第13話 すれ違う二人
潮の香る港を出て、風音は本部への道のりを駆けていく。
急ぐ先は自衛局の統轄棟ではなく、その街の外れにある医療棟。
「リシュト……!!」
その一室の前に立っていた人物の名を叫ぶ。
「風音。此処が何処だか分かってるのか?」
「そんなことはどうでも良いよ!!それより、父さんは!?」
荒く息を切らしながら、風音は問う。
「『そんなこと』ってお前なぁ………。まぁいいか。おじさんはこの中だ。特に大きな怪我は無いらしい。けど、業務を行うのは控えた方がいいらしい」
「そ、そっか………」
息を整えると同時に、胸をそっと撫で下ろした。
「あ、リシュト…!」
リシュトが背を向けた瞬間、風音はその背中に声を掛けた。
「ん?何だ?」
「後で話があるんだけど、時間取れないかな?」
「………………。分かった。じゃあ、共同墓地で待ってるから」
「うん……」
風音は何か言いたげな表情で、リシュトの背中を見つめ、リシュトの姿が見えなくなった所で病室に入っていった。
「父さん………」
六つ置かれたベットの内、一番隅の場所に、その人物はいた。
「ああ、風音か………」
自衛局統轄長であり、風音の父である双葉聡一郎は、風音の姿を認識すると、上半身だけ起こし力無く反応した。
「大丈夫………みたいだね……」
「まぁ……な」
風音の安堵に、聡一郎は苦笑いで答える。
「でも珍しいね。父さんが怪我するなんて」
「あ、その件なんだが。風音、《夜天騎士団》って知ってるか?」
「ッ!!ど、どこでその名を?」
「実はな。今回の事件、その《夜天騎士団》ってのの仕業みたいなんだ」
「…………」
聡一郎の言葉に、風音は何も言えなかった。
風音は、過去に二度、《夜天騎士団》と対峙したことがある。
故に、その脅威は十二分に理解している。
「たしか、お前の報告では、以前、そいつらと対峙したことがあるそうだな?」
「…………うん」
一度目は八年前。二度目は、二年前だ。
どちらもあっさりと敗れ、大切なモノを失った。
「その内の最初の方なんだが………」
聡一郎は、言い辛そうに言葉を紡ぐ。
「お前は、イクスの死を確認したんだよな?」
「………うん」
それは、風音にとっても思い出したくもない記憶。
未熟だった自分のせいで、大切な『家族』を失った。
「その、イクスの件なんだが……………」
聡一郎は俯く。
「今回の事件………イクスが主犯、みたいなんだ」
「ッ!!?」
風音は、驚きのあまり、頭が真っ白になった。
風音にとって、イクスとは父と同じくらいに『家族』と認識していた。
しかし、そんなイクスは八年前、風音を庇ってその《夜天騎士団》に殺られた。
風音は、目の前で彼の死を見た。
だから、確信している。
彼は、すでに死んでいる………はずだ。
「どうやら、彼の死は《皇》という存在の策略で、彼はまだ生きているようなんだ」
「そんな………」
そんな言葉しか出なかった。
目の前で死んだ人間が、まだ生きている。
そんな不確かな現象が起こりうるものなのだろうかと。
「お前は以前、その《騎士団》を追っているって言ってたよな?」
「まぁ………。でも、『追っている』のは私じゃなくてリシュトなんだけどね」
「リシュト………。確か、自衛局特殊支援部隊総大将、リシュト・クロイスか………。彼も生きていたんだな」
「うん」
そのリシュトも、六年前の大事件で遺体が確認されていた。
しかし、その二年後、風音は彼と出会っていた。
その時に色々な話をした。
その中で最も新しい話は、柚希の件だ。
《北》で行われていた非合法で無慈悲な研究。
そこで実験を受けていた何百という少女の救出。
その話を持ち出したのは、他でもないリシュトだった。
「彼の功績は、私の目を引くものばかりだ。しかし、彼は《南》の壊滅時に消息を絶っていた………」
《南》で起きた壊滅的な大事件。
南大陸全土を飲み込む大きな爆発とともに、全ての生命が絶たれた事件だった。
「その時の話を聞いても、いつも渋るばかりだったけど、柚希の件では感謝してる」
「確かに、あの出来事のお陰で、《魔導協会》と《聖皇教会》二つの『組織の柱』を幾つか破壊することができた」
風音にとって、その言葉は何よりも嬉しいはずだった。
しかし、当のリシュト本人は以前の彼ではなかった。
まるで、復讐を糧に生きる怪物のような目をしていた。
そんな彼に不安を抱いた風音は、あまり深く問い詰めることさえも出来なかった。
だからこそ話をしたかった。
何故、変わってしまったのか。
何を思い、あんな事を伝えたのか。
その結果。《局》に大きな損害を与えたが、難とか、世界的確変をもたらすことが出来た。
「しかし、そんな出来事もつかの間だ。今回のような事件が起きた」
それは、リシュトがもたらした代償なのか。あるいは、その《皇》とやらの差し金か…………。
新たな謎が生まれ、風音は悩んだ。
「父さん」
「…………」
言わずと、その反応は予想していた。
しかし、風音にはどうしても確かめたい事があった。
だから、決心してその言葉を口にした。
「この先の《局》の主導権を、私にくれませんか?」
風音は深く頭を下げ、濃いに願う。
「本気か?」
「はい」
もう決断した。
あんな悔しい思い、悲しい思いはしたくない。
だからこそ、犠牲も後悔も重ねたくない。
だから………、
「分かった」
「え……?」
風音は耳を疑った。
反対されると思ってた。
自由奔放に動き、世界を、父を苦しめ苦労をさせてきた。
そんな自分に対して、父が放った言葉は何よりも嬉しい言葉だった。
「お前が『やりたいこと』を素直にやり通せ。その先に闇しかなくても、自分の『信念』を、『可能性』を曲げるな」
そう言って、聡一郎は、一枚のカードを差し出した。
「このカードには、私の《局》での地位がある。私は此処で見守ることしか出来ないが、お前が必ずやり遂げると信じている」
それは、父から子への伝承の証。
受け継がれるのは、自衛局での最高責任者としての『責務』。
問われるのは、自分の『覚悟』。
「ありがとうございます!」
風音は、改めて決断する。
必ず、全てを取り戻して帰ってくると。
絶対に、全てを終わらせてくると。
窓に映る蒼天の空を見上げ、風音は心の中で、強く宣言した。
「必ず、貴方達の企みを阻止して、私達の『日常』を取り戻してみせる!!」
それは、世界への宣戦布告。
まだ知れぬ『敵』への、敵対宣言。
今ここに、新たな歴史の扉が開いた。
小さな『黙示録の焔』が灯ったのだ。
医療棟を出たリシュトは、一人の老人に声を掛けられた。
年の頃は六十か七十。
リシュトにとっては、三倍近い年の差がある。
しかし、リシュトにとって、その老人は『身内』で、なにより『仲間』だ。
その老人の名は………、
「ヴィゼルド・アレスター………」
《夜天騎士団》第一席に席を置きつつも、ここ自衛局にて高い信頼を受けている彼は、この三年間の自衛局の動向を『監視』してきていた。
「何のつもりですか?」
ヴィゼルドが、目を瞑り、樹に背を預けた状態で、リシュトに問う。
「何の事です?」
リシュトは、ヴィゼルドが言いたいことを理解している。
しかし、その事に対し、答える義理など無いと認識している。
「何故彼女を呼んだのです?」
それは、リシュトの読み通りだ。
「オレは何もしてませんよ。ただ、彼女に父親の『異変』を伝えただけです」
さも悪気が無いかのように、リシュトは淡々と答えた。
「それは、《皇》の指示には無い行動ですよね?」
「無いですね」
「では何故………?」
「少し、心配なだけですよ」
「………」
ヴィゼルドは、そのことに対して何も口出しをしなかった。
「そうですか………」
「ま。実際のところ、気になるのは彼女の現在の部下の存在なんですけどね?」
「部下………確か、織詠修哉とかいう少年のことですか?」
「ええ」
「二年前の事件で、《影騎士》と対等に戦ったとされる人物ですね」
「あの少年には、畏怖にも勝る『何か』を感じてならないんですよ」
「畏怖で済めば良いのですが………。しかし、あの《影騎士》と対等に戦った少年………いったい何者なんですか?」
「オレにも分かりませんよ。ですが、彼について確かなのは、彼の存在が、《影騎士》以上の脅威になり得るという点ですけどね」
「《影騎士》自体でも不思議な点が多々ありますのに、それを凌駕するかの如くの存在である少年………」
「案外、同一人物だったりするのでは?」
「いえ、それは無いでしょう。彼らがもし、同一人物だとするならば、あのような場所に出会すはずがないでしょう」
ヴィゼルドの当然な返答に、リシュトは自身の考えを曲げることなどしなかった。
「しかし………、我々の問題は、その《影騎士》の方にあるかもしれなですね?」
「そうですね」
「彼は今何処に?」
「分かりません。彼女達には捜索を命じていますが、未だ姿は確認出来ていないようで………」
「そうですか………」
《夜天騎士団》第十一席《影騎士》。
その正体は、騎士達も知らず、彼らの《皇》でさえも知らないのでは無いかと言われている。
そんな謎の《影騎士》に関する事で、唯一騎士達が分かっていることは………、
「あの晴が手も足も出せない程の実力を持つ人物………。世界広しと言えど、さすがにそのような御仁は想像も着かぬが………」
「まぁ、あの晴でさえ人外ののうなチカラを有しているんですから、その上がいたとしても不思議では無いですよね?」
「…………」
「ま。考えても仕方の無いことです。それじゃ、オレは行きますから」
「あ、あぁぁ……」
ヴィゼルドをその場に残し、リシュトは森の方へと消えて行く。
「ただいま、アン………」
ユリの花束を墓石に置き、リシュトは惜しむように呟く。
最後の事件を経て、六年振りに家族の墓を見据える。
「リシュト…………」
感傷に浸っていたリシュトの背後から声が聞こえた。
リシュトは驚きもせず、ゆっくりと振り向く。
「風音………」
数時間振りの戦友との再会。
しかし、リシュトにとってその再会は些細な出来事に過ぎなかった。
「それで、話ってのは何だ?」
「三点程、訊ねたい事があるの………」
風音は、言いづらそうな素振りを見せる。
リシュトには、その心当たりがある。
しかし、ここで変に対応しては無駄な勘繰りを受けかねない。
なので、なるべく近い情報を渡しつつ、会話を早めに終らせる。
「まず一点目。リシュトは、イグナス・ログナーって人物知ってる?」
その人物は、《夜天騎士団》第十席に席を置く人物。
「父さんの話では、そのイグナスさんが主犯みたいなんだけど………」
「いや、聞かないな。その人物がどうオレと関係する?」
なるべく、自分の存在が明るみに出ないように、話を進める。
「その人、その《夜天騎士団》っていうのに在席してるみたいなんだ………」
「………そうか。まぁ、気に掛けておくよ」
(どうやら、他の奴の姿は見られてないみたいだな。とりあえず、《計画》の第二段階は成功か……)
「ありがとう。それで、二点目なんだけど───」
先程の話の内容で、その後の問いに予想は付いていた。
「その《夜天騎士団》っていうのの目的は何なの?」
「それは分からん。だが、何か大きな事を成そうとしていることは明白だ」
それは、リシュトにも分からない事柄だった。
リシュトだけでなく、おそらく、騎士達全員が知らない。
それでも、リシュト達にはやらなきゃならない理由があった。
それが、《皇》とした『契約』。
その為に、リシュト達はこうして活動している。
「…………」
納得がいかないのか、風音は半目でリシュトを睨む。
「まぁいいわ。じゃあ最後。今のリシュトは何処にいるの?」
「………」
最後の質問は極めて単純だった。
風音は頭が飛び抜けて良い。
その答えを自分で見つけ出しているだろう。
しかし、リシュトはその答えをはっきりと言うことが出来なかった。
「何処にも居ないさ………」
「未だ放浪中?」
「ああ…………」
曖昧な返答で頷くリシュト。
その答えはあながち間違いではないが、風音に対しては軽率な対応でしかなかった。
「………………。まぁいいわ。それじゃあ、私は行くから」
風音は吐き捨てるように踵を返した。
「ちょっと待て」
そこを、リシュトが引き留める。
「何?」
「オレからも一つだけ、質問しても良いか?」
「………………何?」
「お前の部下の、織詠修哉って人物。いったい何者だ?」
「さぁ?」
「は?」
「いやぁ~。実は私もよく知らないんだよね?」
「何故だ?お前の部下何だろ?」
「そうなんだけど…………」
言いづらそうに勿体振る風音。
「三年前に図書館で出会って、勧誘したらあっさり着いて来ちゃった感じなんだけど」
「…………相変わらず適当だな?」
「えへへ~~」
「いや、誉めてないんだが………」
「それで?質問はそれだけ?」
「ああ。呼び止めてすまない」
「良いよ」
「あ。それと、コチラから忠告だ」
これから敵同士になるかもしれない。
それでも、リシュトには伝えておきたい事があった。
「お前は一度、その強さを身を持って知ってるから分かってると思うが、《影騎士》にだけは気をつけろ」
「…………」
「アイツにはオレにも分からない『何か』がある。それに、オレはヤツを追っている」
「そう……なんだ」
「ああ、だからヤツとはまともに殺りあうな」
「うん。分かった」
本当に理解したのか分からないまま、リシュトは風音と別れ、共同墓地を東へ進んで行く。
「もういいぞ、ユイ」
その途中、リシュトは木陰に隠れていた少女に声を掛ける。
「もう良いんですか?」
「いいさ。どのみちすれ違ってばかりだったんだから、今さら………」
「リシュトさん…………」
「それより、他の騎士達の動向はどうなってる?」
「あ、はい。二席と三席は九席と共に《計画》を開始しています。七席と十三席は各々の任務を継続中の模様。五席と四席は未だ《計画》を開始していない模様です」
「そうか………。ちなみに、イグナスはどうした?」
「はい。十席は《西》へ向かった模様で、リールでの目撃を確認しています」
「残るは《影騎士》の動向か………」
「はい。それと、六席と十二席も行方がよく分からない状況です」
「マルクトとヴィヴィか………。まぁ、アイツらなら大丈夫だろう。晴程では無いにせよ、ヴィゼルド並みの強さを持つからな」
「では、今後の方針は………?」
「その場の持ち場で監視を続けてくれ、なるべく《計画》の邪魔にならない程度に」
「分かりました。十一席の方は行方が分かり次第───」
「いや、ヤツについてはもういい。あまり深追いをして『コチラ』に被害が出るのも難だしな………」
「分かりました。では、各者にそう伝えておきます」
「ああ、助かる」
少女と別れ、リシュトは再び道を歩き出した。
風音が向かった場所は、先日、事件が発生した監獄塔。
その監獄塔で監守の任に就いていた人物に聡一郎から託されたカードを見せ、止まることなく奥へと進んで行く。
「報告では八階まで敵の進入があったそうなのですが………」
監守の一人をお供に連れ、事件の概要を報告させる。
「ええ………」
その点は、此処までの状態を見ればすぐに察しが付く。
しかし、風音が気にしているのはそんなことでは無かった。
「五十階以降の階層の状況はどうなってるの?」
「へ?」
その言葉に、男は首を傾げる。
「おかしいと思わない?」
「えと……、何がですか?」
「何故、相手は八階までしか進行しなかったのか……」
「………それは、分が悪いと察したからでは?」
その発想は絶対に無い。
それが本当なら、相手は最初から監獄塔へは乗り込んで来なかったはず………。
風音には、人とは違う状況が浮かんでいた。
「無いわね。私の考えだと、その相手は『囮』よ」
「…………え?」
長く溜めたが、男は風音の言葉が理解出来なかった。
「とりあえず、下へ降りましょ」
「え?あ、はいッ!」
男は灯籠を持ち、慌てて風音の後を追った。
「やっぱり………」
下へ降りて早々、風音はため息を付いた。
「これは………」
男はその階層の状況に絶句し、ゆっくりと階層内を一周する。
「どうやら、彼らの目的はコッチみたいね………」
この階層に捕らえていた者達は全て、《烙奴隷》だった。
それが、今は一人子一人いない状況。
「こんなことが……」
風音の予想通り、彼らの真の目的はコチラで、上での事件は単なる囮だったというわけだ。
しかし、それでも風音にはいくつかの不明確な点があった。
何故、《烙奴隷》を連れ去ったのか……。
何故、自衛局で事件を起こしたのか。《烙奴隷》を奪う為なら、自ら《北》の研究所を強襲すればよかったはず………。
……ッ!
その時、風音の脳裏に浮かんだのは、ある人物の顔だった。
「リシュト……………」
彼は、二年前に研究所の情報を風音に教えた。
それが非合法な研究であったが故に、自衛局はすぐさま動いたが……、もし、その情報さえも仕組まれた『罠』だったとしたら………。
風音の中で最悪な結末が見えた。
「貴方はもういいです」
風音は、男から灯籠を奪い取り、階段を駆け降りて行く。
「あ、ちょっとッ!!?」
風音が向かったのはそこから更に、五階程下層の階層。
そこには、《烙奴隷》よりも更に危険な者が捕らえている。
「やぁ、元気にしてる?」
その階層の一人閉じ込められている人物に、風音は軽く声を掛ける。
「…………」
当然、その人物が言葉を返すはずもなく…………。
「ま、元気とは言えないか…………」
風音は一人言のように話を続ける。
「此処から出してあげるから、私に着いて来ない?」
「それは、『命令』?」
檻の中の少女は、ようやく口を開く。
「命令じゃないと動けない?」
風音は続けて問う。
「そんなことは無いです。ただ、今までそう生きてきたから、そう聞いただけで………」
「そっか……。じゃあ、そう思っても良いから、私の元に着いて?」
「期間は?」
「…………う~~ん。一応、今年いっぱいまでかな?」
「………分かった」
そう言うと、少女は自身の手錠を破壊した。
「なんだ。壊そうと思えば壊せたんだね?」
「出来ましたが、無駄な戦闘は避けたいですから」
「そっか………」
「貴女は、ワタシを見ても驚かないんですね?」
「もう、慣れたからね」
「??」
「少し事情があってね………、貴女の隊長さんと、その右腕の子には先に動いてもらってるから」
「そうですか………」
「あ、そう言えば、自己紹介がまだだったね?私は、双葉風音。自衛局では臨時総督官を遣らせてもらってるの」
「………ワタシは、名前は無いです」
「そうなの?」
「過去の名前は、諸事情で消されていますから」
「…………」
少女のその返答に、風音は言葉を失っていた。
その返答は、以前の柚希から聞いたものと全く同じものだったのだ。
(この子もか…………)
風音は、心の中で呟く。
「なら、私が付けてあげようか?」
「………良いんですか?」
少女の返答に、風音は再び驚く。
「なら、佐々木紗輝はどう?」
風音は平常を取り戻し、その名を提案する。
「………それは、ダジャレというやつですか?」
「ダメ………?」
ササキとサキを掛けた、風音の粋な計らいだ。
しかし、少女には少しばかり不評のようだった。
「いえ。奴隷に選択権はありませんから」
(その考え方も、以前の柚希と一緒か………。少し厄介ね。だけど、それでも良いや………逆に扱いやすくて)
「じゃあ、宜しくね。紗輝?」
「はい。我が主」
風音は、《紅翼鷹》最後の少女───佐々木紗輝を連れて地上に上がり、指令塔に向かった。
そして、全世界に散らばった隊員達に向けて、連絡を飛ばした。
「総員。現状の案件を早期解決し、『戦争』の支度を開始!『敵』は《夜天騎士団》。所属不明の甲冑騎士を対象とし、その動向を阻止せよ!!今、過去の惨劇の二の舞を繰り返さない為に、諸君らの武勲を期待するッ!!!」
風音のその言葉で、世界中の全隊員が、一気呵成に闘志を燃やした。
それが、戦争への火蓋となるのか。
はたまた、それさえも《夜天騎士団》の思惑か。
分からない事は未だ多い。
しかし、傷付けられてばかりでは、自衛局そのものの存続さえも危うい。
風音は、意を決して『反旗』を開始した…………。




