↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜天幻時録  作者: 影光
第1章 春桜開花編
14/102

第13話 すれ違う二人

 潮の香る港を出て、風音(カザネ)は本部への道のりを駆けていく。

 急ぐ先は自衛局の統轄棟ではなく、その街の外れにある医療棟。

「リシュト……!!」

 その一室の前に立っていた人物の名を叫ぶ。

「風音。此処が何処だか分かってるのか?」

「そんなことはどうでも良いよ!!それより、父さんは!?」

 荒く息を切らしながら、風音は問う。

「『そんなこと』ってお前なぁ………。まぁいいか。おじさんはこの中だ。特に大きな怪我は無いらしい。けど、業務を行うのは控えた方がいいらしい」

「そ、そっか………」

 息を整えると同時に、胸をそっと撫で下ろした。

「あ、リシュト…!」

 リシュトが背を向けた瞬間、風音はその背中に声を掛けた。

「ん?何だ?」

「後で話があるんだけど、時間取れないかな?」

「………………。分かった。じゃあ、共同墓地で待ってるから」

「うん……」

 風音は何か言いたげな表情で、リシュトの背中を見つめ、リシュトの姿が見えなくなった所で病室に入っていった。

「父さん………」

 六つ置かれたベットの内、一番隅の場所に、その人物はいた。

「ああ、風音か………」

 自衛局統轄長であり、風音の父である双葉(フタバ)聡一郎(ソウイチロウ)は、風音の姿を認識すると、上半身だけ起こし力無く反応した。

「大丈夫………みたいだね……」

「まぁ……な」

 風音の安堵に、聡一郎は苦笑いで答える。

「でも珍しいね。父さんが怪我するなんて」

「あ、その件なんだが。風音、《夜天騎士団》って知ってるか?」

「ッ!!ど、どこでその名を?」

「実はな。今回の事件、その《夜天騎士団》ってのの仕業みたいなんだ」

「…………」

 聡一郎の言葉に、風音は何も言えなかった。

 風音は、過去に二度、《夜天騎士団(カレラ)》と対峙したことがある。

 故に、その脅威は十二分に理解している。

「たしか、お前の報告では、以前、そいつらと対峙したことがあるそうだな?」

「…………うん」

 一度目は八年前。二度目は、二年前だ。

 どちらもあっさりと敗れ、大切なモノを失った。

「その内の最初の方なんだが………」

 聡一郎は、言い辛そうに言葉を紡ぐ。

「お前は、イクスの死を確認したんだよな?」

「………うん」

 それは、風音にとっても思い出したくもない記憶。

 未熟だった自分のせいで、大切な『家族』を失った。

「その、イクスの件なんだが……………」

 聡一郎は俯く。

「今回の事件………イクスが主犯、みたいなんだ」

「ッ!!?」

 風音は、驚きのあまり、頭が真っ白になった。

 風音にとって、イクスとは父と同じくらいに『家族』と認識していた。

 しかし、そんなイクスは八年前、風音を庇ってその《夜天騎士団》に殺られた。

 風音は、目の前で彼の死を見た。

 だから、確信している。

 彼は、すでに死んでいる………はずだ。

「どうやら、彼の死は《皇》という存在の策略で、彼はまだ生きているようなんだ」

「そんな………」

 そんな言葉しか出なかった。

 目の前で死んだ人間が、まだ生きている。

 そんな不確かな現象が起こりうるものなのだろうかと。

「お前は以前、その《騎士団》を追っているって言ってたよな?」

「まぁ………。でも、『追っている』のは私じゃなくてリシュトなんだけどね」

「リシュト………。確か、自衛局特殊支援部隊総大将、リシュト・クロイスか………。彼も生きていたんだな」

「うん」

 そのリシュトも、六年前の大事件で遺体が確認されていた。

 しかし、その二年後、風音は彼と出会っていた。

 その時に色々な話をした。

 その中で最も新しい話は、柚希の件だ。

 《北》で行われていた非合法で無慈悲な研究。

 そこで実験を受けていた何百という少女の救出。

 その話を持ち出したのは、他でもないリシュトだった。

「彼の功績は、私の目を引くものばかりだ。しかし、彼は《南》の壊滅時に消息を絶っていた………」

 《南》で起きた壊滅的な大事件。

 南大陸全土を飲み込む大きな爆発とともに、全ての生命が絶たれた事件だった。

「その時の話を聞いても、いつも渋るばかりだったけど、柚希の件では感謝してる」

「確かに、あの出来事のお陰で、《魔導協会》と《聖皇教会》二つの『組織の柱』を幾つか破壊することができた」

 風音にとって、その言葉は何よりも嬉しいはずだった。

 しかし、当のリシュト本人は以前の彼ではなかった。

 まるで、復讐を糧に生きる怪物のような目をしていた。

 そんな彼に不安を抱いた風音は、あまり深く問い詰めることさえも出来なかった。

 だからこそ話をしたかった。

 何故、変わってしまったのか。

 何を思い、あんな事を伝えたのか。

 その結果。《局》に大きな損害を与えたが、難とか、世界的確変をもたらすことが出来た。

「しかし、そんな出来事もつかの間だ。今回のような事件が起きた」

 それは、リシュトがもたらした代償なのか。あるいは、その《皇》とやらの差し金か…………。

 新たな謎が生まれ、風音は悩んだ。

「父さん」

「…………」

 言わずと、その反応は予想していた。

 しかし、風音にはどうしても確かめたい事があった。

 だから、決心してその言葉を口にした。

「この先の《局》の主導権を、私にくれませんか?」

 風音は深く頭を下げ、濃いに願う。

「本気か?」

「はい」

 もう決断した。

 あんな悔しい思い、悲しい思いはしたくない。

 だからこそ、犠牲も後悔も重ねたくない。

 だから………、

「分かった」

「え……?」

 風音は耳を疑った。

 反対されると思ってた。

 自由奔放に動き、世界を、父を苦しめ苦労をさせてきた。

 そんな自分に対して、父が放った言葉は何よりも嬉しい言葉だった。

「お前が『やりたいこと』を素直にやり通せ。その先に闇しかなくても、自分の『信念』を、『可能性』を曲げるな」

 そう言って、聡一郎は、一枚のカードを差し出した。

「このカードには、私の《局》での地位がある。私は此処で見守ることしか出来ないが、お前が必ずやり遂げると信じている」

 それは、父から子への伝承の証。

 受け継がれるのは、自衛局での最高責任者としての『責務』。

 問われるのは、自分の『覚悟』。

「ありがとうございます!」

 風音は、改めて決断する。

 必ず、全てを取り戻して帰ってくると。

 絶対に、全てを終わらせてくると。

 窓に映る蒼天の空を見上げ、風音は心の中で、強く宣言した。

「必ず、貴方達の企みを阻止して、私達の『日常』を取り戻してみせる!!」

 それは、世界への宣戦布告。

 まだ知れぬ『敵(キョウイ)』への、敵対宣言。

 今ここに、新たな歴史の扉が開いた。

 小さな『黙示録の焔(ホムラ)』が灯ったのだ。



 医療棟を出たリシュトは、一人の老人に声を掛けられた。

 年の頃は六十か七十。

 リシュトにとっては、三倍近い年の差がある。

 しかし、リシュトにとって、その老人は『身内』で、なにより『仲間』だ。

 その老人の名は………、

「ヴィゼルド・アレスター………」

 《夜天騎士団》第一席に席を置きつつも、ここ自衛局にて高い信頼を受けている彼は、この三年間の自衛局の動向を『監視』してきていた。

「何のつもりですか?」

 ヴィゼルドが、目を瞑り、樹に背を預けた状態で、リシュトに問う。

「何の事です?」

 リシュトは、ヴィゼルドが言いたいことを理解している。

 しかし、その事に対し、答える義理など無いと認識している。

「何故彼女を呼んだのです?」

 それは、リシュトの読み通りだ。

「オレは何もしてませんよ。ただ、彼女に父親の『異変』を伝えただけです」

 さも悪気が無いかのように、リシュトは淡々と答えた。

「それは、《皇》の指示には無い行動ですよね?」

「無いですね」

「では何故………?」

「少し、心配なだけですよ」

「………」

 ヴィゼルドは、そのことに対して何も口出しをしなかった。

「そうですか………」

「ま。実際のところ、気になるのは彼女の現在の部下の存在なんですけどね?」

「部下………確か、織詠修哉とかいう少年のことですか?」

「ええ」

「二年前の事件で、《影騎士》と対等に戦ったとされる人物ですね」

「あの少年には、畏怖にも勝る『何か』を感じてならないんですよ」

「畏怖で済めば良いのですが………。しかし、あの《影騎士》と対等に戦った少年………いったい何者なんですか?」

「オレにも分かりませんよ。ですが、彼について確かなのは、彼の存在が、《影騎士》以上の脅威になり得るという点ですけどね」

「《影騎士》自体でも不思議な点が多々ありますのに、それを凌駕するかの如くの存在である少年………」

「案外、同一人物だったりするのでは?」

「いえ、それは無いでしょう。彼らがもし、同一人物だとするならば、あのような場所に出会すはずがないでしょう」

 ヴィゼルドの当然な返答に、リシュトは自身の考えを曲げることなどしなかった。

「しかし………、我々の問題は、その《影騎士》の方にあるかもしれなですね?」

「そうですね」

「彼は今何処に?」

「分かりません。彼女達には捜索を命じていますが、未だ姿は確認出来ていないようで………」

「そうですか………」

 《夜天騎士団》第十一席《影騎士》。

 その正体は、騎士達も知らず、彼らの《皇》でさえも知らないのでは無いかと言われている。

 そんな謎の《影騎士》に関する事で、唯一騎士達が分かっていることは………、

「あの晴(シン)が手も足も出せない程の実力を持つ人物………。世界広しと言えど、さすがにそのような御仁は想像も着かぬが………」

「まぁ、あの晴でさえ人外ののうなチカラを有しているんですから、その上がいたとしても不思議では無いですよね?」

「…………」

「ま。考えても仕方の無いことです。それじゃ、オレは行きますから」

「あ、あぁぁ……」

 ヴィゼルドをその場に残し、リシュトは森の方へと消えて行く。



「ただいま、アン………」

 ユリの花束を墓石に置き、リシュトは惜しむように呟く。

 最後の事件を経て、六年振りに家族の墓を見据える。

「リシュト…………」

 感傷に浸っていたリシュトの背後から声が聞こえた。

 リシュトは驚きもせず、ゆっくりと振り向く。

「風音………」

 数時間振りの戦友との再会。

 しかし、リシュトにとってその再会は些細な出来事に過ぎなかった。

「それで、話ってのは何だ?」

「三点程、訊ねたい事があるの………」

 風音は、言いづらそうな素振りを見せる。

 リシュトには、その心当たりがある。

 しかし、ここで変に対応しては無駄な勘繰りを受けかねない。

 なので、なるべく近い情報を渡しつつ、会話を早めに終らせる。

「まず一点目。リシュトは、イグナス・ログナーって人物知ってる?」

 その人物は、《夜天騎士団》第十席に席を置く人物。

「父さんの話では、そのイグナスさんが主犯みたいなんだけど………」

「いや、聞かないな。その人物がどうオレと関係する?」

 なるべく、自分の存在が明るみに出ないように、話を進める。

「その人、その《夜天騎士団》っていうのに在席してるみたいなんだ………」

「………そうか。まぁ、気に掛けておくよ」

(どうやら、他の奴の姿は見られてないみたいだな。とりあえず、《計画》の第二段階は成功か……)

「ありがとう。それで、二点目なんだけど───」

 先程の話の内容で、その後の問いに予想は付いていた。

「その《夜天騎士団》っていうのの目的は何なの?」

「それは分からん。だが、何か大きな事を成そうとしていることは明白だ」

 それは、リシュトにも分からない事柄だった。

 リシュトだけでなく、おそらく、騎士達全員が知らない。

 それでも、リシュト達にはやらなきゃならない理由があった。

 それが、《皇》とした『契約』。

 その為に、リシュト達はこうして活動している。

「…………」

 納得がいかないのか、風音は半目でリシュトを睨む。

「まぁいいわ。じゃあ最後。今のリシュトは何処にいるの?」

「………」

 最後の質問は極めて単純だった。

 風音は頭が飛び抜けて良い。

 その答えを自分で見つけ出しているだろう。

 しかし、リシュトはその答えをはっきりと言うことが出来なかった。

「何処にも居ないさ………」

「未だ放浪中?」

「ああ…………」

 曖昧な返答で頷くリシュト。

 その答えはあながち間違いではないが、風音に対しては軽率な対応でしかなかった。

「………………。まぁいいわ。それじゃあ、私は行くから」

 風音は吐き捨てるように踵を返した。

「ちょっと待て」

 そこを、リシュトが引き留める。

「何?」

「オレからも一つだけ、質問しても良いか?」

「………………何?」

「お前の部下の、織詠修哉って人物。いったい何者だ?」

「さぁ?」

「は?」

「いやぁ~。実は私もよく知らないんだよね?」

「何故だ?お前の部下何だろ?」

「そうなんだけど…………」

 言いづらそうに勿体振る風音。

「三年前に図書館で出会って、勧誘したらあっさり着いて来ちゃった感じなんだけど」

「…………相変わらず適当だな?」

「えへへ~~」

「いや、誉めてないんだが………」

「それで?質問はそれだけ?」

「ああ。呼び止めてすまない」

「良いよ」

「あ。それと、コチラから忠告だ」

 これから敵同士になるかもしれない。

 それでも、リシュトには伝えておきたい事があった。

「お前は一度、その強さを身を持って知ってるから分かってると思うが、《影騎士》にだけは気をつけろ」

「…………」

「アイツにはオレにも分からない『何か』がある。それに、オレはヤツを追っている」

「そう……なんだ」

「ああ、だからヤツとはまともに殺りあうな」

「うん。分かった」

 本当に理解したのか分からないまま、リシュトは風音と別れ、共同墓地を東へ進んで行く。

「もういいぞ、ユイ」

 その途中、リシュトは木陰に隠れていた少女に声を掛ける。

「もう良いんですか?」

「いいさ。どのみちすれ違ってばかりだったんだから、今さら………」

「リシュトさん…………」

「それより、他の騎士達の動向はどうなってる?」

「あ、はい。二席と三席は九席と共に《計画》を開始しています。七席と十三席は各々の任務を継続中の模様。五席と四席は未だ《計画》を開始していない模様です」

「そうか………。ちなみに、イグナスはどうした?」

「はい。十席は《西》へ向かった模様で、リールでの目撃を確認しています」

「残るは《影騎士》の動向か………」

「はい。それと、六席と十二席も行方がよく分からない状況です」

「マルクトとヴィヴィか………。まぁ、アイツらなら大丈夫だろう。晴程では無いにせよ、ヴィゼルド並みの強さを持つからな」

「では、今後の方針は………?」

「その場の持ち場で監視を続けてくれ、なるべく《計画》の邪魔にならない程度に」

「分かりました。十一席の方は行方が分かり次第───」

「いや、ヤツについてはもういい。あまり深追いをして『コチラ』に被害が出るのも難だしな………」

「分かりました。では、各者にそう伝えておきます」

「ああ、助かる」

 少女と別れ、リシュトは再び道を歩き出した。



 風音が向かった場所は、先日、事件が発生した監獄塔。

 その監獄塔で監守の任に就いていた人物に聡一郎から託されたカードを見せ、止まることなく奥へと進んで行く。

「報告では八階まで敵の進入があったそうなのですが………」

 監守の一人をお供に連れ、事件の概要を報告させる。

「ええ………」

 その点は、此処までの状態を見ればすぐに察しが付く。

 しかし、風音が気にしているのはそんなことでは無かった。

「五十階以降の階層の状況はどうなってるの?」

「へ?」

 その言葉に、男は首を傾げる。

「おかしいと思わない?」

「えと……、何がですか?」

「何故、相手は八階(ココ)までしか進行しなかったのか……」

「………それは、分が悪いと察したからでは?」

 その発想は絶対に無い。

 それが本当なら、相手は最初から監獄塔(ココ)へは乗り込んで来なかったはず………。

 風音には、人とは違う状況が浮かんでいた。

「無いわね。私の考えだと、その相手は『囮』よ」

「…………え?」

 長く溜めたが、男は風音の言葉が理解出来なかった。

「とりあえず、下へ降りましょ」

「え?あ、はいッ!」

 男は灯籠を持ち、慌てて風音の後を追った。

「やっぱり………」

 下へ降りて早々、風音はため息を付いた。

「これは………」

 男はその階層の状況に絶句し、ゆっくりと階層内を一周する。

「どうやら、彼らの目的はコッチみたいね………」

 この階層に捕らえていた者達は全て、《烙奴隷(ディザストル)》だった。

 それが、今は一人子(ヒトッコ)一人いない状況。

「こんなことが……」

 風音の予想通り、彼らの真の目的はコチラで、上での事件は単なる囮だったというわけだ。

 しかし、それでも風音にはいくつかの不明確な点があった。

 何故、《烙奴隷》を連れ去ったのか……。

 何故、自衛局で事件を起こしたのか。《烙奴隷》を奪う為なら、自ら《北》の研究所を強襲すればよかったはず………。

 ……ッ!

 その時、風音の脳裏に浮かんだのは、ある人物の顔だった。

「リシュト……………」

 彼は、二年前に研究所の情報を風音に教えた。

 それが非合法な研究であったが故に、自衛局はすぐさま動いたが……、もし、その情報さえも仕組まれた『罠』だったとしたら………。

 風音の中で最悪な結末が見えた。

「貴方はもういいです」

 風音は、男から灯籠を奪い取り、階段を駆け降りて行く。

「あ、ちょっとッ!!?」

 風音が向かったのはそこから更に、五階程下層の階層。

 そこには、《烙奴隷》よりも更に危険な者が捕らえている。

「やぁ、元気にしてる?」

 その階層の一人閉じ込められている人物に、風音は軽く声を掛ける。

「…………」

 当然、その人物が言葉を返すはずもなく…………。

「ま、元気とは言えないか…………」

 風音は一人言のように話を続ける。

「此処から出してあげるから、私に着いて来ない?」

「それは、『命令』?」

 檻の中の少女は、ようやく口を開く。

「命令じゃないと動けない?」

 風音は続けて問う。

「そんなことは無いです。ただ、今までそう生きてきたから、そう聞いただけで………」

「そっか……。じゃあ、そう思っても良いから、私の元に着いて?」

「期間は?」

「…………う~~ん。一応、今年いっぱいまでかな?」

「………分かった」

 そう言うと、少女は自身の手錠を破壊した。

「なんだ。壊そうと思えば壊せたんだね?」

「出来ましたが、無駄な戦闘は避けたいですから」

「そっか………」

「貴女は、ワタシを見ても驚かないんですね?」

「もう、慣れたからね」

「??」

「少し事情があってね………、貴女の隊長さんと、その右腕の子には先に動いてもらってるから」

「そうですか………」

「あ、そう言えば、自己紹介がまだだったね?私は、双葉風音。自衛局(ココ)では臨時総督官を遣らせてもらってるの」

「………ワタシは、名前は無いです」

「そうなの?」

「過去の名前は、諸事情で消されていますから」

「…………」

 少女のその返答に、風音は言葉を失っていた。

 その返答は、以前の柚希から聞いたものと全く同じものだったのだ。

(この子もか…………)

 風音は、心の中で呟く。

「なら、私が付けてあげようか?」

「………良いんですか?」

 少女の返答に、風音は再び驚く。

「なら、佐々木紗輝はどう?」

 風音は平常を取り戻し、その名を提案する。

「………それは、ダジャレというやつですか?」

「ダメ………?」

 ササキとサキを掛けた、風音の粋な計らいだ。

 しかし、少女には少しばかり不評のようだった。

「いえ。奴隷に選択権はありませんから」

(その考え方も、以前の柚希と一緒か………。少し厄介ね。だけど、それでも良いや………逆に扱いやすくて)

「じゃあ、宜しくね。紗輝?」

「はい。我が主」

 風音は、《紅翼鷹(クライスター)》最後の少女───佐々木紗輝を連れて地上に上がり、指令塔に向かった。

 そして、全世界に散らばった隊員達に向けて、連絡を飛ばした。

「総員。現状の案件を早期解決し、『戦争』の支度を開始!『敵』は《夜天騎士団》。所属不明の甲冑騎士を対象とし、その動向を阻止せよ!!今、過去の惨劇の二の舞を繰り返さない為に、諸君らの武勲を期待するッ!!!」

 風音のその言葉で、世界中の全隊員が、一気呵成に闘志を燃やした。

 それが、戦争への火蓋となるのか。

 はたまた、それさえも《夜天騎士団》の思惑か。

 分からない事は未だ多い。

 しかし、傷付けられてばかりでは、自衛局そのものの存続さえも危うい。

 風音は、意を決して『反旗(カツドウ)』を開始した…………。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。