剣を抜き、少年に向かって大きな一撃を与えた。
「ぐあっ!………あ、カッ、カハッ…………!!」
少年の腹部に大きな切り傷が入り、少年はのたうち回った。
「ア、アァァァァ………」
時折血へドを吐きつつも、少年はその痛みに耐える。
「へぇ~、まだ息があるのか…?」
フードの男が切り衝けた場所は、『人間』にとって急所を意味する場所。
しかし、少年はその痛みに悶えるどころか、逆に小さな苦笑をして見せた。
「………まさか、第四世代のは魔神の権能を用いたんじゃないだろうな?」
フードの男は、一人言のように呟く。
「あなたの、目的は………何なのですか………?」
ゆっくりと立ち上がりながら、少年はフードの男に問う。
「歴戦の怨みを果す」
フードの男は、淡々と答えた。
「………」
その答えに、少年はただ沈黙で返した。
そして───バタッ!!
少年は、その場に倒れた。
「…ッ!お、おいっ!!」
フードの男は、突然の出来事に動揺した。
「…………」
少年は、何の反応を見せること無く、周囲の炎に呑み込まれていった。
それとともに、ワタシの視界が一瞬にして闇色に染まった。
そんな視界の中、フードの男の声が、微かに聞こえた。
「俺はまた、失うのか…………。こんな小さな子でさえ………」
朦朧とした意識を余韻に残し、ワタシは目を覚ました。
「……うっ!」
先程まで見ていた夢のような光景が嘘だと思わせる景色が、ワタシの瞳にダイレクトに突き刺さる。
「白い……部屋………?」
瞳に映る配色を十二分に理解出来たことで、ワタシは改めてその部屋を見渡す。
此処は…………。
ガチャッ
「お。起きたみたいだね?」
…ッ!?
部屋の扉が開き、外から一人の幼女が入って来た。
「ハルナさん………?」
どこか見覚えのある人物の名前を、手探りで探るように呟いた。
「此処は……?」
色々と聞きたいことがあったが、ワタシはまず始めにその質問をした。
「ん?病室だけど?」
さも当然のように首を傾げるハルナさん。
ワタシは、少し首を傾げて思考を廻らせる。
目の前の幼女───ハルナ・エルヴァールシュタインは、《局》でも有名な名医だ。
しかし、その手段と診察条件から、周囲から疎まれる存在となっている。
それは、風音さんから聞いた話で、ワタシ自身、彼女と出会うのは三度目だが、前の二回は遠目でしか知らない。
しかも、その時のワタシ達は《局》にいた。
そこまでの記憶で推測されるのは、当然、この場所が《局》なんじゃないかという疑問だ。
「あ、そう言うこと。此処は、《学園》の中にある医療棟の一部屋だよ」
ワタシの疑問に気付いたのか、ハルナさんは即座に返答した。
「《学園》とは、《神代学園》ですか?」
「そうだけど、他に何処があるの?」
「…………」
言われてみればそうだが、ハルナさんが居る時点で、ワタシにはその発想が浮かばなかった。
「えと…………ッ!?」
何かを言おうとして、言葉を紡いだ瞬間。ワタシの脳内に『何か』がフラッシュバックされた。
「……………」
それは、つい先程の出来事。
鉱山地帯で起きた事件についての記憶だった。
しかし、その記憶から経過していた時間はワタシが予想していた時間を上回っていた。
「えと、ワタシはどのくらい寝ていましたか?」
おおよその予測は付いたが、確認の為にハルナに訪ねた。
「ん~、三日くらい?」
ハルナさんは曖昧に答える。
まぁ、仕方ないか………。ハルナさんは興味の無いことはとことんまで興味が無いらしい。
「ん?」
ワタシは、足元に違和感を覚えて視線をそっちに映した。
「咲良さん………?」
そこには、咲良さんが、ワタシの足に乗っ掛かるような形で寝ていた。
廻りを見渡すと、ワタシのいるベットの近くに最中さんとシルヴィアさん、セレナさんもいた。
みんな、爆睡状態のような格好で、壁やベットの柵に寄り掛かるような形で眠っていた。
「みなさん………」
「三日三晩、付きっきりで看病してたからね」
「そうなんですか?」
「さぁ」
「え?」
「でも、突然アナタを担いでやって来た時は何事かと思ったけどね?」
「そうですか………」
どうやら、あの後、大変な苦労を掛けたようだ。
ふと、ワタシは改めてハルナさんの方を見た。
「? 何?」
ハルナさんは不思議そうに首を傾げた。
上から下までじっくりと眺める。
「どうかした?」
気になる点は多々あるが、何より一番気になったのはハルナさんのその服装だ。
ハルナさんの服装は、薄いピンク色のパンツに、真っ白な白衣を羽織っただけのシンプル且つ大胆なものだ。
「あ、いえ。………ただ、何時もそんな格好なのですか?と思いまして」
「そうだよ?何か、変?」
見た目の容姿がそうなだけに、何となくおふざけに見えなくもない。
ハルナさんの容姿はワタシより二回り程小さくした感じ、推定年齢で言えば、六歳か七歳くらいか。
だが、そんな彼女の容姿からは想像も出来ないが、風音さんの話では、彼女は既に口に出来ない程の歳らしい。
「い、いえ。そんなことは……」
小さく苦笑いをして見せて、その場を回避した。
「ん、……何?」
気まずい雰囲気を余韻に残し、窓際の方から声が聞こえた。
それに連れ、向かいのベット、手前からと叙々に声が増える。
「起きたみたいだね………?」
「柚希………?」
不機嫌そうなハルナさんを無視し、最中さんが意識を戻した。
「良かった………」
隣にいる咲良さんが、目の下に涙を溜めて安堵の声を漏らす。
「何事、ですの………?」
「起きてる………」
シルヴィアさんは目を擦りながら首を傾げ、セレナさんはコチラに気付き近付いてくる。
「みなさん。大変、ご迷惑をおかけしました」
一番心配していたであろう咲良さんを宥め、ワタシはその場にいる人達に謝罪した。
「大丈夫………だよね?」
そんな中、咲良さん以外は一歩引いた位置から一才動こうとせず、その場で聞いてきた。
「だと、思います………」
ワタシは曖昧な返事で返し、視線をハルナさんに移した。
ハルナさんは、名医である。そんなハルナさんに分からない医学は無い。筈だった………。
「何?アナタに関しては、ワタシの専門外だよ?」
「え?」
そうバッサリと言い捨てられてしまった。
「えと………」
しかも、その視線は最中さんの方を向いていた。
「ん、何?」
当然の如く、最中さんは首を傾げた。
それに促されてか、他のみんなの視線も最中さんに集中した。
「え?え?え?」
こんな展開は予想していないかの如く、最中さんは困惑した表情をした。
「う~~~ん………」
最中さんは深く考え出し、ハルナさんの言葉の意味を予想する。
「ていうか、もう一人の非戦闘員は今どうしてるの?」
「う~~ん。ん、え?ああ………。あっ!そう言うことかっ!」
ハルナさんの一言が助け船になったのか、最中さんは何かを思い出したかのような顔をした。
ワタシは、ふと、その一言に疑問を抱いた。
もう一人の非戦闘員………。
それはおそらく、以前風音さんとアスカさんが話していた際に出ていた名前の一つだろう。
その名前はたしか…………ユウヒ。
医学を統べるとも言われるハルナさんが知らないことを、そのユウヒさんは知っている。
いったい彼女は何者なのだろうか?
「ていうか、そう……なの?」
最中さんは疑いの眼差しでハルナに問う。
「だと思う。いくつか、アナタに似た部分があったから」
「そう………なんだ」
最中さんの視線はワタシに向けられた。
当然、ワタシは首を傾げた。
「それに、どっちにしても、あの娘のトコには随分行ってないんでしょ?」
「ああぁ………確かに。ここ一ヶ月くらい行ってないや……」
勝手に進む会話。
その話題に、ワタシだけでなく、咲良さんやシルヴィアさん、セレナさんも未だ追い付けないでいた。
「んじゃ、博士の何処に行けば何か解るかもしんないってことだね?」
「多分ね。あの娘がどう答えるか知んないけど、ワタシよりは頼りになると思うわ」
「分かった。じゃあ行こうか?」
「え?あ、はい」
何時の間にか会話が終了し、ワタシ達は最中さんに付いて医療棟を後にした。
医療棟からその場所までは、およそ三時間くらい掛かった。
しかし、それはそこに行くまでの島内の話で、此処から先は島外となる。
「大きな橋ですね。長さも凄くあるようですし………」
行く手の途中にあった巨大な橋を前にして、シルヴィアさんが唖然とした声を漏らした。
「この橋、どのくらいの長さがあるんですか?」
咲良さんが、最中さんに問う。
「ん~~。二・三キロくらいじゃない?」
「以外と、長いんですのね」
「んじゃ、行くよ!」
最中さんは、全員に喝を入れるかのように言い、不穏な言葉を言いながら歩き出した。
「博士、生きてるかな……?」
「本当に長いんですのね……」
「ですね……」
「おし、着いたよ」
最中さんの言葉で、ワタシ達は辺りを見渡した。
「此処が……」
長い橋の道のりを過ぎ、小さな孤島に上陸した。
「これって……」
しかし、上陸したその島は、かつて『街』があったかのような形跡を残していた。
───ズキッ!!
その時、ワタシの脳裏に何かが過った。
それは、ワタシが以前この場所にいたことのあるかのような映像。
しかし、その映像は、今のこの壊滅したような状態ではなく、もっと、普通の街だったかのような映像。
ワタシは首を傾げ、改めて街を見渡した。
「柚希~~」
何となく、どこか懐かしい感じがする………何故だろう?
「柚希~~?」
「え?あ、はい!今、行きます!!」
今考えても答えが出ないと悟り、ワタシは最中さん達の後を追った。
壊滅状態の街並みから外れ、着いた場所は、不自然な程堂々と佇む一軒の建物。
「此処が……?」
「うん。《師法研究所》」
半球状の造りをしたその建物は、その壁の至るところに幾つかの飛来物が直撃したような痕跡がある。
一瞬、空撃を思い浮かべたが、今の時代には航空機のような飛行機は存在しない。
「んじゃ、入るよ」
そう言って、最中さんは分厚そうな鉄の壁を取り外し、中へと進んで行った。
しかし、ワタシはその建物の外に人の気配を感じ、最中さん達に付いて行かず、建物の側面を沿って歩き出した。
「柚希?」
建物のちょうど裏手側に着いたワタシは、微かに吹く潮風になびく一枚の白い布切れを発見した。
「えと………」
「これ、人……ですよね?」
隣にいた咲良さんが、疑問を投げ掛ける。
そこにいたのは、二十代くらいの白衣を着た女性。
女性の廻りには釣り道具が散らばっている。
「生き…てはいますね」
ワタシは女性の心拍を確認し、まだ生きていることを認識すると、女性を背負って建物の中へと運んだ。
「うっ、キツい………」
中の構造は複雑で、時折、落下した鉄骨がギリギリ道を塞いだような造りをしていた。
最中さん達がいた場所へは以外と掛かったが、難とか広い空間に到着した。
「柚希、遅いよ。何処で道草食べてたの………って、博士?」
呆れたような顔をしていた最中は、ワタシが担いでいた女性を見ると、苦笑いを浮かべワタシに駆け寄って来た。
「とりあえず、そこのベットに寝かせといて」
「あ、はい。分かりました」
女性を指定されたベットに寝かせ、ふと考える。
此処へ来る途中から、最中さんは『博士』と言っていた。
その博士とは、ワタシが担いでいた女性で、その女性がハルナさんの言っていたワタシについてハルナさんよりも知っているという人物。
「ん………。あ、あれ?此処は……ワタシの、部屋………?」
数分程すると、女性は目を覚まし、トロンとした表情で辺りを見渡す。
「お。起きたんだね、博士」
「最中、ちゃん……?私、また…倒れちゃってた?」
「うん」
「そっかぁ……」
女性は気分が落ち着くと、状況を理解し、ベットから移動して椅子に倒れ込むように座った。
「そう。ハルナさんが……」
女性───師法結羽灯さんはワタシを深々と見つめる。
「う~~ん。どうなんだろうね………?とりあえず、検査してみようか?」
「は、はぁ………」
結羽灯さんに促され、ワタシは彼女について別の部屋に移動した。
「ここに寝て」
「あ、はい」
結羽灯さんが指示した場所───ベットは、ワタシの知るソレとは少し………というか、だいぶ違って見えた。
一見、普通に見える簡素なベット。しかし、そのベットの廻りには、見ているだけでも冷や汗を掻いてしまいそうな物体があちこちに取り付けてある。
ワタシは、結羽灯さんの指示に従って、ベットに仰向けで寝転んだ。
「それじゃあ、始めるよ?」
「はい、お願いします。………ッ!!」
何が起きたのか、ワタシがベットに頭を着けた途端、突然ベットがガコッという音を発して縦に傾いた。
ガコガコと上下に揺らされること数秒、天井から緑色の透明な光がワタシの身体を一周した。
その後、ベットの廻りに取り付けられていた無数の機材が変幻自在に動き、検査という名目のアトラクションが数十分程続いた。
気持ち悪い程の検査によって、ワタシの意識は飛んだ。
目を開けた時、そこは見覚えのある白い空間に包まれていた。
「ユウヒ。どうかした?」
………ユウヒ?
誰のことだろうか?と首を傾げると、ワタシの口は自然に動いた。
「ううん。なんでもないよ、お姉ちゃん」
「次は、お兄ちゃんの番だよ?」
右側にいた幼女に促され、ワタシは自分の手元に視線を向けた。
ワタシの手元には古い形のカードがあり、二人の幼女と囲むように無数のカードが散らばっていた。
一見、旧世紀時代のカードゲーム『トランプ』に似ているが、その絵柄や現在の盤面がワタシの知るソレとは全く違って見えた。
ワタシが、手札と盤面を交互に見、深く首を傾げていると───
「ユウヒ。そろそろ検査の時間だ」
渋い男性の声が聞こえてきた。
「はい」
それに促されるように、ワタシの身体は立ち上がり、幼女達の元から離れ、男性の後を追って行った。
見覚えのある長い白の廊下を歩き進むと、ワタシは奇妙な部屋に到着した。
部屋の奥に設置された巨大なガラスの筒。その中には、青緑色の液体が入っている。
ワタシの身体は吸い寄せられるようにそのガラスの筒の元に向かい、その青緑色の液体の中に入っていく。
「では、検査を始める」
その言葉を聞き、ワタシの視界は真っ暗になった。
そして────、
そこで、その映像は途絶えた。
「柚希………?」
名前を呼ばれ、朦朧とした意識で辺りを見渡す。
「えと………」
「検査が終わったのに起きてこないから、一瞬焦っちゃったよ~~」
目の前にいた結羽灯さんの言葉で、ワタシは思考を廻らせた。
ワタシの脳の奥にある微かな記憶。
その記憶は、ワタシの記憶に無いものだと瞬時に理解できた。
「夢………?」
だから、そう思わざるしかなかった。
結羽灯さんの後を追い、ワタシは最中さん達の元に戻った。
「どう?」
戻って早々、最中さんが開口一番に聞いてきた。
「う~~ん。断定は出来ないけど、確かにソレっぽい点は多々見られるね」
「そっか………」
互いに納得し合う最中さんと結羽灯さん。
その話題に、他の人達は蚊帳の外のような状態だった。
「いったい、何が何ですの?」
いてもたっても居られなくなったのか、シルヴィアさんが結羽灯に訊ねた。
「う~~ん。どう説明したら良いかな………?」
結羽灯さんが言葉に迷っていると………、
「つまり。柚希が『人工生命体』かもしれないってこと」
最中さんが、代わりに話した。
「…………。え?」
その部屋に沈黙が訪れたが、シルヴィアさんが、最初に声を上げた。
「それは、いったいどういうことですの?」
シルヴィアさんが問う。
ワタシは、その点に関して、何らかの推測を立てていたので然程驚きもしなかったが、シルヴィアさんはその点には強い疑念を抱いたのだろう。
「何で、柚希ちゃんがそうなのかは私にも分かんないけど、『そう』みたいだね………?」
結羽灯さんにも分からないようで、深々と首を傾げた。
「あの、一つ、宜しいですの?」
「何?」
「そもそも、『人工生命体』の生成は、自衛局の法律で禁止されているのでは?」
シルヴィアさんが、確かな疑問点をぶつけた。
そう。シルヴィアさんの言う通り、『人工生命体』の生成は、およそ十七年前に禁止とされ、発覚しだい懲役三十年の刑に課されるのだ。
「ん?私は大丈夫だよ。風音さんから許可は貰ってるし。それに、私にはやらなきゃいけない事があるから………」
結羽灯さんは、自分で言ってて暗い顔をした。
「やらなきゃいけない事?」
「うん……」
結羽灯の話では、十三年前に離れ離れになった家族───兄弟を探しているそうだ。
その一人、弟である小薙悠哉は見つかったようで、既に面識があるようだった。
もう一人は………、
「伊織がまだ見つかってないの」
「その為に、最中さんを?」
「うん……」
「あの……、それで、悠哉さん?とはどんな方なのですか?」
「ん?そっか、皆面識無いんだもんね?」
「いや、柚希と咲良は既に出会ってるよ?」
「へ?」
「え?」
ワタシと咲良さんは互いを見合わせて首を傾げた。
「ほら、兄さんだよ」
「…………。へ?」
ワタシは再び首を傾げ、思考を廻らせた。
最中さんが兄さんと呼ぶ人物には、一人しか心当たりがない。
「織詠……修哉さん、ですか?」
「うん」
ワタシの問いに、最中さんは平然と答えた、
「まぁ、何で、あの悠哉が名前を変えてるのか分かんないけど、あれは間違い無く悠哉だよ」
それを聞き、ワタシはふと考える。
名前を変えて姿を見せた悠哉さん。
その意図は謎だが、その姿を見た時、ワタシはある違和感を覚えていた。
他人のように思えない感覚。どこか懐かしい感覚があるも、何故か、危険なカオリもしていた。
中途半端な出来事が立て続けに起こる日々。謎が深まる物語。
何をどう解決すれば正解なのか、分からなくなってくる。
結局、分かったのは、この島で起こった出来事が、この謎の事件との何らかの関連性があるという『過程』のみだった。




