第8幕『鍵違い』
静寂の中で、俺は足元を見つめたまま言った。
「つまり、俺がカギってことか」
自分で言ってて、ちょっとだけそれっぽい気がした。
なんかこう……こういうの……
"主人公だけに反応する"みたいなやつ。
セレスがゆっくりと眉を寄せる。
「……そうね、リクくんだけに反応してる」
エナが目を丸くする。
「すごいですっ!リクさん!」
アリスは無表情のまま、小さく首を傾げた。
「……特異個体、ということですか?」
《評価:仮説として成立》
セブンだけが、いつも通りの温度で肯定した。
「……なるほど」
セレスが腕を組む。
「リクくん、もう少し具体的に。
何か変化があるか、確認して」
軽く顎でしゃくられる。
「……じゃあ、試す」
俺はその場で、いろいろ試してみる。
しゃがむ。立つ。足踏み。軽くジャンプ。
《検出継続》
「……なんも変わらねぇな」
腕を振る。回る。
「変身とかしないのかこれ」
「しません」
即答……アリスだ。
「確認しますが、リクは何を期待していますか?」
「いやなんかこう……光るとか、開くとか……」
「現時点で、そのような兆候は観測されていません」
バッサリである。
エナが横でキラキラした目をしている。
「リクさん、がんばってくださいっ!」
「何をだよ!?」
セレスが、ため息をつく。
「……で?
結局、“そこにいると反応する”以外に何もないの?」
「今のところはな……」
俺は足元を見下ろす。
何もない。
ただの土だ。
俺は一歩踏み出して、十字路の中心に立ち直る。
少し考えてから、俺はすっと姿勢を整えた。
「ひらけ〜……ゴマ!!」
一応、ポーズもつける。
セレスが眉をひそめた。
「ゴマ?なんでゴマ?」
「いや……俺の世界の定番の」
「全然ピンと来ないんだけど」
「だろうなっ!
なんでゴマなのかは、俺もしらねぇよ!!」
……よし、じゃあ次。
俺は、咳払いをひとつ。少し大げさに腕を広げる。
「いでよっ!!……えーと……何かっ!!」
一瞬、風が止まった気がした。
《変化なし》
「……うん、知ってた」
横を見る。
遠くの家の窓から、村人の一人がこっちをじっと見ていた。
明らかに「何やってんだあいつら」って怪訝な顔。
恥ずかしい。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
でもこっちは真剣だ……真剣なんだよ。
「……やっぱ違うか」
俺が手を下ろしたところで、
《補足:挙動変化なし》
セブンが淡々と追い打ちをかけてきた。
分かってる。
分かってるけどさ。
「……いや、こういうのは一応やっとくもんだろ……」
小声で言い訳する。
アリスが無表情で言った。
「合理性は低いですが、網羅的検証という観点では否定しません」
「うん、とりあえずのフォローありがとな」
エナはというと、なぜかちょっとワクワクしている。
「次はどんなのやるんですかっ?」
「やらねぇよ!」
その中で、セブンが続けた。
《提案:追加解析の実施》
一拍。
《空間揺らぎの発生源を再評価》
俺は軽く息を整えながら、中心から半歩だけ外れる。
《観測値、消失》
戻る。
《再検出》
……やっぱり、ここで合ってる。
なのに。
《訂正》
セブンが、わずかにトーンを変えた。
《反応対象は“ユーザー個体”ではない》
「……は?」
《当該空間揺らぎは、ユーザーの携行物の一つに反応して発生している》
一拍。
《特定:腰部ポーチ内物品》
……。
俺は、ゆっくり自分の腰に手をやった。
いつもの革のポーチ。
中には、予備の小物とか、簡単な道具とか、
特別なものは、何も……。
ポーチを外して、腕を伸ばす。
《検出》
そのまま、ポーチを持った手だけ後ろに引く。
《消失》
「……マジで?」
《肯定》
さっきまでの空気が、すっと引いた。
俺は、なんとも言えない顔になる。
……。
「……俺じゃねぇじゃん」
ぽつりと出た。
エナが、ぱちぱちと瞬きをする。
「……ポーチさん、すごいですっ?」
「いや違うだろそこは」
アリスが、無表情のまま淡々と言う。
「訂正します。
特異反応対象は、ユーザーではなく、携行物です」
「やめろ言い方ァ!!」
セレスが、肩を震わせていた。
「……ふっ……」
「笑うな!」
「だって……!」
顔を逸らしながら、必死に抑えてる。
「リクくん、さっきまで“俺がカギだ!”みたいなドヤ顔してたのに……!」
「してねぇよ!!」
……してたかもしれない。
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ。
「てか、セレスも『そうね……』みたいに言ってたろ!」
ちょっとだけ言い返すが、セレスの様子はかわらない。
俺は咳払いをひとつして、仕切り直す。
「……つまり」
ポーチを見下ろす。
「中身のどれかが、反応してるってことか」
《その可能性が高い》
……分かってるよ。
俺は小さくため息をついた。
でも。
視線は、自然とポーチに落ちる。
“何か”が、この中にある。
俺じゃない。
でも、俺が持ってる。
それはそれで……
十分すぎるほど、不気味な話だった。




