第11話 精神汚染
透き通るような碧の煌めく、蒼窮の空。
微かに見える雲は、その後の天候を怪しく演出していた。
そんな怪しげな天候の下、ワタシは一人、戦っていた。
「ハァァァァアァァァァァ……………!!」
人の身に過ぎた剣技を繰り出し、相手を翻弄し、対等以上に渡り合う。
激しい痛みなど無かった。
心地良い感覚だ。
まるで、自分が神威柚希では無いかのような感覚。
人の身を外れた存在のような状態。
それでも、この『権能』があれば…………、
ワタシはそんな衝動に押し流れそうになっていた。
しかし───、
「ガッ!!アッッ、カハッ!」
突如、強い痛みがワタシを襲った。
「ハァハァハァ…………グッ!」
───この痛み………。
それはおそらく、《烙封印》が原因だろう。
痛みの震源である左肩に目をやった。
微かに紅く光る左肩。
制服に隠れて視認出来ないが、その『情報』はすでにワタシの頭の中にある。
これが、咲良さんの言っていた《対魔術兵器遺失物》────《烙封印》の本来の役目。
この《対魔術兵器遺失物》は、『蔵』の役割を果たすモノ。
そして、その『蔵』に納められていたこの『剣刃』は、咲良さんが言い換えて発言していた伝承上の代物──《神威兵器》。
紅々しく輝く烙印は、生物の形状を描いた刻印となり、ワタシの左肩に、その姿を形成する。
これが、『契約』。これが、《全能虚樹》から受け継いだ『記憶』にあった《烙封印》の『継承』。
咲良さんの言っていた通り、一人でこの《神威兵器》全てを背負い込むことは、自身の身体に多少の負荷が掛かる。
なので、現状この剣刃を『顕現』している間は、《全能虚樹》の『根』に回路を接続することができない。
だが、そんは苦悩は既に解消済みであった。
顕現したことによってもたらされた『恩恵』は、顕現した剣刃に関する『知識』が存在する。
ワタシは、その『知識』を実行する。
刀剣から槍へ………。
豪胆な男の一撃を受け流し、長身な男の一撃をヒラリと交わして腹部に一撃与える。
さらに剣刃の『形状』を変える。
槍から弓へ………。
弓の弦を引き、光の矢を後方の二人に向かって放つ。
弓から鉄手甲へ………。
体制を整えた豪胆な男の拳を正面から受け、威力を相殺し相手の豪腕に装着されている鉄手甲を破壊する。
鉄手甲から薙刀へ………。
長身な男の剣を薙刀の柄で受け、勢いを殺さないように剣を受け流して、相手の懐に潜り込む。
《六導十八門》………。“三式七之型『暮柳』”。
長身な男の腹部に一撃を叩き込む。
───これで二人………。
思いっきり地を蹴り、残り二人との距離を縮める。
片方は、俊敏な動きを見せる小柄な男。
もう片方は、その小柄な男の後方で、正確な射撃を見せる平均的な体型の男性。
雨霰と飛んで来る後方からの射撃。その無数に飛んで来る矢を薙刀で弾きながら、小さな矢の隙間を縫うように走り相手に接近する。
薙刀から大剣へ………。
《六導十八門》………。“八式二之型『羅旋敷』”
大きく振り被り、重さと勢いに任せて大地を叩く。
叩かれた大地は大きく抉れ、その波動は相手に届くまで走り続ける。
迸る斬撃を前に、二分する二人。
放たれた波動は後衛の男性の後を追う。なので、ワタシは小柄な男の後を追った。
小柄な男の武器は小さな銃剣。
その武器の特徴は、連撃の行える小軽さと、遠距離攻撃を可能とする射撃機能。
その武器の使用者の役割は、相手の撹乱と味方の援護。
軽量な武器がもたらすアドバンテージは、『部隊』という中では十二分に役割を果たせる。
しかし、単体の場合、その身軽さがもたらす小さな威力と、軽量がもたらす僅かな脅威は、逆に使用者を不利にさせる。
大剣から銃へ………。
《六導十八門》………。“十式一之型『煤嶺狸』”。
相手の放つ弾丸を撃ち落とし、相手との距離を着実に縮める。
近接戦闘に移り変わると、小柄な男は銃剣を持ち変え、短剣としてコチラに対峙してくる。
銃から小太刀へ………。
当然、ワタシはそれに対応するように剣刃の形状を変え、相手に猛攻を仕掛ける。
小さな武器は、その僅かな距離が大きなアドバンテージを生む。
故に、下手に距離を取れない。
ワタシは相手の動きを予測しながら、常に相手の死角に張り付き、連撃の『型』を放つ。
《六導十八門》………。“五式一之型『弥栄鈴女』”
鈴の音を鳴らすように迸れた蒼い光は、相手の行動を制限するように放たれ、相手の攻撃を抑止する。
『弥栄鈴女』は、その特性上、相手に大きなダメージを与えられない。
しかし、そんな相手がその攻撃を対処する術を持っていない場合は別だ。
ワタシは、わざと開いた距離を詰めるように跳躍し、相手の懐に飛び込む。
『弥栄鈴女』による連撃は、わざと相手に直撃するように放っていない。
それは、相手が対処する術を持ち合わせて無い以上、コチラにとって予想外の行動を起こしかねないからだ。
相手を覆い込むように放たれた連撃によって、相手はコチラの更なる攻撃を予想して、防御体勢を取る。
しかし、そんな行動も予測済みだ。
相手の行動は、あくまで『予想』であって、『予測』では無い。
故に、その行動のパターンは限られる。
それに、相手の武器は銃剣。サイズで言えば、小太刀や短剣に近い。
なので、大剣や槍のように広範囲を守ることが出来ない。
ワタシは、そんな短所を突き、相手に一撃を叩き込む。
《六導十八門》………。“五式四之型『八津時雨』”
蒼き彗星の如き一撃が、相手の腹部を大きく抉る。
小柄な男が倒れたことを確証したワタシは、振り返って最後の一人の姿に目を向けた。
その男は既に倒れており、酷く引き裂かれた装備の切れ目から大量の血液が真っ白な戦場を真紅色に染めていた。
───終わった………の、かな?
「ふぅ~~~~」
現状の把握を確認したワタシは、剣刃を虚空へと消し、大きなため息を着いた。
「グッ!ガッ、カハッ!!」
その刹那、ワタシの視界は酷く歪み、身体が大きく悲鳴を上げた。
───「撃て」。
───ドンッ!!
朦朧とする意識の中、ワタシは僅かな『異質』を感じた。
「グッ──!」
感じた方向へ左腕を伸ばし、剣刃を顕現する要領で、その『異質』に対応する。
しかし───、
ザシュッ!!
「ガッ!アッ…………」
ワタシの防御行動も虚しく、ワタシが『生成』した蒼い障壁は、飛んで来た弾丸に貫かれ、その弾丸に隠し混んであったであろう『異質の正体』が、ワタシの左肩に命中した。
「ウッ…………」
ワタシは、左肩に呑み込まれた『異物』がもたらした痛みに耐えながら、辺りを確認する。
「戦闘は終わったみたいなのに、急に動かなくなったね」
柚希から大分離れた場所で、彼女を見守っていた少女達の一人───最中が、独り言のように呟く。
「何か『異変』が生じたように見えましたが………」
その最中の隣で、シルヴィアが自身が理解できた範疇で返答する。
「何か問題が起こったのかな?」
「それは分かりません」
「…………」
そんな二人の会話を余所に、セレナは遠く離れた岩壁のような状態の高台を見つめていた。
「セレナ?」
会話に参加しないセレナに気付き、シルヴィアはセレナが見つめている先に目を向けた。
ぼんやりとした視界の先を見つめ、岩壁の上の高台に目をやる。
微かに確認できる範囲では、そこにいるのが『人影』一人というくらいだ。
「ガッ!カッ……………ア、アアアァァ……………」
左肩に呑み込まれた『異物』は、ワタシを侵蝕するかのように体内へ潜り混んできた。
「ッ!………柚希?」
突然の叫びに、最中達は柚希の方を見た。
「アレ………何が起きてるんですの?」
目の前で起こる異様の出来事。
叫ぶ柚希の身体から闇色の煙のようなモノが吹き出し、彼女の全身を覆うように包み込む。
「わ、分からない…………。風音からは何も聞いて無い………」
突然の異変に、最中も動揺を隠せないでいた。
「《烙封印》の、狂乱…………」
その時、セレナがポツリと呟いた。
ガ、アアアアアアァァァァ…………。
「…………」
シルヴィアは、柚希とセレナを交互に見る。
(あれが、《烙封印》…………。師匠がおっしゃっていた。《烙奴隷》を苦しめている、その『元凶』……………)
「それで………、その『狂乱』したあの娘はどうなるの?」
最中が、セレナに訪ねる。
「分からない。けど、おそらく二年前までと同じ状態に戻るんじゃないかと………」
「ッ!!」
セレナの言葉に、シルヴィアだけが顔を青ざめさせた。
「二年前?」
しかし、最中は余計に首を傾げた。
「アアアアアアァァァァ…………」
激しい痛みと、血が混じったような感覚が全身を襲う。
視界は徐々に赤く染まり始め、意識は段々と遠退き始める。
それでも、ワタシは意思を強く保ち、その痛みに抗い続ける。
「グッ……、ウッ……、ウア、アアアァァ……」
紅く染まった視界は、更に黒みを帯び始め、ワタシの現状を壊し続けた。
「アアアァァアァァァァァァァァァァァァ………ッ!!!」
ワタシの抵抗は虚しく、ほんの数秒程で視界は真っ黒となり、意識が『反転』した。
鉱山地帯の中央で放たれた『咆哮』は、大地を抉り、大気を震わせた。
「ッ!!!」
ピリピリとした緊迫感は一才存在せず、純粋な恐怖感のみが、戦場と化していたその場所に彩りを加えていた。
その戦場からは悲鳴のような声は聞こえなくなったが、その中央に立ち尽くしていた少女は、脱力したようにその場で動かなくなってしまった。
「動かなく、なっちゃったね?」
凍てつくような静寂が、戦場を煉獄のような渦へと誘う。
「もう……終わりですの?」
シルヴィアが呟くと、セレナは睨み付けるよえな視線を柚希にむけたまま答えた。
「いや、これからだ……」
そう答えた瞬間────
ヴォォォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…………。
突如、柚希は蒼窮に向かって馬鹿デカイ咆哮を上げた。
「な、何?何が起きてんの?」
その咆哮によって、張り付めた緊張感は渦焔の荒波に変わり、真っ白な鉱山地帯を一瞬で真紅の戦場に描き変えた。
オロロロロロロロロロロロォォォォォォォォォォォ……………。
柚希の咆哮は唸るような声音に変わり、最中達に一段と恐怖感を与えた。
───ドンドンッ、ドンッ!
「ッ、来る……」
「え?」
セレナの呟きに、シルヴィアが首を傾げた……その瞬間───
ドドォン、ドンッ!
柚希に向かって、威嚇射撃のような『攻撃』が飛来した。
放たれた弾丸は、岩壁の高台から飛んで来たもの。
ワタシの意識は、大きな湖畔を漂うように安定していた。
まるで、先程までの苦しみが嘘───幻覚だったかのように………。
? 苦しみ………?
自分の感覚に異変を覚え、ワタシはゆっくりと目を開いた。
此処、は…………。
ワタシの瞳に映る景色は、先程《全能虚樹》と対話した時とは
別ものの世界だった。
見渡す限り真っ暗な空。足下は湖の上に立っているかのように綺羅びやかに輝いて、漆黒の空を反射している。
その景色は、まるで満天の夜空を反転させたような光景。
更に、月明かりに照らされたような雰囲気に、自然と先程までの痛みや苦しみを忘れてしまっていた。
―――オロロロロロロロロロロロロロロロロロォォォォォォ………。
「ッ!!」
しかし、突如聞こえた何かの唸り声。
咄嗟に、斜め四十五度の位置を見上げた。
「これって………」
いつの間にか目の前に出現していた巨大なスクリーン上の画面。
その画面に映し出された光景は、ワタシの視界に映る景色だった。
───いったい、何が………。
思考を廻らすと、すぐに理解した。
此処が、ワタシの『精神の中』だということに…………。
豹変した柚希の姿は、見る者に畏怖を植え付け、恐怖で震え上がらせる程の『脅威』を放っていた。
「で。アレ、どうするの?」
目の前で起こった異変に戸惑いつつも、最中は二人に問う。
「えと………」
シルヴィアは、困ったように頬を掻く。
これまで、彼女達の指揮は柚希がやっていた。その指揮官であった柚希がいない以上、現状を自分達で解決しなければならない。
「とりあえず、あの娘を止めないと」
戸惑う二人を余所に、セレナがポツリと提案する。
「そ、そうだね………」
二人は、困った顔を引き吊らせたまま武器を鞘から抜いた。
目の前の光景は、生中継のように画面に映し出されている。
画面越しでも分かる程、全身が『闇色の瘴気』に覆われていた。
そんな光景を見ながら、ふと気付いた。
この『感じ』、《全能虚樹》の時と一緒だった。
唯一、違う点を上げるとするならば、今回はワタシ自身の身に異変が生じているという点のみだ。
───ッ!!
その時、ワタシの右脚に痛みが走った。
画面に目をやると、画面の右下に、その『闇色の瘴気』が集まっていた。
───?
その『闇色の瘴気』の中に、微かに光る紅い光が混じっていた。
気になって、視線を自身の足下に戻した。
ワタシの右膝辺りが、タイツ越しでも分かる程に紅く光っていた。
───コレって………、《神威兵器》の顕現………。
突然の出来事に、ワタシは目を丸くした。
長い沈黙を置いて再び放たれた『攻撃』。
遠距離からの攻撃を一才避けること無く、柚希は剣刃を生成する。
闇色に煌めく黒き渦は、一振りの刀剣の形状を形取り、柚希の左手に顕現した。
「ッ!!」
最中達は、一瞬立ち止まりそうになりつつも、柚希との距離を詰める。
柚希の表情はどこか虚ろで、その視線は最中達をじっと見据えている。
最中達の背筋に寒気が走る。
しかし、最中達は止まることなく、柚希に襲い掛かる。
「ハァァァアァァァァ…………くっ!」
始めに放たれた最中の一閃。
柚希は、その一閃を刀で受け、軽々しく後方へと受け流す。
「おっ……と」
最中は体勢を崩しそうになるのを、何とか踏み留まる。
「ハァァ………」
「ッ………」
続いて放たれるシルヴィアとセレナの攻撃。
柚希は、その攻撃を刀で受けず、瞬間移動のように二人の背後に回り込む。
身体を反転させ、刀に収束された闇色の刃が、斬撃となって、二人の後方にいた最中もろとも、横凪ぎに飛ばす。
「ぐっ……!」
「きゃあぁぁ………!」
「ッ………」
最中達は、大きく後方へ飛ばされた。
(つ、強い………。コレが、《烙奴隷》の実力)
地面に倒れ、シルヴィアは酷く落胆した。
明確な実力差は、最中達のやる気を低迷させた。
「最中さんッ!シルヴィアさんッ!セレナさんッ!」
画面に映し出された現状を見ながら、自分が起こした事のように叫んだ。
遠距離から飛んで来る弾丸は、援護射撃のように放たれ、最中さん達がヤられた後も、威嚇射撃のように放たれる。
そんな威嚇射撃を無視したまま、柚希は最中達ににじり寄る。
「くっ!」
最中達が、立ち上がろうと必死にもがいていると───
「“穿てッ!『アイゼン・ツェラーケン』”!!!」
接近する巨鎚。
「“連槍、『ニードル・ブライズ』”!!」
放たれた光の連撃。
「“焼き尽くせ!!『煉獄・灼熱波』”!!!」
辺りを焼き尽くすかのような青い焔。
その三撃が、柚希を襲った。
しかし、柚希は苦悶の表情のようなものを見せず、刀を振り上げ、巨鎚を受け流し、連撃と青い焔を凪ぎ払った。
その流れで、柚希はその攻撃を行った人物の下へ跳躍した。
その人物達は、三人。どれも、最中やシルヴィアくらいの少女だ。
「くっ、この!」
少女達の一人───パスタ・クローバーが、鉄槍を持って柚希と対峙する。
「“極槍、『レイズ・ヴァース』”!!」
「援護します!“『氷牙・粒菓装』”」
鉄槍から放たれた光の一閃。それに、もう一人の少女───高塚雅の氷の粒が纏わりつき、大きな氷柱になって、柚希に迫る。
しかし───、
バリィン………。
柚希は刀を一閃し、その攻撃を砕く。
ビュッ!
相手に隙を与えず、柚希は少女達に攻撃を仕掛ける。
柚希が放った闇色の斬撃は、パスタが凪ぎ払う。
パスタと雅は互いを知り尽くしたかのようなコンビネーションで、柚希を翻弄する。
近接で攻めるパスタ。そこに、雅の付加援護と遠距離から飛んで来る弾丸。さらに、巨鎚の使い手───エスカ・リィードの助太刀で、柚希は攻撃を出来なくされた。
しかし───、
「ッ!!エスカ!後方に跳躍。何か来る!!」
パスタの予感通り、柚希は、四人の攻撃を受けてなお、新たな攻撃に備えた。
そして───、
───《六導十八門》…………。“八式二之型『羅旋敷』”
元の柚希が用いた剣技を振るった。
少女達は一斉にその攻撃を回避し、柚希へ新たな攻撃を仕掛ける。
……………二十分後。
「グッ!!」
「アッ!!」
「きゃあぁぁ!!」
激戦の攻防に見えた戦闘は、余裕な柚希の勝利となっていた。
「こ、此処まで強いなんて………」
雅が、激痛に悶えながらも呟く。
「(ぐっ、このままじゃぁ………)」
少女達の苦痛も虚しく、柚希は少女達ににじり寄り、その目の前で、大剣に形状を変えた《神威兵器》を振り翳す。
「(──ッ!!)」
少女達が、死を覚悟した瞬間───
ガキィィン!!
その攻撃が放たれる寸前に、剣同士のぶつかる音が響いた。
「やっぱり無理があったみたいだね?」
「ッ!」
突然聞こえてきた声に少女達は顔を上げた。
そこに立っていたのは………
「未美!?」
柚希の大剣をサーベルで受け止める少女───入衛未美の後ろ姿だった。
「大丈夫?」
未美は、大剣を払い、柚希を大きく後方へと弾いた。
「貴女、来ないんじゃ………」
雅の問いに、未美はクスッと微笑して見せてから答えた。
「何となく………ね?」
「………」
雅は複雑そうな表情で、未美を睨んだ。
「アハハッ。それより、雅は行ける?」
未美は軽く笑ってはぐらかし、柚希の方を向いた。
「大きくは動けないけど、何とか………」
「そう…、なら良いや。雅は私を援護して」
「わ、わかったわ」
「んじゃ、行くよッ!!」
ぐるぐると変わる景色。その中で、知り合いや見知らぬ少女達がワタシに猛攻を仕掛けてきた。
『外』のワタシは、その少女達に対抗するように剣技を振るっていく。
そんな歯痒い刻の中で………、
「あの人………」
ワタシは、ソコに映っていた人物を見て、目を丸くした。
その人物は、ワタシが午前中に海岸で出会った少女だった。
未美は、右手で銃の形を作り、柚希へその銃口を向けた。
「《色彩術式》………。“『黄火流弾』”!」
未美の指先から放たれた黄色い光の弾丸は、柚希目掛けて一直線に飛ぶ。
柚希は、その弾丸が自身に当たる瞬間、何かに気付き、身を翻してその弾丸を回避した。
「へぇ~~。どうやら、自己判断は出来るみたいだね?」
柚希の咄嗟の判断に、未美は頬を綻ばせた。
「じゃあ、コレならどう……。《色彩術式》。“『金糸菌』」
未美は、懐から金色の液体が入った小瓶を取り出し、柚希に向かって投げた。
小瓶は空中で破裂し、中の金色の液体はスライム状の物体となって柚希に襲い掛かった。
「…………」
柚希は、大剣の形状を扇に変え、怒濤の風を起こして金色のスライムを霧状の物体に変えた。
「へぇ~。これは対処するんだ………」
未美は、興味深そうに呟きながら、柚希への攻撃を続ける。
しかし────、パリィィン。
「ありゃぁあぁぁ…………」
未美は、折れたサーベルを眺めながら、不適な笑みを溢した。
「やっぱり、普通の武器じゃ太刀打ち出来ないよね?」
未美は懐から青い液体の入った小瓶を取り出す。
「《水彩武装》…………“『青凱刀』”」
未美が小瓶を握り潰すと、中の青い液体は未美の手の中で蠢き、刀剣の形を造り出した。
柚希は、《神威兵器》の形状を刀に変え、未美の攻撃に対抗する。
柚希と未美が、互角の攻防を繰り広げる中………、
「『亜巌碓』!!」
雅が、間合いを見計らって後方から未美を援護する。
「……ッ!!」
雅が飛ばした無数の岩礁が、柚希を覆うように飛来し、柚希の行動を制限する。
「ナイス、雅!」
空かさず、未美が柚希との距離を詰め、巨大な岩礁ごと柚希に大きな一撃を放つ。
「や、ヤったの?」
雅が、未美の隣に向かいながら問う。
未美が放った一撃は、地面大きく抉り、目の前に半球状の凹みを造り上げた。
大きく上がった土埃が止み、目の前が鮮明に見える。
その凹みの中に柚希の姿は無く、雅は酷く顔を青ざめさせた。
「こ、殺しちゃったの?」
雅が、口をガクガクと奮わせながら問う。
「ううん、それは大丈夫……」
そう答えた未美の視線は、目の前の凹みから少しずれた場所を向いていた。
雅は、不思議そうな顔でその視線の先に目を向けた。
「…ッ!!」
目を向けた先には、擦り傷程度の傷を負った柚希の姿があった。
「おそらく、岩礁が破壊された瞬間に私の攻撃をギリギリで回避したんだろうね」
柚希の姿を見て、未美が淡々と解説した。
「えと……、それで、この後はどうするの?」
「そうだね……」
雅に訪ねられ、未美は顎に手を付いて考える素振りをして見せる。
「まぁ、そろそろ終わりにしようか?」
「え?」
「予備は残り四つか………」
未美は、ブツブツと一人言を呟きながら、ゆっくりと歩き出した。
そして───、
「《色彩術式》。『蒼縛鎖』」
未美は、柚希に向かって蒼い液体の入った小瓶を投げた。
その意図を読んだのか、柚希はその小瓶を回避した。
「今回は、そう単純じゃないよ?」
未美が不適な笑みをすると、小瓶は地面に落下し、中の液体は巨大な触手の形状を模して柚希に襲い掛かった。
「ッ!」
柚希は咄嗟に対応するが、触手の動きは柚希の判断を大きく上回り、柚希の身体を捕らえた。
「さて……、気は進まないけど、そろそろ終わらせようか……《色彩術式》『血玉死槍』」
未美は、血の色をした液体の入った小瓶を、柚希に向かって真っ直ぐ投げた。
小瓶を空中で破裂し、中の液体は槍の形状を象って柚希の身体を貫いた。
「ガ、ガァ、ア、アァァアァァァァァァァァァァァ………!!」
柚希の放った咆哮は、曇り空となっていた空まで轟き、大地に地鳴りを発生させた。
「くっ、返って来なさい!《色彩術式》『黄歌絢爛』」
未美は、柚希の図上に黄色い液体の入った小瓶を投げた。
小瓶は空中で破裂し、小さな光の粉となって、柚希に降り架かる。
いつしか、画面から見える景色は黒みを帯びていた。
外で何が起きているのかは、外側のワタシの視線でしか分からない。
それは、まるで命の終わりを予期しているようで、ワタシの心は少し居心地が悪かった。
───アアアァァアァァァァァァァァァァァ………。
「ッ!」
外で轟いている咆哮は、内にいるワタシの元まで届いて来た。
何が起こっているのかは分からない。
けど、それが正しい事なのだと、自分自身で判断した。
だから、強く願った。
もう、終わりにしよう。
貴女が戦うべき場所は、此処では無い…と。
───ァァァァァァァァァァァ……。
ワタシの想いが届いたのか、外のワタシの咆哮は弱まっていき、ワタシのいる空間は暗闇に包まれ始めた。
そして、ゆっくりとワタシ自身も瞳を閉じた。




