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王子の秘密の恋を守った皆様へ、後始末も皆様でどうぞ【連載版】  作者: 星渡リン


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第29話 王妃の謝罪

 翌朝、グランフェルト公爵邸へ王家の紋章を掲げた馬車が到着した。


 先触れが届いたのは、昨夜の遅い時刻だった。


 王妃クラウディアが、朝一番に面会を求めている。


 王宮への召し出しではない。


 王妃自ら、公爵邸を訪れると記されていた。


 エレノアは父と共に、正面玄関でクラウディアを迎えた。


 供をしているのは、女官長と護衛二名だけだった。


「急な申し出を受け入れてくださり、感謝します」


 クラウディアが言う。


「応接室をご用意しております」


 父の案内で、三人は二階の応接室へ移った。


 女官長は扉の内側へ控え、持参した細長い書類箱を卓上へ置く。


「エレノア嬢と、二人でお話しになることをお望みですか」


 父が尋ねた。


「いいえ。公爵にも同席していただきます」


 クラウディアは、エレノアではなく父へ先に答えた。


「本日は、王妃としてグランフェルト公爵家へお伝えすべきこともございます」


 勧められた席へ着く前に、彼女は書類箱を開いた。


 最初に取り出されたのは、一枚の覚え書きだった。


『リリア嬢が社交の場で孤立しないよう、今後も折々にご配慮ください。』


 自筆の文面を、クラウディアはエレノアの前へ置いた。


「これを覚えていますか」


「はい」


「この手紙を受け取ったあと、あなたは何をなさいましたか」


 エレノアは、同封されていた二年前の記録を開いた。


「リリア様が出席できる茶会と音楽会を選び、主催者へ同行の許可を求めました。私自身が主催する際には、同年代の令嬢を招き、リリア様が一人にならない席を用意いたしました」


「費用は?」


「私が主催したものは、当家で支払いました」


「なぜ、王妃宮へ請求しなかったのです」


 問われたエレノアは、覚え書きへ目を落とした。


「王妃陛下から、費用を負担するとのお言葉がなかったためです」


「では、なぜ引き受けたのですか」


「当時の私は、アルフレッド殿下の婚約者でした」


 それだけで、多くのことが求められた。


 未来の王太子妃であるなら。


 王家の事情を知っているなら。


 王太子の信用を守るつもりがあるなら。


 明確な命令ではなくても、断れば理由を問われる。


「この手紙を受け取ったとき、私は依頼の範囲を確かめませんでした」


 エレノアは言った。


「一度だけなのか、関係を公表するまで続けるのか。茶会の招待だけでよいのか、教師や衣装も含むのか。王家のお仕事なのか、婚約者としての私的な助力なのか。お尋ねしないまま、必要だと思うことを行いました」


 クラウディアは、言葉を挟まず聞いていた。


「責任がすべて王妃陛下にあると申し上げるつもりはございません。引き受けると決めたのは、私です」


「それで、私の責任がなくなるわけではありません」


 クラウディアは、覚え書きを自分の側へ引き戻さなかった。


「私は、あなたなら必要なことを判断できると考えました。実際、あなたが整えた場で問題は起きなかった。リリア嬢は孤立せず、アルフレッドとの関係も表に出なかった」


 届けられた報告には、いつも結果だけが記されていた。


 茶会は無事に終了。


 音楽会でも問題なし。


 教師からの苦情なし。


 そこに至るまで、誰の家の名と金が使われたのかを、クラウディアは確かめなかった。


「私はその後も、あなたが何も言わないことを、問題がないという意味に取りました」


 クラウディアは席を立った。


 エレノアと父も立とうとしたが、手で制される。


「未来の王太子妃という立場にあるあなたへ、範囲も費用も定めず、王妃の名で配慮を求めました。断りにくい立場であることを知りながらです」


 クラウディアは、エレノアをまっすぐに見た。


「あなたが整えた結果だけを王家の安定として受け取り、負担を確かめませんでした。申し訳ありません」


 王妃の声は、普段と同じ高さだった。


 涙も、震えもない。


 ただ、自分が何をしたかを一つずつ口にした。


「アルフレッドの発表後も、私はまず大夜会を予定どおり開くことを考えました。あなたの名誉については訂正文を出せば足りるとし、この覚え書きについて、私自身が謝罪へ伺うことはいたしませんでした」


 書類箱から、もう一枚の紙が取り出された。


 王妃の署名と王家の印がある。


 グランフェルト公爵令嬢がベルナール男爵令嬢のために行った社交上の支援は、王太子妃候補として定められた義務ではない。


 王妃および王太子からの個別の依頼を受け、同令嬢とグランフェルト公爵家が負担したものである。


 これを、今後の婚約者および王太子妃候補へ求める役務の前例としてはならない。


「王家の記録へ、本日付で加えます」


 クラウディアは父へ書面を渡した。


「内容をご確認ください。異議があれば、登録前の控えを破棄し、修正いたします」


 父は最初から最後まで読み、すぐには返さなかった。


「過去の費用を返済するおつもりは?」


「王家から、改めてお支払いを申し出ます」


「以前、当家は請求する意向がないと回答しました」


「承知しています。それでも、申し出を記録に残します。お受けになるかは、公爵家にお任せします」


 父は書面を卓へ置いた。


「金額の問題だけではございません」


「分かっています」


「王家が返済を申し出て、当家が辞退した。その順序が残るのであれば、異議はございません」


「そのようにいたします」


 クラウディアは、女官長へ記録を命じた。


 女官長は応接室で交わされた言葉を、すでに一行ずつ書き留めている。


     ◆◆◆


「謝罪は、お受けいたします」


 エレノアが言うと、クラウディアは顔を上げた。


「ですが、以前と同じ形で王家からのご依頼を受けることはできません」


「ええ」


「今後、私またはグランフェルト公爵家へ何かをお求めになる場合は、行うこと、費用を負担する者、終える時期を書面でお示しください」


「そのための書式を、王妃宮と王太子宮へ定めました」


 女官長が、別の用紙を差し出した。


 依頼者、内容、費用の負担者、期限。そして、受けるかどうかを返答する欄。


 エレノアは最後の欄を見た。


 辞退する場合、理由の記載を求めない。


「私が辞退したあと、アルフレッド殿下や別の方から、同じ依頼をなさらないことも加えてください」


 クラウディアは女官長を見た。


「追記なさい」


 すぐに新しい一文が書き加えられる。


 辞退の返答を受けた依頼について、依頼者を替えて再度求めてはならない。


 エレノアは追記を読み、用紙を父へ渡した。


「これで結構です」


「この書式は、あなたにだけ適用するものではありません」


 クラウディアが言う。


「王妃宮と王太子宮が、王族ではない家へ私的な協力を求める際に使用します」


 エレノアはうなずいた。


 喜びも、感謝も口にしなかった。


 当然、最初から決まっているべきことだった。


 クラウディアも礼を求めなかった。


「もう一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」


「何でしょう」


「私が今日ここへ来たことを、公表することを望みますか」


 エレノアは父を見た。


 父は答えを娘へ任せた。


「王妃陛下が公爵邸を訪問なさった事実と、王家の記録が訂正されたことは公表してください」


「謝罪の言葉も?」


「内容をすべて公表する必要はございません」


 エレノアは卓上の覚え書きを見た。


「ただし、私が王家へ費用を請求し、断られたかのような書き方はなさらないでください」


「王家が支払い元を定めないまま依頼し、公爵家が負担した。そのため王家が返済を申し出た、と記します」


「お願いいたします」


     ◆◆◆


 面会を終えたクラウディアは、玄関前でエレノアと向き合った。


「春の大夜会でお会いすることになります」


「はい」


「あなたは、グランフェルト公爵家の令嬢として出席なさる」


「その予定でございます」


「王妃宮から、ほかの役目をお願いすることはありません」


 クラウディアは、わずかに頭を下げた。


 王妃に許される、最も深い礼だった。


 エレノアも、公爵令嬢として礼を返す。


 それ以上の言葉は交わさなかった。


 王家の馬車が門を出るまで見送り、エレノアは父と共に邸内へ戻った。


「許したのですか」


 父が尋ねる。


「謝罪を受け取りました」


「同じことではないと?」


 エレノアは、応接室に残された新しい書式を見た。


「今後、何をなさるかは、これから拝見いたします」


     ◆◆◆


 王宮へ戻ったクラウディアを、リリアが王妃宮の控室で待っていた。


「エレノア様に、お会いになったのですか」


「ええ」


「何と仰っていましたか」


「謝罪は受け取る、と」


 許した、とは言わなかった。


 リリアにも、その違いは分かった。


「私も、お手紙を書いてよいでしょうか」


「何を求める手紙ですか」


 リリアは少し考え、首を横へ振った。


「何も」


 その日の夕方、リリアは一枚の便箋を前にした。


 最初の一行を書き、しばらく見つめる。


『お返事は、いただかなくて結構です。』

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― 新着の感想 ―
娘を「嬢」呼び、父から娘へ「許したのですか」 せめてAI使用の明記をすべきでは?上記を修正してもAI臭さはなくなりませんが…
父親なのに娘をエレノア嬢と言う。 「嬢」って、他人じゃないのになぜ? この話って、AI使ってますか? それを色々と修正することさえしてないとかかな? ちょっと残念ですね。
そもそもな話 婚約者に次の婚約者の世話とか 無い無い尽くしの下位貴族の男爵令嬢(浮気相手)を円満に受け入れるように準備するとか 配慮するように 婚約者(アンポン恋愛脳王子)や その母であり国の母である…
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