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王子の秘密の恋を守った皆様へ、後始末も皆様でどうぞ【連載版】  作者: 星渡リン


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17/21

第17話 最初の席順

 春の大夜会まで、あと十三日。


 王妃宮の会議室には、広間を縮小した木製の見取り図が運び込まれていた。


 中央には国王夫妻が座る高座。


 その左右に王族の席。


 少し下がった場所には、外国使節と国内の高位貴族が座る長卓。


 さらに後方へ、伯爵家、子爵家、男爵家の席が続いている。


 一つひとつの椅子の上には、名前を書いた小さな札が置かれていた。


「こちらが、儀典部と王太子宮で作成した第一案でございます」


 儀典部長の隣で、ジェラルドが説明した。


 会議へ出席しているのは、王妃クラウディア、アルフレッド、リリア、王妃宮の女官長、儀典部の担当者たち。


 北方使節団との連絡役として、セドリックも招かれている。


 エレノアの姿はない。


 彼女が作成した三つの旧案も、卓上には置かれていなかった。


「北方三国の使節については、それぞれの地位を確認して配置しました」


 ジェラルドが、三枚の札を示す。


 一国目から訪れるのは王弟。


 二国目は外務を担う伯爵。


 三国目は国王の代理権を持つ侯爵。


 国の大きさではなく、当日出席する者の地位と役目に応じて席が決められている。


「北方側から、異議はございません」


 セドリックが言った。


「王太子妃の正式な披露を行わないことも、三国へ伝えております」


 クラウディアは見取り図へ目を落とした。


「リリア嬢の席は?」


 ジェラルドが、王妃の札から二つ離れた場所を指す。


「王妃陛下のお客人として、こちらに」


 リリアは自分の名が書かれた札を見た。


 隣には王妃宮の女官長。


 反対側には、国王の妹である大公妃が座る。


 大公妃の向こうに、クラウディアの席があった。


 王妃宮の客人としては、望める中で最も高い席である。


 それでも、アルフレッドの席は高座の反対側だった。


「遠すぎないか」


 アルフレッドが言った。


「リリアは、私の隣へ座らせたい」


 ジェラルドはすぐに返事をしなかった。


 儀典部長が、アルフレッドの隣に置かれた札を示す。


「こちらには、国王陛下の弟君である公爵殿下がお座りになります」


「叔父上には、一つずれていただけばよい」


「では、動かしてみましょう」


 クラウディアが命じた。


 儀典部長は、アルフレッドの隣から公爵の札を外した。


 そこへ、リリアの札を置く。


 空いた公爵の札を、一つ下の席へ移す。


 その席にいた北方の王弟を、さらに隣へ。


 王弟の席にいた国内の大公妃を動かす。


 大公妃の席にいた侯爵夫人を動かす。


 一枚の札を置くために、五枚の札が位置を変えた。


「この配置では、リリア嬢は外国王族と国内の公爵より上位となります」


 儀典部長が言った。


「それは、王太子殿下の正式な婚約者としてお迎えする配置です」


「私は、彼女を婚約者にするつもりだ」


「秋の王族会議で認められた場合には、その席をご用意します」


 クラウディアが答えた。


「今は、審査を受ける男爵令嬢です」


 アルフレッドの表情が険しくなる。


「先日の夜会で、私はリリアを愛していると公表した。今さら離れた席へ置けば、王家が彼女を拒んだように見える」


「そのため、王妃陛下の客人席へ置いております」


 ジェラルドが説明する。


「一般の男爵家の席ではございません」


「だが、私の隣ではない」


 セドリックが、見取り図を見たまま尋ねた。


「王太子殿下。北方三国へは、リリア嬢との正式な婚約は秋まで審議中と伝えております」


「それが?」


「殿下の隣へお座りになれば、どちらを正式な回答として扱えばよろしいでしょう」


 アルフレッドは答えなかった。


 婚約は審議中。


 しかし、席だけは正式な婚約者と同じ。


 外国使節は、その違いを王太子の恋心として曖昧には扱えない。


「リリア嬢を殿下の隣へ置くのであれば、北方側への回答を訂正します」


 セドリックは淡々と続けた。


「使節団は、王国が正式な手続きの前にリリア嬢を王太子妃として扱うことを、承知したうえで出席するか判断し直すことになります」


 昨日ようやく確定した出席者が、再び保留になる。


 祝辞も書き換えなければならない。


 贈答品の宛先も見直されるだろう。


 アルフレッドは、リリアの札を見つめた。


「そこまでの意味を持たせるつもりはない」


「席は、言葉より先に見られます」


 セドリックの声に、責める響きはなかった。


 儀典部長が、動かした札を元の位置へ戻そうとする。


「お待ちください」


 止めたのは、リリアだった。


 彼女は席を立ち、見取り図の近くへ進んだ。


「最初の案では、私はどちらに座るのですか」


 ジェラルドが、王妃の近くに残った空席を示した。


「こちらでございます」


「お隣は女官長様と、大公妃殿下なのですね」


「はい。お二人から、必要な場合にはお力添えいただけます」


「外国使節の方へ、私からお約束をすることはございますか」


 先日の授業で、リリアが最初に間違えたことだった。


「ございません」


 女官長が答える。


「ご紹介を受け、挨拶をなさるだけです。何か申し出を受けた場合は、私へおつなぎください」


「舞踏は?」


「王妃陛下と大公妃殿下が席を立たれたあと、ご希望であれば一曲。ただし、外国使節の方々を迎える最初の舞踏には参加いたしません」


 リリアはうなずいた。


 アルフレッドの隣へ座れば、愛されていることは誰にでも分かるだろう。


 けれど、その席で求められる役目を、今の自分は務められない。


 昨日の授業で、挨拶一つを終えるまでに何度も間違えた。


「私は、最初の案の席へ座ります」


「リリア」


 アルフレッドが呼ぶ。


「離れた席でも、同じ広間におります」


 リリアは不安を隠し切れない顔で、それでも言葉を続けた。


「秋に認めていただけたとき、殿下のお隣へ座りたいです」


 儀典部長が、リリアの札を王妃の客人席へ戻した。


 動かされていた公爵、王弟、大公妃、侯爵夫人の札も、元の位置へ戻る。


 五枚の札が収まると、見取り図から空席がなくなった。


     ◆◆◆


 席次の確認は、それだけでは終わらなかった。


 国内の公爵家同士の順序。


 外国使節と交易組合代表の距離。


 関係が悪化している二つの伯爵家を、同じ卓へ置かないこと。


 国王へ請願を予定している領主を、歓談の途中で近づきすぎない位置へ置くこと。


 ジェラルドが札を動かし、儀典部長が理由を尋ねる。


 答えられない配置は、元へ戻された。


 途中で、北方の王弟と国内の老公爵の順序が逆になっていることが分かった。


 食事の途中で席を立つ予定の大使が、最も奥の席へ置かれている箇所もあった。


 ジェラルドは一つずつ直した。


 昼を過ぎるころ、ようやくすべての札が決まる。


 完成した席次表には、ジェラルド、儀典部長、女官長が署名した。


 最後にクラウディアが承認印を押す。


「こちらを、正式な第一案とします」


 第一案。


 まだ完成ではない。


 欠席者が出れば変わる。


 外国王族の予定が変われば、再び組み直さなければならない。


 それでも、今の責任者の名で作られた最初の席順だった。


 セドリックは北方三国の札の位置を確認し、書面へ署名する。


「使節団へ、この配置で確定したと伝えます」


 ジェラルドは、ようやく息を吐いた。


「よろしくお願いいたします」


 見取り図が儀典部へ運ばれる。


 卓上に残ったのは、使わなかった小さな札が一枚だけだった。


 エレノア・グランフェルト。


 旧案から外されたあと、処分せずに保管されていたものだった。


 アルフレッドは、その札を手に取った。


 以前の席次では、自分の隣に置かれていた。


 今日の見取り図には、もう置く場所がない。


「殿下」


 ジェラルドが、一通の封書を差し出した。


「国王府より、グランフェルト公爵家への訂正文を明日公表するとの連絡がございました」


 アルフレッドは封書を受け取った。


「また、公表に先立ち、殿下ご自身のお言葉でエレノア様へ謝罪をお送りになるように、とのことでございます」


「王家の訂正文だけでは足りないのか」


「両家へ約束した公表の手順を破られたのは、殿下でございます」


 ジェラルドは、何も書かれていない便箋を机へ置いた。


 以前なら、文面もエレノアへ整えさせていたかもしれない。


 けれど今、アルフレッドの前にあるのは、白紙だけだった。

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― 新着の感想 ―
少し悟ったのか思ってたら悟ってなかった。情けない殿下やな。
いまだに夢の中にいる王子様。いつ目覚める設定なのでしょう?
愛を叫ぶことにしか関心の無い王子様が、哀れ過ぎる... 国外の要人も同席の場で、次代への信用失墜に繋がりそうな振る舞いを唯一止めさせられる王妃もダンマリだし。 次期婚約者候補とやらも、王妃という仕事を…
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