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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第2部3話『不穏な影』
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第8幕『鍵違い』


 静寂の中で、俺は足元を見つめたまま言った。



 「つまり、俺がカギってことか」



 自分で言ってて、ちょっとだけそれっぽい気がした。

 なんかこう……こういうの……

 "主人公だけに反応する"みたいなやつ。


 セレスがゆっくりと眉を寄せる。



 「……そうね、リクくんだけに反応してる」



 エナが目を丸くする。



 「すごいですっ!リクさん!」



 アリスは無表情のまま、小さく首を傾げた。



 「……特異個体、ということですか?」


 《評価:仮説として成立》



 セブンだけが、いつも通りの温度で肯定した。



 「……なるほど」



 セレスが腕を組む。



 「リクくん、もう少し具体的に。

 何か変化があるか、確認して」



 軽く顎でしゃくられる。



 「……じゃあ、試す」



 俺はその場で、いろいろ試してみる。


 しゃがむ。立つ。足踏み。軽くジャンプ。



 《検出継続》


 「……なんも変わらねぇな」



 腕を振る。回る。



 「変身とかしないのかこれ」


 「しません」



 即答……アリスだ。



 「確認しますが、リクは何を期待していますか?」


 「いやなんかこう……光るとか、開くとか……」


 「現時点で、そのような兆候は観測されていません」



 バッサリである。


 エナが横でキラキラした目をしている。



 「リクさん、がんばってくださいっ!」


 「何をだよ!?」



 セレスが、ため息をつく。



 「……で?

 結局、“そこにいると反応する”以外に何もないの?」


 「今のところはな……」



 俺は足元を見下ろす。


 何もない。

 ただの土だ。


 俺は一歩踏み出して、十字路の中心に立ち直る。

 少し考えてから、俺はすっと姿勢を整えた。



 「ひらけ〜……ゴマ!!」



 一応、ポーズもつける。

 セレスが眉をひそめた。



 「ゴマ?なんでゴマ?」


 「いや……俺の世界の定番の」


 「全然ピンと来ないんだけど」


 「だろうなっ! 

 なんでゴマなのかは、俺もしらねぇよ!!」



 ……よし、じゃあ次。


 俺は、咳払いをひとつ。少し大げさに腕を広げる。



 「いでよっ!!……えーと……何かっ!!」



 一瞬、風が止まった気がした。



 《変化なし》



 「……うん、知ってた」



 横を見る。


 遠くの家の窓から、村人の一人がこっちをじっと見ていた。

 明らかに「何やってんだあいつら」って怪訝な顔。


 恥ずかしい。

 めちゃくちゃ恥ずかしい。


 でもこっちは真剣だ……真剣なんだよ。



 「……やっぱ違うか」



 俺が手を下ろしたところで、



 《補足:挙動変化なし》



 セブンが淡々と追い打ちをかけてきた。


 分かってる。

 分かってるけどさ。



 「……いや、こういうのは一応やっとくもんだろ……」



 小声で言い訳する。

 アリスが無表情で言った。



 「合理性は低いですが、網羅的検証という観点では否定しません」


 「うん、とりあえずのフォローありがとな」



 エナはというと、なぜかちょっとワクワクしている。



 「次はどんなのやるんですかっ?」


 「やらねぇよ!」

 


 その中で、セブンが続けた。



 《提案:追加解析の実施》



 一拍。



 《空間揺らぎの発生源を再評価》



 俺は軽く息を整えながら、中心から半歩だけ外れる。



 《観測値、消失》



 戻る。



 《再検出》



 ……やっぱり、ここで合ってる。

 なのに。



 《訂正》



 セブンが、わずかにトーンを変えた。



 《反応対象は“ユーザー個体”ではない》


 「……は?」


 《当該空間揺らぎは、ユーザーの携行物の一つに反応して発生している》



 一拍。



 《特定:腰部ポーチ内物品》



 ……。


 俺は、ゆっくり自分の腰に手をやった。


 いつもの革のポーチ。

 中には、予備の小物とか、簡単な道具とか、

 特別なものは、何も……。


 ポーチを外して、腕を伸ばす。



 《検出》



 そのまま、ポーチを持った手だけ後ろに引く。



 《消失》



 「……マジで?」


 《肯定》



 さっきまでの空気が、すっと引いた。

 俺は、なんとも言えない顔になる。


 ……。



 「……俺じゃねぇじゃん」



 ぽつりと出た。

 エナが、ぱちぱちと瞬きをする。



 「……ポーチさん、すごいですっ?」


 「いや違うだろそこは」



 アリスが、無表情のまま淡々と言う。



 「訂正します。

 特異反応対象は、ユーザーではなく、携行物です」


 「やめろ言い方ァ!!」



 セレスが、肩を震わせていた。



 「……ふっ……」


 「笑うな!」


 「だって……!」



 顔を逸らしながら、必死に抑えてる。



 「リクくん、さっきまで“俺がカギだ!”みたいなドヤ顔してたのに……!」


 「してねぇよ!!」



 ……してたかもしれない。


 ちょっとだけ。

 ほんのちょっとだけ。



 「てか、セレスも『そうね……』みたいに言ってたろ!」



 ちょっとだけ言い返すが、セレスの様子はかわらない。


 俺は咳払いをひとつして、仕切り直す。



 「……つまり」



 ポーチを見下ろす。



 「中身のどれかが、反応してるってことか」



 《その可能性が高い》



 ……分かってるよ。

 俺は小さくため息をついた。


 でも。

 視線は、自然とポーチに落ちる。


 “何か”が、この中にある。


 俺じゃない。

 でも、俺が持ってる。


 それはそれで……

 十分すぎるほど、不気味な話だった。


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